臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか?   作:黒牙雷真

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第八十話

 

 

 

 

〈sideケンマ〉

 

 

 

 

「わぁ~!これはすご~い!」

 

「確かにこれは圧巻ね」

 

 

下界に降臨してから外に全く出ずにニート生活していたヘスティアはともかく、俺と同じくらいしかこの世界にやって来ていないヴィクトリアは『神月祭』の規模に驚愕していた。そう言う俺も街一つの規模でのお祭りに参加するのは『怪物祭』と合わせて二回目だ。

 

昼間、奥の手である『赤龍帝の鎧』まで使って『中層』で荒稼ぎしてきた俺たちの懐は駆け出しにしてはこれでもかというくらいに暖まっているため、目一杯お祭りを楽しむことができる。

 

初めての『神月祭』ということもあって、オラリオ産まれのリリにガイドを任せながら俺たちはお祭りで賑わうオラリオの夜の街を歩いて行く。

 

 

「ヴェルフ様を除いた皆様は、この『神月祭』は初めてですよね?」

 

「しんげつさい?」

 

「はい。神の月祭と書いて、『神月祭』と読み、神様たちが降臨される前から行われている、祝祭の日です」

 

 

下界に降りてきて初めて『神月祭』の名を聞いたのかヘスティアが聞き返すと、リリが分かりやすく答える。

 

そこへ更にヴェルフが朧気ながらも補足を加える。

 

 

「確か、月を神に見立てて、モンスターの魔の手から無事を祈る、だったか?」

 

「俺はアドバイザーのエイナさんからそう聞いているぞ」

 

「これも下界の文化ってやつだね」

 

「冒険者の集まるオラリオらしいですね」

 

 

リリとヴェルフの解説通り、街の出店には『月』をモチーフにした色々な物が売られている。特に三日月や満月などがワンポイントになっている覆面やマントなどがかなり売れているようで街を行き交う人々の多くが老若男女問わず身に付けている。なかには仮面舞踏会のような踊りをしている人々の集まりも見受けられる。

 

しばらく街を歩いているとヘスティアがベルの手を取って、炭火の香りと香辛料と調味料の合わさった食欲のそそる香り漂わせるイカ焼きの出店へと走り出した。

 

 

「ベルくん!イカ焼きだよ、イカ焼き!」

 

「わわっ、神様!ちょ、ちょっと引っ張らないでください!」

 

「う~~っ」

 

「そう唸るなよ、リリ。ヴィクトリアはどうする? 今日は奥の手を使って全力で稼いで来たから金の心配はいらないぞ」

 

「なら、お言葉に甘えて、わたしはあれが食べたいわ」

 

「了解」

 

 

ヘスティアはイカ焼きを豪快に頬張り、ヴィクトリアは焼きとうもろこしを行儀良く食べていく。自分たちの主神が笑顔で好きな食べ物を食べている姿を眺めているベルと俺は、頑張ってダンジョンで稼いだ甲斐があった思うのだった。

 

普段食べられないイカ焼きを楽しんでいるヘスティアに、リリは先ほど出し抜かれて出遅れたからなのか、とある質問をヘスティアにする。 

 

 

「ヘスティア様」

 

「んっ?」

 

「せっかくのお祭りなのに、ジャガ丸くんを売らなくてよろしいのですか?稼ぎ時なのでは?」

 

「どこかの泥棒猫くんがボクのベルくんを誘惑しているらしくてね!土下座して休みをもぎ取って来たのさ!」

 

「ムッ、誰が泥棒猫ですかー!ヘスティア様だって神様なのをいいことに、ベル様とあーんなことや、こーんなことしてるじゃないですかー!」

 

「なんだとー!」

 

「なんですーか!!」

 

 

毎回恒例のベルを巡っての女神と小人族の争いが始まったので、それに慣れている俺たちは自分たちは自分たちでお祭りを楽しむことに集中する。

 

 

「ヴェルフ、俺たちも何か食べようぜ」

 

「そうだな。何がいいか………」

 

「イカ焼き、焼きとうもろこし、焼きそば、お好み焼き擬き、今川焼き、フランクフルト、フライドポテト、唐揚げ串。色々とあるなぁ」

 

「じゃあ、無難にたこ焼きにするか」

 

「だな」

 

「たこ焼きが何のかは知らないけど二人がいいならわたしも構わないわ」

 

 

