臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか?   作:黒牙雷真

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第六十三話

 

 

 

 

 

〈sideケンマ〉

 

 

 

 

 

何とか無事に新種の極彩色モンスターである森の番人を撃破して、縦穴から脱出した俺たちは緑のある大地の上で息を整える。

 

 

「ベル、頭を見せてみろ!」

 

「う、うん……」

 

「割りとパックリ行ってるな。【ベホイミ】」

 

「なっ、また詠唱も無しに今度は回復魔法まで!?」

 

「次は、レフィーヤ。溶解液に焼かれたところを治すから」

 

「あ、ありがとう、ございます」

 

「【ベホイミ】」

 

 

直ぐ側にレフィーヤがいるが、状況が状況なので俺の秘密が多少バレようとも二人の治療をするために【魔力操作】で回復魔法を行使した。

 

 

「それからこれを着てくれ」

 

「これは……ケンマが着てた戦闘衣? なぜ?」

 

「自分の格好をよく見なさい」

 

「えっ?」

 

 

俺に言われて、レフィーヤは自分の格好を確認すると上着は何とか無事ではあるがYシャツのインナーが最早役に立たない程に溶解液で溶かされており、胸元が丸見えになりかけていた。

 

 

「~~~~~~~~~ッッ!!?」

 

「………一応、暗くて見えてないから安心してくれ」

 

 

それを理解したレフィーヤは、直ぐに俺からフード付きの戦闘衣を掴み、着用する。これで一難去ったと思った矢先、諺のようにまた一難があちら側からやってきたようで誰かの叫び声が聞こえてきた。

 

 

「何だ、これは!?」

 

「「「っ!?」」」

 

 

その叫びに反応して振り向けば、森の奥から駆け付けてくる大型のローブに額当て、口元まで覆おう頭巾。そいつらこそは俺たちが追跡していた闇派閥の残党である。

 

壊れ果てた水晶の林の中で、俺たちを見つけた二人の残党は驚愕を剥き出しにした。

 

 

「【千の妖精】………【ロキ・ファミリア】!?」

 

「巨靫蔓を倒したのか!?」

 

「ヴェネンテス?」

 

 

レフィーヤの顔を見て正体を察するのと同時に、闇派閥の残党は俺たちが自分たちを追跡し、罠に嵌まり、そして地中にいた森の番人を撃破したことを直ぐ様理解した。

 

すると、隠しているはずの布の上からでも分かる程に表情を歪め、忌々しそうに歯軋りをする。

 

 

「おのれっ……!食人花を出せ!」

 

「まだ何かあるのかよ!?」

 

 

残党の二人の内、体格のいい男が指示を飛ばすと、直ぐにもう一人が横手の茂みへと駆け出す。それを見て、俺たちは直ぐに臨戦態勢に入り直す。

 

男が消えた茂みから何か金属音のようなものが聞こえたあと、茂みの奥から長い何かが次々と、ずるずると這い寄ってきた。

 

 

『シャアァァァァ!』

 

 

茂みから這い寄ってきたのは、いつぞやの『怪物祭』で戦ったことのある食人花だった。その数は約十体、やれてやれない数ではないが初見のベルのことを考えると、周りを囲まれてしまっている今、かなりヤバイ状況に陥っている。

 

 

「くそっ、数が多い!」

 

「また新種のモンスター!?」

 

「気をつけて!そのモンスターもさっきのモンスターと同じで魔力に反応します!」

 

 

残党が茂みに入ってから食人花は現れた。つまり、奴らは『調教師』であるに違いない。奴らが食人花に指示を出す前に先手を仕掛ければ何体か確実に仕止められる。

 

けれど、残りがどうなるか分からない。そこで一つの賭けに出ることにした。それは守りながら攻める方法だ。

 

 

「やるしか、ないか」

 

「ここで死ね、冒険者ども!」

 

 

巻き添えを食らわぬよう闇派閥の残党が離脱する中、食人花の群れは閉じていた蕾を一斉に開花させてた。蕾の中から現れるのは、毒々しい極彩色の花弁に醜悪な大顎が露になる。

 

それと殆ど同じくして、俺の背後に無数の巨大な日本刀が地面から生えて列を成す。そして、その日本刀たちは次第その姿を鮮やかな色彩を放つ桜の花弁へと姿を変えた。

 

