臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか?   作:黒牙雷真

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第八十二話

 

 

 

〈sideケンマ〉

 

 

 

 

「これで終了です。お疲れ様でした」

 

「ありがとう、アミッドさん。急な頼みを聞いてもらって」

 

 

【ヘスティア・ファミリア】のホームから出てきた俺たちがやって来たのは、オラリオでも有数の医療に特化している派閥の【ディアンケヒト・ファミリア】の治療院である。

 

別に【ミアハ・ファミリア】でも問題はないんだが、衛生面と設備からして此方の方がいいと俺は踏んで【ディアンケヒト・ファミリア】に赴いた。

 

 

「いえ、これくらいならば。しかし、態々【神血】を採血してどうなさるおつもりで?」

 

「少しばかり冒険者依頼でオラリオから離れるので、その間は、同盟を結んでいる女神に俺の【ステイタス】をヴィクトリアの代わりに更新して貰おうと思ってな」

 

「なっ!? イシグロさん、貴方は自分の【ステイタス】を他派閥の主神に見せることがどういうことなのか理解しているのですか!!」

 

「勿論、理解してます」

 

「でしたら……!」

 

「でも、今回の冒険者依頼はそんなことを言っていられるほど生易しい物じゃないんですよ。最悪の場合、大勢の死者が出る」

 

「それはどういうことですか!? LV.2 に上がったばかりの貴方に何故そのような冒険者依頼が舞い込んで来るんですか!!」

 

「知りませんよ。それは俺も知りたいくらいだ、ったくよ………」

 

 

本来であれば、『オリオンの矢』を引き抜くのはベルだったはず。なのに何の因果かそれが狂いに狂ってしまい俺が引き抜いてしまった。ならば、やれるだけのことをやるしかないだろう。この世界を滅ぼさないためにも。

 

そのために、こうして【ディアンケヒト・ファミリア】の治療院で俺よりも年上だと判明したアミッドさんにヴィクトリアから【神血】を採血して貰っている訳なのだ。旅の途中での【ステイタス】の更新でどこまで悪足掻きが通用するかは未知数、もしかしたら砂漠で一粒のビーズを探すくらいの確率かもしれないがやらないよりもやっておいた方がいいだろう。

 

他には、ドライグの話していた俺の身体をドラゴンへと変えるやつも旅の途中でやっておくべきだろう。

 

 

「どうやら、訳ありの冒険者依頼のようですね」

 

「ええ、間違いなく厄介な冒険者依頼よ。冒険者依頼を持ってきたヘルメス自身も厄介なモンスターの討伐だと話していたし」

 

「神ヘルメスが?」

 

 

ヴィクトリアから冒険者依頼を持ってきた主がヘルメスだと聞いたアミッドさんは、目を見開いて驚いている。

 

 

「その反応からして、何か冒険者依頼について知っているのかしら?」

 

「いえ、冒険者依頼については全く。ですが、先月頃に【万能者】が大量の回復薬や高等回復薬などの道具を購入されましたので、それで少し引っ掛かりを感じました」

 

「それは確かに少し引っ掛かるわね」

 

 

採血が終わり袖を戻したヴィクトリアは手に顎を乗せて考えを巡らせ始める。その間に採血の支払いを済ませようとしたところでちょっとした考えが浮上した。

 

それは俺の身体に流れる二天龍としてのドラゴンの血をアミッドさんの持つ『神秘』の発展アビリティで何か作り出すことは出来ないかという考えである。けれど、これには当然ハイリスクが伴うのと金の亡者であるディアンケヒトのことを踏まえると、やはり貸しがあるヘルメスを使ってアスフィさんに頼む方がいいだろう。

 

一人、心内でそう決めた矢先、アミッドさんが採血に使った器具を別室に置いて戻ってくると彼女の手には二本の青いビンが乗っていた。

 

 

「イシグロさん、僭越ながらこれを」

 

「アミッドさん、これは?」

 

