臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか?   作:黒牙雷真

59 / 176







第五十九話

 

 

 

 

〈sideケンマ〉

 

 

 

 

 

 

偶然にもリューさんの水浴びを覗いてしまうというラッキースケベに鉢合わせてしまった俺とベルは、事の真相を彼女に説明して事なきを得る。

 

そのあと、俺がヴィクトリア経由でリューさん宛に手紙を残したことを聞かれたが素直に説明した。また、俺たちを【ロキ・ファミリア】の野営地に送ってもらう前に彼女が行きたい場所があるらしく、俺たちはそれに同行することになった。

 

 

「お二人とも神ヘルメスから、もう私の話は聞きましたか?」

 

「いえ、何も……ケンマは?」

 

「俺は元々知ってる。それでも、俺はリューさんを信頼した。今でもそれは変わらない」

 

 

もしも俺がリューさんと同じ立場なら復讐をしないなんて絶対に言えない。もしかしたら《覇龍》に堕ちて、オラリオごと紅蓮の煉獄にそいつらを沈めていた可能性もなきにしもあらずだから。

 

 

「……それは本当ですか、イシグロさん?」

 

「もちろんです。嘘だと思うなら、ヴィクトリアと神アストレアに誓います!」

 

「自分の主神とあの方の名前を出されてしまっては、信じるしかありませんね」

 

「あの……どういうことですか?」

 

「いえ、ここまで来てしまえば、もう隠し立てする必要もありませんね。行きましょう」

 

 

所々に咲いている白い花を摘み取ったリューさんは、森の地理を知り尽くしているようで、迷いのない足取りで木々と水晶の間を進んで行く。

 

二十分ほどかけて狭い木々のトンネルを抜けた先には、そこだけ森が開けており、天井の水晶から光が降り注ぐその場所には墓碑の代わりに多種多様な武器が突き立てられている墓場があった。

 

嗚呼、間違いない。ここは【アストレア・ファミリア】の墓場だ。

 

 

「ここ、は…………」 

 

「……彼女たちに花を手向けるために、時折ミア母さんから暇をもらっています」

 

 

リューさんは腕に抱えていた白い花を一つずつ、墓碑へ手向けていく。その数は十一、リューさん以外の【アストレア・ファミリア】全員である。

 

そして、最後に小鞄から取り出した瓶───お酒を、特定の武器の上から順々に飲ませて行った。酒を飲ませた武器の種類からまだ記憶に新しい『ダンまち』第四期の知識から持ち主を思い出す。

 

 

「アリーゼ、輝夜、ライラ、ノイン、ネーゼ、アスタ、リャーナ、セルティ、イスカ、マリュー、そしてリューさん、総勢十二名……【アストレア・ファミリア】」

 

「よく団員の名前までご存知ですね」

 

「あのリューさん、これって────」

 

「ここは、今、イシグロさんが述べた通り、私が所属していた【アストレア・ファミリア】の仲間たちの墓です」

 

 

唖然としたベルに向かって、振り返ることなくリューさんは静かに告げた。

 

 

「私の素性を知る者が現れたなら、遅かれ早かれクラネルさんにも知られるでしょう。………自らの口でイシグロさんに話せなかったことに後悔が残りますが、クラネルさんにまでこの後悔をしたくない。身勝手ですが聞いてもらえますか?」

 

「もちろんです」

 

「は、はい」

 

「私は、ギルドの要注意人物一覧に載っています」

 

「!?」

 

「………」

 

「冒険者の地位も既に剥奪されています……一時期は賞金も懸けられていました」

 

 

隣にいるベルは、リューさんが要注意人物一覧に載っていることが信じられないようで目を見開きながら驚いていると、ハッとして彼女が【ロキ・ファミリア】の野営地に訪れることなく今まで姿を見せなかった理由に当たりを付ける。

 

 

「私が所属していた派閥は【アストレア・ファミリア】……正義と秩序を司る女神アストレアさまの下で、当時の私は少なからず名を馳せていました」

 

「【疾風】リュー・リオン」

 

「やはり、イシグロさんはご存知ですよね……話を戻します。私たちの【ファミリア】は迷宮探索以外にも、都市の平和を乱す者を取り締まっていました。その分、対立する者も多くいた」

 

 

オラリオの知識として、エイナさんから過去のオラリオで起きた事件などを聞いてみたことがある。今から約五年前までは、今のオラリオとは思えないほどに悪が蔓延っていた。

 