 

「卍……解………千本桜………景厳!!」

 

「な、なんですかこれ!?」

 

「これって、あの時の!?」

 

 

一度も試したことがないし通常の《千本桜》でさえ、千枚にも近い花弁を一人で操るのには滅茶苦茶な集中が必要とする。それを無理矢理、数を増やして億にも近い花刃を『聖剣創造』で創造して全て操る。維持しているだけでも激しい頭痛に苛まれるがレフィーヤとベルを守るためにはこれしか方法がないと思った。

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ………キツっ」

 

『無茶をするな、相棒!それ以上はお前の身体が耐えきれんぞ!!』

 

「け、ケンマ、鼻血が!?」

 

「もしかして、この花弁を全てケンマが?!」

 

 

ベルから鼻血が出ていることを指摘されるが、そんなことは今は関係ない。維持しているだけで脂汗や鼻血が出ているのなら尚更早急にケリを着ける必要がある。

 

 

「舞え、千本桜景厳!!」

 

『止せ、相棒ォオオオ!!』

 

 

ドライグの叫びが聞こえる中、震える腕に力を入れて《デュランダル》の切っ先を一体の食人花に向けると《千本桜影義》は一気に周囲を舞い散り、食人花たちを一方的にズタズタに切り裂く。

 

切り裂かれた死骸がボタボタと地面に落下するのを確認してからこれ以上の維持が困難な《千本桜景厳》を消滅させると限界を超えた無理をした所為で身体から力が抜けて、《デュラダル》と《真のエクスカリバー》を滑り落としながらその場に崩れ倒れる。

 

しかし、誰かが俺の身体を正面から受け止めてくれた。

 

 

「不穏な騒ぎとサクラの花弁に気付いて来れば………やはり貴方でしたか、イシグロさん」

 

「リュー……さん……?」

 

「その様子では相当な無理をしたようですね」

 

「あ、あははは……」

 

 

どうして、こんなところにリューさんが居るのかは分からない。けれど、LV.4 のリューさんが居てくれるならもう安心だ。

 

無理矢理な疑似卍解の再現で、既に意識が薄れ始めて来ているのでベルとレフィーヤの安全確保を師匠に任せることにした。

 

 

「すみま……せん……が……二人を……お願い……します」

 

「ッ! イシグロさん、しっかりしなさい!イシグロさん!?」

 

 

 

あとは、頼みました。リューさん。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

〈sideベル〉

 

 

 

新たな新種のモンスターをケンマが18階層に降りて来る時に見せてくれた魔剣《センボンザクラ》で撃破したあと、以前よりも大規模な使い方をしたのか額から顎まで玉のような汗を流し、鼻から血を垂らすほど疲弊して、その場で崩れそうになるのを偶然にも現れたリューさんがケンマを受け止めた。

 

すると、リューさんが現れたことで安心したのかケンマの頭ががくりと垂れ下がってしまったことに僕たちは慌ててしまう。

 

 

「すみま……せん……が……二人を……お願い……します」

 

「ッ! イシグロさん、しっかりしなさい!イシグロさん!?」

 

「ケンマ!?」

 

「どうしたんですか、ケンマ!?」

 

「………二人とも安心してください。どうやら気絶しただけのようです」

 

 

リューさんはケンマを膝枕をしながら容態を確認して、僕たちに気絶しているだけと教えてくれたので思わず安堵からその場にへたり込んでしまう。

 

 

「はぁ……よかった」

 

「ええ、本当に……」

 

 

やっぱり、前にテントでヴェルフが言ってた通り《センボンザクラ》の魔剣は膨大な集中力を必要としたみたいでそれを前とは比べものにならない大規模で行ったケンマは、限界を迎えてしまったのだと容易に想像できた。

 

また、ケンマが気絶してしまうほど無理をさせてしまったことに僕は、握り拳を作ってしまう。

 

 

「さて、クラネルさん……事情はわかりませんが、流石に私も失望しかけています」

 

「うっ……」

 

 

リューさんに非難にも似た眼差しを向けられて、僕はたじろいでしまう。

 

 

「私の記憶が正しいければ、森で迷子になっていた貴方と貴方を迎えに着たイシグロさんを野営地の近くまで送り届けたはずなのですが」

 

「す、すみませぇんっ……!」

 

