臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか? 作:黒牙雷真
〈sideケンマ〉
ベルとパーティーを組むことになり、ギルドで今日集めた魔石を換金してから担当アドバイザーであるエイナさんにパーティーを組んだことを報告したあと、自分たちのホームへ戻るためにギルドで解散することになった。
けれど、俺はホームに戻っても主神であるヴィクトリアは『豊饒の女主人』でウエイトレスとしてバイトをしているのでいないため、手持ち無沙汰になってしまった。
「やることがないし、どうしようかな…………」
やることがないので宛もなくブラブラと街の中を散策するが、そんな時、俺の中に宿っている赤き龍の帝王ウェルシュドラゴンのドライグから声がかかる。
『待たせたな、相棒。ようやく心の整理がついた』
「あっ、ドライグ。ごめん、忘れてた」
『それに関してはいい。だが、何故モンスターとの戦いでブーステッド・ギアを使わない。歴代の赤龍帝は、戦いでは常に使っていたぞ』
「そりゃそうだろう。俺みたいに…………おっと、ちょっと人目を集めすぎたな。移動するぞ、ドライグ」
小声でドライグと会話をしているとLV.が俺よりも高い冒険者や聴覚が秀でている獣人族に少なからず会話を聞かれたようで、人目を集めていた。
なので、これ以上の人目を集めないためにも速やかに路上へと入り、ブーステッド・ギアを装着して、二回の『倍加』を使用して屋根を伝って人気のない場所へと移動する。その途中で、屋根と屋根の間を飛ぶ時には恐怖心に襲われて【プロモーション】で『戦車』に昇格したのは仕方ないことだと思う。
「あぁぁ、怖かった…………」
『今回の相棒は、今まで以上に臆病だな』
「仕方ないだろう! 都会育ちのシティーボーイが屋根と屋根の間を飛び越えるだなんて、アメコミヒーローみたいなことを普通はしねぇよ!?」
びくびくしながらたどり着いた場所は、オラリオの街をぐるりと囲んでいる壁の上、ベルがアイズに稽古を付けてもらう場所である。そこならば、人気がないので、いくらドライグと会話をしようと問題はない。
「で、さっきの話の続きだけど、歴代の赤龍帝に複数の神器を宿した人間はいなかっただろう?」
『確かにいなかった。例外は一人いるがな』
「ああ、イッセーな。でもさ、『白龍皇の籠手』は神器なのか。 ブーステッド・ギアの新しい能力とかじゃなくて?」
前世の情報サイトでは、『白龍皇の籠手』は神器ではなくて『赤龍帝の籠手』の能力の一部として記載されていた。木場佑斗のように元々『魔剣創造』を宿し、そして後天的に『聖剣創造』を宿すのと違って俺の場合は神々に与えられて転生したため先天性の物だという解釈も出来なくもない。
もしも、木場佑斗のような可能性に至れるのであれば、いずれは『白龍皇の籠手』での禁手に至ることができるのではないだろうか。あの兵藤一誠が至れなかった別の可能性に…………。
『ふむ、そこは俺にもわからん。それこそ、神器を造り出した聖書の神でなければな』
「その聖書の神の話になるんだけどさ、どうやらこの世界の天界にいるであろう聖書の神は神器を造り出した聖書の神とは別者の扱いみたいだ。でなければ、今頃俺は死んでるはずだしな」
『言われてみればそうかしれんな。聖剣と魔剣、相反する剣を創造する神器を宿すことなど、本来であれば不可能。しかし、実際に相棒はその二つの神器を身体に宿し、使っている。これだけの証拠があれば、そう考えるのが普通だろう』
「そのことから考えたんだけどさ、ブーステッド・ギアとディバイディング・ギアにも似たような使い方が出来るんじゃないか?」
木場佑斗がやってみせた、二つの神器を宿した者ができる複数の禁手の使い分け。そのイメージをドライグに送ってやるとドライグもそのイメージに驚きだす。
何故なら、俺がイメージしたのは二つ。一つは、普通に『白龍皇の籠手』での禁手化で『白龍皇の鎧』を具現化させること。もう一つは、聖と魔の融合のように倍加と半減の融合による新しい鎧姿の禁手である。まるで、二人で一人の仮面ライダーのようだ。
『おい、相棒。このイメージは本気で言っているのか? だとすると、今以上に稀に見ない何かしらの劇的な変化がないとお前さんのイメージ通りの禁手に至れないぞ』
