臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか?   作:黒牙雷真

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第五十八話

 

 

 

 

〈sideケンマ〉

 

 

 

 

『リヴィラの街』の見学を終えた俺たちは、野営に戻ってくるとヘスティアたち女性組は近くの川辺で汗を流すため、水浴びに行くらしい。

 

それを聞いた俺は、これからベルはヘルメスによって覗きの片棒を担がされるのかと哀れみながらちょっとした出来心で俺も参加してみようかなと血迷うが、ヘタレなチキン根性の所為で直ぐにリスクリターンを考えて諦めた。

 

 

「おい、ケンマ。ちょっと、いいか?」

 

「ヴェルフか、別に構わないぜ」

 

 

覗きを諦めたところをヴェルフに声を掛けられたので、二人で借りているテントへと向かった。

 

そしてテントの中に入るや否や、両手を合わせながら頭を下げて《エクス・デュランダル》を見せて欲しいと懇願してきた。

 

 

「頼む、ケンマ!あの時、ゴライアスと戦う時に17階層で頼んだ、例の聖剣を見せてくれ!!」

 

「ばっ、バカ、声が大きいって!ここには【ロキ・ファミリア】に所属してる獣人族もいるんだぞ!?」

 

「す、すまん!」

 

 

あの時のお願いには何とも答えていないが、専属鍛冶が頭を下げてまで懇願しているので異空間から《エクス・デュランダル》を引き抜き、更に《デュランダル》と《真のエクスカリバー》へと分離させてから《真のエクスカリバー》の方をヴェルフに差し出す。

 

 

「ほれ、二本あるうちのもう一本の伝説の聖剣で、最強の聖剣であるエクスカリバーだ」

 

「これが最強の聖剣、エクスカリバー…………」

 

「さすがに、こっちのデュランダルを渡すには危ないからな。こいつは、この世の全てを切り裂くと言われている暴君で、攻撃的なオーラを常に放ち続けるほど危険な剣で、俺でも使い切れていない。対して、エクスカリバーはそこまで危ない物ではないから大丈夫だろう」

 

 

俺から《真のエクスカリバー》を受け取ったヴェルフは、割れ物を扱うように両手で慎重に持ちながら、瞳孔をかっ開いて剣先から持ち手の根元まで舐めるように観察している。

 

 

「それと伝説の聖剣には意思が宿ってる。鍛冶師であるヴェルフなら、エクスカリバーをどんな風に扱えば良いのかは触れればそれなりに分かるだろう」

 

「ああ、何となくだが分かる。俺が使っても、このエクスカリバーの本領を千分の一すら発揮出来ないことが手に取るように理解できる。もっと言ってしまえば、握ることは許されてはいるが、振るうのも扱うのも完全に拒絶されてる感じだ」

 

「さすがは鍛冶師だな」

 

「ところで、鞘はどうしたんだ? デュランダルの方は、鞘を作ってもそれすら切り裂いてしまう暴君なのは理解できるんだが。エクスカリバーの方はそうじゃないんだろう?」

 

「良いところに気が付くな。エクスカリバーの鞘は、とある戦争の最中に紛失したらしんだ。俺も鞘については詳しいことは知らないが、なんでもエクスカリバーの鞘を持つ者には限定的にだが、不老不死と無限の再生能力が備わるという伝説がある」

 

「不老不死に、無限の再生能力!? なんじゃそりゃ!?」

 

「ま、驚くよな。そんな訳でとある独裁者は、鞘を求めて色々な国に戦争をふっ掛けたなんていう話も聞いたことがある程だしな」

 

 

《エクスカリバーの鞘》にはアニメやラノベ、漫画ごとによって色々と設定が異なるが、不老不死と無限の再生能力くらいはどれも一緒だ。物によって、過去と未来、平行世界からの干渉を防ぐ能力もあるとかないとか。

 

それに《エクスカリバー》の本体は、剣ではなく鞘なのではないかと議論されることもあるほどに《エクスカリバーの鞘》はデタラメなのである。

 

 

「で、とある研究者は考えました。攻撃的なオーラを放ち続けるデュランダルに、鞘の無い最強の聖剣であるエクスカリバーをデュランダルの鞘の代わりにしてみてはと」

 

「は?そんなの普通出来るはずが───」

 

