臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか?   作:黒牙雷真

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第七十話

 

 

 

 

 

 

 

〈sideケンマ〉

 

 

 

 

 

意識が覚醒すると脇腹に鈍い痛みが走る。初めて感じる痛みだが、これは間違いなく肋骨が皹か骨折をしている。他の骨がギイギイと内側から軋んでいるのが分かる。

 

 

 

「もし、英雄と呼ばれる資格があるとするならば────」

 

 

おっ?この声と台詞はあのシーンだな。ならば、もうちょっとだけ気絶している振りをしよう。見ることが出来ないのはとても残念だが、一人のオタクとして、こういう名シーンは聞き逃せない。

 

 

「ヘルメス!?」

 

「剣を執った者ではなく、盾をかざした者でもなく、癒しをもたらした者でもない。己を賭した者こそが、英雄とよばれるのだ」

 

 

その言葉が本当ならば、イッセーも英雄と呼ぶに相応しい男だよな。アーシアを助けるために堕天使の根城に突入したり、リアスを助けるために婚約パーティーに乗り込んだり、小猫とリアスを守るために黒歌の魔弾を受けたりと軽く思い出しただけでもこんなにエピソードがある。

 

 

「仲間を守れ。女を救え。己を賭けろ」

 

「折れても構わん、挫けても良い、大いに泣け。勝者は常に敗者の中にいる」

 

「願いを貫き、想いを叫ぶのだ。さすれば───」

 

 

さぁ、次がラストだ。格好良く復活したように魅せましょうかね。

 

 

「「「───それが一番格好のいい英雄だ」」」

 

「え?」

 

 

ギイギイと軋む身体に鞭を打ちながら、膝を付きながらゆっくりと立ち上がりながら同じ台詞を言うと、最後の台詞に俺の声が混じっていることに気付いたベルが、こちらを振り向いた。

 

 

「よう、ベル。クライマックスタイムには間に合ったか?」

 

「ケンマ………」

 

 

ベルが口にした俺の名前に他の者も気付いて、振り返る。

 

レフィーヤは両手で口元を抑えながらポロポロと涙を溢し、ヘスティアとリリは眼を見開きながら驚き、ヘルメスは羽帽子に手を当てて笑みを浮かべ、ベルは待ってましたとばかりに笑顔に見せる。

 

 

「身体はもう大丈夫なの!?」

 

「ああ、動けるし、戦える。でも、それだけじゃ足らない」

 

「えっ?」

 

「レフィーヤ、俺に祝福を与えてくれないか?」

 

「わ、私ですか!? で、でも……祝福って、どうすれば……」

 

「そんなのは簡単なことだよ、レフィーヤちゃん。彼に、ケンマくんにキスをすればいいのさ」

 

 

まるで芝居でもやっているかの如き流れで、ヘルメスはレフィーヤにそう教えた。

 

 

「き、キキキキキスッッ!!?」

 

「そうさ。古来より、戦に身を投じる英雄たちには女神また乙女からの熱いベーゼが送られるものさ。ケンマくんもレフィーヤちゃんという絶世の乙女からのベーゼを求めているんだ。そうだろう、ケンマくん?」

 

「んー、ベーゼとまで行かないが、母親が子供にするよな、額にキスでいいんだがな」

 

 

ヘルメスの問いにマウス・トゥ・マウスじゃなくても良いと答えると、顔を真っ赤に染めたレフィーヤが女神でもいいのであれば自分じゃなくてもと叫ぶ。

 

 

「女神か乙女でいいののであれば、女神であるヘスティア様がケンマにキスをすればいいはずです!なんで、私なんですか!?」

 

「レフィーヤが推し(好き)だからじゃ駄目か?」

 

「へっ!?」

 

「ほう」

 

 

普通にヘスティアよりもレフィーヤが俺の中では推しだと、言うと(言ってない)レフィーヤは顔を真っ赤にしたまま固まり、ヘルメスは依然としてニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべている。

 

