臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか? 作:黒牙雷真
〈sideケンマ〉
「元気そうでなによりだよ、ケンマ」
「お陰様で。フィンさんも元気そうでなによりです」
「僕たちの方こそ、キミから得た情報のお陰で大事になることはなかった」
俺は今、【ロキ・ファミリア】の三巨頭が集結している団長用のテントへと赴いている。
そしてフィンさんのその言葉を聞いて、強化種のミノタウロスと戦ったあの日、59階層にいる『穢れた精霊』について話して置いて正解だったと心底思う。
仮に俺が言わなくても【ロキ・ファミリア】が『遠征』から帰ってくるのは決まっているので心配はそこまでしていなかった。
「それで、ケンマに何個か聞いて置きたいことがあるんだ」
「なんですか?」
「面妖な仮面を付けた黒衣の『調教師』について、何か知っているかい?」
「は? 面妖な仮面を付けた……黒衣の……『調教師』……?」
『黒衣』のと聞いて、最初はフェルズを思い浮かべたがあのキャラクターは不用意に己の姿を見せるようなやつではないし、何によりフェルズは『調教師』ではなくて『魔術師』だ。であれば、フィンさんたちを襲った相手は誰だ? 俺が忘れているだけなのか?
「それとも……『
「…………ここだけの話、その『調教師』に52階層で新種のモンスターを使っての奇襲を僕たちは受けた。『穢れた精霊』のことを知っていたキミなら何か手掛かりを知っているのではないかと思ったんだが、その様子からするにケンマでも知らない敵のようだね」
「はい…………単純に俺が忘れているだけかも知れないですけど、今のところは心当たりがないです」
「わかった。次は、リリルカさんから聞いた交渉についてだ」
「朝食の時にリリから交渉の話は聞いているので、俺から変更したい点とかは特にないので、リリと交渉した通りで大丈夫です」
「了解した。聞きたいことはこれで全部だ。時間を取らせて、悪かったね」
「あっ、ちょっと待ってください!体は剣で出来ている───トレース・オン!」
俺の知らないところで、リリが気を利かせて交渉内の中にゴライアスの魔石を【ロキ・ファミリア】が地上へと運搬することも含めていたようだ。
けれど、今日ベルたちと行くであろう『リヴィラの街』で数日前に『豊饒の女主人』でいちゃもんを付けてきた冒険者たちと再会するはず。そしてその冒険者たちは、ヘルメスから魔道具を借りて、ベルをいたぶるためにヘスティアを誘拐する。
その後、ヘスティアが神威を僅かに解き放った影響で『黒いゴライアス』が産まれ落ちるまでの流れを俺は覚えているので、俺たちが【ロキ・ファミリア】と共に地上へと戻れないことを想定して、地上でヴィクトリアが持っているであろう短剣と同じ物を聖剣で創造する。
「出来ればコレをギルドにいる俺の冒険アドバイザーを担当してくれているハーフエルフのエイナ・チュールさんに渡して欲しいです。所謂、身分証代わりです」
「ほう? ケンマの冒険アドバイザーはエイナなのか」
「もしかして、リヴェリアさんはエイナさんと知り合いですか?」
「知り合いもなにも、エイナは大切な友人の娘だ。エイナの母は、まだ故郷に居た時から私の従者で大切な友人なのだ。私が森から飛び出す時も共に付いてきてくれた掛け替えのない存在なんだ」
「それは知らなかった」
いや、マジでエイナさんのお母さんがリヴェリアさんの従者だったことまでは知らなかった。アニメでは、リリのエピソードで知り合いらしいのは何となく覚えているが詳しいことまではもう覚えてはいない。
だが、リヴェリアさんがエイナさんと繋がりがあるのであれば、この短剣は彼女に託すべきだろう。
「では、エイナさんの知り合いであるリヴェリアさんにこれを地上までお願いします。この短剣には、もう一本同じ物が地上にあります。それを持っているのは───」
「ケンマのところの主神である神ヴィクトリアだな。だが、何故この短剣を身分証代わりにする必要があるのだ? 共に地上へと上がるのだから、こんなものは必要ないだろうに」
「あー………」
そう言われてしまうと、どう答えたものかと考えてしまう。
「い、一応念のためですよ!ダンジョンでは何があるか分かりませんし、もしかしたら俺たちが皆さんよりも遅れる場合もありますから、ね? あは、あはは、あははは!」
「…………そういうことにして置いてやろう」
「助かります」
今回はアニメ知識の所為で墓穴を掘った。今後はもっと気を付けて、この知識を活用しよう。
