臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか? 作:黒牙雷真
〈sideケンマ〉
レフィーヤによる言葉の広範囲攻撃を受けたあと、俺たちは何の反論も出来ないで居ると隣から可愛いらしい栄養を求める空腹の叫びが聞こえてきた。
その空腹の叫びを鳴らした主は、ベルである。
「いっ、今のはっ、別に、何というか……!?」
「………お腹、空いているんですか?」
「さすがに腹が減るよな。俺たち、まだ晩飯を食べてないしさ」
俺たちは、晩飯を食べる前に森の中で追い駆けっこをしていたので空腹になるのも仕方ない。加えて、ベルの場合はヘルメスの所為で昼飯すら食べられてはいないはずだ。
あまり変わらないタイミングでベルの捜査に出ていた俺も空腹なのかと問われるかもしれないが、ご心配なかれ。俺は、ヴェルフに《真のエクスカリバー》を貸し与える際に、自前のバックパックから干し肉を空のレッグホルダーに仕舞って置いたのだ。
そんな訳で、数は多くないが数あるうちの一枚をベルへ差し出す。
「ほれ、ベル。干し肉だ」
「えっ、いいの? ありがとう!」
「よかったらレフィーヤもどうだ? 味はあまり保証しないが」
「えっ、い、いただきます」
三人して、あまり旨くないがないよりマシな干し肉で空腹を誤魔化す。前世のスモークジャーキーと比べて、この世界の干し肉は味気がないし硬い。なので、前世の加工品メーカーの企業の凄さを転生してからその有り難みを何ども噛み締める。
座り込みながら口の中で硬い干し肉を噛み解して食べているのだが、やはりというべきかレフィーヤとベルは俺を間に挟むようにして座り込む。そんな二人に苦笑いしながらこの先のことを考える。
(二人ともあからさまだな…………。)
現状、俺たちは迷子。手っ取り早く野営地に戻りたいのであれば、俺たちの誰が上空に魔法を放てば直ぐに【ロキ・ファミリア】の誰かが見つけにやって来てくれるが、テントや色々頼んでしまっている手前、これ以上の迷惑は掛けたくないのが本音。
それはレフィーヤも同じことを考えているはずだ。そう思っていると森の奥から何かの遠吠えのようなものが聞こえてきた。
『───オォォォォォ……!』
「「「ひっ」」」
魔石灯があるとはいえ、暗い森の中で正体も分からないモンスターの遠吠えが聞こえくれば流石に怖い。それは、ベルとレフィーヤも同じで短い悲鳴を上げている。
『落ち着け、相棒。先の遠吠えとは距離がある』
(ど、ドドドドドライグ!? 元に戻ったのか!?)
『ああ、いつの間にか意識を失っていたようだ。しかし、意識を失う前の記憶が全く思い出せん。何があったか知っているか?』
(いいんだ、ドライグ。今はお前が意識を取り戻してくれただけでいいんだ。過去の記憶を無理に思い出す必要なんてないんだ!)
『そ、そうか………』
精神がとことん参ってしまって、原作同様に無意識に過去の記憶を封じ込めてしまったドライグを労りつつ、ドライグのお陰で精神的な余裕が出来たのはかなり大きい。
精神的な余裕から冷静さを取り戻していると、三人の中で一番LV. が高いレフィーヤが率先してこの状況をどうにかしようと動き出した。
「な、なんとか、キャンプに帰らないといけません。ここにとどまるのは、不味いです」
「は、はい!」
「だが、どうする? 自分の位置すら把握出来ていないのに闇雲に動いても暗闇からモンスターに襲われるだけだぞ」
と言いつつも俺もどうするか考える。
「それはそうですけど…………」
「安直な考えとして、何処か見晴らしの良い高い場所を探して、そこから自分たちの位置と野営地の場所を把握する手があるがどうする?」
「…………分かりました。それで行きましょう」
「やっぱり、ケンマは凄いや。こんな状況でも冷静にいられるなんて………」
ベルがそんなことを言うが俺の心境は違った。
冷静? 何処か冷静だよ。俺だってアニメにもなかった今の展開の中、ほとんど真っ暗で何処からモンスターが襲いかかってくるか分からないこの状況下で如何に自分が死なないかだけを考えてるっていうのに…………。
「俺が冷静に見えるのは、そう見えるように気を張ってるからかもしれないぜ? 何しろ、二人とも俺よりも年下だからな」
「ち、因みにケンマの年齢は?」
「今年で十八になるな」
「一応、聞きますが
「今は十四で、今年で十五になります」
ベルが自分よりも年下だと分かったレフィーヤへ、密かにガッツポーズをしていたのを俺は見逃さなかった。
「取り敢えず、目印を残すか。体は剣で出来ている────トレース・オン」
