臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか?   作:黒牙雷真

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第八十三話

 

 

 

 

 

〈sideケンマ〉 

 

 

 

 

「どうだい、旅のスペシャリスト、このヘルメス監修のオーダーメイドの数々は!素材は厳選!軽量性、伸縮性に富んでいるのはもちろん!生地にはレアメタルの欠片をふんだんに織り込み……!耐久性は従来の三十パーセントアップ!戦闘衣でありながら、鎧にも負けない防御を秘め……!そのしなやかさは装着者の動きを妨げることはなぁーい!これほどの逸品を数時間で揃えられるのは、天界広しといえ………このヘルメス以外には……」

 

 

長たらしくヘルメスが今回の冒険者依頼のために用意した特注品の防具についての説明から始まったが、二時間という短い準備期間を終えたレフィーヤとアイズを除いた俺たちは、何故か外壁の上に集合している。

 

その集合理由を俺は知っているのだが、集合時間を過ぎてもレフィーヤとアイズが何の連絡も無しに来ないのは少しばかり不安が残る。もしかしたら都市外に出ることをフィンさんかリヴェリアさん辺りに止められて、更にお説教を受けているのではという思うと不安だ。

 

 

「しっかし、ヘルメスが用意した俺の装備は……あれだよな……『哀れなAKUMAに魂の救済を』のアニメに出てくる教団服だよな、これ……色も黒だし」

 

 

俺が身に纏っている戦闘衣は、某エクソシストのアニメに出てくるキャラクターたちが身に纏っている物と見た目はまんま同じで、尚且つその中でも主人公が身に纏う教団服のVer.II の方なのである。

 

もしかして、俺以外にも転生者が居て、アニメやゲームのコスプレ衣装を装備として製作しているのだとしたら、正直ヴェルフの作る防具の下にそれを着るのもありなのではないかと過ってしまうほどに魅力的だ。あるいは、俺が理想としている私服としても使える戦闘衣を求めるならヘルメスの伝を頼った方がいいのだろうか?

 

 

「嗚呼、スゲー悩むなぁ………」

 

「何かお悩みかい、ケンマくん」

 

「別に大層な悩みではないから心配しなくて大丈夫だ」

 

 

私服としても使える戦闘衣のことで悩んでいると、誰も自分の話を聞いてくれず落ち込んでいたはずのヘルメスが俺の悩みについて訪ねてきた。

 

 

「一見大層な悩みじゃなくても、誰かに相談してもいいんじゃないかい?」

 

「よし、わかった。どうしたらヘルメスを誰にもバレずに完全犯罪で送還できるのかを悩んでたんだ。何か良い考えはないか、ヘルメス?」

 

「おいおい、さすがにその悩みを本人に相談するのはどうなんだい。それにキミのその悩みは『嘘』だと、はっきりと分かってるからいいけど、もしも本気ならオレもそれなりの対処をさせてもらうぜ。これでも中堅【ファミリア】の主神なんでね」

 

「その【ファミリア】の団員が一人もいない状況で何を言ってやがる。どうせ、アスフィさんに全部放り投げて戻ってきたって落ちだろうが」

 

「それを言われると痛いなぁ、あははは!マジでどうしよう…………」

 

 

マジトーンでアスフィさんに怒られることを恐れ始めるヘルメスを放置して、俺は【ロキ・ファミリア】の本拠地がある方角を何となく眺めていると何かが屋根伝いに此方へ向かってきているのが微かに見えた。

 

もしかしてと思い、ブーステッド・ギアを具現化させて視力に一回分の倍加の力を譲渡してみると屋根伝いに此方へ向かってきているのは、なんと【ロキ・ファミリア】のアキさんだった。

 

 

「えっ、アキさん!?」

 

「誰か来たのかい?」

 

「ああ。【ロキ・ファミリア】所属で【貴猫】の二つ名を持つアナキティさんだよ。それくらいは知ってるだろう」

 

「へぇ、彼女が来るということはアイズちゃんとレフィーヤちゃんは来られないと見た方がいいか」

 

「だろうな。大方、リヴェリアさんとフィンさん辺りに止められて、多少なりとも俺やヘルメスと面識のあるアキさんが伝言役かなんかを任されたんだろう」

 

「なるほどなるほど。ところでケンマくん、その籠手は一体どこから?」

 

「身体の中から」

 

「いやいや、そんな嘘は…………嘘じゃ、ない……だと……?!」

 

 

ヘルメスが某オサレな主人公のような驚き方をしているのを他所に俺は、此方に来ているアキさんが分かるように、腰に座している聖剣を鞘から抜き放ち、そのまま上空へと軽く【月牙天衝】を放つ。

