臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか? 作:黒牙雷真
〈sideレフィーヤ〉
「やはり何も見つからないようだ、レフィーヤ」
「そんな………」
水晶の白光が降り注ぐ、18階層の早朝。私は昨晩、闇派閥が放った極彩色の番人と食人花のモンスターたちと戦闘を行った近くに設置した臨時の野営地にある天幕の中で、団長にそう告げられた。
あんなに強力な極彩色のモンスターたちが近くに配置されていた場所なのに、何も見つからないだなんて私は俄には信じられなかった。
「で、でもっ……団長っ、確かに私たちは極彩色のモンスターと戦ったんです!地中に番人まで仕掛けておいて、何もないはずが…………」
「キミを疑ってる訳じゃないし、話してくれた推測は僕も正しいと思う。それにケンマが倒した食人花が残したこの魔石にあの大きく広がった穴を見せられたら、信じない訳にはいかないさ」
そう言いながら団長は、極彩色の魔石と不壊属性の長槍を携えながら天幕を出て、私とケンマが開けた跡が残る地割れが起きて崩れたかのようにすっかり無茶苦茶になっている穴を眺める。
「ここには何かがあった……あるいはまだ残っているのか」
「……」
「後者だとすれば、今の僕たちには見つけられない代物のようだ」
団長は、何かある時にやることが多い親指の腹をペロリと舐めながら続ける。
「このまま捜索を続けても無駄だろう。例え、ケンマが目を覚まして、僕たちと一緒に捜索をしても。勘だけどね」
「そ、それじゃあ……」
「ああ、撤退する。キャンプにいるガレスたちも荷物をまとめ終える頃だろう」
野営地では今頃アイズさんたちやリヴェリア様、ガレスさんが地上に戻るための準備を進めているはず。
度重なる事故があった今回の『遠征』で、団員たちの疲労も頂点に達しかけている。私の我が儘で皆さんの出発日をずらす訳には行かない。
なにより、今の時点で目ぼしい情報が得られていない以上、今まで集めた情報をロキと共有する必要がある。団長はそう考えてるからこそ、今は撤退を選んだのだろう。
「どちらにせよ、この地帯が臭うことは変わらない。装備を備えて、改めて調査するよ」
「わかり、ました……」
「じゃあ戻ろう。ラウル、撤退だ。全員集めろ!」
「はいっす!」
団長の号令をもとに、周囲に散らばっていた団員たちが集まり出す。
「それからレフィーヤ、キミにはちょっと頼みたいことがある」
「私に、ですか?」
「うん。ケンマとそれなりに親交があるキミにしか頼めないことだ」
ケンマが関わる団長のお願いとは一体どんなものなんでしょうか?どんなお願いかは分かりませんが、団長から直々のお願いなので無理な案件ではないでしょう。
けれど、後にそのお願いが原因で、私はケンマとその仲間たちとあんなとんでもない事件に巻き込れるとは、この時の私は朝露ほどにも思っていませんでした。
◇◆◇
〈sideケンマ〉
「ん、んん~………」
「おっ、目が覚めたか、ケンマ」
「ヴェルフ? 確か俺は………あぐっ!?」
目が覚めたら、テントの中にいた。時間帯もいつの間にか『夜』から『昼』に変わっていることに驚くが昨晩、無理矢理に疑似卍解の《千本桜景厳》を使った影響で限界を越えて気絶したのを思い出すと不意にかき氷を一気食いしたような鈍い頭痛が襲いかかる。
これは昨晩の影響が残っているのだろうが、昨晩よりかは頭痛の痛みは酷くないし鼻血も出る様子もない。
「おいおい、無理すんな。それとベルから聞いたぜ。新種のモンスターの群れを倒すために、鼻血が出るくらい広範囲の千本桜を使って、ぶっ倒れたってな」
「あの時は、ああするしか他に生き残る手立てがなかったからな。もしかしたら、あの人が倒してたかもしれないが」
あのタイミングでリューさんが来てくれたので、時間稼ぎでもしていればリューさんが加わり戦況は俺たちに傾いたはずだと思う。だって、ベルと二人であのジャガーノートを倒せるリューさんだぜ? 食人花程度であれば楽勝でしょう。
なんて、仮に俺がいなくてもあの状況を何とかしたであろう想像を浮かべていると身体が栄養を求めて鳴き喚く。
「プッ、アハハハ!そりゃ腹が減るよな。なんせ、お前は昨日の晩飯も食わずにずっと寝てたんだからな」
「ちなみに、今直ぐに何か食える物はある?」
「ああ、あるぜ!」
