臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか? 作:黒牙雷真
〈sideケンマ〉
ファルガーさんたち【ヘルメス・ファミリア】が切り開いてくれた活路を一直線に駆け抜けて行く俺たちは、周りを湖で囲まれている『エルソスの遺跡』に唯一入れる石橋を渡って、内部へと突入する。
「こんな遺跡があったなんて………」
「でけぇ……」
「歴史に忘れられた、古代の神殿………」
『エルソスの遺跡』のあまりの大きさにリリ、ヴェルフ、リューさんはそれぞれの感想を口にする。対して、ベルはそんな感想ではなく『アンタレス』が待ち構えているはずなのに、あまりにも静かなことに違和感を感じたようだ。
「……静かですね……」
「先ほどの奇襲のこともあります。油断しないで下さい」
「行きましょう」
先頭をこの中で一番強いLV.4 のリューさんが、最後尾は次に強いLV.3 のアスフィさんが務めながら俺たちは遺跡の内部へと侵入していく。
十分に警戒しながらゆっくりと遺跡内部を進んでいると、途中から内壁の溝から光蘚とは少し異なる淡い光が発光しており、松明などを灯さずとも歩ける程度には明るい。
「この光は?」
「封印の光だ。これを施したのは私に類する精霊たち。謂わば私の最も古い眷族だ」
「そんな昔から………」
ベルの疑問にアルテミスが答えるなか、俺は内壁に描かれている碑文や刻絵などに所々に月や弓矢を構える乙女たち、人々。そして、『アンタレス』と思わしき巨大な蠍の刻絵に注目していた。
それから程なくして、巨大な石門が見えてきた。ここから先は、正真正銘敵の勢力圏内。
「着きました。ここが、お話しした封印の門です」
「いよいよってわけか………」
「この奥にアンタレスが………」
前世からの劇場版の色濃く残っている記憶からこの先がどんな状況なのかを知っている俺は、腰に差している聖剣を消して、異空間から《エクス・デュランダル》を引き抜いてから直ぐに《デュランダル》と《真のエクスカリバー》に分離させて、二刀流にする。
二振りの聖剣について知っているベル、ヴェルフ、リリは早々に俺が伝説の聖剣を二振りも引き抜いたことに驚いてからそれだけヤバい奴が門の先に待ち構えているのだと気を引き締める。
また、他に伝説の聖剣について知らないリューさんたちは何もない空間に穴が開いて、そこから剣を引き抜き、更に剣の中から新たに別の剣を引き抜く光景を見て唖然としてしまっているが俺は何にもしない。それよりも門を開けたら直ぐにアルテミスには退がってもらうように頼む。
「アルテミス、門を開けたら直ぐに後ろに退がってくれ。この先にモンスターたちが待ち構えてる」
「ッッ!分かった、オリオンに任せる」
「では、私は詠唱を始めましょう。我が弟子だけにやらせていては、師の一人として名折れですから」
俺の言葉に『嘘』がないと分かったアルテミスは、俺の頼み通りに門を開いたら直ぐに後ろへ退がってくることを受け入れてくれた。更にリューさんまでもが俺の言葉を信じて、『魔法』の詠唱を唱え始めてくれた。
当初のイメージでは、門が開いた側から俺が【クロス・クライシス】でクローンたちの卵を一気に吹き飛ばす予定だったが、リューさんがフォローに入ってくれるお陰で全力で一撃を放てそうだ。
「それでは、開けるぞ」
「いつでも」
門の前でアルテミスが振り返り、俺たちに準備は良いかと訪ねてくるので《デュランダル》と《真のエクスカリバー》を重ねて、増大し続ける聖なるオーラを周りに溢れ出さないように刀身に留めながら答える。詠唱を唱えているリューさんは頷いて答える。
アルテミスが門に触れると、彼女の身体から封印の光と似た淡い光が溢れだし、指先にある弓矢と三日月の刻絵が刻まれた円がその光────いやアルテミスの神威に反応したのか、ぐるりと動き始め、三日月を下に弓矢が射るような形に変わると封印が解かれたのかゆっくりとだが門が開き始める。
