臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか?   作:黒牙雷真

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第六十五話

 

 

 

 

 

〈sideケンマ〉

 

 

 

 

 

「嗚呼もう!どうして、私まであの人を助けに行かなければならないんですか!?」

 

「そりゃ、一応護衛対象の一人だからだろう、レフィーヤ」

 

「分かっています、分かっていますけど!」

 

「おい、見えてきたぞ!」

 

 

何故、レフィーヤが嘆いているかと言われると簡単に説明すると、以前『豊饒の女主人』でベルの【ランクアップ】を祝っての祝賀会を開いている時に突っ掛かってきた冒険者にヘスティアが拐われ、ヘスティアを助けるために指定された『一本水晶』にベルが単身で向かってしまったのだ。

 

それを追いかけるために俺たちも一本水晶に向かっているのだが、同族嫌悪を懐いているレフィーヤはベルを助けに行くのが気に食わないが故に嘆いているのである。

 

そして、目と鼻の先にはベルを気に食わない先輩冒険者たちの集団の一部がベルのいるところまで続く一本道を塞ぐようにして待ち構えている。

 

 

「───いやがったな!」

 

 

ヴェルフも冒険者の集団を捉えたようで、声を上げた。

 

 

「結局、【ロキ・ファミリア】には置いて行かれたな」

 

「桜花だったか? フィンさんもそのことを懸念して、俺たちに最強の助っ人を残して行ってくれたから文句を言うな。でないと、レフィーヤが怒るぞ」

 

「そんなことでは怒りません!ですが、後発隊に置いて行かれたのも元はと言えば、ベル・クラネルがリヴィラの冒険者に目を付けられたのが原因ですからちょっとだけ酷いことをします」

 

「それは、いくら何でも理不尽では………」

 

「クラネルさんが可哀想」

 

 

レフィーヤの発言に並走している命と千草が、ベルが可哀想そうだと言うとレフィーヤは分かりやすくブスッとした表情をする。

 

 

「取り敢えず、目の前のことに集中だ!突っ込むぞ!!」

 

「「おう!」」

 

「「「はい!」」」

 

 

それぞれ自前の得物に手を掛けると、命が先行して盛り上がった巨大な根っこを踏み台にして跳躍、空中で身を捻りながからいつの間にか装備していた矢筒から抜いた四本の矢を冒険者たちに射つ。

 

 

「うおっ!」

 

「何だ!?」

 

「【リトル・ルーキー】の連れだ!どうしてここが分かりやがった!?」

 

 

しかし、18階層まで降りれるだけ実力は伊達ではないようで直ぐに命の矢に気付いて、冒険者たちは振り向き様に叩き落としている。

 

また、ベルを誘い出した場所がバレていることに冒険者たちの中の何人かに動揺が走るが、別の冒険者の一喝で全員戦意を取り戻してしまった。

 

 

「構わねえ、予定通りだ!潰しちまえ!」

 

「タケミカヅチごときが粋がってんじゃねえぞおおおお!!」

 

 

実力のある数人の冒険者たちが矢の雨を掻い潜り、突出してくる。それを対応するように【タケミカヅチ・ファミリア】の団長であるカシマ・桜花がサポーターである千草に槍を寄越すように指示を出した。

 

それを視界の端に捉えながら俺も対人戦用に『聖剣創造』で鞘に収まっている聖剣の刃を潰し、刀身を当てた対象の重量が二倍になる能力を上書き付与する。

 

こうすることで、迫り来る冒険者に聖剣を当てても肉が切れることもなく、打撲傷か最悪は骨折くらいで済むはずだ。前世の価値観が抜けていない臆病でヘタレなチキンハートの持ち主である俺ではこうでもしないと、自分以上に実力がある者でない限りとはまともに戦えない。

 

 

「千草、槍だ!」

 

「はい!」

 

「上書き完了。骨折の一つや二つは覚悟してくれよ!」

 

 

