臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか? 作:黒牙雷真
〈sideケンマ〉
【ヴィクトリア・ファミリア】と【ヘスティア・ファミリア】との間に一時的な同盟が結ばれたあと、ヘルメスが手配した『エルソスの遺跡』までの移動手段となるドラゴンに乗ったガネーシャが現れた。
何故、予定よりもガネーシャが遅れたのかは、突如として空へと飛んで行った青白い光に竜たちが驚き、落ち着かせるのに時間がかかったとか。それを聞いたガネーシャとアルテミス以外の全員が俺にジト目を向けてくるのは割合させてもらおう。
ジト目で俺を見たあと、ヘスティアが竜たちを一瞥しながらヘルメスに竜が移動手段なのかと問い掛ける。
「ケンマくんの所業は後で説教するとして、これに乗って行くってことかい、ヘルメス?」
「ああ。さっき言った通り、前もってガネーシャに頼んでおいたんだ。陸路なら一ヶ月掛かるがこいつに乗れば十日で到着ってわけだ。それに早く戻らないとケンマくんの言う通り、アスフィのお説教が恐くなってきたしな」
「えっ? それはどういう────」
リリが最後まで言い切る直前、近付くまで寄ってきていた竜の一体に至近距離で鼻息を掛けられて、リリは悲鳴を上げてしまう。それを見ていた飼い主であるガネーシャは笑いながら竜たちの安全性について説明を始める。
「ヒャあ!?」
「ハハハ!大丈夫だ!この竜は孵化した時からテイムを施してある!誰の言うことも聞くぞ!」
竜の安全性をガネーシャから周知されている傍らで、リリは鼻息を吹き掛けられた竜に気に入られたのか顔をベロベロと舐められている。しかし、見方を変えると竜に捕食されようとしている一人の小人族にしか見えないのは俺の気のせいだろうか?
それと竜の数も俺が知ってる『オリオンの矢』とは異なっている気がする。『オリオンの矢』では竜の数が足らず二人で一体の竜に乗る流れなのだが、現在の竜の数は俺たち七人に対して四体。つまり、七人中一人だけが一人で一体乗れるという贅沢な乗り方ができる。けれど人数分ではない。
そのことをヴェルフがガネーシャに訪ねると至極簡単な答えが返って来る。
「なあ、竜の数、足らなくないか?」
「ぶっちゃけ、揃えられなかった!」
「ということで、二人乗りということで」
ヘルメスがそう口にすると、その言葉に二人の乙女が反応する。
「「二人乗り………」」
「ベルくん!」
「ベル様!」
「ボクと一緒に乗ろう!」
「リリに乗りましょう!」
ベルが異性として好きなヘスティアとリリが全く同時に、ベルにそう誘い掛けるが返事が返って来るよりも先に同じタイミングで同じことを申し込んだ恋敵に互いに意識が向いてしまう。
「ベルくんと竜に乗るはボクだ!サポートくんは、ヴェルフくんか一人寂しく竜に乗るといいさ!」
「いいえ!ベル様と竜に乗るのはリリです!ヘスティア様こそ、ヴェルフ様かお一人で寂しく竜にお乗りになってください!」
「なんだとー!」
「なんですーか!」
「ちょっ、神様、リリ………」
この展開、さっきも見たなと思いながら俺も誰と乗るかと考える。普通であればストーリー上ではアルテミスと二人で乗る必要があるのだが、一般シティーボーイにしてチキン・オブ・ハートの持ち主であるチェリーな俺に美人であるアルテミスを誘う勇気はない。
ここは無難に専属鍛冶師であるヴェルフを選ぶ方が良いだろう。ヴェルフと二人乗りならその間に私服としてでも使える戦闘衣の話もできて間違いはないだろう。
そんなヘタレなことを考えているとアルテミスから呼ばれているのが自分であることに気付くが遅れた。
「オリオン」
「…………」
「おい、オリオン」
「…………」
「私の声が聞こえていないのか、オリオン」
「…………」
「ムッ!オリオンってば!」
「フゴッ?!」
自分の名前ではない、別の名前でのアルテミスの呼び掛けに反応出来なかった俺は、アルテミスによって両頬に手を添えられて力付くで顔を振り向かされたことによって、ようやく自分が名前ではなくて『オリオン』として呼ばれていることに気づく。
更には、この世界線ではベルではなくて俺が『オリオン』として呼ばれているのだと再認識することができた。
「ようやく、こっちを向いたな、オリオン」
「すびません」
「まあいい。さて、オリオン。私と一緒に竜へ乗ってくれないか?」
