臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか?   作:黒牙雷真

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第九十二話

 

 

 

 

 

 

少々時間を遡り

 

 

 

 

〈sideケンマ〉

 

 

 

 

 

 

「クソッ、まんまとやられた…………アルテミス、ベル、大丈夫か?」

 

「ああ、私は大丈夫だ。またオリオンに守られてしまったな」

 

「僕も大丈夫だよ」

 

 

アルテミスの本体を取り込んだ『アンタレス』が放った光の矢によって、足場を崩されてベルとアルテミスの二人以外の他メンバーと離れ離れになってしまった。幸い、目立った怪我もないので戦闘になったとしても万全に近い状態で戦える。

 

そう思った矢先のことである。二人の安否を確認するや否や、俺の鼻が嗅ぎ慣れない異臭を嗅ぎ取り、思わず咄嗟に袖で鼻を抑えてしまう。

 

 

「なんだ、これ……何の臭いだ?」

 

「本当だ。何の臭いだろう………」

 

「…………」

 

 

アルテミスとベルの安否のことで視野が狭まっていた所為で気が付かなかったが、周囲を見ると崩れた土壌とは反対側に複数の死体が地面に転がっていた。その殆どが女性で、彼女らの近くには青地に黄色い弓と月が描かれた旗も転がっている。

 

そのことから彼女らはアルテミスの眷属であることを察するのは容易かった。しかし、キング・オブ・チキンハートの持ち主であるシティーボーイの俺が死体を見慣れていることなんてあるはずもなく、地面にぶちまけられている人間の臓物や血などを目の当たりにして腹の底から込み上がっている物を抑えきれるはずもなく、思わず口からぶちまけてしまう。

 

 

「う"っっ、オ"エ"エ"エ"ェェェ………」

 

「け、ケンマ!? アルテミス様、これは………!」

 

「………私の子供たちだ」

 

「この人たちが………」

 

 

我慢出来ずに腹の物をリバースする俺に駆け寄って、介抱しながらベルはアルテミスに死体について尋ねた。すると彼女の口からアンタレスに取り込まれた際の一部を明かされた。

 

 

「私は見ているしかなかった………私を喰らった奴が子供たちを殺すところを………私自身の手で殺されるところを………帰ってきたぞ………」

 

「それじゃあ、ここにいる貴方は………?」

 

 

絶望の声音で己の眷属たちが自分の『力』によって殺されたことを告げたアルテミスは、既に事切れている赤い髪をした一人の眷属に寄り添い頭を撫でる。

 

そんな彼女を見ながらベルは、先ほど上でアンタレスの胸部にいたアルテミスが本体だとしたら目の前にいる彼女は何者なのかと問うた。

 

 

「……私『残り滓』だ……」

 

「!?」

 

「正確には『槍』────いや、『矢』に宿る思念体。それがお前だろう、アルテミス」

 

「ケンマ!もう大丈夫なの?!」

 

「ああ、悪いな心配かけた」

 

 

何とか込み上げてくる物が落ち着きをみせてきたところで、俺も二人の話に参加するべく、目の前にいるアルテミスの正体について答えをぶつける。

 

 

「やはり、貴方は知っていたのだな、オリオン」

 

「昨晩にもそう言ったはずだ」

 

「そうだったな」

 

「ねぇケンマ、目の前にいるアルテミス様が『矢』に宿る思念体ってどういうこと?」

 

 

先ほどアルテミスの正体について俺が答えたことを理解が追い付いていないベルが聞いて来る。

 

 

「俺たちがずっと『槍』だと思っていた武器は、本当は『矢』なんだ。そして、その『矢』の名前は『オリオン』、神の言葉で『射抜く者』を意味する」

 

「『槍』が本当は『矢』で……名前が『オリオン』で…… 神の言葉で『射抜く者』? どうしてケンマがそんなことを知ってるのさ!?」

 

 

当然、そう聞いてくるのは予想の範囲内。ここでバカ正直に、本来はお前が選ばれるはずだったなんてトチ狂ったようなことは言わない。

 

なので、俺はブーステッド・ギアを具現化させて、静かに鎧を顕現させるカウントダウンを開始させながらこうベルに説明する。

 

 

「それは俺の左腕に宿っているブーステッド・ギアが『オリオンの矢』と同じで、『神の力』を使える状態の神をも殺せる武器の一つの神滅具だからだ」

 

「神をも殺せる武器………ロンギヌス………?」

 