「万能薬です」

 

「は?え?えええええ!?」 

 

 

いきなり差し出された物が『フェニックスの涙』と引けを取らない生きてさえいれば、どんな怪我ですら治せる道具である万能薬だと分かって、思わず声を上げてしまった。

 

 

「そんな高級な物貰えませんよ!」

 

「いえ、受け取ってください。これは単なる私がイシグロさんに無事に生き延びてもらうためのエゴを押し付けているだけですから」

 

 

そう言って、諦めてくれる気配を見せないアミッドさんに万能薬と釣り合えるような物で交換出来ないかとあれこれ考えた末に、新しく発現した『スキル』と俺の身体に流れるドラゴンの血を考慮すれば多少は見合う対価になるのではないかと結論が至った。

 

あとは、先ほど【ステイタス】の話をしたばかりなので、主神であるヴィクトリアに許可を取ることでアミッドさんからのお叱りを受けないようにすればいいだけである。

 

 

「………………………ヴィクトリア、例の新しい『スキル』のことをアミッドさんに話してもいいか?」

 

「何故、その結論に至ったのか説明してもらえるかしら」

 

「アミッドさん、すみませんけど三分だけ時間ください」

 

「分かりました」

 

 

俺の願いを聞いて、察してくれたのかアミッドさんは部屋の外へと出ていった。

 

 

「それじゃあ、まず何故あの『スキル』をアミッドさんに打ち明ける結論に至ったのかだけど、命より重いものはないからだ」

 

「…………」

 

「それに二本も万能薬をただの貰うのは、さすがに気が引けるからな」

 

「はぁ、わかったわ。貴方の好きになさい、ケンマ」

 

「ありがとう、ヴィクトリア」

 

 

ヴィクトリアから許可が降りたので部屋の外で待っているアミッドさんを呼ぶ。彼女を部屋の中に呼んだあと、いきなり俺の血を対価として売り出すのではなく、モンスターの血を使った道具があるかを聞き出す。

 

 

「アミッドさん、ちょっと聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」

 

「ええ、構いませんよ」

 

「モンスターの体液を使った道具って、あります?」

 

「もちろん、ありますよ。それが何か?」

 

 

よし!これで俺の血を売り出しても問題はなくなった。

 

 

「もしも、俺の身体にあの黒竜に匹敵するかもしれない強力な龍の血が流れているとしたら、それは万能薬の対価になりますか?」

 

「は?」

 

 

俺の提案を聞いたアミッドさんは、「なにをバカなことを言っているんだ?」とばかりに目を点にした。

 

 

「それと新しく発現した『スキル』で、とある条件下で『耐呪』という発展アビリティが一時的に発現するんですが、これも使えたりします?」

 

「…………」

 

「あの、アミッドさん?」

 

 

返事がない、ただの驚き固まったアミッドさんのようだ。

 

なんて某RPGのようなナレーションが脳内が浮かび上がったあと、硬直から回復したアミッドさんはあまりのことに俺の言葉を信じられず、神であるヴィクトリアに嘘か本当か訪ねると本当であることを証明された。

 

俺の身体に龍の血が流れていることと、とある条件下でのみ『耐呪』の発展アビリティが一時的に発現することが本当であることが証明されるとアミッドさんは素早く別室から新品の採血道具を持って戻ってきた。

 

 

「どうぞ、イシグロさん。いつでも『耐呪』という貴重な発展アビリティを発現させて貰って構いません」

 

「あっ、はい」

 

 

若干ではあるが瞳を輝かせるアミッドさんに気圧されて、促されるままに戦意を高めて『勝利の祝福』を発動させて、一時的に『耐呪』を発現させる。

 

その後、限界量まで採血されてからアミッドさんが試しにと過去に入手した『呪詛』が込められている過去の患者の変色している血液に俺の血を足らすとその血液をから紫色の煙が上がったことに俺たちは驚きを隠せなかった。