千草から槍を受け取った桜花は、頭上でその剛槍を振り回し、雄叫びを上げる。俺も上書きした聖剣を鞘から抜き放つ。

 

 

「うおおおおお!!」

 

「遅ぇよ鈍間ァ!?」

 

 

『敏捷』に自信があるのか、一人の狼人が桜花の槍を躱わして見せる。そして、そのまま矢を撃ち尽くし、弓を捨てて無手になっている命へと狼人は迫る。

 

自分の攻撃が躱されると桜花は、即座に後ろにいる命へ注意喚起のために大声を上げた。

 

 

「行ったぞ、命!」

 

「鬱陶しい弓使いから始末させてもらうぜ!?おら、覚悟しなぁ!」

 

 

抜け出した狼人は、無手の命に短剣の突きを見舞う。しかし、命は冷静に狼人の動きを見ながら伸びた腕の手首を掴み、そのまま勢いを殺さず、豪快な一本背負いを決める。

 

 

「───せぇッ!!」 

 

「!?」

 

 

勢いを利用されて地面に背中から叩き付けられた狼人は、その場で苦しみ踠く。

 

 

「げえェッ!?」

 

「甘く見すぎです。私たちの主神は武神ですよ?」

 

 

さすがは武神と謳われるタケミカヅチの眷属だ。俺も含めて経験が浅い冒険者は【ステイタス】に頼り切りで『力』に振り回される。けれど、武神の眷属であれば『力』より『技』を重んじているので巧みに敵の攻撃を利用できる。

 

また、扱える武器も一つではなく、剣、槍、弓という武器を選ばない戦闘法が出来るため敵であれば厄介極まりない。

 

 

「こいつらやりづれぇ……!?」

 

「馬鹿っ、数はこっちの方が上だ!囲んで袋叩きにしろ!」

 

「おい、待て!一番後ろにいるエルフの女………まさか【千の妖精】じゃないのか!?」

 

「【ロキ・ファミリア】だと!? モルドの野郎からはそんこと聞いてねぇぞ!?」

 

「ふざけんな!あの白髪のガキと【ロキ・ファミリア】に繋がりあるんなら冗談じゃねぇ!?」

 

 

俺たちの後ろに今更になってレフィーヤがいることに気付き始めた冒険者たちは、【ロキ・ファミリア】と揉め事を起こしたくないようで瞬く間に武器を引いて、俺たちの横を逃げるように通り過ぎて行く。

 

 

「ちょっと予想外な展開だが、レフィーヤが居てくれて助かった」

 

「ああ、これでベルのところまで一気に近付ける!」

 

 

レフィーヤのお陰で寄せ集めの冒険者たちの大半が逃げ出したのでベルとモルドとかいうモブキャラがいる急造の決闘場まで後少しだと思った。

 

しかし、アニメと違って、大半の冒険者が逃げてしまったことでヴェルフが背負っている白布に包まれた『クロッゾの魔剣』である《火月》が残っていることで『黒いゴライアス』との戦いに何かしらの影響が出ないか心配でもある。

 

 

「森が騒がしいと思えば………何事ですか」

 

「りゅッ……師匠!?」

 

「………お気遣いありがとうございます、イシグロさん。ですが、いつもの呼び方で構いません。さて、話を戻して状況の説明を、と行きたい所ですが………」

 

「まずは、こいつらを片付けてからですね」

 

 

決闘場までの一本道を駆けていると、突然横の森から現れたリューさんに驚いて、思わず名前を呼びそうになるがレフィーヤたちがいる手前、さすがにリューさんの名前を呼ぶ訳にも行かないので敢えてここは師匠呼びをした。

 

その意図を理解してくれたリューさんに、事の発端と現状を説明したいのは山々だが頂上の決闘場から未だに冒険者たちが向かってくる。

 

 

「面倒だな………仕方ない、ちょっと手荒く行くか」

 

「ッ!全員、ケンマの後ろに退がれ!!」

 