「話を戻すぞ。アルテミスの本体を取り込んだアンタレスは理を捩じ曲げる……そんな奴に対抗できるのは同じく理を捩じ曲げることのできる武器だけ、つまり『オリオン』の矢だ」

 

「待って、待ってよ!それじゃあ、ケンマは………アルテミス様を?」

 

 

ベルにその問いかけに俺は答えない。俺が答えないでいるので今度は尋ねる相手を変えて、アルテミスに『矢』の所有者にして神殺しをさせることを友にやらせるのかと聞く。

 

 

「嘘だ……嘘だっ……そんなのって…………どうして……どうしてなんですかアルテミス様!どうして、ケンマを選んだんですか………!?」

 

 

ベルの問いかけには明確な答えなど存在しない。何せ、ヘルメス曰く、もうそんなただの『神殺し』のお話ではないのだそうだ。

 

今頃、ヘルメスがアスフィさんたちにも一部を除いて同じことを説明して、アスフィさんに胸倉を掴まれている頃だろうなぁーと思っていると少し離れた場所に何かが降ってきた。かなりの高さからその巨体で地面に着地したことによって、舞い上がる砂埃が距離の離れている俺たちのところまで押し寄せてくる。

 

そして、砂埃が少し晴れるとそこには上で確認したアンタレスがいた。奴は俺たちの側にいるアルテミスを認識するや否やその巨体ではあり得ない速度で迫る。

 

 

「二度目だが、ベル。『矢』とアルテミスを頼む!」

 

「まさか、ケンマ………」

 

「今度こそ、てめえの魔石の中にいるアルテミスの本体を取り戻させてもらうぞ、アンタレス!」

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!』

 

 

一度目は不意を突かれてしまったが、二度目はそうはいかない。何しろ、ここならば足場の心配もないため全力で戦えるので『赤龍帝の鎧』を顕現させて、一気に突貫。鎧を纏ったことで身体能力が向上&『女王』に昇格したままなのでその補正も加わり、上で肉薄した時よりも数倍速い動きで距離を詰められる。

 

『赤龍帝の鎧』について何も知らないアンタレスは、ただの人間が赤い鎧を纏っただけで先ほどよりも速い動きを見せることに驚いているのか、ほんの僅かにだが迫ってくる動きが鈍ったように俺は感じられた。

 

そんな僅かな隙を今の俺が見逃すはずもなく、その隙を突くように背部の噴射口からオーラを噴射させて更に加速する。更に身体を捻りながら遠心力と《破壊の聖剣》の能力を加えた《エクス・デュランダル》の橫薙ぎ一閃を手始めに奴の左手の巨大鋏に叩き込む。

 

すると、ナイフでバターを切るように鋏をスーッと上下に両断して見せた。けれど、それだけではなく《破壊の聖剣》と鎧の能力も合わさり、巨大鋏の甲殻に大きな亀裂が走り、内部の筋繊維も断裂したのか大きく亀裂が走った場所からはみ出していた。

 

 

『ッッッ!!?』

 

「オッシャー!やっぱり、エクス・デュランダルなら普通にいける!!」

 

 

人間の攻撃など神を取り込んだ今の己に通用しないと思っていたアンタレスは、そんな自信を打ち砕くようにあっさりと数あるうちの一つの鋏が切り裂かれ、亀裂を入れられたことに甲高い叫びを上げる。

 

対して俺は、劇場版ではベルの《ヘスティア・ナイフ》であっても甲殻の上からでは傷一つ付けることが出来なかったが、《エクス・デュランダル》であればその限りではなく、しっかりと攻撃が通ることの確信を得られた。

 

しかし、それも束の間、アンタレスは18階層でイレギュラーによって誕生した『黒いゴライアス』と同様に傷付いた箇所を魔力かそれとも取り込んだアルテミスの神威かは分からないが何かしらを消費し再生を始めた。

 

 

「やっぱり、自己再生するよなぁ……それに……もしかして聖剣の効果が効いてない?」

 

 

ボコボコと俺が与えた傷が治っていくのを大きく距離を取りながら観察すると、どうにも奴には聖剣の聖なる波動が効いている様子が見受けられない。

 

モンスターであるならば、聖剣で斬られるとその箇所から煙が発生して、更にそこから徐々にダメージが広がっていくのををダンジョンで確認済みだし、あの黒いゴライアスでさえも聖剣の効果は発揮していた。

 