そう反省した矢先、今後はガレスさんからヘルメスと同じくゴライアスを倒したことについて訪ねられる。
「ところでケンマよ。お主、どうやって階層主であるゴライアスを倒した? 昨日、ベル・クラネルからお主らが18階層まで降りるはめになった概要は聞いた。しかし、肝心のゴライアスを倒した内容については、小人族の娘っ子に脇腹を小突かれて聞こうにも聞けんかったのでな」
「それは僕も気になっていたところだよ。良ければ聞かせてくれないか、ケンマ」
「私も是非聞かせてもらおう」
嗚呼、なんでこう俺は【ロキ・ファミリア】の三巨頭に目を付けられているんだろうか? いや、理由は分かっているし、やらかしてるから今更なんだけどねぇ。それでも、LV.6 三人寄って集ってLV.2 の冒険者に目をギラ付かせるのは止めていただきたいのですよ。
「さ、さすがに倒し方はまでは……そのレアスキルのお陰ってことで……」
「まあそうだよね」
「あまり他所の【ファミリア】の冒険者について詮索するのは、御法度だから仕方ないな」
「ちと、つまらんがな」
「あははは………」
何とかゴライアスを倒した方法について誤魔化すというよりもうやむやにすることに成功した俺は、予定通りベルたちと『街』を見学するため、準備に取り掛かるのであった。
○●○
準備を終えて、装備も付けてからベルたちとリヴィラの街へと向かう。『街』のことを知っているアイズ、ティオネ、ティオナの話によると『街』は湖沼地帯──湖に浮かぶ『島』の上にはあるらしい。
アニメでは、そういった部分は描かれていなかったので話を聞きながら実際に見に行けるのは一人の『ダンまち』ファンとしてはとてもワクワクする。
『街』は18階層の南部に位置しているという森を抜けて、湖のある西部へと向かう。その途中で、ベルが神であるヘスティアの気配が地上と違うことを彼女へ訪ねる。
「そういえば、神様……」
「ん? 何だい、ベルくん?」
「昨日から、何だが雰囲気がいつもと違うような……」
「ああ、神々が普段から発散している神威を、今は抑えているんだよ。ボクがここにいるー、って突き止められないようにね」
ダンジョンは神々を恨んでいる。そのことはアニメしか見てこなかった俺でも知っている知識だ。
「神はダンジョンに入っちゃいけない、って暗黙の了解があるんだ」
「どうしてですか?」
「
「あっ!ちなみに、ギルドに神がダンジョンに入っただなんてバレた場合、その神の【ファミリア】はペナルティとして資産の半分を罰金として持っていかれるそうですよ」
「「!?」」
アニメ知識から神がダンジョンへ侵入した際のペナルティをヘスティアとヘルメスの二人に教えると、目に見えて二人の体が跳ねる。
そして、『街』がある島に向かう途中の湖の上に浮いている人為的に作られた不恰好な木橋を渡るのだが、前世の渡ったことある橋と違って、この世界の橋───ましてやダンジョンの中にある橋には鉄骨や鉄ワイヤー、コンクリートなどで頑丈に作られているはずもなく手摺りすらもない橋のため、踏ん張りを意識しないと身体が湖に持って行かれそうになる。
現に、ヘスティアも波で揺れる橋の上で体勢を崩して、湖へと落ちそうになっているところをベルに救われていたりしている。
「大丈夫ですか、神様!?」
「あっ、ああ。すまないねベルくん」
全員無事に橋を渡り切ったところで、ベルはふと思ったことをアイズたちに問う。
「そういえば『街』があるなら、アイズさんたちもそこに宿泊すれば良かったんじゃあ……」
「ぼったくられるから無理よ」
「えっ?」
「ベル、リヴィラの街は地上と違って冒険者たちだけで成り立っている街だ。だから、値段の付け方も冒険者独自で決められるんだよ。それにここはダンジョン真っ只中、いつ、如何なる時にどんな道具が必要になるかわからない。そんなところで優しい商売をしてくれるなんてことはないさ」
「な、なるほど………?」
ティオネの答えに補足を加えながら、分かりやすくベルに説明してやると、アスフィさんがまさか初めて18階層へと来た俺がこんなに詳しく知っているだなんて露知らず、驚きの表情をする。
「初めてリヴィラの街へ行くというのに、よく勉強していますね。イシグロ・ケンマ」
「まぁ、俺の冒険者としての師匠たちが元冒険者とはいえ軒並みLV.4 以上なのでそれくらいは聞かせてくれます。それに情報は剣であり盾だ。臆病者である俺は、情報や知識を武器にするのは当然。それと俺のことは、ケンマでいいですよ」
「分かりました。では、私のことも名前で構いません」
「はい。アスフィさん」