 

 

「見つけた………やっと見つけました!」

 

「まさか、マジで効果があったなんて………」

 

「さすがは、わたしのケンマね」

 

 

【ステイタス】に刻まれているとはいえ、聞いたことも見たこともない『スキル』がこうも目に見えて効果を発揮していることに驚いていると、煙を上げていた変色していた血液は『耐呪』によって解呪とまでは行かなくとも『呪詛』の成分が半分くらいにまで衰退していることが確認できた。

 

まだ原液のままの俺の血なので、これをアミッドさんの『神秘』で道具へと昇華させれば対呪詛用の道具が作れる光明にはなったようで、アミッドさんはとても喜んでくれた。

 

 

「もしも、うちで道具をお求めになさる際、お手持ちが足らなかった時はイシグロさんの血液を提供していただければ、足りない金額はなかったことにしてでもお売りしますので、どうぞご贔屓に」

 

「あ、あははは………その時はお願いするかもしれません」

 

 

これには苦笑いするしかなかった。

 

 

 

 

○●○

 

 

 

 

【ディアンケヒト・ファミリア】の治療院を後にしたあと、次に訪れたのは俺の鍛錬先であり、ヴィクトリアのバイト先である『豊饒の女主人』である。

 

そして、今は『豊饒の女主人』の中庭で空になった小さなワイン樽に腰をかけるミアさんに交渉中である。

 

 

「女神からのモンスター討伐の冒険者依頼で、しばらく都市外に出るだあ?」

 

「は、はい。なので、数日は早朝鍛錬をお休みしたいなぁ~と…………」

 

 

アルテミスの冒険者依頼で都市外へと出るため、早朝鍛錬と仕込み作業の手伝いが出来ないことをミアさんに伝えると、明らかに機嫌悪く眉が歪む。

 

 

「別にお前さんはうちの従業員でもなんでもないけど、正直お前さんにまで抜けられると此方としても困るんだよ」

 

「俺がいない間もヴィクトリアは置いて行きますから人数は、そこまで問題ないんじゃ…………」

 

「人数の問題じゃなくて効率の話しさね。ケンマがうちで鍛錬するようになってから朝の仕込みが何倍も楽になった。それこそ、厨房の連中が料理を作ることだけに集中できるほどにね」

 

「あ、あははは………」

 

 

効率が良くなったのは『魔力』の【ステイタス】を上げるために【魔力操作】で行っている【武具破壊】の応用による野菜の皮剥きだろう。確かに普通に包丁で皮剥きをするよりも、【武具破壊】で一個辺り約一秒そこらで野菜の皮が勝手に剥ける方が楽チンで効率的なのは明白である。

 

けれど、従業員でもない俺を必要としてくれるのは嬉しいことに変わりはない。無事に『アンタレス』を討伐して『エルソスの遺跡』から帰還出来たらヘルメスの金で盛大に飲み食いさせて貰おう。

 

 

「ま、受けちまったもんは仕方ないね。もしも、冒険者依頼先でリューにあったら、帰ってきたら馬車馬のように働かせるから覚悟するように伝えておくれ。ヘルメスには、次、何の断りもなくうちの娘をこき使ったら送還してやると脅しておきな」

 

「ば、バレてる…………」

 

 

俺は「女神からのモンスター討伐の冒険者依頼」としか言っていないの何故か冒険者依頼を持って来たのはヘルメスであり、また今回の冒険者依頼にはリューさんも関わりがあることがミアさんには諸バレしていた。さすがに俺たちもこのことには驚きを隠せずに冷や汗が頬に垂れる。

 

因みに、脳内では「ヘルメス、ザマァ!!」と「リューさん、御愁傷様です」の二つの言葉が浮かび上がっていたはここだけの話。

 

 

「バレてるも何も、お客連中があれだけ騒いでれば此方の方に嫌でも耳に入るよ。それに態々ヘルメスが主催した催しみたいじゃないか。何かあるに決まってる」

 