「それが出来たのが、さっきのエクス・デュランダルだ。切れ味最強の暴君に聖剣最強を鞘として合体させたら、あら不思議、出来てしまいましたとさ」

 

「誰だよ。そんなふざけた考えを持った研究者は………狂ってやがる!」

 

「でも、そいつのお陰で俺たちはゴライアスを倒して、無事に18階層へと降りて来られたから良しとしようぜ。それからちょっとベルのところに行ってくるけど、それまではエクスカリバーをヴェルフに預けるから誰にもバレるなよ」

 

「ちょっ、待っ────」

 

 

ヴェルフが「待て」と言い終わる前に《デュランダル》を異空間に収納して、ベルを探しにテントを出る。

 

 

 

 

○●○

 

 

 

 

テントから出てきて、ベルを探すために周りを見渡すが野営地に特徴的な白髪のヒューマンは見当たらない。これは、もう既にヘルメスによって連れ出されたあとなのだろう。

 

そう思って、アイズ大好きフリスキーなレフィーヤにヘルメスが覗きに向かったことを伝えてやろうと彼女も探すが見当たらない。となれば、レフィーヤは女性組が水浴びしている際の護衛として向かってしまったのではと考えが至る。

 

取り敢えず、ヘルメスのことは【ロキ・ファミリア】の知り合いで尚且つ女性の誰かに報告せねばと、友の危険に焦っていると偶然にも【ロキ・ファミリア】の知り合いで尚且つ女性のアキさんを発見。

 

 

「アキさん!」

 

「あら、ケンマ。どうかしたの?」

 

「それが……神ヘルメスがベル……【リトル・ルーキー】を拉致して、アイズたちの水浴びを覗きに向かったみたいで」

 

 

そこまで言うとアキさんは、自慢の黒い尻尾を立てて、雰囲気がガラリと変わった。

 

 

「それは本当?」

 

「ええ、間違いないかと。その証拠に、ここには神ヘルメスとベルの姿がないですし……」

 

「わかったわ。あとは私に任せて」

 

 

そう言って、アキさんは近くにいた同じ【ファミリア】の女性陣に声をかけて数人で森の中へと駆けて行った。

 

それを眺めながら俺も迷子になっているであろうベルを探すことにした。無論、俺も自分で迷子にならないために目印として《千本桜》の花弁を落としながら森の中を探索する。

 

けれど、闇雲に探してもベルを見つけ出すには時間が掛かるので誰もいないことを確認してから【プロモーション】とブーステッド・ギアで捜索範囲を広げることにした。

 

 

「【プロモーション・ビショップ】」

 

『Boost!!』

 

 

たっぷり六十秒、倍加の力を溜めてから蜘蛛の刺青を背負う侍が使っていたオーラによる索敵方法を試して見ることにした。

 

初めてやる索敵方法なので、どこまで範囲を広げられるかは未知数だが『僧侶』の補正と六十四倍もされれば、ある程度の距離なら索敵範囲に引っ掛かるはずだ。

 

 

『Explosion!!』

 

「さーて、ベルはどこにいるかなぁ………………あっ、いた。でも、速すぎて索敵範囲から抜け出しやがった!?」

 

 

肉食獣に追われている野ウサギの如き勢いで、俺の索敵範囲から抜け出したベルに驚きながらも居場所と進行方向は割り出せた。あとは、そっちに向かうだけのことだ。

 

それから──────

 

 

「オーラの索敵方法、滅茶苦茶イメージよりも雑すぎて円形じゃなくてアメーバ型になってたなぁ。はぁ……また鍛練しなくちゃいけない項目が増えた」

 

 

俺の中でのオーラによる索敵方法の理想は、円形での索敵。キャラクターによっては、意図的にアメーバ状に自由自在にオーラを操作して索敵範囲を広げている者もいたが個人的には綺麗な円形の方が格好いいと思うので円形を目指したいのである。

 

イメージと程遠い形になってしまったことを反省しながら今度は足にオーラを纏わせて、森の中を疾走するが木の根や枝、岩などで足場が悪くて思ったようには走れない。

 

 

「ここら辺で索敵範囲から抜け出されたんだよなぁ」

 

 

ベルが索敵範囲から抜け出した地点までやってきたら再び、オーラによる索敵を行う。すると、進行方向にモンスターとは別の反応が二つ感じ取れた。一人は言わずと知れたベルのもの、もう一つは────

