臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか?   作:黒牙雷真

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第九十三話

 

 

 

 

〈sideケンマ〉

 

 

 

 

『アンタレス』の魔石に最大倍加の拳による強打を叩き込み、内部にまで罅を入れることに成功した俺だが。最大倍加の強打でも魔石を砕けないことに疑問で頭を占められている隙を狙われて奴の攻撃を受けて、『赤龍帝の鎧』の三分の一を砕かれた。

 

その後、鎧の修復と自動回復魔法を施してから奴の肉体に突き刺さったままの《エクス・デュランダル》の回収にも成功、一度仕切り直すためにも離脱するが体力などの観点から俺の方が不利な状況になってしまっている。

 

 

「さて、次はどうするかな………」

 

 

体力や精神力、オーラの残りを考えても先ほどのように【九頭龍拳】を囮にした攻め方は出来ないだろうし、アンタレスとてバカではないので何かしらの対策を取って来るだろう。

 

次の攻め方を考えていると突然、俺の耳に大鐘楼の鐘の音が届いた。その音に振り向くと、そこにはアルテミスを守りながら左手に白い光を溜め込んでいるベルがあった。

 

 

「英雄願望のスキル………やったことはない。だが、やるしかねぇ!」

 

 

一度も試したことがない未知の試みに俺は覚悟を決めて、ベルの直線上に移動しながら左足の太股部分の鎧だけを外してレッグホルスターから万能薬を取り出そうとまさぐるが、籠手の指先にジャリジャリとした感触が伝わってくる。

 

それはつまり、先ほど吹き飛ばされた際にレッグホルスターに仕舞っていた万能薬などの回復系のアイテムが全て駄目になってしまったことを意味する。

 

 

「ッッッ!?」

 

 

さすがに回復アイテムが全て駄目になってしまったことに動揺を隠せないが、今は無い物ねだりをしても仕方ないため、直ぐにその考えを振り払う。

 

回復アイテムが使えない考えを振り払った後、背後にいるベルに即興の打ち合わせとして【英雄願望】がある程度溜まったら俺に向かって【ファイアボルト】を撃つように頼む。

 

 

「ベル!ある程度チャージが溜まったら俺にファイアボルトを撃て!」

 

「えっ、でもそんなことをしたらケンマが!?」

 

「大丈夫だ、秘策ならある!」

 

「………分かったよ、ケンマ!僕は、ケンマを信じる!!」

 

 

ベルは俺がやろうとしていることに何も聞かずに信じて、【英雄願望】で強化した【ファイアボルト】を撃ってくれると了承してくれたタイミングで、アンタレスがアルテミスの本体が入っている魔石を自ら剥き出すとそこから神の力を使って、光の弓矢を形成し始めた。

 

俺はその技を知っている。間違いなく、今のアンタレスが出せる最強の一撃であり、最大倍加まで高めた俺の攻撃で相殺できる自信などない。けれど、あれを相殺しなければ劇場版同様、背後にいるアルテミスがベルを守るために自らを盾にするだろう。

 

 

「そんなの………認められる訳ねぇだろう!」

 

 

両手で《エクス・デュランダル》を握り直して、アンタレスの一撃を必ず相殺して見せると強く想いながら呟くとブーステッド・ギアが強い輝きを放つ。

 

アルテミスもアンタレスがやろうとしていることに気付いたようで、直ぐに無謀な試みを止めて、『矢』を使って確実に奴と自分を射ぬけと懇願してくる。だとしても、俺はその願いを叶えるつもりはない。まだ、やれることを全て試していないのだから泥臭くとも足掻きに足掻くのが『赤龍帝』だ。

 

 

「止すんだ、オリオン!いくら貴方が強くてもアンタレスが相手では殺されてしまう!お願いだから『矢』を使って私ごと奴を射抜いてくれ、オリオン!!」

 

「俺は約束したんだ。お前を……アルテミスを守ると!覚悟を決めて一度口にしたことは絶対に違えねぇえ!!」

 

 

アルテミスの願いを振り切るようにして、俺は地面を蹴ってアンタレスへと走り、奴との距離が残り僅かになった所で未だに【英雄願望】を溜めてくれているベルに叫ぶ。すると間髪入れずにベルは、【ファイアボルト】の魔法を俺目掛けて放ってくれた。

 

 

