臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか?   作:黒牙雷真

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第八十一話

 

 

 

 

〈sideケンマ〉

 

 

 

「は………!?」

 

 

『槍』を握ってから心の中で「目覚めろ、オリオン!」と唱えた刹那、聞き覚えのある女性の声が脳内に響き渡ると『槍』の持ち手に刻まれていた神聖文字が白く浮き上がり、そのまま矛先を覆っていた水晶を内側から砕いた。

 

俺は前世の記憶から『槍』を引き抜くのは、この世界の主人公であるベルだと思っていた。しかし、実際に抜いたのはこの世界の生まれではない、イレギュラーの俺だった。つまり、これでこの世界の『オリオンの矢』は劇場版通りではなくてIFとして、何が起こるか分からない展開になってしまったということだ。

 

それが転生者にとってどれだけの恐怖を与えるのかを理解する前に、観客から盛大な拍手が送られてきた。

 

 

「やりました!やりましたよ、アイズさん!ケンマが『槍』を抜きましたよ!」

 

「うん……すごいね」

 

「やっぱり、ケンマはすごいや!」

 

「自分でやらせておいてなんだが、まさか本当に抜くとはな」

 

「やはり、ケンマ様は選ればし者ですね」

 

 

俺が『槍』を抜いたことでレフィーヤ、アイズ、ベル、ヴェルフ、リリが自分のことのように喜んでくれている最中、俺まだ困惑が頭を占めていた。

 

一人で困惑しているとヘルメスが今回の催しのスポンサーを呼び出し始めた。

 

 

「おめでとう、ケンマくん。『槍』が抜けて驚いているところ悪いけど、そろそろ今回の旅のスポンサーを呼ばせてもらよう」

 

「えっ?あ、ああ………」

 

「今回の旅のスポンサーは、彼女だ!」

 

 

ヘルメスが向いた先には、蒼い髪に翡翠色の瞳をした一人の女神がいた。そう、彼女こそが劇場版『オリオンの矢』で重要な役割を持つ女神アルテミスである。

 

そんなアルテミスを見て、三大処女に連ねる友を久しぶりに目にした同じ処女神のヘスティアは、旧友との再開にとても嬉しそうな声音を上げる。

 

 

「アルテミス!アルテミスじゃないか!」

 

「お知り合いですか?」

 

「天界で交流していた神友だよ!ボクのマブダチさ!」

 

 

ベルの質問にそう答えるとヘスティアはアルテミスの下へ、逆にアルテミスはヘスティアの下へとお互いに照らし合わせたように駆け出して、まるで感動の再会を現実で再現するようなシチュエーションが繰り広げられるかとそう思っていたのだが──

 

 

「アルテミスーー」

 

 

───当のアルテミスはヘスティアを抱き締めることなく、そのまま壇上にいる俺の下へと駆け続けていた。

 

 

「へっ!?」

 

「見つけた、私の『オリオン』!」

 

「ッッ!!」

 

 

そして、壇上近くまでやって来たアルテミスは地面を強く蹴り、そのまま両手を広げて俺へと飛び付いた来た。予め、この展開は知っていたのが幸いして、アルテミスに抱き付かれても後ろへ倒れ込むことがないように【魔力操作】で某ドタバタ忍者のように足裏と壇上を接着剤で張り付けたように魔力の塊で足裏と壇上を繋ぎ止めることで倒れることを回避した。

 

しかし、神友が抱き締めてくれる物だと思い込んでいたヘスティアのダメージは図り知れず。ベルたちも親友と聞いていたのに、まさかの対応に唖然としながらアルテミスが口にした聞きなれない言葉に疑問を浮かべていた。

 

 

「オリ……」

 

「オン?」

 

「クック………」

 

「ん~~?」

 

 

アルテミスに抱き締められて、柔らかい二つの母性の果実を押し付けられている俺だが、そんなことを楽しむよりも天を見上げながらこの言葉が先に出た。

 

 

「oh Jesus………」

 

「なっなっなっ………なななななななな………なんじゃそりゃーーっっ!」

 

「ななななな………なんですかそれーーっっ!」

 

 

ヘスティアは分かるが、何故かレフィーヤの悲鳴まで聞こえたのは俺の勘違いだと思いたい。

 

 

 

 

○●○

 

 

 

 

「さっきのは、どーいうつもりだ!アルテミス!」

 

「そうですよ、どういうつもりですか!」

 

「そうね。一体どういうつもりかしら」

 

 

壇上で『槍』を引き抜いて、アルテミスに抱き付かれたあと、俺たちは何故か【ヘスティア・ファミリア】の本拠地である廃教会へと訪れている。

 

そして、廃教会へと訪れるや否やアルテミスをヘスティア、レフィーヤ、ヴィクトリアの三人が攻め立てていた。因みに、俺はというと座れそうな椅子に座って頭を抱えている。

 

 

「………すまない。つい、嬉しくて」

 

「嬉しいってどういうことですか!?」

 