そして、門が開いたその先にはおぞましい光景が広がっていた。その光景に、俺を除いた全員が言葉を失う。
「───ハッ!!」
「こ、これは………!?」
「神殿に、寄生しているというのですか!?」
「そんな………!?」
「まさか、ここまでとは………」
門の先が『アンタレス』によって寄生されていることに唖然するとアルテミス。同じく唖然としながら絞り出すように言葉にするリリとアスフィさん、状況が思っていたよりも深刻になっていることに驚くヘルメス。
そんな彼女たちには悪いが状況が状況なので、即座にアルテミスには我へ返ってもらうために叫ぶ。
「アルテミス、退がれ!」
「ッッ!!」
俺の叫びを聞いたアルテミスは反射的に後ろに飛び退き、射線上から外れる。それを見て確認した俺は、門前方に何の障害もないため、抑えに抑えていた増大し続ける聖なるオーラを解放して、全力の【クロス・クライシス】を門の先へと繰り出す。
「クロス・クライシス!!」
全力で放たれた【クロス・クライシス】は、クローンの卵やそれに栄養を送る枝のような管すらも根こそぎ消し飛ばしながら奥へと斬撃が進んでいき、一筋の道を作り上げる。
二振りの伝説の聖剣による圧倒的な一撃に、初めて見るベルたちは驚きが隠せないといった表情をする。それも無理はないだろう。『ハイスクールD×D』の原作で初めて繰り出された際の【クロス・クライシス】は、その余波だけでバトルフィールドに大きな裂け目を作り上げて、そこから次元の狭間を覗かせるほどの威力を持つ。
今回は天井や床、壁までも『アンタレス』に寄生されていたお陰なのか遺跡が崩れるようなことはなく、寄生していた物が根こそぎ消し飛ぶだけで済んだ。
「な、何という威力ですか………」
「これは驚いたな。卵やその他諸々が根こそぎ消し飛んでる」
「でも、大丈夫なのかケンマ。 いきなりあんな大技使ってよう……」
「これくらい大丈夫だ」
今の一撃を見て、【クロス・クライシス】がいつも使っている【月牙天衝】と同じで体力や精神力を使って放つ技だと思ったヴェルフがそう尋ねてきた。
けれど、【クロス・クライシス】は【月牙天衝】と違って僅かに溜めを必要とする代わりに体力や精神力、オーラといった力を消費しない。対して【月牙天衝】は溜めを必要としない代わりに体力や精神力、オーラといった力を消費して放つため、どちらにもメリットやデメリットが存在する。
今回は『アンタレス』との戦闘を考慮して、体力などを消費しない【クロス・クライシス】を選択したのだ。
「今は先を急ぐぞ!」
○●○
「オリオン、次を左だ!」
「左だな!」
遺跡内部の構造に詳しいアルテミスに道案内をしてもらいながら俺たちは遺跡の最奥へと進んで行くのだが、その途中で俺たちの行く手を阻むように進化を遂げた第二形態のクローンやその前の第一形態のクローンの群れが待ち構えている。
「ここにも進化した奴が居やがるぞ!」
「奥の個体は私が仕止めます!他の取り巻きはイシグロさんたちが!」
「分かりました!」
「任せて下さい!」
迫り来るクローンたちの中で一番厄介な第二形態のクローンに向かって、リューさんは壁を横走しながら肉薄する。他の第一形態である取り巻きはこれまでの道中でLV.1 のヴェルフでも倒せることが判明しているので適材適所で俺たちに任せてくれる。
「はああああッ!!」
「うおらあああッ!!」
「でやああああッ!!」
「せああああッ!!」
「やああああッ!!」
各々、自分の持ち味を生かしながらクローンたちを倒して行く。しかし、ヴェルフが相手をしている第一形態クローンの一匹が突如として第二形態へと進化を遂げる。第二形態はアスフィさん謹製のバーストオイルすらも耐えうるため、その甲殻にヴェルフが持つ大刀での攻撃が通用するかわからない。