であれば、なぜ奴だけが聖剣の効果を受け付けない? 絶対に何かしらの理由や原理があると踏んだ俺は一気に攻めるのではなく敵の特性を観察してから攻めようと戦い方を変更しようとしたが、ドライグからあることを告げられる。

 

 

『相棒、どうやらあの巨大な蝎は「神格」を得ているようだ』

 

「神格? それって確か………ラノベとかだと神々や神獣なんかが持ってる………そういうことかよ!」

 

 

ドライグのヒントでアンタレスが聖剣の聖なる波動が効いてない理由について納得がいった。奴はアルテミスの本体を取り込んでいることで、擬似的に『神格』を得ている。つまり、モンスターとしての『魔』と神としての『聖』の両方を宿しているがために、モンスターでありながら聖剣の効果を受け付けないのだ。

 

ある意味では、木場祐斗の『聖魔剣』に近いのではないかと俺は考察するが、原作の彼のように『聖』と『魔』を自由に吸収して自分の力に変えていないことを考えるとアンタレスのやっていることは所詮劣化コピー、聖なる攻撃から受けるダメージを減少させているに違いないはずだ。

 

でも、聖なる攻撃が駄目でも物理的ダメージは確かに入っている。だが、一応念のために聖剣の物理ダメージ以外にも通るのかを確かめるために以前アレンジを加えたあの『魔法』に更なるアレンジを加えた新しい俺の『オリジナル魔法』をぶつけてみよう。

 

 

「聖なる攻撃が駄目なら……こいつはどうだ?」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!』

 

「受けてみやがれ、九頭龍拳ッ!!」

 

 

倍加の力で高めたあと昨日の夕方にアレンジを加えた【撃龍拳】に更なるアレンジを加えて、東洋の蛇を模した翼を持たない赤い龍が拳から一気に九体も現れて、それぞれが意思を持つようにアンタレスへと噛みつく。

 

ぶっつけ本番とはいえ、しっかりとイメージを固めながら放てたので見た目は満点。あとはその威力がどんな物かを確かめると九体のうちの何体かは、しっかりと敵の弱点を突こうとしているのか甲殻に覆われておらず、筋繊維が剥き出しになっている関節部に向かって噛み付いているので思わず感心してしまった。

 

 

「おお………そこまでイメージしてなかったけど、ちゃんと弱い部分を狙って噛み付いてる!」

 

 

剥き出しになっている関節部を狙ってアンタレスの巨大な鋏や足を何本か噛み千切ってみせた【九頭龍拳】を見て、俺はそれを利用すれば直接弱点を狙えるのではないかと考えた。

 

 

「一か八か、やってみるか」

 

 

そうと決まれば、再び力を高めて【九頭龍拳】を放つ。

 

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

「九頭龍拳!!」

 

 

そして、二度目の【九頭龍拳】でアンタレスの注意が俺から離れた瞬間、《透明の聖剣》で姿を消しながら《夢幻の聖剣》で幻の俺を作り出して、適当に動かせておく。その間に俺は奴の懐へと一気に飛び込み、今度こそ魔石部分を覆っている甲殻に《擬態の聖剣》で刃を潰した《エクス・デュランダル》を思い切りスイングする。

 

完全に意識外からの強打を受けたアンタレスは、甲殻が粉砕して、魔石を完全に露出させることに成功した。

 

 

「まだまだァァアアア!!」

 

 

魔石が露出したら今度は一度《擬態の聖剣》の能力を解除して、潰していた刃を戻したらそのまま魔石の直ぐ側へ深々と差し込んでから再び《擬態の聖剣》で船の錨のように刃に返しを、柄にはナックルカードを作り出して、ちょっとやそっとでは抜けないようにする。

 

そして、準備が整ったら左腕を弓引くように引いてから倍加で力を高めてから思い切り、左拳の強打を魔石へと叩き込む。

 

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!』

 

「うおらぁぁああっ!!」

 

 

左拳の強打を受けた魔石はピキピキッ!と僅かにその表面に小さな罅を入れる。それでも破壊までには程遠いと感じた。倍加してこれならば、最大倍加で連打する他ないと思った刹那、アンタレスは弱点である魔石に強打を受けたことで嘗てない程に苦痛の絶叫を上げながらジタバタと暴れ始めた。

 

 

『~~~~~~~~~~ッ!!?』

 

「うおっ!うわあああああ!?」

 

 