「ふぇ?」
「いいじゃないか、ケンマくん。いやー、羨ましいねぇ~!あの貞節と純潔を重んじるアルテミスから直々にご指名だなんてさぁ~!いや~、本当に羨ましい限りだよ。オラリオにいる男神たちが聞いたらさぞかし、嫉妬の血の涙を流していただろう」
アルテミスに二人乗りしないかと誘われて困惑している俺に、ニヤニヤとした顔を向けながらヘルメスは道化のように戯けながらそう言う。
「私では駄目なのか、オリオン?」
「ほらほら、ケンマくん。一人の乙女がキミの返事を待っているよ」
ヘルメスの野郎、あとでアスフィさんと絞める。そう決めながら俺はドライグに龍繋がりで竜の操作を駄目もとで頼むことにした。
(ドライグ、竜の操作頼んだ)
『おいおい、待て相棒。龍は龍でもこの世界の竜と俺がいた世界の竜とでは生態系事態が全く異なる。それに俺の言葉が通じるかすら分からんぞ』
(大丈夫。俺が知ってる『ハイスクールD×D』のドライグさんは、『魔獣創造』で生み出された超巨大なアンチモンスターにガンを飛ばされて気に食わないグレートレッドの龍語をイッセーに通訳してるんだから大丈夫だ。問題ない)
『問題大有りだ!相棒の言っている俺は、俺であって俺でない俺だろうが!? 』
(そんな細かいことは気にしない。気にしない)
ドライグが今の自分とラノベの自分は別人───いや、この場合は別龍か? とまあ、別の世界線の自分とは違うと述べているが俺に取っては差ほど変わらないので無視して、アルテミスに返事を返す。
「わかりました。俺で良ければ」
「ありがとう、オリオン」
アルテミスへ共に竜に乗ることを了承する返事を返すと、嬉しそうに俺に微笑みを向けてくれる。
「ところで、オリオン」
「なんですか?」
「私もヴィクトリアのように敬語などは必要ない。名前も普通に呼んでもらえないだろうか?」
「え?いいんですか?」
「此方から申し出ているのだから問題はあるまいよ」
「そこまで言うなら……わかったよ、アルテミス」
「うむ」
アルテミスに呼び方や言葉使いを砕けた方がいいと言われて、砕けた呼び方と喋り方をすると満足そうに笑みを浮かべるアルテミス。彼女と竜の背中に二人乗りすることが決まったら、二人で乗るつもりの竜の背中に手分けして荷物を縛り付けて行く。
他の連中もそれぞれ竜の背中に荷物を縛り付けているかと思いきや、ベルとの二人乗りを巡った乙女の戦いが未だに続いているようでベルの一番近くにいる竜には荷物を縛り付けられておらず、ベルもあたふと二人の対応に困っている様子だ。
それを見たヘルメスは、痺れを切らしたようで早く二人乗りの相手を決めるようにベルを促す。
「ベルくん、申し訳ないが時間が差し迫っている。だから、早くどちらと乗るのかを決めて貰えるかい?」
「で、でも、ヘルメス様~!?」
「おいおい、そんなことで泣き言なんて言ってたら、男の夢たるハーレムなんて夢のまた夢だぜ、ベルくん」
「こら、ヘルメス!ベルくんに変なことを教えるんじゃない!?」
「そうです、そうです!ベル様がヘルメス様のように覗き魔の変態になられてはリリが困ります!それから18階層での出来事をリリはまだ許していませんからね!」
「ちょっ、それを今持ち出すのかい!?」
「ほう、ヘルメス。どうやらお前は下界に降りても懲りずに不埒なことをやっているようだな。天界に居た頃のように射ぬいてやろう」
「ま、待ってくれアルテミス!あ、あれはベルくんの為であって…………ってか、どこからその弓と矢を出したんだ!? さっきまでそんな物持っていなかったろ!?」
「それなら俺が用意したけど」
「どうやって!?」
「企業機密」
ぶっちゃけ、これは案外簡単なことで、『魔剣創造』で二本の短剣を創造。その短剣には、創造する際に特殊な構造を付与しており、剣でありながら柄尻を合わせると弓にもなるという特殊構造武器になっている。イメージとしては、某ゲームの「ヤラレチャッタ」の天使キャラが使う双剣であり弓みたいな武器だ。
けれど、元々は剣であるために矢を引くための弦がない。しかし、そこは俺の『スキル』である【魔力操作】で魔力で出来た糸を上下の剣先から伸ばして弦の代わりとして代用。
