臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか? 作:黒牙雷真
〈sideケンマ〉
「はぁ、はぁ、はぁ、キッツゥゥ……両手が痺れてらぁ」
レフィーヤが完成させたリヴェリアさんの結界魔法である【ヴィア・シルヘイム】を見ながら、『ゴライアス』の咆哮を《デュランダル》で両断した時に生じた痺れを俺は《デュランダル》を地面に突き立ててぷらぷらと手を振りながら痺れを落としている。
正直、今までで二番か三番目くらいヤバイ賭けだったと自分では思う。一番はもちろん『怪物祭』でレフィーヤを守る時に《擬態の聖剣》で大楯にした《エクス・デュランダル》で食人花の一撃を受けたあの時である。
大分両手の痺れが取れて来たので地面に突き立てていた《デュランダル》と《真のエクスカリバー》を握り直す。その間、ゴライアスはリューさんとアスフィさんに妨害されながらも【ヴィア・シルヘイム】の結界を破ろうと試みているが、流石はLV.3 の長文詠唱魔法なだけのことはあって、アニメでリューさんにポテンシャルはLV.5 に迫ると言われた黒いゴライアスの咆哮や打撃も意味を成していなかった。
「やっぱり結界魔法を頼んで正解だったわ」
【ヴィア・シルヘイム】の結界がある限り、これ以上ゴライアスによる被害が出ないと思う。しかし、気になっている点が一つ。アニメでは守っているシーンしか描かれていなかった【ヴィア・シルヘイム】だが、結界内からの攻撃は可能なのだろうかという点だ。
大体のアニメでは、内側からならば結界を通り抜けて攻撃できる物と内外問わず攻撃を防いでしまう物がある。この場合、【ヴィア・シルヘイム】はどちらのタイプになるのか俺は知らないので困っている。
「なぁ、レフィーヤ。この結界って内側から攻撃が出来たりする?」
「い、いえ、この結界は内部からの攻撃も遮断してしまいます」
「となると、少し面倒だな………」
レフィーヤの【ヴィア・シルヘイム】の説明を聞きながら今頃ベルが【英雄願望】を蓄力が終わる頃だろうと思い、ベルを探していると案の定、蓄力が限界まで溜まったようで結界の外へと走り出している姿があった。
「休み暇もないな……。レフィーヤ、冒険者たちの体勢が整うまで結界をできるだけ維持しててくれ!」
「任せてください!」
結界魔法の維持をレフィーヤに頼んでから《天閃の聖剣》と【瞬歩】の合わせ技で少し距離があるベルを追いかける。せっかく【ヴィア・シルヘイム】の結界魔法があっても、その範囲から出てしまってアニメ通りの展開になってはレフィーヤの苦労も報われない。
【英雄願望】の白い光を片手に宿したベルは、そのまま結界を抜けてある程度ゴライアスまで肉薄すると魔法の射程圏内に奴を入れたことで足にブレーキをかけた。
それに気付いたゴライアスも口を大きく広げて咆哮を放つ前兆を見せるが、そのことをベルは気付いていないのか或いは気付いていながら無視しているか分からないが、【英雄願望】の光が宿っている片手を突き出すと全ての望みをかけたような叫び声と共に渾身の【ファイアボルト】をゴライアス目掛けて撃ち放った。
「【ファイアボルト】!!」
『──────オォッ!!』
白い稲光と共に凄まじい轟音を撒き散らしながらゴライアスの咆哮と衝突。そのままベルが放った大炎雷はまるで戦闘機が音速の壁を越えた時のように奴の咆哮を突き破りながら顔面へと着弾した。
しかし、右眼を含めた僅かな部分が残り、巨人の顔面の約八割が消失した。その光景を見た俺は思わず叫んでしまった。
「アニメと違う!?」
アニメでは【英雄願望】で強化された【ファイアボルト】を受けたゴライアスは顔の右側を残すのではなく、鼻下から先が残る。なのに、今の奴はそうではない。明らかに標的を狙うことができるように右眼が残ってしまっている。
このままでは間違いなく【英雄願望】の代償で疲労しているベルが狙われてしまうとそう思わずにいられなかった。それを証明するかのように、ここに来てゴライアスに異変が起きた。
それは、射撃部隊が魔法で一度ゴライアスの顔を吹き飛ばした時には見せることがなかったおぞましい勢いの再生が今になってそれが起きているのだ。
「ここに来て超速再生!? 」
朧気になっている記憶にはゴライアスにこんな能力はなかったはずだと思う中で、最後に『ダンまち』の一期を見たのは約二年くらい前のことなので抜けていてもおかしくないだろうと思う二人の俺がいた。
更にもう二人、いくらアニメと違って俺やレフィーヤが居たとしても変えられないシナリオというものがあるはず。だから、これから狙われるであろうベルの怪我は避けらないと諦めている俺。
残るもう一人は、別に俺が手助けをしなくても主人公であるベルならアニメ通りゴライアスを倒してみせるんだから俺は自分が禁手に至れる方法を探すことを優勢した方が戦況的もいいと思う、他力本願の俺だ。