その暴れっぷりは暴れ馬を遥かに越える物で、事前に《擬態の聖剣》の準備がなければ間違いなく振り飛ばされていただろう。だが、事前準備をしていたお陰で振り飛ばされることはない。

 

なので、最大倍加まで高めた拳を思い切り奴の魔石に叩き込む。

 

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!』

 

「こいつでどうだぁぁあああ!!」

 

 

最大倍加まで高めた拳を罅が入っている箇所の魔石に叩き込むと先ほどよりもビキビキッ!と明確にクリティカルが入った音が俺の耳に届いた。その証拠に僅かに入っていた罅が内部にまで進んだ。

 

しかし、それでも砕くまでには至っていなかった。劇場版では甲殻も傷付けられなかった《ヘスティア・ナイフ》でも簡単に砕けたのに、なぜ俺の───それも最大倍加まで高めた拳で砕けないのか疑問が頭を占める。

 

よく思い出せ!劇場版のアンタレスと今のアンタレスの違いを!…………そうか!劇場版のアンタレスは、ベルの【英雄願望】で強化付与した《オリオンの矢》で全身ズタボロにされて弱っていたから《ヘスティア・ナイフ》で簡単に砕けた。けれど、俺の場合は《オリオンの矢》を受けていない万全な状態のアンタレス。

 

それらのことを比較すると圧倒的に前者の方が弱っている分、魔石を砕きやすいだろう。だが、それには代償が伴う。俺の記憶にはないが、裏設定なりで《オリオンの矢》を使うとアルテミスが神の力を使ったという判定を受けるという不安要素が残る。であれば、《オリオンの矢》を使うことは出来ない。

 

再度、そう結論付けていたところを突かれてしまい、奴の鋏が俺の身体を吹き飛ばし、何回か地面の上を跳ねてからゴロゴロと転がる。

 

 

「ぐっ………がはっ!!」

 

「ケンマ!?」

 

「オリオン!?」

 

 

ずっと優勢に戦っていた俺が攻撃を受けたことで、離れているベルとアルテミスが心配そうに俺の名前を呼ぶ。意識外からの攻撃をお返しされてしまったが幸いにも鎧のお陰で致命傷になることはなかったが、今の一撃で、鎧が攻撃を受けた箇所から三分の一が砕かれてしまった。つまり、アンタレスの一撃はサイラオーグ以上のパワーを持っていることの証明。

 

『ダンまち』の世界に転生して、初めて『赤龍帝の鎧』を三分の一も砕かれたことには流石に目を見開いて驚くが、相手は理を捩じ曲げる矛盾のモンスター、それくらい出来ておかしくはないと直ぐに冷静になれたが、攻撃された箇所に激痛が走っている。

 

 

「滅茶苦茶痛ってぇな、おい………ドライグ、鎧の修復を頼む!」

 

『任せておけ』

 

「リベホイミ!リジェネガ!」

 

 

ドライグに鎧の修復を頼み、身体に力を入れて立ち上がりながら俺は【リベホイミ】と【リジェネガ】の自動回復魔法を痛む箇所に二重掛けで施す。

 

回復魔法を施し、鎧の修復も完了、少しずつ痛みが引いてきたら背部の噴射口からオーラを噴射、そのままアンタレスの身体に突き刺さったままの《エクス・デュランダル》の回収を試みる。

 

その際、奴は魔石に罅を入れたことで完全に俺のことを敵だと認識したのか、明らかに迎撃の手が鋭くなっているように感じられた。奴の攻撃をドライグのサポートを受けながら何とか回避しているが、攻撃が迫る度に内心では戦々恐々としているのはここだけの話。

 

そして、何とかアンタレスの懐に突き刺さっている《エクス・デュランダル》の持ち手を左側から掴むことに成功すると、掴んだ瞬間に《擬態の聖剣》で刀身を両刃にして、そのまま奴の肉体を出来る限り斬り裂きながら一度離脱する。

 

 

「フゥー、仕切り直し………とはいかないよな」

 

 

数度の攻防で圧倒的に俺の方が体力や精神力、オーラなどを消費している。対して、アンタレスはアルテミスの本体を取り込んでいるために無限に神の力で、自己再生が可能だ。

 

正直、無理ゲーに近いだろう。

オリ主たちの新本拠地候補

  • 第六区画 『竈火の館』の近く
  • 第七区画 元ヘスティア廃教会
  • 西地区 豊穣の女主人の近く
  • 北地区 適当に
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