残るは矢だが、これは前世で格好いい弓キャラと言ったらこのキャラクターと言わざるをえない某正義の味方のように剣を矢の代わりにしているだ。だが、某正義の味方のような矢を放って、標的の至近距離まで迫ったら瞬間、周囲の空間を吹き飛ばすような物騒な能力は付与していない。魔剣を矢に近い形状に近付けただけのただの剣なので、ヘルメス以外に被害は行かないだろう。
「さて、おふざけもここまでにして早く決めろよ、ベル」
「だ、だって………」
「どうせ帰りも竜に乗るんだし、どちらとも平等に十日間はベルの二人乗りができるだろう。そうだろう、ヘルメス?」
「ま、まぁそうだな。確かに帰りも竜を使えばいいとは思うが…………」
「そういう訳だからどの道、二人はベルと二人乗りができる。行きと帰り、どっちがいいのかでまた揉めるからここは潔くジャンケンで決めてくれ」
「じゃん、けん? ケンマ、それは一体なんなの?」
「は?おいおい、なに言ってんだよ、ベル。ジャンケンだよ、ジャンケン。最初はグーから始まるやつだよ、もしかして知らないのか?」
「うん。僕はじゃんけんなんて初めて聞いたよ。ヴェルフとリリは?」
ジャンケンを知らないベルが、自分よりも物知りだと思うヴェルフとリリに訪ねてみるが結果は意外なことにも二人は知らなかった。
「いや、俺も知らないな、じゃんけんなんて」
「リリも知りません」
「う、そ……だろう?」
この世界には、冷蔵庫や暖房、エレベーターなんて近未来的な物があるのにジャンケンという古い遊びをベルたちが知らないなんて思いもしなかった。軽いカルチャーショックに陥っていると、まさかのヘスティアからジャンケンを知っていると明かされる。
「おや、ケンマくんはジャンケンを知ってるのかい?」
「え? 神ヘスティアはジャンケンを知ってるですか?まあ、俺が育った故郷では、子供の遊びの一つとしてジャンケンを教わるんですよ」
「そうなんだ。だけど、ケンマくんの言うとおり、ジャンケンで決めるのは良い案だね。よし、サポーターくん、ボクとベルくんの二人を賭けてジャンケンで勝負をしようじゃないか!天界でも神々の間で譲れない戦いがある時はそうしていたしね!」
「そもそも、リリはケンマ様やヘスティア様の言うじゃんけんというルールについて全く知らないのですが…………」
リリがジャンケンのルールについて知らないと言うと、ヘルメスが自らジャンケンのルールについて説明すると名乗り出た。
「それじゃあ、オレが説明しよう!ジャンケンとはこのように手の形を変えて戦う遊びでね。グーはパーには弱いがチョキに強い、チョキはグーには弱いがパーには強い、パーはチョキには弱いがグーには強い。このように三種の形でそれぞれに優劣があって、出した手の形で勝敗を決めるんだ」
「なるほど、なるほど」
「そして!なにより重要なのが、ジャンケンで負けた相手は負ける度に衣服を一枚ずつ──────」
パシュンッッ!!
「…………へ?」
「ヘルメス、今度こそ射ぬかれたいか?」
「本当にマジで、すみませんでした!!」
帽子を俺が創造した魔剣の矢で射ぬかれたヘルメスは、アルテミスの真顔での警告を聞いて、危険性を感じたのかその場で土下座をしながら謝罪していた。
とまあ、ヘルメスのおふざけが少し入ったが、リリもジャンケンのルール説明を聞いていて、ヘスティアとベルの二人乗りの権利を賭けて勝負することになった。
「「最初はグー!ジャンケン!ポンッ!」」
結果は、やはりジャンケンの知っていたヘスティアに軍配が上がり、リリが負けて、リリは帰りにベルと二人乗りすることになった。
「オッシャー!見たか、サポーターくん。これがボクとベルくんの愛の勝利だ!!」
「うぅぅ……ヘスティア様なんかに負けるだなんて……悔ぢぃです!」
何はともあれ、これでヘスティアとリリのどちらが行きと帰りでベルと二人乗りするのかの順番は決まった。よって、いよいよ出発だ。
オリ主たちの新本拠地候補
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第六区画 『竈火の館』の近く
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第七区画 元ヘスティア廃教会
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西地区 豊穣の女主人の近く
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北地区 適当に