臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか? 作:黒牙雷真
〈sideケンマ〉
身体に力が入らない、重たい、痛い。
それだけが今の俺の感情を占めていた。
そして、どんどん何も感じなくなっていき、意識が遠のいていくと夢を見た。その夢に俺は覚えがあった。何故なら、それは前世で見たことのある内容だったからだ。
『嘘だ……嘘だっ……それって……僕が貴方を……どうして……僕を選んだんですか……僕はそんなことのために、貴方と!貴方に!貴方を!』
「ベル……アルテミス……」
目の前で行われているやり取りを見ながら俺は違和感を覚えるが、夢なのだから違和感も何もない。目の前の光景は、本来の物語。そう、俺ではなくてベルが『オリオンの矢』に選ばれるはずの世界線の物語だ。
『くっそぉぉぉーー!』
『オリオン!』
アルテミスが犠牲にならない方法を考える時間など『アンタレス』がくれるはずもなく、地上から落下しながら現れると、ベルは自棄糞気味に『矢』を投げ捨てて《ヘスティア・ナイフ》を握りしめながら奴に向かって突貫。それをアルテミスが止めようするが、当のベルはそれを無視して走り抜ける。
『うあああああ!』
恐怖を圧し殺すために雄叫びをあげながら走る、ベル。
そんなベルを殺すべく、アンタレスは巨大な鋏で押し潰そうとするがそれをベルは上に飛ぶことで回避し、そのままま鋏を伝ってアルテミスの本体が囚われている部分の甲殻に何度も《ヘスティア・ナイフ》で切り付け、刃を突き立てるが僅かに火花が散るのみで傷一つ付かない。
『ぐっ!クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!~~っ!!』
『オリオン………』
ただ理不尽への怒りをぶつけるように《ヘスティア・ナイフ》を振るうベルに、アルテミスは「止めてくれ」と言えずに名前を呟くだけだった。
そんな時だった。遂にアンタレスの鋏の一つがベルの腹部を捉え、そのままベルを吹き飛ばし、空中で錐揉みするように回転しながら、地面に落下。数回地面を跳ねた後にようやく勢いが止まり、ベルはうつ伏せになって倒れ伏した。
それを見た俺は、親友がやられたことに思わずベルの名前を叫び呼ぶ。
「ベル!」
『守るって……言ったんだ……』
「ベル、お前………」
『……約束……したんだ……守るって!』
血を吐きながらも、よろよろで満身創痍になりながらベルはアルテミスとの『約束』を守るために立ち上がった。そんなベルを見て、俺はこんな所で立ち止まっていていいのかと、俺の中で自問自答が始まる。
一人、自問自答を繰り返しているとベルは再びアンタレスに向かって走り出し、迫り来る鋏を持ち前の敏捷で何とか躱し、その隙に甲殻で覆われていない筋繊維の部分へ《ヘスティア・ナイフ》を押し込むように刺して、強化種の『ミノタウロス』に止めを刺した時にも使った《ヘスティア・ナイフ》へ【ファイアボルト】を流し込むという戦法で、奴の鋏の一つを吹き飛ばした。
『【ファイアボルト】ォォォッッ!!』
『ギャオオオォォォ!』
アンタレスも鋏を吹き飛ばされるような一撃に苦痛の叫びを上げずにはいられなかったようで絶叫を上げるが、吹き飛ばしたはずの鋏は『黒いゴライアス』を越える速度で再生していく。
あまりの再生速度にベルも言葉を失ってしまう。アンタレスの再生速度に言葉を失ったベルだが、冒険者としての経験から奴の攻撃が来ると勘が囁いたようで咄嗟に後ろへと飛び退くが、地面を抉り、余波だけでベルの身体を吹き飛ばすような強烈な鋏の一撃がベルの立っていた場所より僅か前に振り下ろされた。
『うわああぁぁぁ!?』
「この展開は………ヤバいッ!!」
この後に起きる展開に俺は夢の中で動かない身体に力を込めて、動こうと試みるが夢の世界であるため身体が動かない。
必死に動こうとしている俺を他所に、アンタレスは倒れているベルに止めを差すべく胸部にあるアルテミスを囚えている魔石を剥き出しにすると彼女の神威を利用して、現実世界で俺が【聖焔の英斬】で相殺した思われる攻撃を放つ。
放たれた攻撃は一直線にベルへと迫るが間一髪のところでアルテミスが踊り出て、その攻撃を両手で受け止めた。
「アルテミス!ベル! 動け、動けよ!クソッ!」
『アルテミス様………』
己の神威を使われた攻撃に、その神威の本来の持ち主であるアルテミスですら徐々にその身体が光となって消滅し始めている。
