臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか? 作:黒牙雷真
〈sideケンマ〉
「えーっと、この辺りにいるはずだよな?」
リューさんとレフィーヤのために二人以外は誰も入れないような専用の入浴環境を作り上げたあと、俺も水着に着替えてからOVAに出てくる衣服を溶かす能力を持つ提灯鮟鱇型のモンスターを探して、温泉の周りを一人で探索している。
久しぶりに肩まで浸かることのできる温泉なのに、モンスターなんぞに邪魔をされては堪ったものではないので早急に討伐しに来ているのだ。
OVAでは少し暗い場所に提灯鮟鱇型のモンスターは現れるので、その記憶を頼りに来ているのだが全くと言っていい程に見当たらない。
「いねぇな………。さすがにこんな浅瀬にはいないのか?」
提灯鮟鱇、つまりは魚系のモンスターなので、足首くらいまでしか水深がないこの場所にはいないかと考えるのが普通だ。
「だぁー、考えた所で分かる訳ねぇよ!いつも通りやるだけだ!【プロモーション・ビショップ】ッ!!」
以前、18階層でヘルメスに拉致られたベルを探す時と同じ方法で提灯鮟鱇のモンスターを探すことにした。
すると、思いの他あっさりと目的のモンスターが見つかったので他の誰も見ていない状況を利用して『赤龍帝の鎧』での戦い方を試すことにした。
「見つけた。ブーステッド・ギア!カウント・スタート!!」
『Count down!!』
約一分、鎧が顕現されるまでの間、水晶が生えている洞窟のような狭い道を歩いて行く。この先に目的のモンスターがいるので、慎重に慎重を重ねて近付いていく。
「居たいた、あの赤い光は間違いないな」
洞窟の最奥分で天井から不自然に垂れている赤い光を放つ植物のような発光体の発見に成功した俺は、このあとどうやってモンスターを倒そうかを考える。
俺の記憶が正しいければ、提灯鮟鱇のモンスターは温泉に衣服や防具を溶かす効果を付与することができるのと、かなりの素早さを持っていたはずだ。それに数も一体だけではなく、複数体だった記憶がある。
威力と破壊規模を増大させたドラゴンショットで一気に仕留めてもいいのだが、爆発で絶対にベルたちが集まってくるのでそれだけは避けたい。また下手にやり過ぎてジャガーノートが生まれてくるだなんて事態も避けたい。
「はてさて、威力があって、爆発しないで倒すとなると…………やっぱりアレかな」
如何にして他の者にバレず、ジャガーノートを生み出さず提灯鮟鱇のモンスターを倒そうかと思考を巡らせた結果、『赤龍帝の鎧』のモチーフにもなったとあるロボットの技を使うことを決めた。
提灯鮟鱇のモンスターを倒す算段を決めるとブーステッド・ギアの鎧を顕現させるカウントが完了。それに合わせて、膨大なオーラが迸り、やがてオーラは赤い鎧となって俺の身体を包み込む。
『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!』
「二回目になるが、案外軽いんだな」
『そりゃそうさ。この鎧とて神器の一部、所有者に合わせて進化し変化する。そのくらいはイッセーのことを知っている相棒なら既知だろうに』
「原作でもアニメでも『赤龍帝の鎧』の重さについては語られてないからさ。ちょっと以外だったんだよ。それに、イッセーは歴代最弱とはいえ転生悪魔だろう? だから、悪魔に転生したことで身体能力も常人を超えてるから深く考えなかったんだよ」
ドライグに言った通り、『赤龍帝の鎧』の重さについては原作とアニメでも語られることはなかった。それ故に、実際に自分の身体が鎧に包まれて、全身甲冑の重さに苛まれるのではないかと警戒していたが存外にもとても軽かった。感覚的には、剣道の防具か野球のプロテクターに近いのではないだろうか。
「違和感も無し、行けそうだな!」
鎧を纏った状態に違和感がないことを軽く確かめたら、天井から伸びている赤い光を放つ発光体に右手の掌をかざして、掌から細かく波打ちながら広がる所謂電子レンジのようなイメージをしながら【魔力操作】で高熱の高周波を放つ。
「ワイドレンジ型・輻射波動ッ!!」
掌から放たれた高周波は、広範囲で赤い波紋を幾重にも作り上げながらダンジョンの壁に潜んでいる提灯鮟鱇のモンスターたちを壁の中で蒸焼きにする。
