臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか?   作:黒牙雷真

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第九話

 

 

 

 

 

 

〈sideベル〉

 

 

 

「ちょっと気まずいなぁ…………」

 

 

時は正午前、僕はダンジョンへ行く前に、とある酒場の前で気分がへこんでいる。けれど、しばらく悩んでから意を決して『Closed』と札がかけられているドアをくぐる。すると、ドアに付けられていたベルが来客を知らせる音色を奏でて店員さんたちの視線を僕に集める。

 

 

「すみませーん」

 

 

しかし、店員さんだけではなく、一昨日の夜に僕の身勝手な暴走で迷惑をかけたパーティーメンバーのケンマが何故かそこにはいた。

 

 

「あれ、ベル?」

 

「えっ、ケンマ? どうして?」

 

「うちの主神がここでバイトをさせてもらってるからな。そのついでだ」

 

「なるほど。あっ、すみません! シル・フローヴァさんと女将さんはいらっしゃいますか?」

 

 

一昨日の無銭飲食の件について、シルさんと女将さんを呼んでもらうようにお願いすると茶毛のキャットピープルの店員さんとエルフの店員が僕の言葉に少し目を丸くすると、キャットピープルの人は何かに気付いたように見る視線を改める。

 

 

「ああぁ!あん時の食い逃げニャ!シルに貢がせるだけ貢がせといて役に立たニャくニャったらポイしていった、あん時のクソ白髪頭ニャ!!」

 

「貴方は黙っていてください」

 

「ぶニャ!?」

 

「リューさん……速え……」

 

 

ケンマには見えたのか、エルフの店員さんがキャットピープルの店員に入れた一撃を僕は捉えることができなかった。

 

一撃をもらってぐったりしたキャットピープルの店員さんの襟首を掴み、ずるずると店の奥へと引き摺っていくエルフの店員さんに冷や汗と一緒に見送った後、手持ち無沙汰になってしまったので唯一同性であるのケンマに声をかけることにした。

 

 

「ねぇ、ケンマ」

 

「なんだ?」

 

「パーティーを組んだはいいけど、待ち合わせの時間とか場所とか決めてなかったよね」

 

「そういえばそうだな。じゃあ、『豊饒の女主人』の前にしようぜ。うちの主神様を送るついでに弁当を貰うつもりだからさ」

 

「じゃあ、朝の七時くらいに待ち合わせね」

 

「ああ」

 

 

明日からの待ち合わせ場所と待ち合わせ時間を決めると、階段を急ぎ足で下りてくる音がすると直ぐに店の奥からシルさんが現れた。

 

それからシルさんに一昨日の夜のことをお互いに謝罪すると何かに気付いたのか、シルさんは一度店の奥へと消える。少しして戻ってきた時には、彼女は手に大きめなバスケットを二つ抱えていた。

 

 

「ダンジョンに行かれるんですよね? よろしかったら、もらっていただけませんか? こっちのはヴィクトリア様からケンマさんにです」

 

「ありがとう、シル。ベルももらっておけよ。せっかくのご厚意だ」

 

「いや、でも、何で………」

 

「差し上げたくなったから、では駄目でしょうか?」

 

「………すみません。じゃあ、いただきます」

 

 

流石に、あれだけ露骨にアピールされてしまっては僕も断り切れない。むしろ、これ以上はシルさんに対する罪悪感で押し潰されそうだ。

 

両手で、シルさんが差し出してくるバスケットを受け取る。すると、ぬぅ、とカウンターバーの内側にあるドアから女将さん─────ミアさんが現れる。

 

 

「兎の坊主が来てるって? ああ、なるほど、金を返しに来たのかい。感心じゃないか」

 

「ど、どうも………」

 

「でも、生憎とアンタのお代はどこぞのお人好しが肩代わりしてくれたよ。そいつに感謝するだね。あの【ロキ・ファミリア】の【剣姫】に面と向かって、お前さんを追いかけるは止めるように言うんだからね」

 

「え?」

 

 

 

あの時、【ロキ・ファミリア】の狼人族の人の言葉で、僕は悔しくてダンジョンに走っていた時、あのアイズ・ヴァレンシュタインさんが僕を追いかけようとしていた?

 

もしも、ミアさんが言っているお人好しの人が彼女を止めることなく僕を追わせていたら、僕はどうなっていただろう。もしも、来てくれたのがケンマじゃなくて、【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインだったら………。

 

そう考えた途端に、僕は拳を握り締めていた。もしもあの時、アイズ・ヴァレンシュタインが追いかけてきて助けられたら今度こそ、僕は冒険者として、いや男として大切な何かを失っていたはずだ。それだけは嫌だ。そんなことを頭の中で考えているミアさんから声がかかる。

 

 

「……坊主」

 

「はっ、はい!」

 

「冒険者なんてカッコつけるだけ無駄な職業さ。最初の内は生きることだけに必死になってればいい」

 

「ッ!!」

 

「惨めだろうが笑われようがだろうが、生きて帰ってきた奴が勝ち組なのさ」

 

 

ミア、お母さん…………。

 

僕は、自分の両親の顔や声を知らない。物心が付いた頃には育ての親であるお爺ちゃんとのんびりとした田舎で暮らしてた。だからなのか、母親というのはこういう感覚なのかと…………。

 

一人で感傷に浸っていると、突然、身体の向きを前後入れ替えられて大きな手が肩に乗せられる。この大きな手からは、とても温かな物を感じる。

 

 

「アタシにここまで言わせたんだ、簡単にくたばったら許さないからねえ」

 

「…………」

 

 

次の瞬間、その大きな手で僕を背中を押して、ダンジョンへ送り出してくれた。

 

 

「さぁ、行った行った。店の邪魔になるよ」

 