「夜の森は危険だと伝えた筈です」

 

 

リューさんが言っているのは至極当然のことで、僕は何も言い返せないでいるとレフィーヤさんが僕たちの間に割って入って来る。

 

 

「ま、待ってください!私の所為なんです。全部、私の所為で………ケンマとこの人を、巻き込みました」

 

「………」

 

「この人は悪くない……だから、誤解しないでください、同胞の人」

 

 

レフィーヤさんが僕たちを庇ってくれたことに驚きながら、覆面をしているリューさんがエルフだということ気付いていることにも驚くしかなくて、僕は言葉を失う。

 

そんな僕を他所に、口を閉ざすリューさんと視線を交し合うレフィーヤさん。しばらくそれが続くと、レフィーヤさんは絞り出すように、はっきりと次のように告げた。

 

 

「……私を、助けてくれました」

 

「レフィーヤさん……」

 

「貴女のような同胞に会えて、私は嬉しい」

 

「えっ?」

 

 

まさかの糾弾ではなく、レフィーヤさんに出会えたことにリューさんは喜んでいた。そのことに、僕もレフィーヤさんも困惑してしまう。

 

すると、リューさんは喜びの理由を次のように述べる。

 

 

「己の矜持に逆らって非を認めることができる……エルフの誰もが出来ることではない。そういうことです」

 

 

フードの奥で確かに微笑んでリューさんを目撃したレフィーヤさんは、思わず頬を染めてしまう。

 

そして、レフィーヤさんから僕に向き直ったリューさんも先ほど自分が言っていたように、己の非を認めるように僕へ謝罪の言葉を伝える。

 

 

「申し訳ありません、クラネルさん。早まった真似をしてしまいました」

 

「い、いえ……僕も、悪いので」

 

 

リューさんだけではなく、僕にも悪いところがあるから思わず手を後頭部にやってしまう。

 

誤解が解けたことに僕もレフィーヤさんも安堵すると、しばらくすると木を蹴る音を響かせながら僕の憧れの人である金髪金眼の女剣士のあの人が少し遠くに見えた。

 

 

「レフィーヤ!」

 

「あ……アイズさん!?」

 

 

僕たちから少し離れてはいるけどアイズさんが野営地からここまで来ていたことに驚いていると、アイズさんも僕とレフィーヤさんの顔を発見するやホッとした顔をする。

 

アイズさんがやって着たことで、ケンマの容態を観ていてくれたリューさんはお役御免とばかり、この場から立ち去ろうとする。

 

 

「【剣姫】………彼女が居ればもう大丈夫でしょう。クラネルさん、イシグロさんのことをお願いします。それから彼が目を覚ましたら、あまり無理をしないようにと伝えて置いてください」

 

「わ、わかりました」

 

「私は少し気になることがあるので、これで」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 

そんな彼女が森へ消えるのを僕とレフィーヤさんはアイズさんには何も言わず見送った。

 

やがて、僕たちの下までやってきたアイズさんが僕たちの格好を見て気遣わしげに尋ねてくる。

 

 

「三人とも、大丈夫? 何か………ううん、ケンマが鼻血を流しながら気絶してるっことは、何かあったんだね?」

 

「そ、それがですね………」

 

 

レフィーヤさんがアイズさんに事のあらましを説明しようすると今度は、ティオネさんとティオナさんもやってきた。

 

 

「リヴェリア、居たわ!」

 

「アルゴノゥトくんもいるよー!って、ケンマが鼻血を出して気絶してるじゃん!? 大丈夫なの!?」

 

「は、はい。ケンマはちょっと無理をして、気絶してるだけですから……」

 

「そうなんだ。怪我とかしてなくてよかったよ」

 

 

アイズさんと同じようにティオナさんとティオネさんも樹木の上を跳んできて来たようで、二人が合流するとレフィーヤさんたちは他派閥である僕には聞かせられない話をするようで、ケンマを僕に任せて、レフィーヤさんは三人と少し離れた場所で会話をしている。

 

そこへ更にリヴェリアさんまで加わり、しばらくの間話が続くとティオナさんに何かを言われたのか、レフィーヤさんは何か思い出しかのように僕たちの方へ振り返った。

 

 

「なにかあったのかな? それよりもどうしよう………ケンマの聖剣たち………」

 

 