「「「!?」」」

 

 

俺がやろうとしていることをいち早くヴェルフが察知すると、仲間に被害がいかないように注意喚起までしてくれた。お陰で俺の視界の先には味方は誰もいない。いるのは、俺に切り掛かろうとする冒険者たちだけだ。

 

 

「月牙天衝!!」

 

 

脇構えで聖剣に聖なるオーラを集束させた青白い方の【月牙天衝】を多少なりとも、手加減しながら向かって来る冒険者たちの中央へと振り抜く。すると中央に放たれた【月牙天衝】を目の当たりにした冒険者たちは、その危険性を直感的に感じたのか血相を変えて左右に全力で飛び退く。

 

そして【月牙天衝】の斬撃だが、思いの他威力があったようで、地面に斬撃の跡を残しながら真っ直ぐに進み、頂上の決闘場どころかその先にまで斬撃が飛んで行ってしまった。

 

 

「多少なりとも手加減したぞ、おい………」

 

「手加減してあの威力ですか………」

 

「以前のとは色が違いますが、詠唱もしていないのに相変わらず凄まじい威力の『魔法』ですね………」

 

 

初めてモンスター以外の対象に【月牙天衝】を放った感想を言っていると、初めて見るリューさんと『怪物祭』で色違いのものを見たことがあるレフィーヤも感想を述べる。

 

 

「と、取り敢えずこれでベルの所までは道が出来た。あいつらが尻餅付いているうちに行こう!」

 

「言ってやりたいことがあるが、それは後回しだな。行くぞお前ら、遅れんなよ!」

 

 

【月牙天衝】で切り開いた道を一気に駆け抜けようとした所で、後方からとある女性の声が聞こえてきた。

 

 

「おーーい、みんなーー!」

 

「ヘスティア様!?」

 

「よくぞ、ご無事で!」

 

「リリスケの奴、よくやったな!」

 

 

色々とアニメとは違うが、俺の知っている展開通りヘスティアとリリも合流したので改めて一気に頂上まで駆け登る。

 

そして登り切った先には、モルドの刀身の半ばから失くなっている剣を何とか《ヘスティア・ナイフ》と《牛若丸》で受け止めているベルの姿と、その周りには【月牙天衝】の斬撃を目撃したはずなのに何人かは未だに冒険者が残っていた。

 

残っていた冒険者たちが俺たちに気付くと、武器を抜いて駆け付けてくる。この後の展開を俺は知っているため、敢えて皆にヘスティアを守るように指示を出そうとするがそれよりも先に彼女が静止の叫びを上げてしまった。

 

 

「やーーめーーーろーーーーっ!!」

 

 

その叫びが届いたのか、奥にいるベルとモルドの動きが止まった。

 

 

「ベルくん、ボクはもうこの通り無事だ!無駄な喧嘩は止せ!キミたちも、これ以上いがみ合うんじゃない!」

 

 

大声で叱り付けるヘスティアに、ベルは安堵したのか《ヘスティア・ナイフ》と《牛若丸》を握っている腕をゆっくりと下げた。

 

それに伴ってヴェルフたちも武器を下ろして、無言で女神の神意に従う。けれど、散々ベルから反撃を喰らったモルドは怒りの血相で唾を散らしながら固まっている仲間に吠え立てる。

 

 

「神の指図なんざに構う必要はねぇ!? やれ、やっちまえ!!」

 

「チッ、救えない野郎だ」

 

 

俺も思わず今の発言は救えないと呟くとヘスティアから以前にも感じた途轍もない存在感が空間を支配する。

 

 

「───止めるんだ」

 

 

たった一言で金縛りにあったかのようにモルドたちは体が一斉に停止する。二天龍を身体に宿している俺でも、以前のような漏れているような物ではなく明確に自分の意思で放出される『神威』には抗うことが出来なかった。

 

 

「子供たち、剣を引きなさい」

 

「ぅ、ぁ…………」

 

