臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか?   作:黒牙雷真

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第八十六話

 

 

 

 

〈sideケンマ〉

 

 

 

 

「本当にありがとうございます。なんてお礼を言えばいいか」

 

「お礼を言うなら、こっちの女神アルテミスに言ってください。彼女が気付いていなかったら俺も貴女たち、親子を助けることは出来なかったかも知れませんから………」

 

 

そうだ。俺はあの時、アルテミスが指示を出してくれたから『オリオンの矢』でもあの『アンタレス』のクローンたちと戦う記憶を思い出せたのだ。それがなければ、この親子を助けることも出来なかったはずだと思う。そのことから俺は、母親からの感謝の言葉を素直には受け取れなかった。

 

俺の言葉を聞いた母親は、アルテミスに何度も感謝の言葉を述べながら崇め始めた。それがひとしきり終わると折を見て、ヴェルフが『アンタレス』のクローンたちについて母親に訪ねた。

 

 

「あんた達、あのモンスターを知ってるのか?」

 

「いいえ………辺りの村も襲われていて、私たちもいきなり………」

 

「あんなモンスターみたことないぞ?」

 

「オラリオの外だからかな?」

 

「だとしても、あんなに大量発生していたら俺たちみたく何処かの【ファミリア】か或いはオラリオにモンスター討伐の冒険者依頼が来ていてもおかしくないだろう。それに戦ってみた感じそこまで強くはないが、魔石の大きさは『中層』レベルだった」

 

「すみません、何も分からなくて………」

 

 

これといって『アンタレス』のクローンに関する情報は得られなかった。そのあと、親子に今後はどうするのかと訪ねると、ここから歩いて三日ほどした所に親戚が住んでいる街があるようでそこで新しい生活を送るそうだ。

 

さすがに女、子供だけでここから三日も歩いた先にある街に武器も無しに行かせるのは心配なので、先ほど自分で気付けなかった件について罪滅ぼしではないが、親子には念のため『魔剣創造』で創造した魔剣を一振渡しても罰は当たらないと思う。

 

俺以外にも似たような考えを持っていた者がいるようで、アルテミスが旅には食料が必要だと俺たちの食料から親子に分け与えたのだがそれが少しばかり度が過ぎてしまったのである。

 

 

「さようならー、神様ー!ありがとうー!」

 

 

そして、夕焼けに照らされながら親子を見送ったあと、度が過ぎる人助けにリリが言葉の剣を振りかざす。

 

 

「人助けはいいんですけど…………」 

 

「ん?」

 

「食料、全部渡してしまって、どうするですか?」

 

「残りはパンだけだな」

 

「私は食べなくても大丈夫だ」

 

「アルテミス様がよくても、リリたちはすっかり空腹なんです!」

 

「ふぇ?」

 

 

リリの怒りの叫びを聞いてからアルテミスは俺たちに振り返ると、俺たちは面と向かって「空腹だ」などとは言えず、沈黙による同意の意志を示す他なかった。

 

それを感じたアルテミス、自分が仕出かしてしまったことをようやく理解したようで、それはそれは綺麗な土下座を披露しながら謝罪の言葉を述べた。けれど、リリはそれだけでは収まらずにグチグチと愚痴を垂れ流してしまう。

 

 

「申し訳ありませんでした!」

 

「なんなんですか!このポンコツは~~」

 

「おいおい、一応女神様だぞ」

 

「ヴェルフ、お前もリリの事言えないからな」

 

「女神様だろうと、ポンコツはポンコツです!ポンコツを司るポンコツ女神です!」

 

 

さすがのヘスティアも土下座する情けない”神友”を見て、溜め息を吐かずには居られないようだ。

 

 

「はぁ、なんでこうなったかなぁ………」

 

「そんなに違うんですか?」

 

「ああ。怖いくらいに毅然として、女傑というか………天界じゃあ沐浴を覗かれただけで………『恥を知れ!この豚ども!』って覗いていたヘルメスや共犯の男神たちに罵声を浴びせるほどに貞節を重んじるのがアルテミスなんだよ。まぁ、その罵声を受けてもヘルメスたちもヘルメスたちで『それは、こちらの業界ではご褒美です!』なんてふざけたことを言うほどに反省の色を見せていなかったけどね」