俺とヴェルフの食べる物がたこ焼きと決まると、ヘスティアとリリのケンカを止めることが出来なかったベルに助けを求められるが無視しながらたこ焼き屋を指で示す。

 

何故、親友であるベルの助けを無視するのには理由がある。数日前、ギルドの前でヴィクトリアの胸部武装に殺されかけ、レフィーヤから冷たい視線を向けられていた俺を助けてくれなかったからだ。

 

だからこそ、同じ苦労をお前も味わうがいい、心の友よ。大丈夫だ。俺たちは同じ苦労を知るもの同士、愚痴の捌け口くらいにはなってやるさ。

 

 

「「よし!たこ焼き食おうぜ!たこ焼き!」」

 

「ヴェルフ……ケンマ……」

 

 

俺たちが助けてくれないことに唖然とするベルが、そんなことは他所にとある男神の声が神月祭の賑わいの中で響き渡る。

 

 

「さあさあ、お立ち会い!遠き者は音に聞け、近きものは目にも見よ!」

 

「この声は………」

 

「ヘルメスの声だな」

 

 

ヘルメスの声に引かれて、お祭りを楽しんでいた人々は流れるように男神が叫ぶ中心へと集まり出す。それは俺たちも同じであった。

 

 

「そして腕に覚えがある冒険者ならば、名乗りを上げろ!さあ!この『槍』を引き抜く英雄は誰だぁ!?」

 

 

両手を大きく広げて、そう言い閉めるヘルメスの前には言葉通り、矛先が水晶で完全に覆われている一本の『槍』が鎮座している。

 

皆、ヘルメスの言葉と見た目からそれを『槍』だと誤認しているが俺は知っている。アレは『槍』ではなくて『矢』であることを。それも普通の『矢』ではなく『神殺しの矢』であることをだ。

 

そんなことを知らない一般市民や冒険者、都市外からの観光客は男神が取り仕切る催しを珍しがって今も尚ワラワラと客が集まり続けている。それはヘルメスを除いた神々も同じであった。

 

 

「なにをやってるんだ、ヘルメスは........?」

 

「さぁ? あのペテン師がやることなのだからどうせろくなことではないはずよ」

 

 

二人の女神たちは、壇上にいるヘルメスを呆れた顔で見るがそのことに気付いていない当のヘルメスは魔石製品のマイクのような物を使って未だに語り続ける。

 

 

「これは選ばれた者にしか抜けない伝説の『槍』!手にした者には、貞潔たる女神の祝福が約束されるだろう!更に!抜いた者は、豪華世界観光ツアーにご招待!既にギルドの許可済みだぁ!」

 

「「「「うおおおおおおお!!!」」」」

 

 

貞潔の女神の祝福とは別に、ヘルメスが懐から取り出して見せびらかす一枚の羊皮紙。それには観光ツアー内容と【ヘルメス・ファミリア】とギルドの正式な押印がされているため、面倒な手続き無しで都市の外へと観光に行けるとあれば冒険者───特に上級冒険者にとっては喉から手が出るほど欲しい代物だろう。

 

 

「伝説の『槍』?」

 

「まーたヘルメス様が怪しげな催しを……」

 

「今更だろう、あの優男は」

 

「でも面白そうじゃないか。やってみようぜ、ベルくん!」

 

「あ、はい!」

 

 

ヘスティアの提案にベルが了承すると直ぐ近くでヘスティアたちと同じことを言う聞き覚えのある声に俺たちは反応して、そちらに顔を向けると─────

 

 

「私たちもやってみましょう、アイズさん!」

 

「うん……いいよ」

 

 

そこに居たのはレフィーヤとアイズの二人だった。

 

俺たちが二人のことを認識すると視線に気付いたのか、レフィーヤとアイズが俺たちの方へと向くや否やヘスティアとレフィーヤが声を上げる。

 

 

「「あーーっっ!」」

 

「ヴァレン何某ー!」

 

「ヘスティア様……それにベル・クラネル!」

 

 

ヘスティアは恋敵であるアイズに、レフィーヤはライバルであるベルに指差しをするので俺たちもいることを知らせておくことにした。

 

 

「俺たちもいるぜ、レフィーヤ、アイズ」

 

「数日振りだな、【剣姫】に【千の妖精】」

 

「その節は大変お世話になりました。アイズ様、レフィーヤ様」

 

「こんばんは、ロキの子供たち」

 

 

各々がレフィーヤとアイズに挨拶をするが………。

 

 