そして、今もその残滓が今のオラリオには潜んでいることを俺は知っている。

 

 

「ある日、敵対していた【ファミリア】にダンジョンで罠に嵌められ、私以外の団員は全滅……遺体を回収することもできず、当時の私はこの18階層に仲間たちの遺品を埋めました」

 

「それが、このお墓なんですか……?」

 

「はい。彼女たちはこの階層が好きだった」

 

 

なんでも、生前【アストレア・ファミリア】の団員たちは冗談交じりに自分たちが死んだらここに埋めてくれと、言っていたらしい。

 

当時のことを思い出しているのか、リューさんは悲しみを堪えるように下を向いている。

 

 

「……生き残った私は、アストレア様に全てを伝え、そしてこの都市からお一人で去って欲しいと頭を下げました。何度も懇願する私に、あの方も受け入れてくれた」

 

 

あれ? この台詞は、第四期に出てくるもののはず。第一期である、この時期にこの台詞は出てきていなかったような気がする。

 

リューさんが放つ台詞を聞いて、俺の数少ない特技とでもいうべき能力から第四期のエピソードが脳裏にビデオを再生するかのように甦る。嗚呼、この台詞はまだ髪が長い時のリューさんが独白している時のものだ。記憶に新しいから直ぐに違和感を感じ取ることが出来たのか。ずっと感じていた違和感の正体に気付くことができるとパズルが嵌まるように納得ができた。

 

 

「か、神様を、都市から逃がしたんですか?」

 

「いや、違う。激情の言いなりになる醜い私の姿を、あの方に見て欲しくなかった」

 

 

声と表情から当時の感情の一端を覗かせながら続ける。

 

 

「仲間を失った私怨から、私は仇である【ファミリア】を一人で壊滅させました。闇討ち、奇襲、罠、仲間たちの仇を討つために手段は厭わず、激情に駆られるままに………」

 

 

リューさんが敵対していたその【ファミリア】は、【ルドラ・ファミリア】だったはず。記憶の中の【ルドラ・ファミリア】の拠点の大きさからからして団員は軽く二桁はいたことは推測できる。

 

 

「一人で、ですか………!?」

 

「あれはもう正義ですらなかった。復讐に突き動かされた私は、彼の組織に与する者、関係をもった者……疑わしき者全てに襲い掛かりました」

 

「……その後は、どうなったんですか?」

 

「力尽きました。全ての者に報復した後、誰もいない、暗い路地裏で。愚かな行いをした者には相応しい末路だった。けれど…………シルに助けられました」

 

「それで『豊饒の女主人』に?」

 

「はい。ミア母さんはイシグロさんのように全てを知った上で受け入れてくれました」

 

 

優しい声音で、リューさんは現在の自分に至るまでの話を締めくくった。

 

 

「……耳を汚すような話を聞かせてしまって、すみません」

 

「そ、そんなっ」

 

「そんなことはっ」

 

「詰まるところ、私は恥知らずで、横暴なエルフということです………貴方たちの信頼を裏切ってしまうほどの」

 

 

そこまで聞いて、無意識にリューさんの手を取りながら頭ではなく感情に任せた言葉をツラツラと口にしていく。

 

 

「違う!例えギルドの要注意人物一覧に載っていようが、多くの人間の命を奪っていようが、恥知らずで横暴なエルフだとしてもッ!リュー・リオンというエルフの女性冒険者は、俺にとって掛け替えのない存在だ!貴女がいなければ、俺はここに立っていない!貴女があの日、俺の願いを聞き入れて、弟子にしてくれなければ。俺は今頃、強化種の青いミノタウロスに殺されていたはずだ!!」

 

「イシグロさん………」

 

「ケンマ………」

 

「だから、そんな悲しいことを言わないでください。俺が一人前に…………いや、第一級冒険者になったら自慢させてください。第一級冒険者の石黒ケンマを駆け出し時代から育て上げたのは、誇り高い正義の眷属【アストレア・ファミリア】の【疾風】リュー・リオンだって」

 

 

無意識だった所為か、いつの間にか涙を流しながらリューさんにそう訴えていた。全て言い尽くして、我に還れば、自分が涙を流していることに気付いて、慌てた袖で涙を拭う。

 

 

「す、すみません!なんか、俺自身も訳わからなくて」

 