「でも、アルテミス。貴女とケンマは初対面よねぇ?けれど、さっきの貴女の行動は明らかに長年離れ離れになっていた想い人と再会したような行動だったわ」

 

 

レフィーヤは納得がいかないような表情のまま、ヴィクトリアがそうアルテミスに訊ねるが彼女は答えない。嫌、むしろ答えられないと言った方が正解だろう。

 

ふと視線を感じたので顔を上げると、そこにはアルテミスが救いを求めるような視線を俺へと向けていた。アルテミスの視線の先が俺へと向いていることに気付いたヘスティアは、俺とアルテミスを交互に見比べていた。

 

 

「あ、あははは………はぁ」

 

「…………」

 

「んっ? えっ?」

 

 

そして、最終的にはヘルメスへと助けを求めるヘスティアであった。

 

 

「ヘルメスー!」

 

「~~♪」

 

 

助けを求められたヘルメスは呑気に鼻歌を歌いながら羽根帽子の羽根の部分を弄っていた。

 

 

「ん?」

 

「あれがアルテミスだって!?おかしいだろう!」

 

「いや~、アルテミスも下界の生活に染まっちゃったんじゃないかな?」

 

 

ヘスティアの問いにそう答えるヘルメス。けれど、その答えに納得がいかないのかヘスティアは絶叫の叫びを上げる。

 

そんなヘスティアの絶叫を聞き流しながら神々以外にアルテミスのことを知らない者たちの代表として、リリがアルテミスがどんな神物だったのかを訪ねる。

 

 

「そんなバカな!」

 

「元々どんな方だったんですか? アルテミス様って………」

 

「アルテミスは天界の処女神の一柱なんだ」

 

 

まさかの答えに皆、言葉が出なかった。

 

 

「貞節を司り、純潔を尊ぶ。言っちゃえば不純異性交遊撲滅委員長。大の恋愛アンチだ……」

 

「「「……恋愛アンチ……」」」

 

「それが、どうしてこうなったぁぁぁぁ!」

 

 

最終的に頭を抱えながら昔の神友が変わってしまったことに嘆くヘスティアを放置しながら、リリは次の質問を訪ねる。

 

 

「でも、なんで恋愛アンチの神様がスポンサーなんかに?」

 

「実は、オラリオの外にモンスターが現れた」

 

「オラリオの外に?」

 

「ああ。【アルテミス・ファミリア】が発見したんだが、ちょっと厄介な相手でね。それでオラリオに助けを求めた………」

 

「それなら態々、あんな催しをしなくてもギルドに冒険者依頼を出せばよかったんじゃないですか。あっ、もしかして、ギルドが上級冒険者をオラリオから出させたくない傾向があるのを知ってたからそれを回避するために、態々あの催しを?」

 

「さすがはレフィーヤちゃん!聡明なハイエルフのリヴェリアちゃんの愛弟子なだけはある!」

 

「つまり、観光ツアーとは名ばかりで………」

 

「アルテミス様がご依頼された、モンスター討伐の冒険者依頼、という訳ですか?」

 

「その通り!するどい!」

 

ヘルメスの説明をからレフィーヤが自分の考察を話すと、あっさりとヘルメスは白状するとそれを聞いたヴェルフとリリはジト目で詐欺師(ヘルメス)を睨む。

 

 

「話が上手すぎると思ったら………」

 

「詐欺です、ヘルメス様」

 

「まあまあ」

 

 

詐欺紛いなことをしているヘルメスを二人が咎める傍ら、アルテミスは『槍』を持って俺の下へと歩み寄ってきた。

 

 

「…………」

 

「私はずっと貴方を探していたんだ、『オリオン』」

 

「悪いが俺は『オリオン』じゃない。俺は石黒ケンマ、【ヴィクトリア・ファミリア】の冒険者だ」

 

「いいや、貴方はオリオン。私の『希望』」

 

「希望か……。どうして、俺なんだ? 単純に強い奴ならアイズを筆頭に【ロキ・ファミリア】から選べばいいだろう。それじゃあ、駄目なのか?」

 

「この槍を持つ資格は強さではない。汚れを知らない純潔の魂」

 

 

改めて、アルテミスから『槍』を持つ資格を聞いて、俺は疑問が浮かび上がる。汚れを知らない純潔の魂、これはベルであれば『スキル』にまで反映させたアイズへの一途な想いが当て嵌まるだろう。

 

しかし、俺の場合はなんだ? 俺はベルほどお人好しな性格でもない。『ハイスクールD×D』を愛読していたので、それなりエッチィ妄想だってする。それなのに、汚れを知らない純潔の魂とは可笑しいと思わざるおえない。

 

そんな自分のどこが汚れを知らない純潔の魂の持ち主なのかと、自問自答を繰り返していると鍛冶師であるヴェルフがアルテミスの持つ『槍』についてヘルメスに訪ねるが自分の主神の名前まで持ち出されて誤魔化されてしまう。

 

 

「ヘルメス様、この槍って………」

 

