臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか?   作:黒牙雷真

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第八十五話

 

 

 

 

 

 

〈sideケンマ〉

 

 

 

 

 

『心の準備はいいか、相棒』

 

「すぅー、はぁー………よし、初め、やっぱり待って。せめてスリーカウントは欲しいかも」

 

『ここまで来て、往生際が悪いぞ相棒………』

 

「だって、身体の内側を人間の物からドラゴンの物に作り変えるって色々と怖いし、絶対に滅茶苦茶痛いじゃん!?」

 

 

竜の背に股がり、空の旅をしばらく楽しんだ一日目の夜。見張り役のベル以外の皆が寝静まった深夜の時間帯に、一人でテントを抜け出した俺は、人気のないところでドライグに自分の臓器を一つずつ人間の物からドラゴンの物へと作り替える取引を持ちかけているのだ。

 

しかし、臓器を人間の物からドラゴンの物へと作り替える行為に痛みがあると少し前に聞いてから突然臆病風に心が揺れてしまったのである。

 

 

『痛みが伴う代わりにしっかりと龍のオーラ量や禁手の持続時間も延びるだろうが!?』

 

「だって、痛いのは嫌なんだもん!」

 

『その割には、エルフの小娘や店の小娘たちに毎朝ボコボコにされているがな!』

 

「あれは、ちゃんと手心を加えてくれてるだろう!でも、今回のは手心なんて物はないじゃん!要はあれじゃん、麻酔無しの手術をするような物じゃん!絶対に痛いの確定じゃん!」

 

『じゃん、じゃん、五月蝿い!もう始めるぞ!』

 

「ちょっ、待てよ!」

 

 

俺の静止の声を聞くことなく、ドライグは臓器の取引を行い始めた。それに伴って、突如として腹部から感じたことのない違和感と激痛が俺の身体に襲いかかる。

 

 

「がっ!? う…あ…゛ああぁあぁああ……ぁ゛あ…あぁぁぁ゛あぁ……あ゛っあぁあぁぁああぁぁぁ!!」

 

 

あまりの激痛に腹部を抱えて、地面の上でのたうち回る俺。

 

 

『相棒!早く、そこにある回復薬を飲んだ!』

 

「あ゛あああ゛っ!……がはぁっっ…!?」

 

 

ドライグの言う通り、念のために近く置いていた回復薬を飲もうと手を伸ばすのだが、のた打ち回った時に身体の何処かが回復薬の入った瓶に接触したのか少し離れた所へ転がって行ってしまった為、直ぐに飲むことが出来ない。

 

その間も激痛や違和感が腹部を襲うが、タイミングが悪いことに拒絶反応が出てきたのか、突然吐血してしまう。それによって、呼吸する度に血生臭い匂いと味が鼻と舌に広がる。

 

 

『まさか、ここまで拒絶反応が強いとは!?』

 

「う゛っっ!ぐっっ…!……かっぁ゛ぁ゛っ!はあぁ゛っぁっ…………」

 

『しっかりしろ、相棒!』

 

 

激痛の所為でドライグの呼び掛けにも答えることが出来ず、只管に地面をのた打ち回っているとテントの見張りをしていたベルが何時になっても戻って来ない俺を心配してか、近くまで探しに来ていた。

 

 

「おーい、ケンマー!何処ー?」

 

「ヤベェッ……」

 

 

ベルの声を捉えた俺は激痛に蝕まれながら、この状況を純粋無垢で嘘を付けないベルに目撃されるのは不味いと思い。歯を食い縛って、腕に力を込めて、身体を引摺りながら転がっている回復薬へと近づく。

 

 

「はぁ……はぁ……あぐぅっっ!?」

 

『踏ん張れ、あと少しで手が届くぞ相棒!』

 

「うがああああ!!」

 

『そうだ、相棒!そのまま回復薬を掴んで、栓を抜いて、中身を飲み干せ!』

 

 

痛みに耐えながら、最後の力を振り絞り、手に手繰り寄せた回復薬の栓を抜こうとしたその瞬間、俺の目の前に大きな人型の影が出来上がった。

 