「いえ、私も弟子である貴方のことを考えていなかった。それに……こんな私を自慢だと言ってもらえて、師匠として、私個人として、とても嬉しいです。ありがとう、イシグロさん」

 

「!!」

 

「貴方は、尊敬に値するヒューマンだ」

 

 

リューさんは、涙を拭っている手とは反対の手を自ら取り、両手で俺の手を包み込みながら優しく微笑みかけてくれる。その微笑みは、前世とオラリオに来てからの人生の中でもトップに入るほどの綺麗で美しい笑みだった。

 

その笑みを見た俺は、自分でも信じられないほどに心臓がバクバクと脈を打つ。こ、これが恋!? と思わずバカな発想が脳裏に浮かぶが強ち間違いではないのかもしれない。

 

 

 

 

○●○

 

 

 

 

 

「ケンマ、大丈夫? さっきから心ここに在らず、みたいになってるけど」

 

「だ、大丈夫だ、ベル。ちょっと、な………」

 

 

ヤバい、どうしよう!? さっきのリューさんの微笑みが脳裏から離れない!前世では、ああいうシーンに自分が当事者なら良いのになぁ、と憧れを懐いていたりした。けれど、実際に自分がそうなると心臓がバックバクで上手く状況を飲み込めず、情報も処理できない。

 

 

『相棒、そんな調子で大丈夫か?たかだが、エルフの小娘に笑みを向けられただけで慌てるなんぞ、初にも程があるぞ』

 

(うるせえ!こちとら、年齢=彼女いない歴のウルトラ・ヘタレ・チキンハートの持ち主だぞ!? それに美人から微笑みかけられたのですら初めてなんだぞ!!)

 

『はぁ………同じヘタレでも、スケベ根性全開だったイッセーの方がまだマシだな。あいつは、エロいことや胸のことなら全力で褒めていた。気の利いた言葉でなくとも、リアス・グレモリーたちにはそれなりに効いていたのかもしれんな。…………俺とアルビオンの精神的ダメージには絶大な猛威を振るうが』

 

(あれは、オープンスケベだから良いのではない!イッセーがイッセーたらしめていたからこそ、リアス・グレモリーたちはイッセーに惚れていたんだ!それと精神的ダメージについて、何とも言えんよ)

 

 

ドライグと会話したことで、少しだけ冷静になるに成功すると、今後はベルから話かけられる。

 

 

「そういえばケンマの師匠って、リューさんだったんだね」

 

「ああ。リューさんの他にも、ルノアさん、クロエさん、アーニャさん、ミアさんに週五日で鍛練を付けてもらってる」

 

「えっ?」

 

「全員、元とはいえ第二級冒険者以上の実力だから滅茶苦茶強いし、無茶苦茶だと思うことがある。特にLV.1 の時、ミアさんと鍛練を始めた時は真剣が木製のお玉で防がれたのは唖然としたな」

 

「し、真剣を木製のお玉で? 特別な素材とかで作られてるお玉とかじゃなくて?!」

 

「ああ、市販で売られてるお玉で間違いなかった。鍛練のあと、試しに切らせてもらったら普通に切れたしな。弁償もしたけどな」

 

「たしか、ミアさんってLV.6 だったよね………。やっぱり、第一級冒険者はみんなそんな風に色々と出鱈目なのかな?」

 

「どうだろうな。俺が手合わせしたことがあるのは、ミアさんとアイズだけだしな」

 

「僕もアイズさんだけしか経験がないなぁ……」

 

 

俺たちも数えるほどしか第一級冒険者と手合わせしたことがない。ならば、俺たちも経験が豊富なリューさんに訪ねることにした。

 

 

「リューさん、リューさんが過去に戦った第一級冒険者で出鱈目だと思う人は居ましたか?」

 

「そうですね………第一級冒険者で出鱈目といえば今は亡き、【ヘラ・ファミリア】の【静寂】でしょうか」

 

「【静寂】……」

 

 

あれ、これも何処かで名前だけは聞いたことがあるが全く思い出せない。どこで聞いた?アニメには出てきてないとなると、その情報を得たのは動画アプリのショート動画で偶々見た感じか?