「わかってる。だけどさ、このイメージはあのイッセーでさえ至れなかった新しい禁手だぜ。至ってみたいって思うのが男ってもんだろう!」
『イッセーといい、相棒といい、無茶苦茶なことを考えるものだ。しかし、両者共に面白い宿主だ』
「そのためにも今は自分の戦闘スタイルを固めないとな。なまじアニメやラノベの知識があるから戦闘スタイルをどういう風にするのか悩むんだよなぁ」
『別に一つに絞る必要はなかろう。その場その場に合わせながら戦闘スタイルを変えればいい。そうすれば、相手もリズムが崩れて有利な戦いを持ち込めるだろう』
「そうだな。下手にあれこれ考えるよりも日頃から試しながら身に付けさせた方がいいよな。よし、ならまずは無難に剣の素振りからやってみるか!」
シティーボーイの俺には、剣の正しい振り方なんてわからない。今までもアニメやゲームキャラクターの振り方を見よう見真似て来ただけ、そして今もそう、ただ只管に剣を振るう。反復で身体に覚えさせる。
出鱈目な素振りで額から顎にかけて汗が垂れる。腕の筋肉も悲鳴を上げて、何度も剣を落としたりもした。しかし、それでもなんとく少しは良くなったのではないかと思う。いや、そう思いたいのだ。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
『相棒、そろそろ止めにしたらどうだ。無理な鍛練は、成長には結び付かんぞ。イッセーもタンニーンとの修業の時は適度に休息を取っていたぞ』
「………分かった。それにそろそろ、ヴィクトリアを迎えに行かないといけないしな」
汗でベタベタした状態で行きたくないので、『魔剣創造』で創造した水の魔剣を頭上にかざして、頭から水を被り汗を流す。次は、水の魔剣を風の魔剣へと上書き造り変え、風で濡れた身体と服を乾かす。
正直、こんなことをするならホームに帰ってからシャワーを浴びればいいじゃないか、なんて思うかもしれないがそんな面倒なことはしたくないので便利な能力があるなら、それに頼る方が楽だ。
○●○
「ちわーす」
「あら、あなたは今朝の冒険者さん」
ヴィクトリアの迎え兼夕飯のために『豊饒の女主人』に訪れるとウエイトレスの一人で、綺麗な銀と灰色の間のような髪と瞳をしたシル・フローヴァが出迎えてくれた。
「うちの主神を様子を見に来たのと夕飯を食べに来ました」
「そうでしたか。ヴィクトリアさん、今日が初めてなのに頑張って働いていますよ」
「それを聞けて安心しました」
最初は女神だから人間を見下すではないかと危惧していたがそうではないようで安心した。ヴィクトリアの容姿は、かなりいいので他派閥の冒険者に何かされないかという不安もあったが神を相手にやらかすようなバカは早々いないだろうと結論付けることにした。
シルさんの案内でカウンター席に座るとカウンター越しからミアさんに声をかけられる。
「来たね坊主。アンタんところの女神、よく働いてくれるよ。うちとしてはありがたいねぇ」
「それは良かったです。あっ、注文いいですか? このオラリオステーキにご飯大盛、オラリオ産のシーザーサラダ、それから飲み物はハチミツレモンのアルコール無しで」
「なんだい? アンタ、酒は飲めないのかい?」
「いえ、故郷の掟で未成年、つまり歳が二十を越えるまでは飲めない習わしになってるんですよ。俺が酒を飲めるまでには、あと三年は経たないと」
「そういうことなら仕方ないね。注文、承ったよ」
注文を受けたミアさんは、料理を作るために厨房へと姿を消していった。ミアさんが厨房へと居なくなるのに合わせたように、給仕の仕事を終えたヴィクトリアが声をかけてくる。
「あっ、ケンマじゃない、お帰りなさい」
「ただいま、ヴィクトリア」
「どう? 似合うかしら?」
「似合ってると思うよ。流石は、主神様だ」
「ありがとう」
俺の目の前で、くるり一回してウエイトレス衣装が似合っているかどうかを尋ねてきたヴィクトリアに、素直に返答してやると笑顔で喜んでいた。しかし、その所為で他の冒険者から視線を集めてしまったのは言うまでもないだろう。