「アイズさん!この勝負、負けられません!」

 

「え、うん………」

 

「ベルくん!これは【ファミリア】の威信を賭けた戦いだ!」

 

「いや、これ、そういうんじゃないと思うんですけど……」

 

 

ベルとの戦いに我を忘れているようで俺たちに気付く素振りすら見せず、アイズを連れて壇上へと向かっていく。それに対抗するようにヘスティアもアイズとの戦いに我を忘れているのか、苦笑いするベルを連れて壇上へと向かって行った。

 

残された俺たちはと言うと、レフィーヤとヘスティアの謎の展開に追い付けていないのかリリとヴェルフは唖然としたままで、俺とヴィクトリアはやれやれといった感じである。

 

その後、俺たちは少しばかり遅れてベルたち、四人の後を追うように大勢の観客が集まる壇上へと向かって行くのだった。

 

 

「うぉ~~~!」

 

「いけー!」

 

「………ちきしょー。抜けねぇー!」

 

 

ある程度、壇上の『槍』を抜こうとしている挑戦者の顔が見えるところまで壇上に近付くと、いつぞやの18階層でベルを甚振っていた『リヴィラの街』にいた冒険者が額に血管を浮かばせながら必死に『槍』を抜こうとしていた。

 

しかし、奴には『槍』を抜くことは叶わない。何故なら、『槍』に選ばし者は俺の目の前にいるからだ。そんなことを知らないリヴィラの冒険者が音を上げるのを見たヘルメスは、次の挑戦者も募集する。

 

 

「さぁー!次の挑戦者は誰だぁー!」

 

「ハイ、私です!」

 

 

ヘルメスの募集に早速手を挙げたのはレフィーヤだった。そうして奴の目に通り、壇上へと登って『槍』を抜くことを試みのだが────三十秒と持たずにヘタり込んでリタイア。

 

 

「ダメ~、ピクリとも動きません……」

 

「おーっと、レフィーヤちゃん、早い!早すぎるぞー!さぁ、次は………おっとー、これはー!」

 

 

レフィーヤの次に壇上へと進んだのは、金色の髪に金色の瞳を持つ【剣姫】ことアイズであった。

 

 

「【剣姫】こと、アイズ・ヴァレンシュタインの登場だぁ~!」

 

 

オラリオにいる人間でその名を知らない者はいない程に有名な【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインが壇上に現れたことで観客たちのボルテージは更に熱を増した。

 

 

「………」

 

 

アイズは『槍』の前へと進み、持ち手をしっかりと両手で握り締める。

 

 

「さぁー!力が入るアイズ・ヴァレンシュタイン!」

 

「頑張って下さーい、アイズさん!」

 

 

しかし、アイズは握り締めて直ぐに『槍』から手を離した。それも引き抜くような動作を全くせずにだ。その行動に隣にいるレフィーヤが困惑のあまり声を漏らす。

 

尊敬しているアイズが、まさかの引き抜く素振りすら見せないことをレフィーヤは理解が出来ない。それは他の観客たちも同じだった。

 

 

「え?」

 

「だめ……抜けない……」

 

「そんなぁ……LV.6 のアイズさんでも……」

 

 

恋敵であるアイズが『槍』を抜くことが出来ないことを分かるや否や、チャンスとばかりにヘスティアがベルに『槍』を抜くように促す。

 

 

「よし!ベルくん、ヴァレン何某を見返してやれ!」

 

「頑張ってください、ベル様!」

 

「まっ、楽しんでこい」

 

「呆気なく抜けて、尻餅を着かないように気を付けろよ」

 

 

各々、ベルに激励を言ってやると自分やアイズが抜けなかったことが悔しいのか、負け惜しみのような言葉をレフィーヤは口にしてしまう。

 

 

「れ、L V.2 の貴方が抜けるわけありません」

 

「なにを~!」

 

「む~~!」

 

「そもそも、アイズが駄目な時点でLV. がどうとかの話じゃなくなってるんだがな」

 

 

レフィーヤのベルへの対抗心はいささか行き過ぎな部分があるのでLV. ではあの『槍』を抜くことが出来ないことを教えても抜けなかったことが悔しいのか頬を膨らませたままでいる。

 

アイズがリタイアしたことで壇上には誰もいないため、楽々とベルは階段を使って壇上へと登ることが出来た。

 

 

「さあ、次の挑戦者は………おっ。次はキミかい?ベルくん」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 

