臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか? 作:黒牙雷真
〈sideリュー〉
「ん、んん~…………ここは?」
私は朦朧とする頭で状況を把握してようと努めながら、なぜ自分が見覚えのない場所の地面で倒れていたのかを思いだそうとすると即座に先ほどまでの光景が鮮明に甦った。
「そうでした………アンタレスの攻撃で足元が崩れて、それで………はっ!イシグロさんとクラネルさん、それに神アルテミスがいない!?」
現状の把握が大分完了するとこの場所にいない者たちに気が付く。それは我が愛弟子と友人の想い人と一柱の女神だ。
辺りを見回しても彼らの姿はないことから近くにはいないのは明白。ならば、何処に? と思い少しだけ周囲を確認すると私がいる場所よりも更に地下へと行ける道を発見することが出来たので、彼らはここよりも更に地下にいるのだろうと推測する。
その推測を推測から確信に変えるためにも、未だに気絶している神ヘスティアを起こして、クラネルさんの【恩恵】が消えていないかを尋ねる必要がある。そう簡単な行動方針を決めると神ヘルメスが目を覚ましたようだ。
「痛たた………ここは?」
「目を覚ましたか、神ヘルメス」
「ん? あっ、リューちゃんか。他の皆は?」
「イシグロさん、クラネルさん、神アルテミスを除いた六名は命に別状なく居ますが、イシグロさんたち三名はここに居ません」
「そうか………」
「神ヘルメス、先ほどの攻撃は一体………」
「それについてはアスフィたちが目を覚ましてから説明するよ」
「…………そうですか」
今はどう足掻いても説明してもらえないと思った私は、神ヘルメスの言う通り、皆が目を覚ますのを待ちながら周囲の警戒をしておくことにした。
それからしばらく周囲の警戒をしていると神ヘスティアが目覚め、その次は【ヘファイストス・ファミリア】の鍛冶師、アンドロメダの順で目を覚ました。
「ん、んん~………ここは?」
「目が覚めたようですね、アンドロメダ」
「
「ここは、おそらくエルソスの遺跡の地下です。アンタレスの攻撃によって、地盤が崩落、私たちはそれに巻き込まれてこの場所に落ちてきたようです」
「エルソスの遺跡……地下……アンタレス……攻撃…はっ!」
現状を簡単に説明すると、それを聞いたアンドロメダは意識がはっきりしたようで慌てて辺りを見回して神ヘルメスを見つけるなり即座に立ち上がり、掴み掛かりました。
「ヘルメス様、答えください!」
「…………」
「あれは、どういうことですか!? あれは神の力、『アルカナム』!なぜ、モンスターがあの力を!?」
「………アルテミスが喰われたからだ」
アンドロメダの問いに、神ヘルメスは無慈悲な答えを出した。その答えに私も少なからず言葉を失ってしまった。
皆が言葉を失っていると先ほど、アンドロメダが神ヘルメスに掴み掛かっている間に目を覚ましたリリルカさんがクラネルさんたちがこの場にいないことにようやく気が付いたようで、鍛冶師の彼に彼らの居場所を訪ねる。
「────!ヴェルフ様、ベル様とケンマ様、それにアルテミス様は!?」
「ここにはいない。多分、もっと下だ」
「………ベル様、ケンマ様」
リリルカさんは、瓦礫で塞がって下が見えない場所を悲しそうに眺めていた。なので、私は元々決めていた行動方針に乗っ取って、神ヘスティアにクラネルさんの【恩恵】の有無について尋ねることにした。
「神ヘスティア、クラネルさんに刻んだ【恩恵】はまだ感じ取れますか?」
「はっ、そうですよ!ヘスティア様ならベル様の生死がわかるはずです!」
「ベルくんは生きてるし、【恩恵】も感じられる。ただ、ケンマくんとアルテミスは………」
「そのことでしたら心配は無用です。我が弟子は簡単に死ぬような鍛練を日頃から課してはいませんから。神アルテミスに関してもあの時、イシグロさんが咄嗟に彼女を抱き寄せて、持っていた剣を盾にして守っていたので送還されてはいないはずです」
「だよな。あのケンマが簡単にくたばるなんて想像がつかねぇ」
「ですね。ケンマ様であれば、多少は怪我をしていてもアルテミス様を守り抜いていそうです」
リリルカさんも鍛冶師の彼もクラネルさんのことはかなり心配しているようですが、イシグロさんに対しては絶対なる信頼を置いているようでクラネルさんほど心配はしてないようです。
三人が生きてる可能性が高いと認識を改めたあと、アンドロメダが先ほどの話の続きを神ヘルメスに問う。
「ヘルメス様、アルテミス様がアンタレスに喰われたのであれば、今まで私たちと共にここまで駆け抜けて来た彼女は一体誰なのですか?」
「彼女は『槍』に宿る思念体……言わば女神の残滓。彼女はアルテミスであって、アルテミスじゃない」