レフィーヤさんたちの話に他派閥である僕は参加することが出来ないのでやれることを探した末、ケンマが振るっていた二本の伝説の聖剣をどうすべきか困り果ててしまっていた。

 

ケンマみたく聖剣使いでない、僕では多分持ち上げることすら出来ないだろうということは容易に想像が付くのでどうしようかと悩んでいると突然、何処から男性の声が聞こえてきた。

 

 

『おい、ウサギの小僧…………ベル・クラネル!』

 

「えっ、誰? どこから?」

 

『騒ぐな、小娘たちにバレる。俺は相棒の…………ケンマの左腕の方だ』

 

「左腕? もしかして、ブーステッド・ギア? なんで、籠手から声が………?!」

 

『取り敢えず、色々と省くが籠手に填まっている宝玉が点滅しているな? それは遠くの者と連絡が取れる魔道具とでも思え』

 

 

そう言われてみれば、ブーステッド・ギアが装着されているケンマの左手の甲にあたる部分にある宝玉が、確かに点滅している。

 

 

「凄い!そんな魔道具があるなんて………」

 

『いいか、本題に入るぞ。ケンマが振るっていた二本の聖剣だが、俺の方で何とかお前でも持てるようにサポートをしてやる』

 

「本当ですか!?」

 

『ああ。そのためには、ケンマを聖剣たちに触れさせる必要がある』

 

「わかりました!」

 

 

ブーステッド・ギアから聞こえてくる男性の指示通りに、僕は気絶しているケンマを聖剣たちの下へと運び、その手を聖剣に触れさせる。

 

 

『よし、これなら行けそうだ』

 

 

男性はそう言うと、ケンマの手から赤い光が聖剣たちを覆い尽くした。これで僕でも伝説の聖剣を持ち上げることが出来るようになったのだろうか?

 

 

『これでいい。あとは、お前に任せるぞ。ベル・クラネル』

 

「は、はい!」

 

 

ケンマの大切な聖剣たちを任されるとレフィーヤさんたちも話が終わったようで、レフィーヤさんとアイズさんが僕たちを野営地に送る護衛として共に居てくれるみたいだ。

 

 

「……平気?」

 

「あはは……僕は大丈夫です。一応、治療してもらったので」

 

 

三人で夜の森を歩いて行く中、ケンマを背負っているアイズさんが心配そうに尋ねてくるので無理矢理笑っていると、レフィーヤさんが僕の足元を見下ろした。

 

 

「でも、靴がボロボロですね……それにケンマも」

 

 

レフィーヤさんが持つ魔石灯に照らされるのは、最早原型を留めていないブーツである。レフィーヤさんはケンマの無事だった戦闘衣を着ているので分からないけど、僕の戦闘衣は何箇所も溶解液で溶けた跡が残っている。

 

これは、ヴェルフたちに何があったのか詮索されるのは間違いないだろう。ましてや、ケンマがまた気絶しているのだから絶対に逃れることは出来そうにないだろう。

 

 

「キャンプに帰ったら、代えのブーツ、あげます。なかったら街に行って買ってきますから」

 

「えっ……い、いいんですかっ?」

 

「いいんですっ!」

 

 

まさかの提案に僕は驚いてしまう。

 

 

「勘違い、しないでくださいねっ。……巻き込んだのは、私の所為なんですから」

 

「レフィーヤさん……」

 

「ただそれだけですっ!」

 

「はい……ありがとうございます」

 

 

ブーツを譲ってくれるレフィーヤさんに感謝の言葉を伝えると、少し天然なアイズさんが僕たちをじーっと見て、次のように言ってくる。

 

 

「二人とも……仲良く、なったね?」

 

「えあっ!? ち、違いますかアイズさん!? 誤解です!そんなことは絶対にありえないというか、未来永劫訪れないことで………!」

 

「ははは……」

 

 

酷い言われようだ、僕。

 

 

「ちょっとっ、貴方もアイズさんの誤解を解いてください!なに変な顔で笑っているんですか!」

 

「やっぱり、良くなってる……」

 

「ち、違うんですっ、アイズさぁ~~~~~~ん!」

オリ主たちの新本拠地候補

  • 第六区画 『竈火の館』の近く
  • 第七区画 元ヘスティア廃教会
  • 西地区 豊穣の女主人の近く
  • 北地区 適当に
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