 

何の断りもなく、隣でいきなり【月牙天衝】を放ったことに他の皆も驚き、慌て始める。

 

 

「フッ!!」

 

「ちょっ、ケンマ!?」

 

「なに、いきなりゲツガテンショウを撃ってんだよ!!」

 

「あっ、悪い。アイズとレフィーヤが来ない代わりに【ロキ・ファミリア】から【貴猫】ことアナキティ・オータムさんがこっちに来てるから目印代わりにと思ってな。すまん」

 

「なんだよ、そういうことかよ………」

 

「やるにしても一言声を掛けてくださいよ、ケンマ様!」

 

「でも、こんな真夜中で暗い中なのによくアナキティさんを見つけることができるね。やっぱりケンマは凄いや!」

 

「確かに、私もそれなり視力は良い方だがオリオンには負けてしまうな」

 

 

突然の【月牙天衝】にベルは自分の主神であるヘスティアとその友神であるアルテミスを背中に守る体制をしており、ヴェルフも懐に差している魔剣に手を掛けていた。リリも腕に装備している小型バリスタの弦を引いており、完全に臨戦態勢である。

 

そして、俺の説明を聞いて臨戦態勢を解くベルたちの姿を一瞥しながら誰もヘルメスを守ろうとしていなかったことに俺は自然と奴に憐れみの眼差しを向けてしまう。

 

 

「な、なんだい、その憐れみの眼差しは!?」

 

「いや、別に………」

 

「ヘルメス、ドンマイ」

 

「ヘルメス、ザマァ」

 

 

処女神の二柱から掛けられる言葉に俺は我慢が出来ずに吹き出す。

 

 

「ブホッ!」

 

「なっ、ヘスティアにアルテミスも酷くないか!ケンマくんも神を笑うんじゃないッ!!」

 

「だって、実に憐れなり」

 

「いや、別にヘルメス様を守ろうとしなかった訳じゃないですよ?」

 

「そうそう。俺たちのパーティーで最強のケンマがヘルメス様の直ぐ側にいるんだ。これ以上安心して任せられるような奴は、うちのパーティーにはいないからな」

 

「ですが、元はと言えば、ケンマ様が何の前触れもなくゲツガテンショウを放ったのが原因なのでは?」

 

「そこは突っ込まないで欲しかったかな」

 

 

誰もヘルメスを守ろうとしなかったことにベルとヴェルフがフォローに入るが、リリが主犯である俺のことをほじくりかえす。

 

話をほじくりかえされたことに苦笑いを浮かべているとヘスティアからヘルメスに、何故この場所に皆で集まっているのかについて問いかけた。

 

 

「ところでヘルメス、何でボクたちは外壁の上に集まっているんだい?」

 

「あー、それはだな。今回の目的地に行くまでの移動手段をガネーシャに頼んでおいたんだが、まだ来ないのか。もうそろそろ来ていてもおかしくはないんだけどなぁ………」

 

「もしかしたら、先ほどのケンマ様のゲツガテンショウで…………」

 

「いやいや、さすがにそんな訳ないだろう。だって、送還の光なんて………ないよな?マジでないよな?大丈夫だよな?おい!」

 

 

ここに来て一番の焦りをヘルメスが見せていると、伝言役だと思われるアキさんが俺たちの下へと到着した。

 

 

「こんばんは、ケンマ。もしかして、さっきの青い光はケンマがやったの?」

 

「こんばんは、アキさん。ええ、目印にと思って俺がやりました」

 

「そうなんだ、お陰で早くケンマを見つけることができたわ。ところでさ、何で神ヘルメスはあんなに滅茶苦茶焦ってるの? 何かあったの?」

 

「まぁ、ちょっと色々とありまして。それでアキさんが来たってことは、アイズとレフィーヤはリヴェリアさんとフィンさん辺りに?」

 

「あはは、やっぱり分かっちゃう?」

 

「何となく想像が付きます」

 

「ま、そういうことで二人は今回のケンマたちが受ける冒険者依頼には不参加よ。いきなりでごめんなさいね」

 

「大丈夫ですよ。俺もそうなるだろうな、という勘はしてたんで」

 

「ふ~ん、なるほどね。うちの三巨頭が一目置くだけのことはあるってところかしら」

 

「それはさすがに買いかぶりじゃないですか?」

 

「どうかしらね」

 

 

猫人族特有の気紛れな一面を見せるアキさんに俺は苦笑いが出てしまう。

 

本当は勘というよりも前世で観た『ソード・オラトリア』や動画アプリなどで通学中のチョロっと暇な時間やトイレでの暇を潰すために『ダンまち』のアニメ動画なんかも観ていたりしていたのでそのお陰でもある。

