臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか? 作:黒牙雷真
〈sideケンマ〉
オラリオの街を囲んでいる壁の上で、正しい振り方など分からず、ただ只管に剣の素振りをしてからヴィクトリアがバイトをしている『豊饒の女主人』で夕飯の前菜であるシーザーサラダに舌を打っていると隣の席に、パーティーを組んだばかりのベルがやってきた。
隣の席にベルがやってくるとシルのお客ということで、ミアさんからあれよあれよと料理が提供される。メニューは、大盛パスタに今日のオススメの鯰の唐揚げだった。
「大丈夫か、ベル?」
「ケンマには大丈夫に見えるの?」
「全然」
隣で、大盛の料理に悪戦苦闘しているベルを眺めながら俺も自分で注文した料理を食べ進める。最初は、牛肉だからもしかしたらミノタウロスの肉かと疑ったりはしたが食べてみれば今までに食べたことがない美味い肉汁が口の中に広がって、白米が進む進む。
そんな、肉、白米、肉、白米、ジュースのテンポで食べていると店の入り口から団体客が入店してきた。
「ご予約のお客様、ご来店ニャー!」
その団体客は、オラリオの最大派閥の一角である【ロキ・ファミリア】だ。もう一角は、オラリオ最強の冒険者でLv.7のオッタルが所属する【フレイヤ・ファミリア】である。
『豊饒の女主人』で飲み食いしている冒険者たちが一度静かになると、所々から【ロキ・ファミリア】の武勇伝を口にしている。隣のベルも【ロキ・ファミリア】の中にアイズがいることに気付いたら熱い視線を送っていた。
それから【ロキ・ファミリア】の面々がしばらく酒や料理を食べてからアニメ通り、酒に酔ったベート・ローガがアイズにとあるネタを振り始めた。それも店にいる他の冒険者にも伝わるような大声でだ。
「そうだ、アイズ!お前のあの話を聞かせてやれよ!」
「あの話………?」
ベートとアイズの話が気になった『豊饒の女主人』にいる冒険者一同は、その話に耳を傾けるように沈黙を続けていた。
「あれだって、帰る途中で何匹か逃したミノタウロス!最後の一匹、お前が5階層で始末しただろう!?そんで、ほれ、あん時いたトマト野郎と側で無様に気絶してる雑魚がよ!」
ミノタウロスの話を聞いていた同じ【ロキ・ファミリア】の団員の一人であるティオネ・ヒリュテが心当たりがあるようで、それをベートに問う。
「ミノタウロスって、17階層で襲いかかってきて返り討ちにしたら、すぐ集団で逃げていった?」
「それそれ!奇跡みてぇにどんどん上層に上がっていきやがってよっ、俺達が泡食って追いかけていったやつ!それでよ、いたんだよ、いかにも駆け出しっていうようなひょろくせえ冒険者共が!」
ベートが言っている冒険者とは、間違いなく俺とベルだろう。あの時、俺は恐怖心のあまり思考がおかしくなって無謀な特攻を試みたからな。その結果、ベートの言う通り無様に伸されてしまった。
しかし、ひょろくせえか…………。気絶したのは自分の実力不足だから納得できる。それでもちょっと、ムカついたかな。
ベートが笑いながら話しているのを主神たるロキもしっかりと聞いていて、その駆け出しの冒険者の安否を確認する。
「ふむぅ? それで、その冒険者たちはどうしたん? 助かったん?」
「アイズが間一髪ってところでミノを細切れにしたんだよ、なっ?」
「…………」
アイズは、ベートの問いに無言を貫いていた。それがある種の肯定になってしまった。
「それでトマト野郎は、あのくっせー牛の血を全身に浴びて…………真っ赤なトマトになっちまったんだよ!くくくっ、ひーっ、腹痛えぇ……」
ベートが腹を抱えて大笑いしているのに対して、奴の話に出てきた当人であるベルは俯いたまま何かを耐えていた。
それを見た俺は、何故か無意識に声をかけていた。
「悔しいよな、ベル」
「ッ!?」
「悔しかったらそのままか? 違うよな。悔しかったら見返してやろうぜ。そのためにも今は、飯を食え!そしたら、ダンジョンに行って強くなろう」
「うん…………」
このあと、ダンジョンに行くことを決めた俺たちは、目の前の料理を食べることに集中した。その間、ベートはずっと俺たちとミノタウロスの話を笑いながら同じ【ファミリア】の仲間に話し、その話に釣られて【ロキ・ファミリア】と店にいる冒険者も笑い出す。
そんな惨めな思いをしながらも身体に燃料を蓄える。ベルも悔し涙を流しながらパスタと鯰の唐揚げを頬張る。
ようやく目の前の料理を食べ終わると世界の悪戯なのか、ベルにとっては止めの一撃とも言える言葉がベートの口から放たれた。
「雑魚じゃあ、アイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねぇ」
その言葉で、ベルは堪忍袋の尾が切れたようで座っていた椅子を飛ばして、集中する視線を振り払って外へ飛び出した。