「……それって……」
「神の力を、その身に取り込んだアンタレスは───全ての理を曲げる」
「そんなの!そんな無理に決まってるじゃないですか!いくらケンマ様が強くても、リリたちが敵うわけない!神様たちがなんとかして下さいよ!」
リリルカさんの言葉は最もだろう。だが、現実はいつも非情だ。私の時もそうだったように………。
「ごめん……」
「えっ……」
「ごめん……」
「神々でも駄目ならどうしたら………」
「話の続きは移動しながらしよう。ケンマくんたちが心配だ」
神ヘルメスの鶴の一言で、私たちは何もしないでこの場にいるよりもイシグロさんたちと合流することを選択した。
イシグロさんたちが私たちの居た場所よりも更に下にいると予想を付けたあと、どうにか瓦礫を退け、地下へ繋がる道を作るとそこから先は古い洞窟に繋がっているようで、取り敢えず下に進めるルートを探しながら前進することにした。
そんな時、神ヘルメスから話の続きが開始された。
「さっきの話の続きだが、アンタレスを倒す方法は、ひとつだけある」
「あの槍ですか?」
「そうだ、リューちゃん。あれは正確には槍ではなく、矢。アンタレスに取り込まれる直前、いや後か……アルテミスは残された微かな力で、あの矢をこの地に召還した」
「ヘルメス様、もしかしてあの矢は神創武器なんですか?」
武器に詳しい鍛冶師の彼が、アルテミス様が召還されたと言う矢について神ヘルメスにそう訪ねる。
「ああ、そうだよヴェルフくん」
「神創武器………?」
「ヘファイストス様から聞いたことなんだが、天界に存在する神々をも殺す武器。それが神創武器」
「あの矢の正式名称は『オリオン』。神々の言葉で『射抜く者』を意味すると残滓のアルテミスは言っていた。そして、神の力を取り込み理を捩じ曲げるアンタレスを倒すには同じ理を捩じ曲げる武器でなければならない」
そこまで話を聞いた私は、ずっと『大木の心』で耐えて来た心が揺れてしまった。その揺れてしまった心はもうどうにも抑えることは出来なかった。
「待ってください、神ヘルメス!」
「リューちゃん?」
「その話が本当ならば、貴方は……いや、貴方たち神々は我が弟子、イシグロ・ケンマという一人の少年に世界の命運を背負わせるということですか?」
「………もう、これしかないんだ」
その言葉を皮切りに、私の頭をあの時にも似た激情が占めていく。そして、八つ当たりの如く、神ヘルメスの胸元を掴む。
「
「……っ!それでも!それでも、ケンマに押し付けるというのですか!神殺しの大罪を!私は……私や彼女たちは、そんなことを成させるためにケンマを鍛えて来た訳じゃない!ふざけるな!!」
どうしてですか?どうして私たちの愛弟子であるケンマが『神殺しの大罪』を犯さなければならないのですか? どうして? 何故?
教えてください、アリーゼ……。
教えてください、輝夜……。
教えてください、ライラ……。
教えてください、ノイン……。
教えてください、ネーゼ……。
教えてください、アスタ……。
教えてください、リャーナ……。
教えてください、セルティ……。
教えてください、イスカ……。
教えてください、マリュー……。
教えてください、アーディ……。
教えてください、アストレア様……。
誰か、私に答えをおしえてください……。
愛弟子であるケンマが『神殺し』という、この世で最も許されざる大罪の十字架をその背中に背負わなければならないと思うと、虐殺の十字架を背負っている者として私はそんなことは認められなかった。
それ故か、既に亡き仲間たちや友人、この場にいないアストレア様、最終的には誰でもいいからとケンマが神殺しの大罪を犯さない方法を教えて欲しいと心の中が懇願しながら私はやるせない気持ちを涙として流していた。
「違うよ……違うんだ……リューちゃん。これは、そういう『お話』じゃない………」
「では………では、何だと言うんですか!?」
「
「離してください、アンドロメダ!離せぇええ!!」
「
激情に流されるまま、私はアンドロメダに羽交い締めにされながらも神ヘルメスの胸元を掴み続けている時だった。突然、大きく大地が揺れたのだ。
「じ、地震!?」
「いや、これは………」
「揺れの発生源は、おそらく地下です!」
この大きな揺れの発生源が地下だと告げるアンドロメダに、鍛冶師の彼とリリルカさんが目を見開いて反応する。それは彼らが私よりもケンマたちと長い間、ダンジョンに潜っていたからこそ、何かしらを察した反応だった。
「だとしたら………」
「ベル様とケンマ様のお二人は………アンタレスと戦っている?」
ケンマたちが理をも捩じ曲げる存在と化した『アンタレス』と戦っていることに私たちは驚きを隠せなかった。先ほどの神ヘルメスが説明した今の『アンタレス』を聞いた者であれば、誰もが迷わず例の神創武器の『矢』を放つでしょう。