ベルはヘルメスにお辞儀をしてから『槍』の前へと立つ。

 

 

「さあ、【リトル・ルーキー】の挑戦だぁ~!」

 

「頑張れー、ベルくん!」

 

「ファイトです、ベル様!」

 

「気張れよー!」

 

 

ヘスティアたちが応援する中、当の本人は真剣な眼差しで『槍』を握り締めて、力一杯に引き抜く。

 

 

「ぐっ!んー!!ふんんんんッッ…………だはぁ、駄目みたい」

 

 

しかし、アイズたちと同様に『槍』が抜ける気配が見えず、握力に限界が訪れたベルは握る手を緩めて、苦笑いを浮かべながら後頭部を掻いて壇上から降りた。

 

そのことに俺は思わず、声が漏れてしまう。

 

 

「は? 抜けない? そんなバカな……!?」

 

 

ベルがあの『槍』を抜かなければ『オリオンの矢』のストーリーが始まらない。むしろ、世界滅亡のタイムリミットが迫るばかりだ。

 

目の前で起きてる現実に一人だけ動揺していると、俺の異変に気付いたヴィクトリアが心配してくれる。

 

 

「大丈夫、ケンマ?」

 

「本っっっ当に残念ではあるけど、ベルくんがあの『槍』を抜けなかったことがそんなに信じられなかったのかい?」

 

「変なケンマ様ですね」

 

「ベルが駄目なら今度はケンマがやってみろよ。ケンマは、()()()()に選ばれてる訳だしよ」

 

「そうですね。()()()()の使い手であるケンマ様ならば、もしかしたら………」

 

 

ヴェルフとリリが言っている()()()()とは伝説の聖剣である《デュランダル》と《真のエクスカリバー》のことを意味しているのだろう。二人には聖剣のことを打ち明けているのでそう言ってくるのも仕方ない。

 

けれど、ヴィクトリアを除いたそのことを知らないヘスティア、レフィーヤ、アイズの三人が首を傾げる。

 

 

「サポートくん、鍛冶師くん、例のアレって何のことだい?」

 

「とても気になります!」

 

「うん、とても気になる」

 

 

三人の問いかけにヴェルフとリリはどう答えたものかと俺に確認を取るような視線を向けてくるので首を左右に振って「教えるな」と伝える。

 

俺の答えを理解した二人は「だよな……」や「ですよね……」のような表情してからバツが悪そうにヘスティアたちの質問に答える。

 

 

「言い出しっぺで悪いが、ケンマから口止めをされてまして、これ以上のことは………」

 

「申し訳ありません」

 

「なら、ヴィクト─「教えないわよ」……最後まで言わせてくれよ」

 

 

最後の頼みであるヴィクトリアに尋ねようとするが即答されるヘスティアを見てから俺は物は試しだと思って壇上へと足を進める。その途中でベルとすれ違うので片手を挙げて労いのハイタッチをする。

 

 

「お疲れ、ベル」

 

「うん。ケンマも頑張ってね。期待してるよ」

 

「そんなに期待されても俺としては困るだけだがな」

 

 

気だるげに答えながら階段を登り、ヘルメスと視線を合わせる。

 

 

「おや? ベルくんの次はキミかい、ケンマくん」

 

「ああ。それと一つ問いたい。その『槍』を抜くに当たって何をしても有りか?」

 

「水晶を壊して抜くなどの破壊行為でなければ問題はないよ」

 

「そうか。分かった」

 

 

それだけ聞ければ問題はない。最悪中の最悪、この場いる観客たちの前で『赤龍帝の鎧』を纏って、更には【プロモーション】の『魔法』で『戦車』へと昇格して、力技で引き抜けばいいだけのことだ。

 

普通に抜けなかったことの事を考えてから俺は『槍』の前と立つ。そして、念のためにとある言葉を心の中で『槍』に………いや『矢』へと語りかける。

 

 

(目覚めろ、オリオン!)

 

 

その言葉が鍵となったのか、或いは聖剣に選ばれたからなのか、将又俺の左腕に宿る神滅具に呼応したのかは分からないが俺の脳内に聞き覚えのある女性の声が響き渡る。

 

 

 

───見つけた!───

 

 

 

 

 

オリ主たちの新本拠地候補

  • 第六区画 『竈火の館』の近く
  • 第七区画 元ヘスティア廃教会
  • 西地区 豊穣の女主人の近く
  • 北地区 適当に
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