 

 

「当時の彼女は、LV.7 の第一級冒険者でした」

 

「LV.7 !?」

 

「オッタルと同じ………」

 

「LV.7 というだけでも厄介な上に彼女は、目視することのできない無詠唱魔法に長文詠唱魔法、魔法を消し去る魔法まで持っていました。極め付けには、一度見た技を模倣できるという途轍もない才能も持ち合わせており、当時のオラリオでは彼女のことを二つ名とは別に『才能の権化』、『才能の怪物』と恐れられていました」

 

「なんだそりゃ!? そんなのチートやチーター野郎やろう!そんなん!!」

 

「ちょっと、ケンマ!?」

 

 

あまりのチートキャラに別世界のチートやチーターを避難する毬栗頭の関西人の台詞が出てしまった。LV.7 で目視することのできない無詠唱───いや、速攻魔法か。更に長文詠唱に魔法を無力化する魔法、見た技を模倣する才能。どこぞの俺Tueeeの転生無双物のラノベじゃないんだからやり好きだろう!?

 

そう一人、心内で叫んでいると足元に見覚えのある花弁が落ちていた。これは、俺が落とした《千本桜》の花刃だ。

 

 

「リューさん、ここからなら俺たちでも戻れます。森を案内してもらって、助かりました」

 

「えっ、そうなのケンマ!?」

 

「ああ、コレ。見覚えがあるだろう?」

 

「あっ、これってあの時の…………」

 

「だから、ここからは俺たちだけで野営地まで帰ろう。これ以上はリューさんに迷惑をかける訳にもいかないからな」

 

「そうだね、わかった。リューさん、森を案内してくれて、ありがとうございます」

 

「いえ。それとイシグロさん、そのサクラの花びらですが、どうやってダンジョンに? 【タケミカヅチ・ファミリア】の冒険者たちによればサクラは極東原産、花を咲かせているのも春の中旬まで。ですが、今は春の終わりに差し掛かろうとしている。それなのにサクラの花びらがあるのはあまりにも不自然だ」

 

「あっ………ど、どうしよ、ケンマ!?」

 

 

あ、ヤバい。ここに来て、またやらかした。桜の花びらが偶然にもダンジョンにあるはずもない。ましてや、リューさんの言う通り今は春が終わろうとしていて初夏が直ぐ近くまできている時期。そのことを知らずに………いや、考えもせずに《千本桜》の花刃を目印にしていた。バカ丸出しである。

 

 

「え、えーっと、これには深い事情が…………」

 

「先ほどの私を信頼していると言った言葉は、嘘だったのですか?」

 

「はぁ………それはズルいですよ。体は剣で出来ている────トレース・オン」

 

 

逃げ場を失った俺は、仕方なくリューさんの前で《千本桜》を創造。そのまま解号も唱える。

 

 

「散れ────千本桜」

 

「これは!? 刀の刀身がサクラの花びらにっ?!」

 

「これがダンジョンに桜の花弁が落ちていた理由です。刀の名前は、千本桜。先ほどの詠唱を唱えることで刀身を無数の花弁へと変化させて、攻防自在に操りながら敵を葬ります」

 

「これでは、まるで────」

 

「魔剣」

 

 

エルフは魔剣を嫌っている。それがこの世界のエルフの常識の一つ。ヴェルフのご先祖が作った魔剣をラキアのバカどもが悪用した所為で、エルフの里が焼かれ、その皺寄せがヴェルフにまで牙を剥いている。

 

けれど、リューさんは例外でアニメでは、エルフなのに関わらず彼女は一族の遺恨よりも友を優先してくれる誇り高い正義のエルフだ。

 

だからこそ、リューさんには打ち明けることができる。それに、明日になれば否応なしに魔剣と聖剣を使うことは目に見えている。

 

 

「リューさんの過去を教えてもらった対価として、俺も打ち明けます。俺は魔剣と聖剣、両方の剣を無尽蔵に生み出すことができる能力を持っています」

 

「魔剣と聖剣を………生み出す………能力?」

 

「実際に見せた方が早いか」

 

 

《千本桜》を上書きして、刀身が黒炎に包まれている西洋剣の魔剣と同じく刀身が白炎で包まれている聖剣を創造して見せる。

 

二つの剣が創造され、片方が刀から西洋剣に変化したことにリューさんは唖然として声が出ない様子だ。

 

 

「これが俺の奥手の一部、魔剣創造と聖剣創造です」

オリ主たちの新本拠地候補

  • 第六区画 『竈火の館』の近く
  • 第七区画 元ヘスティア廃教会
  • 西地区 豊穣の女主人の近く
  • 北地区 適当に
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。