「はい!行ってきます!」

 

 

そう言って僕は、走り出すと後ろからケンマの「おい、置いて行くなよ!」という声が聞こえてきたが高揚感が足を止めさせてくれなかった。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

〈sideヴィクトリア〉

 

 

 

「ここで間違いない、わよねぇ…………」

 

 

目の前にある知人であるガネーシャの姿を模した大きな施設であり、パーティー会場の入り口が男性の彼処であることも合わさり、戸惑いを隠せずその場に立ち止まってしまう。

 

あまり気乗りしないけど、パーティーに呼ばれたからには参加するためにも【ガネーシャ・ファミリア】の本拠へと足を踏み入れる。会場に入ると何人か見知った顔触れもチラホラと会場に来ていた。

 

なかでも同じローマ神の一柱である『炉の神』であるウェスタ、正しくウェスタのもう一つの姿でギリシア神の一柱でウェスタと同じく『炉の神』であるヘスティアがパーティーの料理を持ち帰るためなのか容器に詰め込んでいるのを見つけた。

 

 

「なにをやってるのかしら、ウェスタ」

 

「ん? んんっ!? もしやキミは、ニケかい!ニケじゃないか!?」

 

「久しぶりね、ウェスタ。でも、今のわたしはギリシア神のニケではなくローマ神のヴィクトリアよ」

 

「だったらボクだって、ウェスタじゃなくてヘスティアだよ!それにしても久しぶりだね。いつ下界に?」

 

「ほんの五日ほど前よ。あなたは?」

 

「ボクは、もうかなり経つかな」

 

「お互いに貧乏みたいね」

 

「あはは………でも今だけさ、そのうちボクの眷属が成長すれば、こんな生活ともおさらばさ!」

 

 

そう言って、ヘスティアは明るく人懐っこい笑顔を見せてくれる。本当にウェスタの時と大違い。明るく人懐っこい子供のような言動がヘスティアならば、威厳のある冷静沈着な言動をするのがウェスタ。どちらも大切な友人だ。

 

しばらくヘスティアをお喋りを楽しいでいると新たな友人が加わってくる。

 

 

「あら、もしかしてニケ? 久しぶりじゃない。それにヘスティアも元気そうで何よりよ」

 

「ヘファイストス!」

 

「久しぶりね、ヴァルカン」

 

「止めてよ。今の私はヘファイストスよ。でも、あなたがその名前を口にするということは、今のあなたはヴィクトリアでいいのかしら?」

 

「ええ。それで間違いないわ」

 

 

ローマ神の一柱『鍛冶の神』ヴァルカンではなく、ギリシア神の一柱『鍛冶の神』ヘファイストスも交えで近所報告しているとヘスティアがヘファイストスにお願いがあると伝える。それを聞いたヘファイストスは、ヘスティアがお願いの内容を言う前に「お金は一ヴァリスも貸さない」と即答する。

 

全く、ヘスティアは何はいくらお金を借りたのかしら? 威厳があって冷静沈着なウェスタであれば、こんなことは起きないし、起こさないと思ってしまうのは仕方ないだろう。

 

 

「ふふ…………相変わらず仲が良いのね」

 

「え……フ、フレイヤっ?」

 

「久しぶりね、フレイヤ」

 

 

突然現れたフレイヤに、ヘスティアは驚き、わたしは二大最強派閥の一角である【フレイヤ・ファミリア】の主神が来ることは予想していたのでそこまで驚くことはなかった。

 

けれど、相変わらず色気を振り撒いている所為で、周りの男たちが魅力されて鼻の下を伸ばしているのはいただけない。

 

 

「久しぶりね、ニケ。いいえ、ヴィクトリアと呼んだ方がいいかしら」

 

「な、何でキミがここに………」

 

「ああ、フレイヤとはすぐそこで会ったのよ。久しぶりー、って話していたら、じゃあ一緒に会場を周りましょうかって流れに」

 

 

フレイヤがいることについて、ヘスティアが訪ねるとフレイヤの代わりにヘファイストスが軽く答えた。その答えにヘスティアは表情を引き吊らせる。

 

ヘスティアとフレイヤのやり取りを視界の端に捉えながらガネーシャの子供が定期的に配っているお酒が注がれているワイングラスを片手に、久しぶりのお酒をゆっくりと味わう。半分くらい飲み干したところで、ヘスティアたちの知人がやってきた。

 

 

「おーい! ファーイたん、フレイヤー、それとドチビー!!」

 

「あら、ロキ」

 

「久しぶりね、ロキ」

 

「おっ、おお!ヴィクトリア、ヴィクトリアやないか!?」

 

 

オラリオの二大派閥の片割れである【ロキ・ファミリア】の主神ロキ。彼女とは、天界でヘスティアと色々あって知り合りになった女神である。

 

そして、ロキとヘスティアは顔を合わす度にお互いにケンカをする。主にロキがケンカを吹っ掛ける。何故なら、ロキは女神なのに胸が平たい。逆にヘスティアは山である。そんな周りからしたどうでもいいようなケンカを止めるよりも賭け事に発展するのも天界では日常茶飯事だった。

 

今回は、ヘスティアに軍配が上がったところで、わたしも他の旧友たちに挨拶をして、豪華な料理とお酒を楽しんでから眷属が待っている拠点へと帰宅するのであった。

 

少しばかりお酒に酔いながら拠点に帰宅すると、ケンマから「酒臭い」と言われて、かなりショックを受けたことをここに記して置くことにしよう。

オリ主たちの新本拠地候補

  • 第六区画 『竈火の館』の近く
  • 第七区画 元ヘスティア廃教会
  • 西地区 豊穣の女主人の近く
  • 北地区 適当に
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