臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか? 作:黒牙雷真
〈sideケンマ〉
「悪いが簡単には行かせないぜ。てめえらは丁度良い俺のサンドバッグなんだからようッ!!」
ヘスティアを抱えたベルを逃がし、それを追いかけようとしていた提灯鮟鱇型モンスターの一匹を回し蹴りで屠り、これ以上ベルたちを追いかけさせないようにモンスターたちの前に俺は立ちはだかる。
また、回し蹴りで屠った感覚から提灯鮟鱇型モンスターは赤龍帝の力で能力を増大させる必要はなく、『赤龍帝の鎧』を纏った状態の身体能力だけで簡単に倒せることが分かった。お陰で無駄な体力を消費する必要がないことが判明したのでとても有難い。
「さて、第二ラウンドと行きますか!」
そこからは案外呆気なく決着がついてしまった。それもそのはず、アニメでイッセーは完全な禁手に至った直後でありながら小猫を連れ去ろうとする黒歌に向かって寸止めで拳を付き出した際、黒歌の背後にある森が一直線上に消し飛んでいた。それも倍加も無しにだ。
原作の場合も倍加による増大も無しに身体中の魔力を集めたドラゴンショットで山一つ丸々消し飛ばすほどの威力を誇るほどに、鎧を纏った状態での基本能力が向上している。故に、ただ単純に拳や蹴りを繰り出してやれば、拳と脚から放たれる真空圧が『中層』クラスのモンスターの身体を貫通して絶命させるは容易いことだった。
「やっぱり中層程度じゃ歯応えがないなぁ………」
慢心や過信をしている訳ではないが、この程度の相手では慣らしにもならないとがっかりしてしまうが、『ダンまち』と『ハイスクールD×D』とでは物語設定が違うのもあってパワーインフレが均衡していないので仕方ないと諦めた。
提灯鮟鱇型モンスターを全て倒したことで、少しずつ温泉の色が元に戻って行き、これで一件落着だなと思いながら皆の元に戻ることにした。
皆の元へと向かっていると進行方向からバシャバシャッと水の音を立てながら走って来る複数の足音を耳で捉えた。多分、ベルが呼んだリューさんたちだろう。
「おーい、ケンマー!」
「おー、こっちだー!」
ヴェルフが俺の名前を大声で呼んでいるので、こちらも大声で返答しながら手を振る。皆が集まると開口一番に提灯鮟鱇型モンスターはどうなったとかを問われた。なので、普通に倒したと答えると呆れたように溜め息をつかれた。
解せぬ。
他には案の定、『赤龍帝の鎧』について訪ねられるが態々詳細に教える訳にはいかないし、必要もない
ので、奥の手ではなく現状俺が切れる最高の切り札であるとだけ答えた。
けれど、鍛冶師であるヴェルフだけは気になって仕方ないようので俺に断りを入れてから鎧を指で軽く小突いてみたらして色々と観察している。
「一体何のモンスターの素材で出来てるんだ……全然分からねぇ」
「さぁ、何の素材だろうなぁ」
「さぁ、ってお前なぁ……………ったく、例の武器以外にもこんなもんまで隠してやがって、本当に鍛冶師泣かせだな。俺もそろそろ本格的に泣くぞ」
「別にヴェルフの防具を使わないつもりはないぜ。この鎧を付けていてもヴェルフが作ってくれた防具は下に着れるし、それに最後の最後で俺を守ってくれるのはヴェルフ・クロッゾが作ってくれた防具だと思ってるからな。要は最後の要な訳だ」
「…………はぁ、上手いこと言って乗せるのが上手いよなお前さんは」
「そうか?」
「自覚なしかよ………」
ヴェルフとの話しが終わると提灯鮟鱇型モンスターというイレギュラーがあったので、早急に地上へと帰還しようとアスフィさんが提案すると、皆異論はなかった。
けれど、俺はちょっとだけ時間が欲しかった。
「あのー、ちょっとだけ時間をもらえませんか?」
「何故ですか、ケンマ?」