「なっ、いくらなんでも速すぎるだろうッ!?」
『キィィイイ!!!』
「ヴェルフ!」
「くそっ、少し遠いか!でも、こいつでどうだ!!」
なので、ヴェルフが反撃を受ける前に第二形態クローンの腹下の床から斜め上に突き出るように聖剣を創造。それによって、無防備な腹下から攻撃を受けた第二形態クローンはそのままひっくり返り、まるで亀のようにジタバタと起き上がろうとするが上手く起き上がることが出来ずにいる。
当然、そんな美味しい状況を鍛冶師兼冒険者であるヴェルフが見逃すはずもなく。第二形態クローンに向かって、勢い良く駆け出し途中で足に力を込めて跳躍すると兜割りの要領で第二形態クローンを真っ二つに両断する。
「ッッ!うおおおおらあッ!!」
『キィ、キィィィ…………』
核である魔石ごと両断された第二形態クローンは短い断末魔と共に灰となって消滅し、残ったのは粉々になった魔石と灰だけだった。
「大丈夫か、ヴェルフ?」
「おう、サンキュー、ケンマ。助かった」
「親友だろう、気にするな。しかし、ヘルメスの言う通り、奴らの自己進化は異常だな。これじゃあ、間違いなくダンジョンを越えるヤバい奴になるぞ」
「「「…………」」」
その俺の言葉に、皆は薄々気付いていたようで息を飲み込んだ。
それからも幾度となく第一形態クローンや第二形態クローンを撃破し、時には第三形態までもが新たに誕生して俺、リューさん、アスフィさん、ベルの四人の上級冒険者総出で対処に当たったりと映画として見ていた時よりも実際の『エルソスの遺跡』の攻略は難航している。
案内役のアルテミスがいるお陰で今の所は最低限の戦闘で済んでいるが、背後からクローンたちに追い立てられる逼迫感に精神が少しずつ蝕まれている所為か途中の石橋を渡る頃には息が上がり初めている。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
「どんだけ居るんだよ!」
こんなにクローンの数が多いのならば、初っぱなから『赤龍帝の鎧』を顕現させて、遺跡の上からフル倍加で増大させたドラゴンショットを叩き込んで、遺跡諸とも吹き飛ばせばよかったかなと血迷った考えが浮かんでしまうのは仕方ないだろう。
けれど、そんなことをして、万が一にも『アンタレス』に取り込まれているアルテミスの本体までも消し飛ばしてしまっては神殺しの大罪を犯してしまうので、それはやっぱり無しだなと何度目になるか分からない考えを改める。
しかし、何度考えを改めても募っている怒りはきえてくれはしないので走りながら《デュランダル》と《真のエクスカリバー》の刀身を重ねて、聖なるオーラを高める。そして、振り向き様に怒りを乗せた【クロス・クライシス】を追ってくるクローンたちにぶつける。
「うぜぇんだよ!死に晒せ、害虫共が!!」
「お、おお…………ケンマが珍しく怒りを爆発させてやがる。てか、今の威力上がってないか!?」
「でも、お陰で後ろの心配は次が来る間だけはしなくて済むね」
ヴェルフの言う通り、今の【クロスクライシス】はアルテミスが封印の門を開いた直後に放った時に近い威力を誇っていた。推測の域を出ないが俺の怒りの感情を俺に宿る神器が読み取り、二本の聖剣と相性の良い『聖剣創造』によって聖なるオーラが増したのだろう。
そんな推測の域を出ない考察をそこそこに俺たちは、ようやく『アンタレス』の近くまでやって来たようで奴の雄叫びを耳で捉えた。
『シャアァァァァァァ!!』
「「「「!!」」」」」
「これが………!」
「近い………」
『アンタレス』の雄叫びが届き、奴との距離が縮まるにつれてアルテミスが苦しそうに胸を抑えることが増え始めてきたが、それでも俺たちは最奥へと歩みを止めることはなかった。