「最早、隠す意味………」

 

「それで、いつ出発するんだい?」

 

「あと一時間ちょっとで出発する予定です」

 

「そりゃあ、えらい急だね。ちょっと待ってな。ヴィクトリア、手伝っておくれ」

 

「分かったわ」

 

「それじゃあ、俺はその間に買っておきたい物があるのでちょっと買ってきます」

 

 

店の中へと消えて行くミアさんとヴィクトリアに一言断りを入れてから俺は祭りで使うはずだった金でとある物たちを買いに夜の街を駆ける。

 

買い物を済ませて、『豊饒の女主人』の中庭へと戻ってくるとそこには少し大きめなバスケットを持ったヴィクトリアだけが待っていた。

 

 

「あれ? ヴィクトリアだけか?」

 

「ええ、ミアは仕事に戻ったわ。それとこれはミアとわたしからのお弁当。皆の分もあるから独り占めしては駄目よ」

 

「えっ、態々悪いな」

 

 

ミアさんとヴィクトリアが一度店の中へ消えたのは、このバスケットに入っている弁当を作るためだったようだ。それも皆の分もあるとなるとそれなりに手間暇がかかったはず。

 

 

「あとで皆で食べるよ。ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

 

バスケットを受け取って、そろそろ集合時間が迫っているのでヴィクトリアとはここで別れる。けれど、別れる前にどうしても聞きたいことがあった。

 

それは───────

 

 

「なぁ、ヴィクトリア」

 

「なにかしら?」

 

「もしも、もしもの話だけさ…………俺がもしも『神殺し』をしたら、ヴィクトリアはどう思う」

 

 

今、俺が受けている冒険者依頼はモンスター討伐の依頼であると共に『神殺し』の意味もある。それが劇場版『オリオンの矢』のストーリーだ。

 

本来であれば、ベルが女神であるアルテミスに止めを刺すのだが、何の因果がこの世界線では俺がアルテミスを殺す役割を担うことになってしまった。だからこそ、同じ女神であるヴィクトリアに問いたかった。

 

この世界で最も禁忌とされる『神殺し』を己の眷属が犯してしまった時、どのように思うのか。生まれた場所は違えど、異世界の神滅具の一つをその身体に宿す輩が何を今更と言われるかもしれないが、この二ヶ月で俺はヴィクトリアに対してかなりの信頼を置いている。

 

故に、信頼している者から拒絶されるのは、滅茶苦茶心に来るので今のうちに出来る限りの心構えをしたい。臆病者だからこその予防法とでも言えばいいのだろうか。

 

 

「…………そうね。もしも、それが私利私欲のために成したのならば、わたしは貴方のことを心の底から軽蔑するわ」

 

「ッッ!」

 

「でも、それが誰かのために、誰かの涙を止めるために、それしか最良の選択肢がなくて、どうしようもなくその手に剣を持ち、神に突き立てたならば。わたしは、その罪と共に貴方のことを受け止めてあげる、抱き締めてあげる、慰めてあげる。だって、わたしは貴方の神様だもの」

 

「は、ハハッ、ハハハッ!嗚呼、やっぱり俺の神様が貴女で良かった、ヴィクトリア。少しだけスッキリしたよ。ありがとう」

 

「あら、そう? なら、良かったわ」

 

「それじゃあ、行ってくるよ」

 

「ええ、気を付けて行ってらっしゃい」

 

 

まだ心の迷いが完全に晴れた訳ではない。それでも、ちょっとだけ楽になったのは事実だ。例え、物語通りにアルテミスを殺してもヴィクトリアは受け止めて、抱き締めてくれると言ってくれた。

 

俺の居場所は、消えないのだから。

オリ主たちの新本拠地候補

  • 第六区画 『竈火の館』の近く
  • 第七区画 元ヘスティア廃教会
  • 西地区 豊穣の女主人の近く
  • 北地区 適当に
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