「ベルは、初めて出来た友達なんだ!」
『死ぬ気か、相棒!?』
「死ぬつもりはねぇ!だがな、ベルを見捨てたら俺は………イッセーを越える所か、スタートラインにすら立てなくなる!」
友達を見捨てたくない、その思いで俺はドライグの静止の声を無視して緩む足を再び回転させながら《真のエクスカリバー》を《擬態の聖剣》でブーステッド・ギアを模した黄金の籠手へと擬態させる。
【英雄願望】で疲労しているベルに左眼を修復させたゴライアスは、口元に弧を描きながら咆哮を放つ前兆である魔力を集束させる。対して、自分の渾身の一撃が通用しなかったこととゴライアスからの明確な殺意を向けられているベルは愕然としたまま立ち尽くしており、回避するような動きが見えない。
「───ベルッ、逃げなさい!!」
いつもと違う呼び方で平静さをかなぐり捨てたリューさんの叫びが聞こえた刹那、俺はベルの襟首を掴んで力一杯に後ろへ投げる。
ベルを投げたあと、直ぐにゴライアスから放たれた咆哮を俺は回避が間に合わないと思い、レフィーヤを守った時と同じように片手に持つ《デュランダル》で両断しようと試みたが咄嗟の行動で踏ん張りも不十分、片手だったため、足が地面から離れて吹き飛ばされてしまう。
「くっ、ぐあああああああ!!」
凄まじい空気の塊を受ける中、ベルが目を見開いていたがそれを認識するよりも先に自分の身体に走る激痛が思考を鈍らさせた。
そして、鈍る思考の中で最後に目に映ったのはゴライアスの豪腕による平手打ちが迫ってくる絶体絶命の光景がコマ送りのように流れる光景だった。そんな最中、俺は最後の悪あがきとばかりに全身にありったけの龍のオーラを纏いながらこう思った。
(アニメと違って、ゴライアスの攻撃を受けていないベルなら必ず倒してくれるはずだ。あとは任せたぞ、親友)
多分、ベルには届かないだろうと思いながら親友に託すようにそう思った後、目の前に大楯を持った桜花が現れたが強烈な衝撃とミシミシと骨の音を感じた途端に意識がプツリと途絶えた。
「いやぁあああああ!ケンマぁぁあああああ!!」
○●○
〈sideベル〉
僕は、最後の頼みである【英雄願望】を使った状態での【ファイアボルト】をゴライアスに向けて撃ち、それでも倒せなかったことや強烈な殺意を向けられたことで愕然としたまま動けないでいると、後ろからケンマに襟首を引っ張られ、そのまま物凄い力で後ろへ投げ飛ばされた。
すると、僕がいた場所に向けてゴライアスが放った咆哮をケンマが伝説の聖剣で斬ろうと試みたが足が浮いてしまい、そのまま宙へと飛ばされてしまった。更には奴の豪腕による平手打ちが迫るが咄嗟に大楯を持った【タケミカヅチ・ファミリア】の桜花さんがケンマを庇うけど、そのまま二人を吹き飛ばした。
その光景をまたしても愕然としたまま眺めていると少し離れた場所にいるレフィーヤさんの悲痛の叫びが聞こてきた。
「いやぁあああああ!ケンマぁぁあああああ!!」
「ハッ、ケンマ!? 桜花さん!?」
レフィーヤさんの悲鳴で我に返った僕は、疲労している身体に鞭を打ちながらケンマたちの下へ直走る。けれど、それよりも先にリューさんとレフィーヤさんが二人の下へとたどり着く。
「急いで彼らを運びます!同胞はそちらの方を頼みます!」
「はい!」
LV.4 とLV.3 の二人は重症のケンマと桜花さんを背負ったままあっという間に戦線から離脱していく。それを僕は、桜花さんを心配してやって来た【タケミカヅチ・ファミリア】の命さんと千草さんと共に追いかけて行く。
リューさんとレフィーヤさんがケンマたちを運んだ場所は、18階層の南部にある中央樹と補給地点である丘のちょうど中間の草原。遅れた僕たちも合流すると必死にケンマの名前を呼ぶリューさんと涙声混じりに魔法の詠唱を行っているレフィーヤさんがいた。
「イシグロさん!イシグロさん、返事をしなさい!」
「【────────】」
僕たちもそれぞれ心配している人の下へと駆け寄る。
「ケンマ!ケンマっ……!」
「桜花!桜花っ……!」
「桜花殿!」
ざっと見ただけでもケンマと桜花さんの怪我は回復薬では治せないほどに傷が深い。それこそ、ケンマが足をやられたヴェルフに使ったような高位の回復魔法か高等回復薬でないと治せないほどに……。
「クラネルさん、高等回復薬はありますか!?」
「いえ、僕は………持ってないです」
「そちらの二人は!?」
「ないです!」
「私たちも手持ちが尽きていて…………っ!」
リューさんの言う通り、やっぱりこの怪我を治すには高等回復薬でないと駄目みたいだ。
「同胞、どうやら貴女が頼りのようだ………」
「【───────】」