「ベルさん!?」
シルの呼び止めに反応することなく、ただオラリオの街の中へと消え去ってしまうベル。そんなベルに心配そうな表情を浮かべるシルの顔を見たリューさんが何処から出したのかわからないが小刀を取り出してベルを追いかけようとするのを視界に捉えた。
なのでそれを静止させるためにもちょっと視線を集めることにした。アニメであれば、ここはシルが止めるはずなのだがな。損な役まわりだ。
「ミアさん、あの白髪頭の代金は俺が持ちます。一応、パーティーメンバーなんで」
「金を払うなら私しゃ、何も言わないよ」
「ありがとうございます。それからリューさんに、もしかしたら明日鍛練は出れないかもしれないので明後日は必ず鍛練に出ますと伝えてください」
「あいよ」
ベルの代金を肩代わりしながら自分の分の代金をテーブルに置いて、無銭飲食犯を追いかけるために外へ出るとベルを心配して外へと出ていたアイズとそれに付いてきたロキにばったりと出会ってしまった。
内心では、やらかしたと心の中の自分が頭を抱えていた。
「あっ、キミはあの時の…………」
「その節はどうも」
「なんや、アイズたん。この男の知り合いか?」
「知り合いというか、ベートさんが言ってたミノタウロスの……」
「マジかいな!? とすると…………」
アイズの話を聞いて、おずおずとした様子でこちらを見るロキにそれそれはとても良い笑顔で肯定してやる。すると、片手で顔を覆い、天を仰いだ。
「あちゃー、こりゃやらかしてもうたな」
「ついでに言うと、さっきの飛び出して行って奴がトマト野郎だ、神ロキ」
「なっ…………!?」
ベルがベートの言っていたトマト野郎だとも説明すると、普段は見ることない目を見開くほどに驚き出すロキ。
ま、驚くのも無理はない。自分の【ファミリア】がやらかしたことで命の危険に晒した冒険者を酒の肴にしていたのだ。更に、肴にしていた冒険者がすぐ側に二人もいたとなれば最悪以外の何もでもない。
「話が終わりなら行かせてもらうぞ。あいつを追いかけないといけないし」
「なら、私も……」
「今は止めておいた方がいい」
「どうして?」
「なら、逆に聞こう。何故、あなたはあいつを追う? 同情? 負い目? それ以外に今のあなたは何を理由にあいつを追う。今のあなたには、他の理由なんてないはずだ。あなたは【ロキ・ファミリア】の冒険者で、【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン以外の何者でもないのだから」
「じゃあ、キミはどうしてあの子を追うの?」
「そんなの決まってるだろう。オラリオで唯一初めて出来た同じヒューマンの仲間で友達だからだ!それと、俺の故郷にあるとある物語に出てくる先生が言ったある名言を教えてやるよ。"世の中には、ルールや掟を破る奴はクズ呼ばわりされる。………けどな、仲間を大切にしない奴は、それ以上のクズだ"。だから俺はそれ以上のクズにはなりたくない」
とある忍者の漫画に出てくる覆面の先生の明言をアイズに伝えてから返事を聞くこともしないでベルを追いかける。
ダンジョンへと向かい強くなることを焚き付けた張本人としても心配だ。アニメだと我武者羅にモンスターと戦って、一気に6階層まで降りてしまうのだ。冒険者となった立場から考えると心配でならない。
『豊饒の女主人』から飛び出して行ってしまったベルを追いかけるために、ダンジョンへと下る螺旋階段を駆け降りながら『赤龍帝の籠手』を装着、腰には『魔剣創造』で創造した魔剣を携える。
『こんな夜更けにダンジョンか?』
「俺の中で見てたんだから分かってるだろう。ベルを追いかけて、俺も鍛えるんだ」
『無茶な戦い方をして、ぽっくりと死ぬなよ相棒』
「そんな簡単に死ねるかよ。まだ出来ないけど、いつかは俺Tueeeeして可愛い女の子にモテたいからな!」
『動機はどうあれ強くなることは良いことだ』
「そんじゃあ、暴れますか!!」
ダンジョンへと走り去ってしまったベルを追いかけて、見つけるためにも道中、道端に転がっている魔石を頼りにその魔石を回収しながらそれを辿っていく。また、その途中で出現するモンスターはサーチ&デストロイで殲滅していく。
「ドラゴンショット!!」
オリ主たちの新本拠地候補
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第六区画 『竈火の館』の近く
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第七区画 元ヘスティア廃教会
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西地区 豊穣の女主人の近く
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北地区 適当に