『お願い……オリオン……私の矢が貴方を、皆を射抜いてしまう前に……貴方の矢で…………』
徐々に消えていっているアルテミスが残す最後の言葉の送り先は、背後にいるベルではなく。力無く倒れ付したままの俺だということをお互いの眼差しが交差したことで理解した。
そう理解したのも束の間、最期の言葉を残した残滓のアルテミスが完全に消滅すると突然、俺の身体に激しく電気のような刺激が全身を駆け巡り、強い動悸も起こる。まるで、何かの劇物でも飲まされたような。
いや、間違いなく飲まされているのだろう。夢のはずなのに口内に液体のような物を感じて、咄嗟に手で口を塞ぐが意味がなかった。そして、ゴクリッと何の液体なのか分からないそれを飲み込み込んでしまうと一気に視界が真っ白に染まった。
○●○
「ん、んん~………」
「オリオン!オリオン!」
「ケンマ!ケンマ!」
閉じられていた瞼を開くと先ほどの夢と同じ地下洞窟の光景が視界に映るが、夢と違うとすれば光となって消滅したはずの残滓のアルテミスがいることと身体に力が入ることだろう。
「アルテミス………それに、リューさんも………」
「良かった……目が覚めたのだな、オリオン!」
「心配しましたよ、ケンマ!」
瞳に涙を溜めて俺のことを覗き込む二人を見て、意識が目覚めて現実世界に戻って来たのだと察するのにはそんなに時間が掛からなかった。
それにアンタレスとの戦闘で消費したはずの体力や精神力、オーラといった力が全快にまで回復している。なぜ精神力などが回復しているのか分からないでいるとアルテミスの傍らに青い瓶が転がっていた。
その瓶は【ヘルメス・ファミリア】の野営地でアスフィさんに持たされた万能薬だったはず。しかし、俺が所持している回復薬は全て使い物にならなくなっていたはずだ。であれば、誰が万能薬を?
『相棒を治療した万能薬の持ち主は、あのウサギ小僧だ』
(ドライグ……。ウサギ小僧ってことは、ベルか。で、そのベルは何処だよ?)
『小僧なら相棒の治療をそこの女神とエルフの小娘には任せて、一人でアンタレスの注意を引き付けながら遠ざかって行ったぞ。今も一人であの蠍と殺りあっている頃か、あるいは…………』
(ふざけんな!死にかけていた俺を助けるために、一人でアンタレスの注意を引き付けながら戦ってるなら助け行かないと駄目だろう!)
『だが、どうするつもりだ? 禁手化状態の最高の一撃ですら奴を倒せなかったのだぞ。今のままでは、同じことを繰り返すだけだ』
(なら、どうしろってんだよ!親友のベルを見殺しにして、アルテミスも犠牲にして、『矢』でアンタレスを倒せって、そう言いたいのかよ!?)
自分の弱さを嫌ってほど理解させられて、思わず自分への怒りで身体から龍の赤いオーラが溢れ出てしまう。
すると、直ぐ側にいるアルテミスとリューさんは俺の身体から溢れ出るオーラについて知らないため、赤い湯気のようなオーラに驚いてしまう。
「お、オリオン………!?」
「ケンマ、その赤いものは一体………」
奇跡でも何でも良いからと自棄糞気味な思いを抱きながらベルを見殺しにせず、アルテミスも犠牲にしない、そんな方法を探していると腰の辺りからブチンッ! と何かが千切れる音が聞こえた。
その音の方へ視線を向けると、ずっと腰に着けていたベルトポーチがアンタレスの戦闘と俺の身体から溢れ出るオーラに耐えきれなくなったのかベルトが千切れてしまったようだ。
千切れてしまっては邪魔だと思い、ベルトポーチを掴むと中から服の上に小さな赤黒い結晶の塊がポロリと転がり落ちる。その赤黒い結晶はヴィクトリアの【神血】が凝固した物だった。
「ヴィクトリアの血の塊………」
何故かは分からないが、ヴィクトリアの血の塊を摘み上げると瞬間的に『ハイスクールD×D』に出てくるとあるキャラクターの台詞の一文が脳裏にフラッシュバックした。
『聖書に記されし神が生み出した神器に、宿敵である真の魔王の血を加工して注入した場合、どのような結果を生み出すか』
その台詞が脳裏にフラッシュバックして、摘み上げているヴィクトリアの血塊を見て、ゴクリと生唾を飲み込む。失敗すれば即死、成功しても何らかしらの拒絶反応は起きる。だが、この方法ならば一時的にではあるけど禁手を上回る力を使うことができるはずだ。
この世界に転生してから何度も覚悟を決めてきたが、今回ばかりは滅茶苦茶大胆な大博打。だからこそ、賭ける価値がある。
(なぁ、ドライグ。俺と一緒に地獄の果てまで共に相乗りしてくれるか?)