ヴェルフから今直ぐに食える物があると聞いて、期待していると【ロキ・ファミリア】の遠征隊の第一陣が出発するようで、テントの外から昨日と比べて強い物音が聞こえて来るのに気付いた。
「聞こえてると思うが、地上に戻る【ロキ・ファミリア】の第一陣があと少しで出発する。俺たちが同行するのはもうちょっと後だ」
「みたいだな」
「おーい、リリスケ、【千の妖精】!ケンマが目を覚ましたぞ!」
「えっ、ケンマが目覚めたって本当ですか!?」
ヴェルフがテントの入り口からリリとレフィーヤの名前を呼び、レフィーヤの名前が上がることに驚いて身体を起こすとテントの入り口から【ロキ・ファミリア】の団員であるはずのフィーヤが入って来た。
「れ、レフィーヤ!? どうして、ここに……?」
「団長からの指示です。依頼主であるケンマたちとヘルメス様を地上まで護衛するようにと」
「あー、なるほど」
「リリとしては、第二級冒険者であるレフィーヤ様に同行して貰えるのは有難い限りです。それとケンマ様、昨日も同じことを言いましたが無事に、お目覚めになられて何よりです」
「心配かけたな」
リリの言う通り、LV.3 のレフィーヤが居てくれれば地上に戻るまでリューさんとアスフィさんの第二級冒険者が三人もいるというのはとても安心できる。
しかし、このままだと『黒いゴライアス』との戦いにレフィーヤも参戦することになるのではないだろうか? ちょっとした助っ人キャラにしては豪華過ぎない?
「滅茶苦茶驚いたけど、取り敢えず飯を食べよう」
「食事でしたら、こちらで座っててください。直ぐに食べられる物を出しますから」
「ありがとう、レフィーヤ」
レフィーヤがテントの外に出て行ったあと、俺は肩などを回して身体の調子を確かめると頭痛は多少残っているものの問題なく動けはする。しかし、万全じゃない状態であることに変わりはない。
「出来ましたよ、ケンマ」
「ありがとう。いただきます」
レフィーヤが持ってきくれた食事は、俺が持ってきた食材と【ロキ・ファミリア】の残り少ない食材で作られたサンドイッチ擬きと少し冷めてしまった根菜が入っているスープだった。
二つの料理をしっかりと味わいながらレフィーヤに昨晩の続きやレフィーヤから報告を聞いたであろうフィンさんの反応について尋ねる。
「なぁ、レフィーヤ。昨晩の極彩色モンスターの件、団長のフィンさんには報告したんだろう?」
「……はい。団長に相談して、今朝までうちの団員たちと現場で調査をしていました。でも、目ぼしい調査結果が出てなくて………」
「ん~、となると何かしらの方法で隠されてるパターンかな?」
「ケンマもそう思いますか? 団長も『今の僕たちでは見つけられない代物』だって、言ってました」
「なら、フィンさんの考えは正しいと思う。亀の甲よりも年の功って言うし」
さすがはフィンさん。現場をちょっと調査しただけで『入り口』の秘密について良い当たりを付けるとは、伊達に都市最大派閥の一角である【ロキ・ファミリア】の団長を努めてないな。
「もしも、何かしらの方法で隠されているのであれば厄介なのは二つかな」
「その二つとは?」
「一つ目は闇派閥の属している神の【恩恵】が刻まれていないと入り口が見つけられない、もしくは入り口が開かない。二つ目は、闇派閥の残党だけが知っている合言葉を特定の場所で言わないと【恩恵】と同じく見つからない、開かない。これは二つは、悪党なんか良く使う手口だ」
多少答えが混じってしまっているが、アニメを見ていた限り【ロキ・ファミリア】が『人造迷宮』に突入しているような演出はなかった。なので、そこまで心配はいらないだろう。
万が一、フィンさんから『人造迷宮』への突入に参加して欲しいと言われた場合は、魔道具を関係無しに《エクス・デュランダル》で入り口くらいは切り開くつもりではいる。
「って、エクス・デュランダルで思い出した!ヴェルフ、デュランダルとエクスカリバーを知らないか!?」
「
「ああ、その二本ならお前の装備と一緒にテントの中にあるぜ。あと、そのことでちょっと厄介な奴に見られてな」
「いや良かった……失くしたかも思った。それで厄介な奴とは?」
「うちの───【ヘファイストス・ファミリア】の団長である椿に見られてな。あの二本を見て、えらい興奮してたぜ。んで、その椿から伝言を預かってる。暇があれば絶対に見せに来いってな」