「言っただろ、伝説の『槍』だって!ヘファイストスもお墨付きの武器だぜ!キミは槍に選ばれたんだよ、ケンマくん!」

 

「………」

 

 

ヘルメスのその言葉に、俺はどう反応していいのか困りながら沈黙しているとアルテミスの右手が俺の頬へと添えられた。

 

そのことにヴィクトリアとレフィーヤが驚く。

 

 

「えっ!?」

 

「ちょっ!?」

 

「その()()の魂を携え、私と一緒に来てほしい、オリオン………」

 

「赤じゃなくて、真紅の魂……」

 

 

アルテミスは、俺の魂が見えるから真紅と言ったのかはわからない。けれど、普通なら俺の魂はドライグと密接に繋がっているため、赤い魂と例えられるはずだと個人的には思う。

 

けれど、アルテミスは赤ではなく真紅と述べた。この違いに俺は引っ掛かりを感じてならなかった。

 

 

「ケンマくん、ボクから頼むよ。親友が助けを求めているならボクは助けてあげたい。どうか、一緒に来てくれないか?」

 

「来てくれないか、って………ヘスティア、貴女、もしかしてケンマたちとアルテミスの子供たちがいる場所に行くつもりなの?」

 

「ああ、そうさ。せっかく、アルテミスがボクたちを頼って来てくれたんだ。行かない訳がないだろう。もちろん、ベルくんも力を貸してくれるだろう?」

 

「はい。神様のお願いなら僕は全力で協力させてもらいます。それに神様のご友人や親友のケンマのことを放っては置けませんから!」

 

「さすがはベルくん!」

 

「なら、ケンマとベルが行くなら、二人の専属鍛冶師である俺が行かない訳には行かないよな!」

 

「でしたらリリもです。基本的にはベル様のサポーターですが、一応ケンマ様のサポーターでもありますから、リリも一緒に行きます!勿論、報酬はたんまりと弾んでもらいますけど」

 

「アイズさん、私たちはどうしましょうか?」

 

「んー、とりあえず、ロキに相談かな。もしも許可してくれるなら装備や道具を揃えないと」

 

「それもそうですね」

 

 

何故か知らないが、あれよあれよトントン拍子で俺がアルテミスと共に『エルソスの遺跡』に向かう流れになって来ている。ここでやっぱり行きません、なんて選択肢はなく。某RPGのゲームのように「はい」以外の選択肢を選べない状況に俺は陥ってしまった。

 

まあ、どちらにせよ。俺が『エルソスの遺跡』に向かわなければ、この世界は破滅の一途を辿るのが決まっているので向かわざるをえないだろう。

 

 

「はぁ、わかったよ!行くよ、行きゃあいいんだろう!」

 

 

最早、自棄糞気味ではあるが覚悟を決めて、『エルソスの遺跡』に向かうことを宣言する。すると、アルテミスは嬉しそうな笑みを浮かべてから俺たちの顔を一瞥する。

 

 

「ありがとう、優しい子供たち。貴方たちは私の眷属ではない。けれど、これからは旅の仲間。どうか、契りを結んで欲しい」

 

 

そう言ってアルテミスは右手の甲を差し出してくる。

 

アルテミスの言っている契りとは【恩恵】を背中に刻むような物ではなく、仮の契りとしてアルテミスの手の甲にキスをすることを示している。

 

 

「悪いな、ヴィクトリア」

 

「気にしなくていいわ。ただの儀式みたいな物だもの」

 

 

念のため、自分の主神様に断りを入れてから俺はアルテミスの右手の甲へと唇を付ける。続いて、ベル、ヴェルフ、リリ、アイズ、レフィーヤの順でアルテミスの右手に唇を落としていく。

 

その際、リリはベルと間接キスができると期待していたようだがモタモタしているうちにヴェルフに勘違いされて、ベルとの間接キスのチャンスを奪われてしまう。

 

対して、アイズの後にアルテミスの右手に唇を落としたレフィーヤは憧れのアイズと間接キスがまた出来たと表情がだらしなく緩んでいる。

 

 

「じゃあ、話がまとまったところで出発──「二時間後だ、ヘルメス」……どうしてだい、ケンマくん。今回は急を要する冒険者依頼なんだけど」

 

「レフィーヤとアイズの場合主神であるロキに断りを入れておく必要がある。もしも、何の断りもなく二人を連れていけば、間違いなく【ロキ・ファミリア】と『戦争遊戯』だぞ。それでもいいのか?」

 

「うぐっ!? そ、それは勘弁したいな…………」

 

「なら、二時間後だ。俺も俺で少し準備をしたいからな。ヴィクトリア、一緒に来てくれ」

 

「わかったわ」

 

「ヘルメスは神アルテミスを頼む」

 

「あっ、オリオン!」

 

 

それだけ言い残して、俺はヴィクトリアを連れてとある場所へと向かった。

オリ主たちの新本拠地候補

  • 第六区画 『竈火の館』の近く
  • 第七区画 元ヘスティア廃教会
  • 西地区 豊穣の女主人の近く
  • 北地区 適当に
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