てか、ヘスティアはベルのヒロインだと相場が決まっている。なので、ヘスティアかレフィーヤの二択ならば間違いなくレフィーヤである。

 

 

「駄目か、レフィーヤ?」

 

「うぅぅ、もう………わ、分かりましたよ!」

 

 

何とか口説いて、レフィーヤが受け入れてくれたので俺はすかさず彼女の前で片方膝を付いて、『中層』へ挑む前に『豊饒の女主人』でヴィクトリアにやったのと同じ体勢を取る。

 

そして、レフィーヤが優しく俺の顔を両手で持ち上げる。その時、ふと彼女の顔が見えると頬を赤く染めながら藍い瞳を潤ませる。それを見て、思わずドキッとしてしまったのは仕方ないと思う。

 

 

「い、いきます!」

 

「お、お願いします」

 

 

お互いに緊張しながらその時を待つ。ゆっくりとだが、額にレフィーヤの吐息を感じるとやがて額に優しい温もりと感触を感じた。

 

刹那、俺の中で今まで感じたことのない脈動が起きる。

 

 

────ドクンッ!

 

 

────ドクンッッ!!

 

 

────ドクンッッッ!!!

 

 

 

『来たぞ、相棒!!』

 

(ああ、感じてる。間違いない、これは禁手の脈動だ)

 

 

ドライグと今感じているものを共感してから頬に添えられているレフィーヤの手を握りながらゆっくりとその場で立ち上がる。

 

 

「ありがとう、レフィーヤ。これで俺は、天高く飛べる!!」

 

『Count Down!!』

 

 

ブーステッド・ギアの宝玉が輝きながら禁手に至るまでの時間が表示されて、カウントが開始される。時間は一分。イッセーの半分だ。

 

 

「行ってくる」

 

「は、はい、行ってらっしゃい!」

 

「ベル」

 

「な、なに?」

 

「先に行ってるからな」

 

 

唖然として固まっていたベルにそう言い残してから一気に森の中を駆け出す。森を抜ける頃にはカウントの時間も残すは秒読みだったので迷わずゴライアスに突貫。

 

ゴライアスは森の中から現れた俺に何かを感じたのか、リューさんとアスフィさんを相手にしていたのにも関わらず、即座に俺の方へと向いた。

 

 

『相棒、あの巨人族擬きがこちらに気付いたようだぞ』

 

「ハッ、知るかそんなもん!気付いていようが気付いてなかろうが、俺は奴に一発やり返す!それだけだッ!!」

 

『ああ、そうだな。お互い、赤龍帝としてやられたままでは気が治まらんよなッ!!』

 

「行くぜ、ドライグ!!」

 

『おう!』

 

 

禁手に至れたことに興奮を覚えながらゴライアスの放つ拳が俺へと迫る。しかし、それよりも先にブーステッド・ギアのカウントが完了する。

 

そして──────

 

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!』

 

 

音声と共に俺の身体から今までにない質量の赤い膨大なオーラが解き放たれ、そのままオーラは俺の全身を包み込み、赤い鎧を形成する。

 

『赤龍帝の鎧』を顕現させることに成功すると、右腕から《擬態の聖剣》で黄金のブーステッド・ギアに擬態させていた《真のエクスカリバー》が弾き出されるようにして、俺の右手の中へと収まる。

 

けれど、《真のエクスカリバー》には悪いが禁手に至った時の一発目はゴライアスの顔面を殴ると決めているので、偶然でも当たらないように《擬態の聖剣》で短剣へと擬態させて尚且つ逆手に持ち変える。

 

 

「飛ぶぞ、ドライグ。サポート任せた!」

 

『任せろ!』

 

 

禁手に至って間もないためか、アニメのように禁手に至って直ぐに翼が使える訳ではないようで原作通りに背部の噴出口からオーラを放出して、LV.2 の身体能力による跳躍と合わせて物凄い勢いで空へと飛翔する。

 

 

『相棒、言い忘れていたが禁手を維持できる時間はそんなに長くはないぞ。今の相棒は万全の状態とは程遠いからな』

 