「実は、この鎧のお陰で見えてないですけど、色が変わった温泉を浴びた所為で鎧の下は裸なんですよ。あははは…………」
「なっ………!?」
恥ずかしいけど、鎧の下が裸であることを打ち明けるとアスフィさんは頬を染めてから咳払いをする。
「コホンッ!そういうことでしたら仕方がありませんね。ケンマの準備が整い次第、地上へと戻ります。その間に各々の準備を整えてください」
「「「はい!」」」
○●○
「うーん、やっぱり『遠征』から帰ってきて数ヶ月ぶりに地上の光を見ると目がチカチカしますぅ」
ダンジョンの入り口から地上の噴水広場へと繋がる螺旋階段を登り切り、バベルの下まで帰還すると夕陽の光に眩んで、手で目を守っているレフィーヤがそう言葉を溢した。
「大丈夫か、レフィーヤ? 目が開けられないようなら手を貸そうか?それともリューさんに目が慣れる間、手を引いてもらうか?」
「いえ、大丈夫です。この程度、遠征から帰ってくれば毎回のことですから」
「へぇ、そうなのか……。俺のところもベルのところも団員が自分たちしかいないから遠征を行うには何年掛かることやら」
とは言ったものの、俺たち【ファミリア】の場合は俺という爆弾を抱えているのでおいそれと団員を増やす訳にも行かない。何せ、毎度のことながら『魔剣創造』や『聖剣創造』で属性武器を創造してしまえば、例えLV.1 の新人だとしても『上層』であれば5階層くらいまでは簡単に進めてしまうだろう。
他には、ブーステッド・ギアが禁手に至った今ならば【ステイタス】の上がり値が頭打ちの冒険者に、赤龍帝の高めた力を譲渡してやれば、下克上の『偉業』ならば簡単に成し得ることもできる。それが知れ渡れば、こぞってうちへ『改宗』して一年経ったら元の【ファミリア】に戻って、また頭打ちになればうちへ『改宗』するなんてループが生まれかねない。またその逆もあり得る。
なので、今はこれまで通り、俺が強くなるまでは知名度も上げずに、団員も募集しないままの方針で良いだろう。そう結論付ける。
「それじゃあ、オレたちはここで失礼するよ。ベルくんたち捜索の冒険者依頼の報酬は後日、うちのアスフィに受け取りに行かせるから」
「それでは、皆さん。短い間でしたが、お疲れ様でした」
「私もここで失礼します。これ以上はあの方に叱られてしまうので」
噴水広場に出た途端、ヘルメスとアスフィ、それと特にリューさんは足早に俺たちから去って行ってしまった。三人の背中が人の波に消えて行くのを眺めてから俺たちも動くことにした。
「さて、まずはギルドに行って、エイナさんに生存と帰還報告。それからフィンさんに出した冒険者依頼の正式な報酬手続きをしないとな」
「だね。エイナさんに会ったら滅茶苦茶叱られそう」
「それは勘弁願いたいが避けられないよな……」
先に戻ってきているリヴェリアさん経由で、俺たちが生きている報告はエイナさんやヴィクトリアにも伝わっているはずだろうから、そこは心配していないが『中層』に挑んで早々にイレギュラーに巻き込まれて心配かけたことを叱られそうだ。
こいつに関しては、ゲームの負けイベントのように避けられないものなので諦めて悟るか覚悟を決めるしかない。俺はどちらかと問われたら圧倒的に前者である。
そんな訳で諦めて悟りながらギルドの前へとやって来ると、突如としてギルドの入り口にあるウエスタンドアが勢い良く開いて、ギルドの中からまさかのヴィクトリアが俺に向かって飛び込んで来ていた。
「ケンマァァアアアアアアアアアアア!!!」
「ヴィ、ヴィクトリア!?」
咄嗟にヴィクトリアを受け止める体勢を取るが勢いを殺せずに、そのまま後頭部を石床に打ち付ける。
「ウゴッ!?」
「嗚呼、ケンマ!ケンマケンマケンマケンマケンマケンマケンマケンマケンマケンマケンマケンマケンマケンマケンマ!!」