「あー……」
あの自分が打った作品を試し切りしてたら、いつの間にかLV.5 に到達してた眼帯巨乳で聖剣みたいな名前の女鍛冶師ね。ってことは、遅かれ早かれヘファイストスにも目を付けられる訳か。
普段ならば面倒事が増えたと悲観視するが、ここは敢えて楽観的に考えよう。都市随一の鍛冶師とその主神と縁ができれば、俺では出来ない《デュランダル》と《真のエクスカリバー》の研磨を二人に任せるとしよう。
『ハイスクールD×D』の原作でも、ゼノヴィアはあの二本を週一か月一で天界へメンテナンスに出していたはずだ。この世界では、天界には行けない設定なので武器のメンテナンスは全て鍛冶師に任せる他ないのである。
「まあ、そのうち考えておくか。その時はヴェルフ、お前経由で団長さんに伝えてくれよな」
「そこは仕方ないから受けてやる。だがなケンマ、お前の専属鍛冶師は俺なんだからな!忘れんなよ
!!」
「忘れない忘れない」
いくら都市随一の鍛冶師に会えるかもしれないといえど、直接契約を結んだ専属鍛冶師から別の鍛冶師から鞍替えしようなんてことは考えてはいない。これがゲームならより強い装備を求めるために鞍替えはするだろうが、この世界では信頼が何もよりも大事だと俺は学んだ。
大切なことを思い返しているとレフィーヤから俺がヴェルフと直接契約を結んでいるのかを訪ねられる。
「ケンマはその………『魔剣鍛冶師』のヴェルフさんと直接契約を結んでいるんですか?」
「ああ、ベルと一緒に結んでる。それに、ヴェルフと似たところがあるからお互いに気が知れて楽なんだよ。あと、同い年だからな。ヴェルフのことを聞くってことは、やっぱりレフィーヤも?」
『ソード・オラトリア』では、魔剣はあまり使われていなかったし、そういった内容もなかったがエルフである以上、レフィーヤも『クロッゾの魔剣』を嫌っているのだろうか。
そう思って、本人に問いかけてみると予想とは裏腹の答えが返ってきた。
「いえ、私はヴェルフさんや魔剣のことはそこまで……ですが、【ファミリア】の同胞の方がちょっと………」
「……なるほどね」
レフィーヤやリューさんみたいな考えのエルフは、この世界では極僅だろう。大半のエルフは、魔剣とクロッゾの一族に途轍もない嫌悪や憎悪を抱いてている。なので、同じ【ファミリア】の同族であっても生まれや育った環境によって、種族の軋轢などに疎いことがあるのだろう。
けれど、これで例え俺が魔剣を創造できるとレフィーヤにバレても嫌悪されないことが判明したのは良かったと思う。推しに嫌悪されるのはちょっとオタクとして心が折れそうになるかも知れない。
「ご馳走でした。美味かったよ、レフィーヤ」
「私が作った訳ではないのですが、お粗末様でした」
「それじゃあ、腹も満たされたし装備を付けてくるか」
「私もこの食器を洗って来ちゃいますね」
腹も満たされたのでレフィーヤが食器を洗いに行っている間、テントの中でヴェルフが整備してくれた装備を身に纏い、《デュランダル》と《真のエクスカリバー》を《エクス・デュランダル》に合体させてから異空間へと収納しておく。
あとは、『聖剣創造』でそれらしい剣を創造してメイン武器として腰に指して、空いている投剣用のホルスターに聖剣のテーブルナイフを入れれば装備完了。
「よし、違和感なし。さすがはヴェルフだな」
整備されたベルのとは色違いのライトアーマーを着込み、違和感がないことにヴェルフの整備は完璧だと思いながらテントの外に出ると、外にいたリリに【タケミカヅチ・ファミリア】の女性団員であるヒダチ・千草が慌てながら何かを報告しているようだ。
その様子からヘルメスが関与しているベルが受ける冒険者の洗礼が始まったのだと察した。
オリ主たちの新本拠地候補
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第六区画 『竈火の館』の近く
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第七区画 元ヘスティア廃教会
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西地区 豊穣の女主人の近く
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