「ベルゥウウウウ!寄越せぇぇえええええ!!」 

 

「ファイアボルトォォオオオオオオ!!!」

 

 

何十秒溜めていてくれたかは分からないが今までで最も高威力の【ファイアボルト】を撃ってくれたベルに内心で感謝しながら、それを《支配の聖剣》で操り、《エクス・デュランダル》の刀身に纏わせて疑似的な『付与魔法』に仕立て上げる。

 

だかしかし、それでも足りないと俺の戦闘経験が訴えてくるので、体力の残りなど気にせず倍加を最大まで高めて、限界まで高めた力をベルから受け取った【ファイアボルト】に譲渡する。

 

それによって、【ファイアボルト】の炎が勢いを急激に増して行き、赤い炎が更なる力を得ることで蒼い焔へと進化した。

 

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost‼‼』

 

「うおおおおおお!!」

 

『Transfer!!』

 

「借りるぞ、ベル」

 

 

刀身の焔が蒼に変わったのを視界の端で捉えた俺は、アンタレスと距離が残り僅かになったところで力強く地面を蹴って、空中に飛躍しながら未来のベル・クラネルが使う技の名前を叫びながら《エクス・デュランダル》を奴が形成している光の弓矢を目掛けて振るう。

 

 

聖焔の英斬(アルマ・ウェスタ)ァアアアア!!」

 

『───ォォォオオオオオオ!!!』

 

 

互いに渾身の一撃が衝突した。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

〈sideベル〉

 

 

 

 

 

ケンマとアンタレスの渾身の一撃同士が衝突して、強烈な熱と爆風が徐々に収まって行くと辛うじて爆発が起きた跡の場所が見えると、そこには鎧を纏ったケンマの姿はなかった。代わり、ケンマが握っていた伝説の聖剣が持ち主を失ったかのように転がっていた。

 

その光景から僕は、ケンマがさっきの爆発で何処へ吹き飛ばされたのだと理解して、即座に辺りを見渡すとアンタレスから少し離れた場所に鎧を纏っていないケンマが俯せで倒れ伏していた。

 

 

「そんな、嘘だ………ケンマッ!!」

 

 

倒れているケンマの名前を叫んでも彼は身動きを一つも取らない。もしかして、さっきの一撃で意識が飛んでいるのかもしれない。そう思った僕は、咄嗟に走り出そうとしたその時だった。

 

 

「ケンマァァアアアアアア!!?」

 

 

僕よりも速く誰かがケンマに駆け寄っていた。

 

その誰かはケンマの名前を叫び呼ぶ声音で、僕はケンマに駆け寄って行く人が誰なのかを判別できた。

"あの人(リューさん)"がケンマの側にいるなら大丈夫だと安心しながら後ろ腰から《神様のナイフ》を引き抜き、アンタレスに向けて構えながら『矢』とレッグホルダーに入っていた万能薬をアルテミス様に託す。

 

 

「ごめんなさい、アルテミス様………そして、お願いがあります。僕がアンタレスの注意を引き付けている間に、この『矢』と万能薬を持って、万能薬をケンマに飲ませてください」

 

「そんなのは駄目だ、ベル!それでは貴方まで奴に殺されてしまう!神友であるヘスティアの眷属である貴方を殺させる訳にはいかない!!」

 

「大丈夫です。僕はケンマみたく正面から戦えるほど強くないけど、逃げ足だけには自信があります。だから、お願いします!」

 

「ベル!!」

 

 

アルテミス様が僕の名前を叫ぶがそれを振り切って、アンタレスの注意を引くべく魔法を奴の眼玉を目掛けて放つ。

 

 

「【ファイアボルト】ッ!!」

 

『───ォォオオオオ!!』

 

「さあ、こっちだ!付いて来いッ!!」

 

 

僕が放った【ファイアボルト】がアンタレスの眼玉に当たると、剥き出しになっている部位で一番柔らかい場所に攻撃を受けたことで奴は目に見えて悶える。

 

 

「よし!」

 

 

確かな手応えを感じながら僕は只管にアルテミス様とケンマたちがいる方とは真逆の方向に走る。【ファイアボルト】の魔法を受けて、一時的に眼玉が燃えるも時間が経てば直ぐに火は消えて、自己再生が行われる。

 