そして、俺がヴィクトリアの眷属であることも知られたことだろう。今までオラリオで見たことのない女神が主神となれば恨めしいという感情が込められた視線を向けられるのは必然的である。
「ヴィクトリア、料理が出来たよ。三番テーブルに運んでおくれ」
「はいはーい!」
ウエイトレス姿の感想をヴィクトリアに伝えたところで、カウンターからミアさんがヴィクトリアに仕事へ戻るように伝えて、湯気が立ち上る出来立ての料理をお客の下へと運ぶように促す。それと、ヴィクトリアは女神なのにミアさんは普通に名前呼びしている。
ま、『豊饒の女主人』では神だろうが、第一級冒険者だろうが、ミアさんがルールなのだから逆らうアホウはいないだろう。いたとしたら、そいつは命知らずを越えている愚者だろう。
そんなことを思っていると注文した前菜と飲み物をお盆に乗せたリュー・リオンがやってきた。
「イシグロさん、お待たせしました。ご注文のシーザーサラダとハチミツレモンのジュースです」
「ありがとうございます。えーっと、先生で、いいのかな?」
「先生は止してください。普通にリューで構いません」
「分かりました。それでは、リューさんと呼ばせてもらいます」
前世では、リュー・リオンはヒロインキャラクターだったので呼び捨てしていたが、目の前にいるリューさんは大人の女性というイメージが強いので思わず、さん付けと敬語が出てしまう。
これが日本人が知らず知らずに刷り込まれている年功序列というものだろう。自分よりも目上の人には、敬意を使う。また、社会人も同い年あるいは年下であっても目上やお得意様であれば敬意を使うのであろう。
そう考えると年功序列やお得意様なんて関係ない、この世界に転生したのは正解なのではないだろうか。
「シーザーサラダ美味ッ!」
瑞々しい新鮮なグリーンレタスにカリッカリッに揚げているかのように油で焼かれた細切りのベーコンにクルトン、そこへ『豊饒の女主人』の自家製シーザードレッシングと追いチーズがふんだんにかけられていて、ドレッシングが多かったり少なかったりせず絶妙な量がかけられているためドレッシングの物足りなさがないため、めちゃくちゃ美味い。
シーザードレッシングとベーコンの油で口の中が脂っこくなったところで、アルコールが抜かれたハチミツレモンの炭酸ジュースを口に含めば、レモンの爽やかな後味にレモンの酸味をほどよく相殺してくれるまろやかハチミツの甘味を感じたところへ、シュワシュワと弾ける炭酸の爽快な喉ごしが身体に染み渡り、美味すぎる。
この世界では、スポーツ医学という物が発展しているのかは知らないが前世で見ていたスポーツアニメを元に、アミノ酸が入っているハチミツレモンジュースに、食物繊維のシーザーサラダ、たんぱく質のステーキを頼んでは見たがこれが今後の成長に繋がるのだろうか。ま、でも俺はまだ十代だから成長するだろう。冒険者の資本は身体だしな。
「美味い!」
シーザーサラダに舌を打っていると少ししてからメインディッシュのステーキもやってきて、出来立てホヤホヤのステーキ肉を頬張り、大盛の白米を掻き込んでからしっかりと咀嚼していると隣の席に見知ったお客がやってきた。
「あれ、ケンマ?」
「
「あははは…………飲み込んでからでいいからね」
ベルが隣の席にやってきたことで、これから起こるであろうイベントについて即効で思い出した。それに合わせて、内心では面倒くさいことに巻き込まれるなと思わずにいられなかった。
「このステーキも美味いな!」
「ステーキか………そんなに美味しいなら僕も………って、 一五◯◯ヴァリスッ!!?」
どこの世界もステーキは高値であった。
オリ主たちの新本拠地候補
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第六区画 『竈火の館』の近く
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第七区画 元ヘスティア廃教会
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西地区 豊穣の女主人の近く
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北地区 適当に