その影が意味するのは、松明を片手に俺を探し回っているベルが直ぐ後ろに来てしまったということである。当然、そうなればベルの視界に映るのは地面を這いつくばって回復薬を握る俺と俺の周りに飛び散った吐血の後だろう。

 

 

「ッッ! ケンマ、大丈夫!?」

 

「べッ……ル゛ッ……」

 

「口から血が………!?何があったかは後で聞くから今は回復薬を!」

 

 

俺の口元に吐血した跡が残っていることを見たベルは僅かに困惑の表情を露にするが、直ぐに状況を理解して、俺が握っている回復薬を奪って、栓を抜き、そのまま中身を俺に飲ませてくれる。

 

瓶から伝わる温い液体と甘い味が口に広がると、喉の奥を通過した回復薬が効果を発揮して、先ほどまで続いていた激痛が嘘にように和らいで行く。それと同時に思考が周り、明日からは臓器をドラゴンへと変える時は、【魔力操作】で記憶に残っているありったけの持続回復効果のある魔法を自身に施してからやろうと固く誓った。

 

ベルが飲ませてくれる回復薬を飲み干し、少しだけ自力で動けるようになると、ベルは《ヘスティア・ナイフ》を片手に周囲の警戒をしながら俺が何故吐血しながら倒れていたのかについて触れてくる。

 

 

「ケンマ、どうして血を吐いて倒れてたの?僕と同じで、LV.2 のケンマならダンジョンでもないのに野生のモンスターにやられるなんてことはないでしょう?」

 

「あー、うん、ベルの言う通りでモンスターにやられた訳じゃなくて………そのリバウンドだ」

 

「りばうんど? なんなのそれ?」

 

「要は、精神疲弊みたいなもんだ。それが今回は気絶じゃなくて、激痛と血を吐くことになったんだ」

 

「なにをどうしたら血を吐くことになるのか、僕には分からないよ………」

 

「心配かけて悪いな。回復薬を飲ませてくれて、マジで助かった、ありがとう。さっ、テントに戻ろう───あぐっ!」

 

「ケンマ!?」

 

 

誤魔化すように俺はテントに足を向けると、まだ完全に身体がドラゴンの臓器に馴染んでいない所為か不意に痛みが襲い掛かってきた。

 

それに伴って、咄嗟に腹を抑える俺を見たベルが慌てて駆け寄ってくる。

 

 

「やっぱり、おかしいよ。本当は何があったの?」

 

「大丈夫だ、心配はいらねぇよ。一晩寝れば治る」

 

「友達の僕には言えないことなの?」

 

「………………悪いな、ベル。だけど、いつか話せると思う」

 

「ケンマ…………」

 

 

こんなことで納得してはくれないと思うが、今やっていることをベルや皆に明かすわけにはいかない。明かしてしまえば、皆は自分を責めるはずだ。その中でも、今回の冒険者依頼を持ち込んできたヘルメスとアルテミス。そして、友神のために冒険者依頼に乗り気だったヘスティアの三神は特に自分を責めるだろう。

 

故に、人間の臓器からドラゴンの臓器へと変化させ、これからもそれを続けることを今のこの場でベルに打ち明けることはしない。

 

 

 

 

○●○

 

 

 

 

 

「嗚呼、頭痛てぇ…………」

 

「大丈夫か、オリオン?」

 

「大丈夫だ。心配はいらねぇよ」

 

 

オラリオを出発してから約七日。その間に、毎晩抜け出しては人気のないところで自分の臓器をドラゴンの物へと変えることを繰り返し、昨晩は心臓をドラゴンの物へと変えた事で盛大に吐血してしまった影響で竜の背中の上で貧血気味になっていると前に座っているアルテミスから心配だと声をかけられる。

 

そんな彼女に空元気で大丈夫だと言ってみせる。だけど、相手は神だ。人間である俺の『嘘』は見抜けてしまう。けれど、本当にヤバい訳ではないのでそこら辺は誤魔化せていると思いたい。

 