そして壁に亀裂が走り、なかからモンスターが現れるのと同時にモンスターたちは生命活動を停止しており、魔石だけを残して灰となって消えた。
「さすがは『赤龍帝の鎧』のモチーフになったロボットの技なだけはあるな………それに応用も効きそうだ」
広範囲での【輻射波動】にかなりの手応えを感じながら提灯鮟鱇型モンスターの魔石を拾い上げると、突如として温泉の色が透き通るような緑から赤に近いオレンジへと変色した。
「これは………まさか!?」
温泉の色が変わるに伴って、広間の方から女性陣たちの悲鳴が飛び交う。それだけで俺の目論見は失敗したのだと察する。
慌てて女性陣たちの悲鳴が飛び交う場所へと向かうと、そこには水着が所々溶けており、ヘルメスを縄でぐるぐる巻きに縛り付けているアスフィさんとそれを眺めているリリ、命、千草の姿があった。
「さぁ、ヘルメス様!今回は何を仕出かしたのかを白状してください!」
「だ・か・ら、オレは無実だって!」
「そんなことを信じられるものですか!?」
普段の行いが行いだけにヘルメスはあらぬ疑いをかけられている。
「あー、アスフィさん。ヘルメスは無実ですよ。それと取り敢えず、着替えたらどうです?」
「へ?」
「え?」
「ふぇ?」
「なんと!?」
鎧のままでアスフィさんたちの前に現れると、ヘルメスを除いたアスフィさんたちが俺を見て固まる。水着の色々な箇所が温泉で溶けており、それはそれは目のやり場が困るのだが今は人手が欲しいので極力見ないように努める。
「水着が溶ける原因は、温泉に生息していた提灯鮟鱇型のモンスターが原因です。そいつらを俺が倒したはずなんですけど、何故か温泉に影響が出たみたいで、もしかなくても俺の所為かもしれないです。すみません」
「ヘルメス様?」
「嘘は言っていないようだぜ」
「はぁ……わかりました。ケンマが言った通りなら貴方は悪くありません。貴方は私たちのために一人で、温泉に住まうモンスターを倒しに行ったのでしょう。今回は不慮な事故ということで片付けます」
「ありがとうございます。それとついでに一つお願いがありまして…………あっちにリューさんとレフィーヤが温泉に浸かっている場所があるんですけど、二人の様子を確認しに行ってもらってもいいですか?」
「わかりました。そちらは私が行きましょう。ケンマは、他の者たちの確認をお願いします」
「了解です!」
アスフィさんの指示通り、リューさんとレフィーヤを除いたこの場にいない者たちの安否を確認するために俺は動き出した。
○●○
「おーい、ベル!神ヘスティア!ヴェルフ!」
あの場にいなかった奴らを探すために大声で呼び掛けるが返答が返って来ない。まさか、俺が倒した個体以外にも提灯鮟鱇型モンスターが居て、殺られたのではないかという不安がゆっくりと俺の心を襲いかかる。
少しずつ焦りながら鎧を纏っていることで向上している身体能力を駆使しながらベルたちを探し続けると、何処からカツッ!カツッ!カツッ!という何かを削り彫るような音が聞こえてきた。
その音を頼りに、音の発生源に向かうとそこには全裸のままで岩にハンマーと彫刻刀のような物でヘファイストスの像を彫りながら何かうわごとのようなことを呟いているヴェルフを見つけた。
「煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散」
「おい、ヴェルフ? 大丈夫か?」
「んあ? 誰だお前っ!?」
俺の呼び掛けで我に返ってきたヴェルフは、俺の方を振り向くとびっくりしながらハンマーと彫刻刀で臨戦態勢を取った。
それを見て、俺は『赤龍帝の鎧』の姿をリューさんとアスフィさんにしか見せていなかったことを思い出した。なので、兜だけ外して顔を見せながら状況を説明することを試みた。
「俺だよ、ヴェルフ。石黒ケンマだ」
「けっ、ケンマ!? お前、なんだその鎧!今までそんなの身に付けてなかったろ!!」
「鎧の説明はあとだ。今は緊急事態で、温泉がモンスターによって、衣服を溶かす効果が付与されてるんだ。それとベルと神ヘスティアが何処にいるか知らないか?」
「いや、ベルとヘスティア様の居場所は俺にも分かれねぇ」
「わかった。ヴェルフも着替えたら、あっちにリリたちがいるからそこに向かってくれ。俺は引き続きベルと神ヘスティアを探してくる!」