しかし、未だに続く大きな揺れと時折響き渡る爆発音からしてケンマたちは『矢』を使うことなどせずに、自力で『アンタレス』を倒し、神アルテミスを救い出そうと果敢に挑んでいるようだ。
ならば、私も彼の師の一人としてここで泣いているのではなく、やることをやりましょう。それが愚かな行いだとしても………。
「あまりにもそれは無謀だ。あの黒いゴライアスを吹っ飛ばしたケンマくんでもアンタレスを相手では殺されてしまう!」
「申し訳ありませんが、私は先に行かせてもらいます!」
「待ちなさい、
アンドロメダの静止の声を無視して、私は爆発音が強く聞こえてくる地下へと駆ける。どんどん爆発音が近付くにつれて、新たに爆発音と異なるとある音が聞こえてきた。
その音に私は聞き覚えがあった。それは以前、18階層で『黒いゴライアス』と激闘を繰り広げた際にクラネルさんが止めの一撃を放つ時に放たれた鐘の音だ。
「やはり、クラネルさんも戦っている!」
疾走した先で大きく空間が開けた場所の崖淵まで行くと、崖下では『アンタレス』が神アルテミスの神の力を行使しているのか奴の前で光輝く弓と矢が生み出されていた。そして、無謀なことにケンマはクラネルさんと同様に18階層で纏っていた赤い鎧に身を包みながら弓を構える『アンタレス』へと突貫しようとしている所だった。
そんなあまりにも無謀な行いに残滓の神アルテミスがケンマに静止の叫びを投げる。
「止すんだ、オリオン!いくら貴方が強くてもアンタレスが相手では殺されてしまう!お願いだから『矢』を使って私ごと奴を射抜いてくれ、オリオン!!」
「俺は約束したんだ。お前を……アルテミスを守ると!覚悟を決めて一度口にしたことは絶対に違えねぇえ!!」
そう言い放つとケンマは左手から強い輝きを放ちながら、今度こそ『アンタレス』に向かって突貫した。彼が神アルテミスと会話をしているその間もクラネルさんは左手に白い光を溜めていることを私は気付いていた。
しかし、あのゴライアスを消し飛ばす程の一撃があったとしても理を捩じ曲げる『アンタレス』に通用するかどうか。そう思っていた矢先、突貫しているケンマがクラネルさんに向かって叫んだ。
「ベルゥウウウウ!寄越せぇぇえええええ!!」
「まさか………!?」
「ファイアボルトォォオオオオオオ!!!」
ケンマがクラネルさんに叫んだその意図を理解すると同時に、クラネルさんの左手から一条の魔法が放たれた。その魔法は真っ直ぐにケンマの横を並ぶように飛んで行き、あろうことかクラネルさんの魔法がケンマが握っている青い剣に赤い焔となって宿った。
ケンマの青い剣に宿った赤い焔は、普通であれば『付与魔法』でもない限り徐々に拡散してしまうはずなのにも関わらず、その焔は拡散する素振りを一切見せない。更に今度は、ケンマの方からも聞き覚えのある音───というよりも声が聞こえてきた。
『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!』
「うおおおおおおお!!」
『Transfer!!!』
「
ケンマの籠手から「トランスファー」という声が響くと握られていた青い剣に宿った焔がその勢いを一層増して、彼の雄叫びと共に焔の色が赤から剣と同じ蒼へと変色した。
ケンマの雄叫びが地下洞窟に響き渡るなか、『アンタレス』が構えていた光の矢とケンマの蒼焔の剣が真正面から衝突した。刹那、お互いの攻撃が衝突したことにより彼らから距離が離れている私やクラネルさん、神アルテミスにまでその爆風と熱が波となって襲いかかる。
「くっ………ケンマ!?」
「ぐっ……アルテミス様!」
「くぅぅ……お、オリオン!?」
互いに渾身の一撃が衝突したことにより生じる爆風と熱のなか、私は辛うじて爆煙の中から赤い何かが真っ直ぐ壁に向かって飛んで、激突したのを捉えることが出来た。
その赤い何かとは、間違いなくケンマだと私は確信したのだった。
「ケンマァァアアアアアア!!?」
オリ主たちの新本拠地候補
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第六区画 『竈火の館』の近く
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第七区画 元ヘスティア廃教会
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西地区 豊穣の女主人の近く
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北地区 適当に