 

 

「あっ、忘れてた。ベルがアイズたちの覗きをしたあとは、リューさんの水浴びを覗くのか」

 

 

このあと、ベルに起きるであろうラッキースケベなイベントを思い出しながら二人の反応があった方へ、普通に歩いて行く。アイズたちよりもリューさんの方がリスクが跳ね上がるので注意しながら行かないと殺されてしまう。

 

そして、ようやくたどり着くとそこには土下座をしているベルと泉に浸かりながら髪を水で濡らし、胸を手で隠しているリューさんと顔が合ってしまった。

 

 

「おーい、ベ……ル………」

 

「…………」

 

 

その瞬間、脳裏に浮かんだのはベルの『幸運』が俺にまで作用したのか、それともブーステッド・ギアの異性を惹き付ける作用が出たのか分からないということだった。

 

 

「あ、あの……イシグロさん。出来れば、クラネルさんと共に後ろを向いていて欲しい」

 

「「は、ハイッ!」」

 

 

俺とベルは二人して、即座に正座でリューさんへ背中を向ける。冷や汗がダラダラと流れ落ちる中、背後から響いてくる衣擦れの音が嫌に艶かしく聞こえてくるので煩悩を抑えるのに必死だった。

 

 

「もう結構です」

 

 

恐る恐る振り返ると、アニメで見慣れた戦闘衣を身に纏うリューさんがそこにはいた。

 

 

「弁明を聞きましょう。まずは、クラネルさんから」 

 

「は、はいっ!? そ、その、ですけ、えーと……!」

 

 

ベルの口から語られた弁明は、俺が知っている通りヘルメスが原因でアイズたちの水浴びを覗くはめになり、羞恥心のあまり、ここまで逃げてきたとのこと。

 

 

「では、次にイシグロさんの弁明を聞きましょう」

 

「えーっと、話すの長くなりますが神ヘルメスがとある処女神の沐浴を覗く前科持ちだと聞いていたので、ベルが巻き込まれないよう探してたら既に時は遅くて、それで【ロキ・ファミリア】の女性冒険者に報告してからベルのことだから羞恥心のあまり逃げ出して迷子になっているだろうと思って、探していたら現在に至ります。はい」

 

「なるほど、お二人の事情はわかりました。この後、【ロキ・ファミリア】の野営地まで送りましょう」

 

「ゆ、許して、くれるんですか?」

 

「許すも何も、貴方たちには非がありません。私が責めるのはお門違いです。ですがイシグロさん、貴方にはまだ問いたいことがある」

 

「な、何でしょう?」

 

「神ヴィクトリアから私宛にとある手紙を受け取りました。その内容には、いささか予言書じみた物が書かれていたのですが、説明していただけますね」

 

 

初めてリューさんから鋭い眼差しを受けてどう答えものか考えるが、別段疚しいことはないので素直に答える。

 

 

「元々、ヴィクトリア宛の手紙には俺たちが二十四時間以内に帰って来なければリューさんに渡すように書いてあったんですよ。それにリューさん言ってましたよね、『中層』は今までとは違う、モンスターの強さも数も」

 

「ええ」

 

「だから、俺は最悪の場合を想定してリューさんにその手紙を送りました。リューさんなら俺たちを助けに動いてくるって、俺は誰よりも信じてましたから」

 

「あ、貴方は………ズルいヒューマンだ」

 

「え?」

 

 

何故、リューさんは俺から顔を背ける? ベルも何故、俺を驚いた様子で見る?

 

何故、二人がそんな表情をするのか理解できないままでいると、冷静さを取り戻したリューさんからある提案をされる。

 

 

「貴方たちを送る前に、先に寄るところがあるのですが、お時間を頂いてもよろしいですか?」

 

 

リューさんの寄りたいところと言えば、あの場だろう。リューさんの戦友たち、【アストレア・ファミリア】の遺体の代わりに武器が埋葬されている彼女たちの墓場。リューさんの弟子としては、一度行ってみたかった。

 

 

「俺は大丈夫です」

 

「ぼ、僕も大丈夫です」

 

「ありがとうございます」

オリ主たちの新本拠地候補

  • 第六区画 『竈火の館』の近く
  • 第七区画 元ヘスティア廃教会
  • 西地区 豊穣の女主人の近く
  • 北地区 適当に
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