 

 

ヘスティアから明かされる過去にヘルメスがアルテミスに仕出かしてエピソードを聞いて、当の犯人の一人であるヘルメスは懐かしそうにウンウンと何度も頷く。

 

 

「いや~、そんなこともあったな………」

 

「18階層でケンマが言っていたとある処女神って………」

 

「アルテミス様のことだったのか………」

 

 

18階層で始めてヘルメスと出会った時に俺が言っていたことをベルとヴェルフは覚えていたようで、リリもヴェルフたちの話を聞いて何かを思い出したようで俺にすがってきた。

 

 

「18階層………そうです、そうですよ!あの時、ケンマ様は密かに食料を持ってきていたではありませんか!もしかして、今回も…………」

 

「バックパックは持って来てないぞ」

 

「そんな………」

 

「だけど、食料ならあるぞ」

 

「「「へ?」」」

 

 

俺の「食料ならあるぞ」という言葉に全員が反応して、注目が集まる。前回と違ってリュックサックのようなバックパックではなく、割かし大きめで横長のベルトポーチをオラリオを出る前から腰に巻いており、そのポーチから小袋を一つ取り出して、その中からカチンコチンに凍っているミニチュアサイズの冷凍肉を取り出す。

 

取り出した冷凍肉のあまりの小ささに皆は、落胆したのか溜め息を吐かれてしまうが俺としてはまだ終わりではない。

 

 

「身体は剣で出来ている」

 

 

疑似詠唱を唱えてから『魔剣創造』でとある能力を付与した魔剣ナイフを創造。その魔剣ナイフをミニチュアサイズの冷凍肉に軽く当てると、冷凍肉が輝きを放ち、そのサイズを徐々にミニチュアサイズから食べ応えのありそうな程の大きさまで巨大化する。

 

あれだけ小さかった冷凍肉が魔剣ナイフを軽く当てただけで、その大きさをあっという間に逆転させたことにヘスティアたちは驚きのあまり声が出てしまう。

 

 

「「「「うそーーーー!!?」」」

 

「肉以外にも野菜や魚もあるから安心してくれ」

 

 

 

 

○●○

 

 

 

 

「んんんんッ、うんま~い!」

 

「いや~、本当にケンマくんには感謝しかないねぇ」

 

「全くですね。ケンマ様が食料を持っていなければ、今頃リリたちはパンを齧るかもしくは食べずに野宿するところでした」

 

「やっぱりケンマは凄いね、ヴェルフ」

 

「だな。18階層の時といい、今といい、ケンマが居てくれれば大抵の事では困らないかも知れねぇな」

 

「オリオン。貴方は多才なのだな」

 

「いや、多才というよりもやれることをやれる範囲でやってるに過ぎないな」

 

 

上からヘスティア、ヘルメス、リリ、ベル、ヴェルフ、アルテミスの順で一名を除いて皆、鍋を囲って予備の食料を持っていた俺に感謝しながら料理を美味そうに頬張る。けれど、一人だけ料理を一口も口にしていない者がいた。それはアルテミスだ。

 

そのことに知っていた俺は、このあとの展開が予想出来たので敢えて何も言わないでいると代わりにベルがアルテミスが食べていないことを指摘する。

 

 

「あれ? 食べてないんですか、アルテミス様?」

 

「ああ……私は……」

 

「そうですか……」

 

 

そして、何を思ったのかアルテミスは俺に料理を刺したフォークを差し出してくる。それも異性(美少女・美女に限り)にやられたいトップファイブには入るであろうあれだ。

 

そんなことをやってくるアルテミスに、回りの皆もフォークを差し出された俺へと視線が集中する。

 

 

「あ~ん」

 

「はっ?」

 

「はい、あ~ん」

 

「いや、そうじゃなくて…………」

 

「あ~ん」

 

「いや、だから………」

 

「あ~ん」

 

「はぁ、あーん、んむ」

 

「「「おお!」」」

 

 

いやいや「おお!」じゃねぇよ!?どう見てもアルテミスのあれは某RPGの「はい」を選択をするまで無限ループを繰り返すアレだよな!!それに見られる側はめちゃくちゃ恥ずかしいんだからな!?