 

神威に当てられたモルドたちは、呻きながら神秘的な青みがかかった瞳とその身体から出ている七色のオーラに押されるように後退る。

 

そして、遂に神威に耐え切れなくなった冒険者の一人が背を向けて逃亡した。それを皮切りに一人また一人と続々と走り出し、最終的にはモルドまでもが逃げ出す。

 

 

「……うあああああああ!?」

 

「ま、待てお前等!?」

 

 

決闘場に残された俺たちは、嵐が去ったような静けさか或いは嵐が来る前の静けさを感じながら得物を鞘に納める。

 

騒動が一段落した所でヘスティアは放出していた神威を納めて、ボコボコのベルに抱き付き、ポーチから高等回復薬をぶっかけてベルの傷を癒していた。

 

その間に、俺は今回の主犯格であるヘルメスを探すために辺りを見渡すと少し離れた場所に奴はアスフィさんと共に俺たちを観察していた。

 

 

「あとでバラしてやろうかな」

 

 

理解できるかは分からないがジェスチャーで、今回の騒動の主犯であるヘルメスに全てをヘスティアにバラすぞと脅してやれば、案の定ヘルメスとアスフィさんは慌てていた。

 

それを見て、俺は人差し指を立てて貸し一つだと一方的に伝える。【ヘルメス・ファミリア】に貸しが一つでも作れれば、いずれ都市屈指の魔道具技師であるアスフィさんに魔道具を作らせることも可能になるので、アニメ知識に感謝しかない。

 

 

「さて、どんな魔道具を作ってもらおうかな………」

 

 

都市屈指の魔道具技師に作らせる魔道具に想像を膨らませていると、突然ダンジョンが揺れ始める。

 

 

「じ、地震っ!?」

 

「いえ、これは……」

 

「ダンジョンが、震えているのか?」

 

 

千草、命、桜花の極東出身の三人は自分たちの足元を見下ろしながら狼狽える。それと、やはり極東は地震が多い場所のようだ。

 

その間にも揺れは次第に大きくなり、周囲の木々も左右に揺れてザワザワと音を鳴らす。

 

 

「これは………嫌な揺れだ」

 

 

リューさんがそう呟くと同時に、俺は上にある水晶が剣山になっている部分を見つめる。すると、水晶から放たれていた光に影が混ざり、周囲薄くなった。

 

光源が減ったことに再び何事かと皆が困惑している中、ヴェルフが上を見上げながら、呆然と呟く。

 

 

「………おい、なんだ、あれ」

 

 

ヴェルフの呟きに導かれるように一斉に上を見上げると、天井の太陽の役割を果たしているはずの水晶の中で巨大な何かが蠢いている。

 

そして、一際大きな揺れが18階層を襲うとバキリッと音を立てて水晶に亀裂が走った。

 

 

「亀裂………!?モンスター!?」

 

「ありえません、ここは安全階層なんですよ!?」

 

 

ベルが水晶の亀裂からモンスターが生まれて来ると言葉にすると、それを否定するようにレフィーヤが叫ぶが現実は残酷にも亀裂を広げていく。

 

やがて、黒い何かは水晶の内部をかき分けるようにその体を徐々に大きくしていく。

 

 

「おいおい………まさか、ボクの所為だって言うのかよ」

 

 

その言葉に俺を除いた誰もがヘスティアに振り返る。

 

 

「たったあれぽっちの神威で……冗談だろ?」

 

 

ベルたちの視線を浴びながらもヘスティアは愕然と天井の一点を見上げ続けていると、次の瞬間、眼下のものを上から押し潰すように巨大な亀裂音が響き、ヘスティアは双眸を見開いた。

 

 

「バレた……!?」

オリ主たちの新本拠地候補

  • 第六区画 『竈火の館』の近く
  • 第七区画 元ヘスティア廃教会
  • 西地区 豊穣の女主人の近く
  • 北地区 適当に
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