「分かってる!今も骨がギイギイと軋んでいるのが分かるくらいだからな!それで維持できる最大時間とマックス倍加の消費時間は?」

 

『維持できる時間は持って四十五分だ。倍加はマックスで放てば五分消費する。つくづくイッセーと似た流れだな』

 

「だけど、イッセーよりは十五分多く戦える!それだけでも十分だ!」

 

 

ドライグから鎧の維持できる最大時間とマックス倍加で消費する時間を聞いて、俺はマックスで溜めるのではなく、手始めに十二回ほど倍加の力で能力を高める。

 

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!』

 

「ついでだ!【プロモーション・ルーク】ッ!!」

 

 

前にかけていた【プロモーション】の魔法が解けていたので、二の十二乗の倍加に加えて改めて【プロモーション】をかけ直して『戦車』へと昇格する。

 

倍加と【プロモーション】による身体強化で、さすがにゴライアスも危険視したのか豪腕で拳を俺に振るってくるが、ドライグのサポートのお陰で豪腕に当たることなく奴の懐へと踏み入ることができた。

 

 

 

『今だ、相棒!決めろ!!』

 

「オッシャー!ぶっ飛べ、木偶の坊ォオオオオ!!」

 

 

雄叫びと共にゴライアスの顎下から急上昇して、回転式昇龍拳擬きを奴の顎に叩き込むとあのバカデカイ図体が嘘のように軽く浮かび上がり、そのまま生まれ落ちて来た時の逆再生を見ているかのように18階層の天井にある水晶へと激突する。

 

それを目撃した傷を負っている冒険者たちから皆、同様の声が上がった。

 

 

「「「「なにぃいいいいいい!!?」」」」

 

 

ゴライアスが一人の男によってぶっ飛ばされるというあり得ない光景を目にした冒険者たちは、目玉が飛び出るのではないかというくらいに驚いているが、当の俺はというと──────

 

 

「ヤバい、気持ち悪い…………」

 

『絞まらんな、相棒………』

 

 

生まれて初めてのお一人様飛行に加えて、ジェットパック飛行で完全な乗り物酔いに近い病状が俺を襲っていた。『ハイスクールD×D』の原作には描かれてはいなかったがイッセーも飛行訓練などは積んだのだろうか?

 

いや、転生悪魔という設定があるので悪魔に転生したら自動的に空中戦闘に順応するためのご都合設定が機能しているのだろう。でなければ、間違いなく今の俺と同じようなことになってるはずだ。

 

 

「ドライグ、悪いけどゆっくりと降ろしてくれ。マジで、吐きそう………」

 

『おぃいいい!? 止めろ、相棒!せっかくまともな方法で禁手に至ったと思ったら、嘔吐だと!? イッセーもそうだが、相棒も禁手に至って早々に俺を泣かせるつもりか!?』

 

「仕方ないだろう。初めてのお一人様飛行で慣れてないんだよ…………あっ、マジでやばい、何か腹の底から込み上げてくるものが…………」

 

『耐えろ!もう少しの辛抱だ!!』

 

 

結果、何とかゲロる前に地上へと降り立ち、最悪の事態だけは避けることができた。一人、ゲロゲロゲロぴーなことにならなかったことに安堵していると、天井に殴り飛ばしたゴライアスがようやく落下を始めたようで、無数の水晶と共に落ちてくる。

 

それを眺めていると聞きなれた女性の歌声が聞こえてくる。これは間違いなく、我が師匠であるリューさんの魔法詠唱だ。

 

 

 

「【───今は遠き森の空。無窮の夜天に鏤む無限の星々】」

 

 

アニメと違ってゴライアスは未だに空中、落下仕切るまでにはまだ時間がある。であれば、リューさんが詠唱に集中するには十分だろう。

 

そう思っているとリューさん以外にも魔力が集まっていくのを感じ取ることが出来たので、アニメの知識から【タケミカヅチ・ファミリア】の命が唯一無二の重力魔法の詠唱を始めたのだと察することができた。

 

 