それからしばらく会話もなく、優雅に森の上を飛んでいると心地の良い暖かな風が俺たちを撫でる。その影響もあってか、ベルと二人乗りをしているヘスティアが竜の背中で呑気に昼寝をしているくらいだ。

 

 

「いや~、いい風だなぁ~。いつまでも翔んでいられるねぇ~」

 

「何を呑気なことを………、」

 

「もう一週間も翔んで見飽きたぞ。なぁ、お前らもそう思うだろう。ベル、ケンマ」

 

「あははは……」

 

「まぁ、確かにこう森ばっかりだとなぁ………」

 

 

ただただ只管に竜の背中に乗って森を眺めているだけで飽きが来てしまっているので、何か気を紛らわせる。ないしは、竜の背中の上で何かちょっと遊べそうなことを考えることにした。

 

無難にしりとりは……ベルのことを考えると魔法の暴発があり得るか。指スマは………俺とベル、ヴェルフが手綱を握ってるからダメ。連想ゲームは……お互いに連想する物が最終的に付いていけないと駄目なので転生者である俺と『ダンまち』の住人であるベルたちとでは社会性が所々食い違いが起こるためダメだ。

 

しばらく何か遊べそうなことがないかと考え続けて森を抜けたかと思った矢先、ただの崖があっただけで直ぐにまた森が続いていた。そのことに飽き飽きしているヴェルフが愚痴る。

 

 

「そら、また森だ」

 

 

これには共感せざるをえない。

 

そう思った矢先、アルテミスが何かを見つけたのか僅かに身体が前へと傾いた。

 

 

「オリオン、下へ!」

 

「えっ?」

 

「早く!」

 

「わ、わかった!」

 

 

突然の指示で反応に遅れたが直ぐに竜を操作して、森の外側の木々が生えていない場所に低空飛行を試みる。すると、アルテミスは腰に携えていた弓に矢を添え始め、獲物を射る構えを取る。

 

彼女のその行動を見て、必死に『オリオンの矢』のストーリーを思い出していると一つの光景が脳裏に甦った。

 

 

「モンスターかッ!!」

 

 

その記憶を思い出した俺は即座に森の中へと視線を向けると記憶通り、森の中に母親とおぼしき女性とその子供である少女が蠍型のモンスターの群れに追われていた。

 

そして、アルテミスは弓の弦を引き絞り、親子に一番近い蠍型モンスターに矢を放ち、一撃で仕止めて見せた。そのことから奴らの強さはダンジョンの上層程度だということが分かる。

 

 

「知っていたが、木と木の間を縫うように当てるとかチートかよ!?」

 

「まただ!そのまま回り込んで」

 

「任せろ!」

 

 

アルテミスの指示通り、森の回り込んで森が開けた場所へとたどり着くとかなりの数の蠍型モンスターが親子を執拗に追いかけましていた。

 

それを見て、アルテミスの矢だけでは対処仕切れないと判断した俺は手綱から右手を放して、モンスターたちに掌を向ける。

 

 

「借りるぞ、ベル!【プロモーション・ビショップ】からの【ファイアボルト】ッ!!」

 

 

【プロモーション】で『僧侶』へと昇格。それによって『魔力』に補正が掛かった上での【魔力操作】による【ファイアボルト】の再現。それによって、一発の『魔法』で約十数体のモンスターが魔石を残して消滅した。

 

しかし、それでも尚モンスターはまだまだいる。第二撃を放とうとするも少女が足をもつれさせて転けてしまい、母親も少女を心配して抱き締める。それによって動きが止まった親子とモンスターとの距離があまりにも近い所為で、ここのまま魔法を放てば【プロモーション】の補正が掛かった魔法の余波が親子にまで被害を与えかねない。

 

 

「チッ!近すぎる!」

 

 

そのことに舌打ちをしながら、仕方なく更に回り込んで体勢を立て直そうと竜を操作すると、地面へ向けて飛行するために僅かに速度が緩んだタイミングを見計らい、前に乗っていたアルテミスが飛び降りた。その光景に映画の再現が起きてしまうと俺の中で焦りが生まれる。

 

 

「アルテミス!」

 

 