自己再生が完了すると、不意討ちをした僕に怒ったのか奴の歩み出しが僕の方へと向き出した。加えて、ケンマと戦っていた時には使っていなかった新しい攻撃が僕に襲いかかる。その攻撃は紫色の光線で当たってしまえば、僕なんかは一溜りもないほどの威力を誇っていた。

 

 

『ギャオオオオォォォ!!』

 

「うわああああああ!?」

 

 

背後が大爆発。当たってこそいないが、背後で起きた大爆発で僕の身体は吹き飛ばされながら爆発で飛び散る地面の破片に所々、肌が切れてしまう。何とか受け身だけは取るが勢いを殺し切れずに地面をゴロゴロと転がってしまう。

 

それによって、完全に足が止まってしまった僕をアンタレスは見逃すはずもなく、第二射目の光線が奴の単眼に集まり始める。

 

 

「ま、マズい……このままじゃぁ……」

 

 

そんな時だった。突如として、紫色の光線が集まる単眼に向けて、誰かが何かを投げ、それが当たると僕の【ファイアボルト】とは比較にならないほどの大爆発がまた起こり、思わず腕で爆風から顔を守る。

 

爆風から顔を守っていると、今度は突然、僕の身体が浮遊感に襲われると聞き覚えのある女性の声が僕にかけられる。

 

 

「危ないところでしたね、ベル・クラネル」

 

「その声は………アスフィさん?!」

 

「ケンマと疾風(リオン)は何処ですか? それにアルテミス様の姿も近くには見えないようですが……」

 

「リューさんとアルテミス様ならケンマと一緒のはずです。でも、ケンマはアンタレスにやられて気を失ってしまって……」

 

「ッッ!そんな………!?」

 

 

ケンマがアンタレスに負けたと聞いて、アスフィさんの顔に絶望の色が垣間見えるけど、僕は話を続ける。

 

 

「でも、ケンマなら大丈夫です!ケンマは必ず戻ってきます!18階層でも、ケンマは戻って来た。だから、今僕たちがやることはケンマが戻ってくるまでの時間を稼ぐことです!」

 

「…………わかりました。やることをやりましょう!では、そろそろ降ろします。自分で受け身は取れますね?」

 

「はい!」

 

「では」

 

 

そう言ってアスフィさんは僕のことを空中で放すと、僕の身体は自然と下へと落ちて行き、しっかりと着地地点を見ながら転がるように受け身を取る。

 

先ほどと違って受け身を取ってから即座に態勢を立て直すと、後ろから頼もしい僕らの仲間たちがやってくる。

 

 

「ベル!」

 

「ベル様!」

 

「ヴェルフ、リリ!」

 

 

ヴェルフとリリが駆け寄って来て、神様たちも少し離れた場所にいるのが見える。

 

 

「ベル、ケンマとアルテミス様、それとリオンとかいう覆面エルフはどうした?」

 

「それが、ケンマがアンタレスの攻撃で気を失っちゃって………今はリューさんとアルテミス様がケンマの手当てをしてるはずなんだ」

 

「そうか………」

 

「ケンマ様でも駄目なんて………」

 

「でも、大丈夫だよ。アスフィさんにも言ったけど、ケンマは必ず戻ってくる。18階層のあの時だって、ケンマはボロボロなのに戻ってきて、ゴライアスを殴り飛ばしたんだよ? 今度もケンマは強くなって戻ってくるはずだよ。僕は相棒で親友のケンマを信じてる!」

 

 

僕のケンマへの強い信頼を聞いたヴェルフとリリは、ケンマがアンタレスの攻撃で気を失ったと聞いた時に陰った顔が少しずつ晴れて行き、決意の眼差しが見える。

 

 

「ああ、そうだよな!俺たちの親友で、相棒であるアイツがただでくたばる訳がねぇ!」

 

「そうです!ケンマ様はいつも規格外で、今度も規格外な復活を遂げるはずです!ベル様が信じているのならリリもケンマ様の復活を信じます!」

 

「行こう!僕たちでケンマが戻ってくるまで時間を稼ぐんだ!」

 

「おう!」

 

「はい!」

オリ主たちの新本拠地候補

  • 第六区画 『竈火の館』の近く
  • 第七区画 元ヘスティア廃教会
  • 西地区 豊穣の女主人の近く
  • 北地区 適当に
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