「【愚かな我が声に応じ、今一度星火の加護を。汝を見捨てし者に光の慈悲を】」

 

「【掛けまくも畏き───】」

 

 

二人の乙女による詠唱が紡がれる中、18階層に大鐘楼の金が鳴り響く。

 

 

「【汝を見捨てし者に光の慈悲を。来れ、さすらう風、流浪の旅人。空を渡り荒野を駆け、何物よりも疾く走れ。星屑の光を宿し敵を討て】」

 

「【いかなるものも打ち破る我が武神よ、尊き天よりの導きよ。卑小のこの身に巍然たる御身の神力を】」

 

 

大鐘楼の金音、すなわちベルの【英雄願望】+リミットオフでベルは英雄の一撃を放とうとしている。地面に落下して蹲っているゴライアスも大鐘楼の音を聞き付けたのか、ベルの方を向いた。

 

だが、ベルに視線を奪われたその隙がお前の敗因の一つだ。何故ならアニメと違って高速戦闘中に平行詠唱していないリューさんの詠唱が完了したからだ。

 

そして、リューさんの魔法が奴に降り注ぐ。

 

 

「【ルミノス・ウィンド】!!」

 

 

意識外からの緑風を纏った無数の大光玉がゴライアスに炸裂し、その黒い体皮を破り、夥しい閃光を連鎖させた。しかし、連鎖する閃光の中から赤い光が見えた。

 

それは奴が自己再生を発動させている光だ。

 

リューさんの魔法を受けたゴライアスは、損傷と治癒を繰り返し、体を削りながら状態を起こして、正面にいるリューさんとアスフィさんに豪腕を伸ばしている 光景と記憶に残っているアニメの光景、二つの光景がまるで重り合うように見えた。

 

その瞬間、酔いを吹き飛ばすほどに動かずにはいられなかった。

 

 

「させるかぁああああ!!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoost!!!』

 

 

倍加の力は全て推進力へと転換。脅威的な速度でリューとアスフィさんへと接近、すれ違い様に腰へ腕を回してがっしり抱え込み、緊急離脱。その際、二人から多少なりともダメージを受けたような呻き声が聞こえたのでしっかりと謝っておく。

 

 

「う”っ!?」

 

「かはっ!?」

 

「す、すみません!」

 

 

さすがのLV.4 のリューとLV.3 のアスフィさんであっても三十二倍もされた身体強化によるボディーブローに近い掻っ攫われ方をしたらダメージが入るのもしたかない。加えて、今の俺は『赤龍帝の鎧』を着込んでいるので尚更だろう。

 

 

「【天より降り、地を統べよ───神武闘征】!!」

 

 

リューさんとアスフィさんを抱えながらゴライアスの前から離脱すると命が最後の詠唱を唱え終わったようで、奴の頭上に一振の巨大な光剣が出現し、直下する。

 

 

「【フツノミタマ】!!」

 

 

それと同時に、地面に発生する光剣と同じ色の魔法陣。深紫の光剣がゴライアスの身体を傷付けるとなく貫通し、陣の中心に突き立った刹那、重力の結界が発生した。

 

さっきまでリューさんたちが居た場所の直ぐ側に形成された半径一○メートルに及ぶ巨大なドーム状の重力場。ゴライアスが伸ばしていた豪腕を、膝を地面に張り付けにしていく。

 

 

「重力の結界………!?」

 

 

リューさんが命の魔法に驚く中、俺は命の魔法が破られたあとに来るであろうヴェルフの攻撃に合わせるために、記憶の中から何かいい技はないかを探していると、とんでもない物が記憶の中から引き出された。

 

それをやろうとしている俺も頭のネジが何個かぶっ飛んでいると言わずにはいられないだろう。

 

 

「我ながらとんでもないことを思い付くが…………やってはみたかったんだよな!」

オリ主たちの新本拠地候補

  • 第六区画 『竈火の館』の近く
  • 第七区画 元ヘスティア廃教会
  • 西地区 豊穣の女主人の近く
  • 北地区 適当に
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