いくら武闘派の女神であるアルテミスといえど、俺たちのように【恩恵】を持たない状態ではあの数のモンスターを相手にするのは無謀にも程がある。ましてや、残り粕の今の彼女では…………。

 

しかし、アルテミスが飛び降りたことでモンスターたちの標的が彼女へと向いた。見方を変えれば、アルテミスが飛び降りたのは英断かもしれない。けれど────

 

 

「やるしかない!」

 

 

二体、三体とモンスターを倒して行くアルテミスだが、【恩恵】を持たないが故に体力が常人と変わらないため先ほどの攻防で肩で大きく息をするほどに消耗している。更にそれだけではなく、あの蠍型モンスターは『アンタレス』の子供あるいはクローンともいえる存在のため、アルテミスの動きが鈍る。

 

それを知っていた俺は、アルテミスにモンスターの攻撃が当たるよりも先に『聖剣創造』で創造した聖剣たちを空から彼女の回りに半円を描くように降り注がせる。

 

 

「聖剣たちよ、降り注げ!」

 

 

無数の聖剣が降り注ぎ、聖剣から放たれる聖なるオーラを危険視したモンスターたちは半円状に刺さっている聖剣を回り込み始めるが、モンスターがアルテミスにたどり着くよりも俺の攻撃の方が速い。

 

 

「散れ、千本桜!!」

 

 

《千本桜》の解号を唱えると、俺が握っている聖剣とアルテミスの回りに刺さっていた聖剣たちの全てがその身を桜の花弁へと姿を代えて、桜色の津波となってモンスターたちを呑み込み、津波の跡に残るのは魔石のみだった。

 

そんなあまりにも一方的な光景にアルテミスやモンスターに追われていた親子ですら言葉を失い、唖然とその光景を眺める。そして、モンスターたちの全滅を確認した俺は、竜の背中に股がったままで《千本桜》の花弁たちを一本の聖剣へと再結成させるという芸当を魅せる。

 

本来であれば、こんな芸当を見せる必要はないが上空にはヘスティアやヘルメスがいるため、下手に《千本桜》を消してしまうと後で詮索されかねないのでこの場では超特殊な『魔剣』として披露しておくのが良いだろうと思ったが故の行動だ。

 

 

「フゥー、なんとかなったな………」

 

「お、オリオン……今のは一体………」

 

「そんなことよりもあまり無茶をするな、アルテミス。怪我はないか?」

 

「あ、ああ………私はオリオンが守ってくれたお陰で、かすり傷一つないぞ。ありがとう」

 

「怪我がないならそれでいい」

 

 

竜の背中から降りながら本人(アルテミス)から怪我がないことを聞けたので、次に親子の方へ視線を向ければ、親子も無事なようで母親が感謝を意を示すように頭を下げてきた。

 

それを見たあと、俺は『アンタレス』のクローンたちが残した魔石に近付いて、その一つを拾い上げて、念のために持ってきていたダンジョンのモンスターから採取した魔石と大きさ、重さ、色などを比べてみる。

 

 

「これは………完全に見誤ったな。この魔石のデカさからして『中層』クラス、雑魚でこれかよ」

 

 

あの雑魚共でさえ、『中層』クラスのモンスターが持つ魔石を体内に宿しているので『エルソスの遺跡』にいるその上位個体はおよそ『下層』クラスのモンスターが居てもおかしくはないのではないかと嫌な考えが過る。

 

ましてや、『アンタレス』はその何十倍もの強さを誇る。そのことから『下層』あるいは『深層』の階層主と同等のポテンシャルを有していてもおかしくはないと結論付けて、気を引き締める。

 

 

「オリオン、どうかしたか?」

 

「いいや、なんでもないよ。それより、神ヘスティアたちが来たみたいぞ」

 

「アルテミス!ケンマくん!」

 

 

俺が指で示した先には、こちらに駆け寄ってくる皆がいた。

オリ主たちの新本拠地候補

  • 第六区画 『竈火の館』の近く
  • 第七区画 元ヘスティア廃教会
  • 西地区 豊穣の女主人の近く
  • 北地区 適当に
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