自分では手の施しようがないことに悔しさを滲めませながらリューさんはレフィーヤさんに託すと、託されたレフィーヤさんも詠唱を続けながら頷いて答える。
高等回復薬も回復魔法も持たない今の僕は無力だ。あまりの無力さに握り拳を作っていると茂みの中から神様と荷物を背負ったリリがやって来た。
「ベルくん!」
「ベル様!」
「神様!? それにリリまで!?」
何故、二人がこんな戦場の中間辺りまで来るのだと思うが聞かずにいられなかった。
「どうして二人が!?」
「ヴィクトリアからケンマくんを任されているからだよ。それでケンマくんの状態は?」
「神ヘスティア、彼らの息はありますが、体の傷が深い。手足の骨も恐らく………」
「そんな………」
ケンマの状態をリューさんから聞いた神様は絶句してしまった。
「ごめんなさい、神様。僕の所為でケンマが……」
「ベルくんの所為じゃない!誰かの所為じゃないんだ……それにケンマくんがキミを助けなければ、ケンマくんも自分を責めていたはずさ」
「でも………」
「クラネルさん、あまり自分を貶めるような真似は止めなさい。それは貴方の悪い癖だ。謙虚なのは美徳でもあるのでしょうが、行き過ぎた謙虚は嫌味にもなる。今でいえば、それは貴方を助けたイシグロさんを貶めているような物だ」
「そんな、僕は………」
「分かっています。貴方がそのようなことをするような人ではないということを。ですから、クラネルさんはイシグロさんに助けられた、その意味を探しなさい。私の弟子が自殺願望のある愚か者な訳がないのだから」
リューさんは、力なく瞼を閉じているケンマの前髪を撫でてから立ち上がる。
「神ヘスティア、イシグロさんたちを頼みます。私はアンドロメダとゴライアスを」
「分かった。気を付けて」
神様にケンマと桜花さんを任せるとリューさんはフードを深く被り、二つ名の【疾風】の如き疾さで森の中を駆け抜けて行く。
リューさんが発ったあと、彼女の言葉通り、僕はケンマが僕なんかを助けたその意図を考える。
僕は何ができるのだろうか? 僕はケンマのように伝説の聖剣を扱える訳でもない。ましてや聖剣や魔剣も生み出せない。そんな僕にケンマは何を期待して、僕を助けたのだろう?
ブーステッド・ギアが不調でなければ僕とケンマであのゴライアスは倒せたはずなのは理解できる。いや、例え不調だとしてもケンマならば一人でゴライアスを倒すことができたはずだ。
じゃあ、本当に何のためにケンマは僕を助けたの?
「わからない、わからないよ……ケンマ……」
どうしても、ケンマが僕を助けたその意味が分からず迷子の子供みたく涙を流していると長い詠唱を終えて、レフィーヤさんが回復魔法をケンマと桜花さんに施す。
「【ヴァン・アルヘイム】!!」
回復魔法が施されると二人の怪我はみるみるうちに治癒していくが目を覚まさない。
「これで命の心配はないと思います。ですが、骨折までは………」
「いや、上出来だよ。ありがとう、ロキのところのエルフくん」
ケンマたちに回復魔法を施し終わったレフィーヤさんは、神様から感謝の言葉を受けるとその場から立ち上がり、ずんずんと僕の目の前まで歩み寄ってくる。
そして───────パシンッ!!
頬が痛い。その痛みから僕はレフィーヤさんに叩かれたのだと知覚しながら痛む頬を手で抑える。顔を上げれば、レフィーヤさんの顔は怒っていた。
その怒りは昨晩とは全く別物の怒りだった。
「へ?」
「ちょっ、エルフくん!?」
「レフィーヤ様!?」
「いつまでそうしているつもりですか」
「レフィーヤ、さん?」
「いつまで、そうやってウジウジしているつもりなのかと聞いているんです。答えてください、ベル・クラネル」
「………………」
レフィーヤさんのその問いかけに、僕は答えられなかった。
「はぁ………失望しました。それにちょっとでも貴方のことをライバルだなんて思った私が愚かでした。今の貴方を
「ッ!!」
たった一言。レフィーヤさんが述べた「あの人」という一言に僕は、直ぐにアイズ・ヴァレンシュタインを思い浮かべた。
その瞬間、さっきまで迷子の子供のように流れていた涙が止まった。そして、今度は忘れていたとあることを思い出した。
「僕は……英雄になりたい」
オリ主たちの新本拠地候補
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第六区画 『竈火の館』の近く
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第七区画 元ヘスティア廃教会
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西地区 豊穣の女主人の近く
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北地区 適当に