 

 

「それじゃあ、伝えるべきことは伝えたから私はこれで帰るわね。ケンマも討伐モンスターには気を付けてね」

 

「はい、ありがとうございます。それとアキさん」

 

「何かしら?」

 

「フィンさんに()()()()()()()()に気を付けるよう伝言をお願いします」

 

「…………わかったわ」

 

 

俺のフィンさんへの伝言を頼まれてくれたアキさんは、一回の跳躍で離れた民間の屋根へと降り立ち、そのまま屋根伝いで『黄昏の館』へと戻っていた。

 

 

「ケンマくん、さっきの伝言はどう意味だい?」

 

「いずれ分かることだ」

 

 

フィンさんへの伝言は、俺たちが『エルソスの遺跡』に着いて、決戦に挑む時に起こる出来事だ。『アンタレス』が取り込んだアルテミスの神威にダンジョンが反応して、スタンピードを起こしかける。

 

アキさんに託したフィンさん宛の伝言は、そのための事前準備をしてもらうための予防策の一つに過ぎない。スタンピードは俺たちがアンタレスを仕止めない限りは続くので何日耐えきれるか未知数なので短期決戦になるはずだ。

 

そんな数日後に起こる出来事をフィンさんたちへ託したあと、俺は俺のやれることをするためにヘスティアとベルの下へと近付く。

 

 

「ベル、神ヘスティア、ちょっと相談したいことがあるんだけどいいか?」

 

「僕は構わないけど、神様は?」

 

「ボクも大丈夫だよ」

 

「それじゃあ、少し離れた場所に移動しよう。ヴェルフたちには悪いけど、【ファミリア】間での話になる」

 

 

その言葉聞いた皆は、目を見開いて驚くが【ファミリア】間での話なので誰も反対や不満を述べる者はいなかった。

 

そして、少し離れた場所へ三人で移動が完了したところで話を始める。

 

 

「それで相談したいことはなんだい? それも態々【ファミリア】間での話だなんて」

 

「そうだよ。別に神様とケンマの所のヴィクトリア様の仲は悪くないはずだよ?」

 

「変な誤解をしているようだが、俺が今回したい相談は、今回の冒険者依頼が終わるまでの間だけ一時的な同盟を結んで欲しい」

 

「同盟?」

 

「なんでそんなことを?」

 

「今回も俺は主神であるヴィクトリアを置いて行くつもりだ。それによって、俺は旅の間は【ステイタス】の更新が出来ない。だから、【ヘスティア・ファミリア】と一時的に同盟を結び、神ヘスティアに俺の【ステイタス】を更新してもらうのが俺の狙いだ」

 

「なっ!?」

 

「それってっ!?」

 

 

冒険者にとっての【ステイタス】は己の全てを曝け出すに等しいことを理解しているからこそ、二人は驚く。

 

 

「因みにヴィクトリアには了承済みなんで」

 

「『嘘』……ではないみたいだね。だけど、ケンマくんの【ステイタス】を更新しようにもボクの【神血】じゃあ………」

 

「そこんところは心配はいりません。ここに集合する前に【ディアンケヒト・ファミリア】でヴィクトリアの【神血】を採血してもらったのでヴィクトリアの【神血】はここにあります」

 

 

レッグホルダーから一本の試験管を取り出して、ヴィクトリアの【神血】が入っていることをヘスティアとベルに見せる。

 

 

「なるほどね。だからキミはボクたちのホームで二時間の準備期間をヘルメスに設けさせた訳か」

 

「他に理由はありますけど、大半はコレを手に入れるためです」

 

「はぁ、わかったよ。18階層ではボクのベルくんを助けてもらった訳だし、キミからの願いを断れないよ」

 

「ありがとうございます、神ヘスティア。ベルには旅の合間を見て、俺の鍛錬の相手を頼む。お互いに【ステイタス】が伸びて悪くない提案だと思うが、どうだ?」

 

「僕としてもケンマとの鍛錬は望むところだよ。神様、いいですか?」

 

「ベルくんがいいならボクは何も言わないよ」

 

「それじゃあ、これで一時的な同盟は成立ですね」

 

 

こうして【ヴィクトリア・ファミリア】と【ヘスティア・ファミリア】はアルテミスから冒険者依頼の間だけ、一時的な同盟が結ばれた。

オリ主たちの新本拠地候補

  • 第六区画 『竈火の館』の近く
  • 第七区画 元ヘスティア廃教会
  • 西地区 豊穣の女主人の近く
  • 北地区 適当に
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