レフィーヤがいるので疑似詠唱を唱えながらオーソドックスな西洋剣を『聖剣創造』で創造。そのまま、背凭れにしていた樹木に聖剣で✕印を付ける。
「山なんかで遭難した時によくやる手だけど、これで俺たちが何処を通ったのかは足跡を残せる。あとは、どっちに行くかだな」
「んー、そうですね………」
レフィーヤは俺の話を聞いて、どっちに進むか悩み出すが俺の考えはやはり単純だった。『幸運』のレアアビリティ持ちであるベルに『聖剣創造』で創造した木刀を渡す。そして木刀を地面に立てて、倒れた方の切っ先に進むという子供の遊び染みた決め方である。
「ほれ、ベル。これを地面に刺さらない程度に立てろ」
「えっ?………ケンマがどういう意図で僕にそんなことをさせるのかは分からないけど、取り敢えずやってみるよ」
俺に絶大な信頼を置いてくれているベルは、理由も聞かずに木刀を地面に立てて、手を離す。すると、木刀は重力に従って倒れる。
それを三人で見届けながら俺は木刀を回収する。
「よし、あっち行くか」
「えっ、ちょっ!?」
「何を考えてるんですか、ケンマ!? 先ほど、ケンマは闇雲に動き出しても暗闇からモンスターに襲われると、自分で言ってたじゃないですか!!」
「何も考えずにベルにこんなことをさせた訳じゃないさ。今日のラッキーボーイであるベルに願掛けしただけだ」
「それを無策と言わずして、何と言えばいいんですか!?」
「なら、アイズの裸を見たのは幸運じゃないのか?」
「そ、それは…………」
アイズを話しに持ち出されたレフィーヤは、途端に思考が鈍感する。
「それにいつまでもここに居たって、状況は変わらない。なら、ちょっとした冒険をしようぜ。俺たちは冒険者なんだからさ」
「………フフフ、そうですね。私たちは冒険者ですもんね」
「……アハハハ、そうだね。僕たちは冒険者だもんね」
二人して同じことを最後にハモらせると、一方的な同族嫌悪を見せているレフィーヤが反応する。
「なっ、ちょっと
「し、してないですよ!? た、ただの偶然じゃないですか!?」
「相変わらず、一方的だな」
それからは、LV.3 であるレフィーヤに魔石灯を持ってもらいながら、俺たちよりも強化された彼女の聴覚と気配察知能力を頼りに極力モンスターとの戦闘を避けながら見晴らしの良い高い場所を探し続ける。
その最中、中衛にいるベルが怯えながらレフィーヤにとあることを訪ね始めた。
「あの………れ、レフィーヤ、さん?」
「…………なんですか?」
「【ロキ・ファミリア】の人たちって、やっぱり、みんな何でもできるんですか?」
「……? どういう意味ですか?」
「ええっと、レフィーヤさん、魔導士ですよね? それなのに、何ていうか行動力があって、こんな風に探索者みたいなことができて……すごいなって」
「な、なななっ……!」
都市最大派閥の一角である【ロキ・ファミリア】の一員であるレフィーヤにベルが感服の言葉を述べると、褒められたレフィーヤは反射的に頬を染める。
「お、おだてたって何も出ませんから!? そもそも無駄なお喋りは止めてください!」
「す、すみませんっ!」
「照れ隠しだな、こりゃ」
「何かいいましたか、ケンマ」
「何でもないで~す」
レフィーヤのあからさまな照れ隠しに苦笑いしていると、ベルが再び彼女へ問いかける。
「……レフィーヤさん?」
「まだ何かあるんですか?」
「やっぱり、何でもできるようにならないと……フィンさんたちや……アイズさんの力には、なれませんか?」
「!!」
その問いかけに、レフィーヤの足が一度止まる。レフィーヤもレフィーヤで前回の『遠征』では魔導士としてふがいない働きをしてしまったことを思い出しているのだろう。今回の遠征では、それを挽回するような働きをアニメで見たことがある俺からしたらアイズの力になれていると思う。
けれど、レフィーヤ本人はアイズの隣に並び立つのであればこれでもまだ足りないと思っているようで、心内を言葉にする。
「なれませんよ。例え何もかもできるようになっても……それでも、全然……あの人たちには、追い付けません」
「そう、ですか……」
二人の間に沈黙が訪れると、俺は二人が少しだけ羨ましいと思った。明確な目標が直ぐ側にいる。会おうと思えば、どうにかして会える存在。俺の場合は、それは叶わない。
何故なら、俺の目標である兵藤一誠という男は、この世界とは別世界にいる存在。いくらライトノベルというくくりであっても越えられない境界線が存在する。
「だからこそ、羨ましいな………お前たちが」
○●○
あれから、前進することしばらく。