「
「私の大切なケンマ………良かった……本当に無事で………」
「
「嗚呼、貴方の温もりが感じられる。貴方が生きてる」
ヤバい、今のヴィクトリアは俺の声が届いていない。加えて、ヘスティア程でないがその豊満な胸部で俺の口と鼻が塞がれてしまい、身体と脳に酸素を供給できない。無理矢理にでも振りほどけばいいのだろうが、そうなるとヴィクトリアが怪我をすることになる。
なので、レフィーヤたちに助けを求めようと視線を向ければ…………何故か、レフィーヤは俺に冷たい視線を向けており、ヴェルフは羨ましそうに俺を見ており、残るベルはヘスティアとリリによってもみくちゃにされていた。
こ、このままで酸欠で死んでまう!緊急次第のため、最後の手段の地面をタップしながらドライグにヴィクトリアへ呼び掛けてもらうとするが────
(ど、ドライグ、助けて!? このままだと酸欠で死んでまう!?)
『……………………』
(ど、ドライグ?)
『…………………………………………』
(ドライグ……さん?)
『おにいたん、だぁれ?』
(お、おにいたん!?)
『僕、ドライグ。ドラゴンの子供なの』
(おいいいいい!?ま、まさか、これは…………!!)
『僕、この頃怖い夢をみるんだ。それは、とてもやわらかそうで、ぽよぽよしてるなにかなんだ』
完全に今のドライグは原作と似たように『おっぱい恐怖症』によって精神が幼児退行している。ドラゴンのカウンセラーがいないこの世界で、それはかなりマズイ!てか、そろそろマジで酸欠になりかけてる。
い、意識が……………………。
「か、神ヴィクトリア!それ以上はイシグロ氏が窒息してしまいます!?」
「嗚呼、ケンマ…………!」
窒息で三途の川まで行きそうになっている俺を助けてくれたのは、ギルドの中から慌てて出てきた担当アドバイザーのエイナさんだった。
背後からエイナさんに羽交い締めにされたヴィクトリアは、名残惜しそうに俺の名前を呼びながら手を伸ばすがそれに答えてやれるほど今の俺には余裕がなかった。
「ゲホッ!ケホッ!嗚呼、冗談抜きで死ぬかと思った…………俺も思わずドライグと同じ、おっぱい恐怖症になるところだった。てか、レフィーヤたちも見てないで助けてくれよ!?」
「いえ、お楽しみだったようなので………私にあんなこと言って、キスまでさせておいて、破廉恥な!」
「帰ってきて早々に女神様から熱い抱擁とは、羨まし過ぎるぞケンマ!」
「なら、代わりに三途の川一歩手前まで行ってみるか、ヴェルフ?ったく、女性の胸は凶器だなんてよく言ったもんだ………」
乱れた呼吸を整えながら死の淵から助けてくれたエイナさんに、感謝の言葉を述べる。
「エイナさん、助かりました。ありがとうございます」
「ケンマくんが必死に地面を叩いてからもしかしたらって思ったんだけど…………キミの助けになれて良かったよ」
「いや、割りとマジで助かりました」
女の………特に女神の胸部はモンスターよりも凶悪な物だと、俺は今さっき初めて認識した。
「それから…………ただいま、ヴィクトリア、エイナさん」
「ええ、お帰りなさいケンマ」
「うん、お帰りケンマくん」
オリ主たちの新本拠地候補
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第六区画 『竈火の館』の近く
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第七区画 元ヘスティア廃教会
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西地区 豊穣の女主人の近く
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北地区 適当に