ヴェルフにその言い残してからベルたちを探して回ると、間欠泉が吹き出している場所から鈴の音のようなもの聞こえる。
ダンジョンの中で鈴の音が聞こえるのはあまりにも不自然、けれどその音の正体に俺は心当たりがあったので収納していた兜を装着して、吹き出している間欠泉の水柱の中を突貫する。
「さすが『赤龍帝の鎧』!間欠泉から吹き出す温泉を浴びても熱くも何ともねぇや!」
間欠泉の水柱を突破することに成長すると、最初に視界に入ったのはヘスティアを抱えながら所々水着が溶けている状態のベルが魔法で提灯鮟鱇型モンスターを牽制しているところだった。
それを見て、今必要なのは迅速にモンスターを倒すことなので魔法やオーラの威力が増す『僧侶』ではなく、敏捷性を上げる『騎士』へと【プロモーション】する。
「【プロモーション・ナイト】ッ!!」
『BoostBoostBoostBoostBoost!!』
『騎士』の特性に増大させた力を使って、ヘスティアを抱えるベルに接近。そのまま、軽くベルに触れて『赤龍帝の贈り物』で増大させた力を譲渡する。
『Transfer!!』
「これは………力が漲ってくる!?」
「ここから早く離れろ、ベル!」
「その声は………それにその腕のはブーステッド・ギア? じゃあ、やっぱりケンマ!?」
「えっ、あの真っ赤な鎧を身に纏っているのはケンマくんなのかい、ベルくん!?」
突然、鎧姿で俺が現れたことにベルは困惑し、ヘスティアも鎧姿の俺を知らないため驚く。けれど、今はそんな呑気なことをしている場合ではない。
何故なら俺たちの周りには複数体の提灯鮟鱇型モンスターがぐるぐる円を描きながら俺たちの出方を見ているのだから。
「いいか、ベル。俺が活路を開く、そしたらそのままお前は皆と合流しろ」
「でも、ケンマ一人じゃっ!?」
「大丈夫だ。今の俺は負ける気がしねぇからよ!」
ベルにそう返答しながら左拳を右手の掌に強く当ててからファイティングポーズを構え、力を高めて行く。
「それじゃ、行くぞ!」
『BoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』
「喰い破れ、撃龍拳!!」
赤龍帝の力で増大させた撃龍拳、久しぶりに撃ったが同じ倍加数なのにも関わらず以前の強化種のミノタウロスに放った時よりも拳から現れる飛龍の大きさが二回りほど巨大化しているように見えた。
更には、以前はそこまで細かな肌質などは再現されていなかったはずが、今ではドラゴンの鱗を再現したように刺々しい凹凸が目立っていた。それはまるで生前のドライグを彷彿とさせるような姿だった。
「なんかデカくなってる………!?」
成長している撃龍拳を見て、感想を溢すと撃龍拳は三体程モンスターを喰い破ると役目を終えたとばかりに小さく唸りながら霧散して消えた。そんなところも禁手に至るまではなかった行動だ。
けれど、しっかりと活路は開いてくれた。なので、躊躇せずにベルに声掛けをする。
「今だ、ベル!」
「行きます、神様!」
「う、うん!」
増大した力を譲渡していたため、ベルが地面を蹴ると温泉を盛大に吹き飛ばして、一瞬だけ地面からお湯を失くしながら提灯鮟鱇型モンスターの包囲網から脱出することに成功した。
それを追いかけようとする提灯鮟鱇型モンスターを俺は高く跳躍して、空中で意味もなく前方宙返りをしてから地面に着地して、そのまま回し蹴りでベルを追おうとしたモンスターの一匹を屠る。
「悪いが簡単には行かせないぜ。てめえらは丁度良い俺のサンドバッグなんだからようッ!!」
オリ主たちの新本拠地候補
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第六区画 『竈火の館』の近く
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第七区画 元ヘスティア廃教会
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西地区 豊穣の女主人の近く
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北地区 適当に