ようやく、目標の見晴らしが良く高い場所を見つけることが出来た。その場所とは、目の前に大きく聳え立っている大木である。
エルフであるレフィーヤは、辺りに何の気配がないことを確めてから大木を調べ始める。粗方調べると彼女は頷いた。どうやら、この大木なら自分が登っても大丈夫な強度があると認識したのだろう。
「私は上に登って、辺りの様子を見てきます。ケンマと
「了解」
「あ、はい、分かりました」
俺たちの返事を聞いて、頷いてからいざ登ろうと膝を曲げたところでレフィーヤはそのまま一度動きを止めた。けれど、直ぐに俺たちを見るや彼女は己の戦闘衣のスカートを抑え、顔を赤くしながら俺たちを睨む。
その仕草で、レフィーヤが何故一度動きを止めたのかを察するのは難しくなかった。前世の中学時代に同級生の女子に偶然にも同じことを言われた記憶があったからだ。
「……絶対にっ、上を見ないでくださいね!」
「へ?あの………」
「いいからベル、ここは素直にレフィーヤの指示に従っておけ!レフィーヤ、ベルは俺が何とかしておくから行ってくれ。絶対に上は見ないし、見させないから!」
「…………信じますからね、ケンマ」
顔の赤みが抜け切らないままの状態で、レフィーヤは再び膝を曲げて、足に力を溜めるとダンッと跳躍した。
魔石灯と共に残された俺たちは、時間を空けてから恐る恐る頭上を見上げるとそこには暗闇か大木の枝しか見えず、レフィーヤの姿はなかった。
「もう見えなくなっちゃった……やっぱりすごいなぁ……」
「いや、すごいなぁ………じゃあねぇよ!」
「へっ!?」
「いいか、ベル。さっきのレフィーヤの話の内容は、高く跳ぶとスカートの中が見えるから上を見るなってことだったのを、お前、察してなかったろう?」
「う、うん……全然」
「少しは乙女心を察してやれ。野郎の俺たちからしたら階層主を倒すよりも難易度の高い試練かもしれないが、何とか越えるしかない。それこそ、アイズと恋人になったら当たり前のように起こるぞ」
「あ、アアアアイズさんと、こ、こここ恋人!?」
「そうだ。それとこれは、俺の師匠であるリューさんからの受け売りだが、冷静に状況を把握しなさい、敵がどんな得物を持ち、どのような動きを仕掛けてくるのかを見極めなさい。周りの環境も把握し、己の武器へと変えなさい。そうすれば、LV. が離れていない限りはどんな戦闘に置いてもそこまで遅れは取ることはないはずだ」
リューさんから教えをベルに教えていると突如として、俺たちの目の前にレフィーヤが上から飛来して地面に着地していた。
その光景に、目を丸くしているとレフィーヤから魔石灯の明かりを消すように指示が飛んでくる。それもその指示は今までと違って、少しばかり切羽詰まっているように感じ取れた。
「灯りを消してください!」
「えっ、えっ?」
「早く!」
「は、はいっ!?」
レフィーヤの指示に従って、ベルは慌てて魔石灯の灯りを消す。
ベルとは別に、俺はレフィーヤのこの慌てように違和感を覚える。【ロキ・ファミリア】の一員であるレフィーヤがここまで慌てるような危険なモンスターは『中層』にはいないはずだ。仮に居たとしてもそれは強化種だろう。が、強化種が下の階層から上がってきたのであれば、他の冒険者たちが気付かないはずがない。
だとすると、他の要因。必死に俺は『ダンまち』関連の記憶の中から18階層に纏わる情報を掘り起こす。
すると、一つのことに行き着いた。
それは、闇派閥。
「レフィーヤ、まさか例のパックンフラワー関連か?」
「ええ、恐らくは……」
俺の問いかけにそう答えたレフィーヤ、ベルを一瞥しながら何か考え始める。彼女が何を考えているのかは、手に取るように理解出来た。俺が同じ立場ならばレフィーヤと同じく、ベルを連れて行くかに悩む。
「あの、ケンマ、レフィーヤさん?ぱ、ぱっくふらわーって一体?」
「説明はあとです。すみませんが……私に、付いてきてください」
考え抜いた末、レフィーヤはベルを連れて闇派閥を追うことを選択した。
オリ主たちの新本拠地候補
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第六区画 『竈火の館』の近く
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第七区画 元ヘスティア廃教会
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西地区 豊穣の女主人の近く
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北地区 適当に