 

てな訳で少しだけ仕返しをしてやることにした。それはベルのことが好きなヘスティアとリリを煽り、ベルにも「あ~ん」をしてもらい恥ずかしい思いをしてもらうことだ。

 

 

「ところで神ヘスティアとリリは、ベルにしなくていいんですか?あ~ん、を」

 

「えっ?」

 

「「はっ!」

 

 

俺の言葉にヘスティアとリリはようやく気付いたようで、このチャンスを逃してなるものかとばかりに野菜と肉または野菜と魚をフォークに刺して、ベルに刺し出す。それも同じタイミングでだ。

 

その後、ベルが二人による強制あ~んによって苦しみ悶えるのは火を見るより明らかであった。

 

 

 

 

○●○

 

 

 

 

ちょっとしたハプニングというか疲れることがあったが、無事に腹を満たした俺たちは改めて昼間の『アンタレス』のクローンたちについて話をまとめることにした。

 

そして、最初に話を切り出したのはヴェルフだった。

 

 

「それにしても……あのモンスターは、なんだたんだ?」

 

「蠍型のモンスターはいますが、あれは見たことがありません」

 

「近くの村を襲っていると言っていたけど」

 

「…………ことの始まりは、モンスターの異常な増殖が確認されたことだった………」

 

 

唐突に語り始めたヘルメスに俺たちの視線が集まる。

 

 

「原因を調べるために多くの【ファミリア】が遣わされたが…………全て消息を絶った。場所は彼の地エルソス。そこの遺跡には、ある封印が施されていた」

 

「封印……?何をですか?」

 

「陸を腐らせ、海を蝕み、森を殺し、あらゆる生命から力を奪う」

 

「古代、大精霊たちによって封印されたモンスター。アンタレス」

 

 

アルテミスによって、封印されていたモンスターの名前が明かされるとそれをベルは復唱した。

 

 

「……アンタレス……」

 

「だが、奴は長い時をかけて深く、静かに力を蓄え……遂に封印を破った」

 

「封印を破ったって……」

 

「それじゃあ……」

 

「ああ、今回の件をオラリオも重く受け止めていてね……オレの【ファミリア】を派遣したんだ。そこで同じ目的で赴いていたアルテミスと出会った……そして、援軍を呼ぶためにオラリオに戻ったという訳さ……」

 

「待ってください。それじゃあ、もっと強い【ファミリア】を………」

 

 

現状を強く理解したリリは、今からでも自分たちよりも強い【ファミリア】。例えば、【ロキ・ファミリア】あるいは【フレイヤ・ファミリア】、そうでなければ【イシュタル・ファミリア】辺りの第一級冒険者が少なからず一人はいる【ファミリア】に援軍を呼ぼうと打診しようとするが、それをアルテミスは否定する。

 

 

「無駄だ。あの槍でなければ、アンタレスは倒せない。そして、槍に選ばれたのは………貴方だ………」

 

「…………」

 

 

アルテミスは直ぐ側の木に立て掛けてある『槍』を一瞥してから強い眼差しで俺を見つめる。二人でしばらく見詰め合い、沈黙が続く。

 

それを打ち破るようにヘルメスがおどけて見せながら大丈夫だと言う。

 

 

「───なぁに、大丈夫!『槍』さえあれば、全て上手く行くさ。ほれ、明日に備えて、もう寝よう」

 

「なら、そうするかな。さすがに貧血気味な状態で千本桜を使ったから疲れた」

 

「ケンマもこう言ってるし、仕方ないね」

 

「んじゃ、とっととテントの用意をしちまうか」

 

「ですね」

 

「ボクたちもテントを用意するのを手伝おう、アルテミス」

 

「もちろんだとも」

 

 

こうして、俺たちは手分けしてテントを立てるのであった。

オリ主たちの新本拠地候補

  • 第六区画 『竈火の館』の近く
  • 第七区画 元ヘスティア廃教会
  • 西地区 豊穣の女主人の近く
  • 北地区 適当に
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