ようやく、最奥へと到達するとそこには幾つもの血管のような触手から遺跡周辺の大地からドクドクと生命エネルギーを吸収している蠍型とは形容し難い姿の巨大で真っ黒なモンスターが中央で鎮座していた。また、奴の身体からは何やら不吉そうなオーラが空へと登っている。
「あれが、アンタレス………」
『オォォォ────』
「うっ………」
「アルテミス様!」
「討ってくれ……お願いだ、オリオン……あれを……」
嘆きにも似た願いをアルテミスは『槍』を持つ俺に懇願してくるが、そんな彼女を嘲笑うかのように或いは彼女の希望をとことんまで摘んでやろうとするように『アンタレス』は腹部にある甲殻を四方に開閉して、自ら魔石を晒す。
だが、ただ単純に己の弱点たる魔石を晒した訳ではない。魔石を晒したのは、その魔石の中に捕らわれている女神を俺たちに見せるためでもあるのだろう。その甲斐があってか俺を除いた皆は唖然とする者や目を逸らす者が出た。
そんな彼ら、彼女らを他所に俺は『槍』をベルに押し付ける。
「ベル、『槍』とアルテミスを頼む」
「えっ? ケンマ、何を…………」
「態々、弱点を晒してくれたんだ。攻めない手はないよな!【プロモーション・クイーン】ッ!!」
「ケンマ!?」
「駄目だ、オリオン!」
アニメや漫画のキャラクターのように空気を呼んで「どうして?」、「なんで?」、「そんな、バカな……」なんて事は言わない。この状況を知っている俺からしたら、そんな暇があるなら弱点を突いて少しでも状況をこちらに傾けさせる。
そのためにも【プロモーション】で『女王』へと昇格、《天閃の聖剣》と【魔力操作】による【瞬歩】の三つの能力で移動速度を『赤龍帝の鎧』を顕現させていない状態で引き出せる最大速度で『アンタレス』との距離を縮める。
さすがの『アンタレス』もまさか人間が空を飛びながら迫って来ると思いもするまい。だけど油断はせずに《真のエクスカリバー》と《デュランダル》を合体させて、《エクス・デュランダル》を両手で握り直す。そうすることで『女王』で補正が掛かっている『力』が分散することを防ぐ。
「まずは、てめえの魔石の中にいるアルテミスの本体を返してもらうぞ!!」
一気に『アンタレス』へと肉薄するが、奴とて馬鹿ではないようで即座に溜めていた不吉なオーラを一条の光線へと変化させて、天に向かって放った。
それを目にした俺は、その後に起きるであろう出来事を察知して即座に方向転換するために『聖剣創造』で左手に刃のない三本の小刀を創造。その小刀にオーラを流し込み、某家庭教ヒットマンに出てくる変則四刀流のようにオーラを推進力にしてアルテミスたちがいる場所へと舞い戻る。
「ッッ────アスフィさん、神を守れぇえええ!!」
「ヘルメス様!神ヘスティア!」
神であるヘスティアとヘルメスに一番近いアスフィさん、二柱を守るよう叫びながら俺もアルテミスを抱き寄せて、《エクス・デュランダル》を《擬態の聖剣》の能力で大楯に擬態させて、攻撃に備える。
すると、程なくして先ほど『アンタレス』が放った光線が光の矢となって、俺たちに降り注ぎ襲い掛かってきた。
オリ主たちの新本拠地候補
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第六区画 『竈火の館』の近く
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第七区画 元ヘスティア廃教会
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西地区 豊穣の女主人の近く
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北地区 適当に