多少、嘘が混じった納得の行く答えを出すとヘスティアとヘルメスを含めた面々は感心したような表情と納得したような表情を俺へと向けてくる。
『街』があるという島の頂上付近までの道のりは険しい。それこそ、【恩恵】を持っていなくて登山経験がない者であれば根を上げてしまうほどに上り坂や下り坂が続いていた。
それでも、開けた場所から見る光景はとても良い眺めだったので、これも未知を探す醍醐味の一つだろうと思って頑張る。
「ようこそ同業者……リヴィラの街へ?」
「ここがリヴィラ、冒険者たちが作った『街』」
長い坂道を乗り越えてようやくたどり着いた『街』は、まさに破落戸が屯していそうな街並みだった。正直、地上と比べたら滅茶苦茶ボロボロだ。
建物の素材の殆どが木製や岩などで鉄製の物は、所々支えや補強に使われている程度で支柱や壁などには使われていない。
「この街を経営するのは、先ほどケンマが言っていた通り他ならない冒険者たちです。細かい規則や領主なども存在せず、各々が好き勝手に商売を営んでいます」
初めての場所ということもあって、迷子にならないためにもアスフィさんのガイドを聞きながら俺たちは固まって動きながら『街』の中を見て回る。
ダンジョンの中ということで、ベルが『街』はモンスターに襲われないのかとアスフィさんに訪ねると答えは、勿論YESだった。けれど、その度に街が壊れて何度も直しているので、今では三百三十四代目らしい。琢磨し過ぎる『街』の冒険者たちに、畏怖と尊敬の念が芽生えてしまいそうだ。
「どれもこれも高いな。せっかくだからヴィクトリアにお土産で買ってやろうかと思ったがこりゃ無理だな」
『街』に並んでいる店の値札を見ながら、ここではヴィクトリアのお土産は無理だと断念する。そんな俺とは別に、リリが今持っている物よりも小さい容量のバックパックがニ万ヴァリスと法外な価格に怒り、ヴェルフは小石くらいの砥石が一万三○○○ヴァリスすることに嘆いていた。
だが、今の二人には必要無いものだ。何故なら俺が18階層に降りるまで治癒師として、彼らの体調面を仕切りに気にしながら降りて来たので、途中でバックパックを捨てるようなことはなかった。なので、『街』で何かを購入することは今のところはないだろう。
「ここは宿もバカみたいに高いのよ」
「だから、あたしたちもこの街に泊まらないで、森の中にキャンプしてるって訳」
「ここで『遠征』するほどの大人数が泊まれば、とんでもない金額を請求されるもの」
「だけど、もしも金がなかったらどうするんだ? 態々ダンジョンに金貨を持ってくるようなバカはいないだろう?」
安直な疑問を俺はティオナたちに訪ねると、代わりにヘルメスが答えてくれた。こういったところもアニメでも描かれていないので、実際に目にしてみると色々と疑問が出る。
「それなら、あんな風に証文を作るのさ。冒険者の名前と所属している【ファミリア】のエンブレムを契約書に記入させて、後で請求するんだ」
「値段は?」
「無論、ここでの値段になるね」
ヘルメスが指で示す先には、冒険者たちが品物と何かのエンブレムのような物が描かれた羊皮紙を交換していた。
なるほどな。『遠征』とかでドロップアイテムなど荷物が嵩張る場合は、ああやって必要無いものを後で契約を交わした【ファミリア】に請求すればいいのか。
「ヘスティアとヴィクトリアもまだエンブレムを作ってないんだろう? ベルくんのために用意しておいた方がいいぜ。それに派閥の徽章は身分証明みたいなものだから、都市の中ではあるだけで色々融通が利くようになる」
フム、俺たち【ヴィクトリア・ファミリア】のエンブレムか。勝利の女神たるヴィクトリアの紋章といえば、Vの字だろうか? ヴィクトリアやビクトリーもVの字で始まるしな。
イメージとしては、何かしらでVの字を描きながら何か別物を加える感じで………。
「ダメだ、パッと直ぐには浮かばないな。帰ったら、ヴィクトリアと相談するか」
オリ主たちの新本拠地候補
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第六区画 『竈火の館』の近く
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第七区画 元ヘスティア廃教会
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西地区 豊穣の女主人の近く
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北地区 適当に