『なにを今更………俺たちは相棒なのだろう、石黒ケンマよ!』
(そうだよな!それじゃあ、一丁盛大な賭けをやってやるか!!)
ドライグと共に一世一代の覚悟を決めた俺は、立ち上がりながらブーステッド・ギアを具現化、そのまま禁手のカウントダウンを始める。本来であれば、アンタレスに一度敗れた時点で禁手化は半日間出来ないはずなのだが、十日間の旅の間にドライグと臓器をドラゴンの物にする取り引きの恩恵で禁手化のインターバルは皆無となっている。
『Count Down!!』
「ブーステッド・ギアを出したということは………まさか、ケンマ!貴方は、またアンタレスに挑むつもりですか!?」
「無茶だ!今度こそ、貴方が殺されてしまう!もうそんな無茶なことはせずに、この『矢』を使って、私ごとアンタレスを射抜いてくれオリオン!!」
「二人とも心配してくれて、ありがとう。だけど、今度は絶対に負けねぇ。バットエンドでもトゥルーエンドでもない………ハッピーエンドにして、皆でオラリオに帰る!」
そう言い切った俺は、ヴィクトリアの血の塊を口の中へと放り込んでからカウントが満ちたので二度目になる『赤龍帝の鎧』を顕現させる。
しかし、ヴィクトリアの血塊を飲み込んだ瞬間、左腕から全身に掛けて今までに感じたことのない激痛が俺を襲いながらビリビリッと全身から深紅の放電現象が発生。また、その痛みはどんどん増して行き、『エルソスの遺跡』にやってくるまでの十日間で感じた痛みとは別格で、まるで魂にまでダメージが届いているような感覚だ。
「がっ!? う…あ…゛ああぁあぁああ……ぁ゛あ…あぁぁぁ゛あぁ……あ゛っあぁあぁぁああぁぁぁ!!?」
『ぐっ、ぐくぅ、おおおおおおおお!?!』
この魂にまで届くようなダメージは、魂だけになっているドライグにまで届いているようで相棒も激痛の叫びをあげている。
「け、ケンマ!?」
「お、オリオン!?」
激痛による叫びと深紅の放電現象を発生させながら踠き苦しむ俺の姿を見て、リューさんとアルテミスが心配そうに名前を叫んでくる。でも、これを乗り越えれば確実に普通の禁手化よりも強い力を得られる。
ならば、越える以外の手はない。
「俺の想いにッ…………応えやがれ、ブーステッド・ギァァアアアアアア!!!」
激痛に耐えながら天高く左腕を掲げると周囲から雪に見違うような光が現れる。その光は徐々に量を増やしていき、やがて光はブーステッド・ギアの宝玉に吸い寄せられるように集まり始める。
「この光は、一体………」
「嗚呼、お前たちは………死しても尚、残留思念となっても、私を救わんとしてくれるのか………」
リューさんは俺の左腕に集まり出している光に驚き、アルテミスは死しても己の主神を救わんとする眷属たちの気配に感激の涙を出す。
そんな彼女らと別に、俺はブーステッド・ギアへと光が注がれる度に全身を襲っていた魂にまで届きそうなダメージが比例するように徐々になくなっていることに驚く。更には、光が集まるに連れて左腕の宝玉の色が緑から黄金へと変化し始めていることに気付く。
『相棒』
(どうした、ドライグ?)
『俄には信じ難いが、光が集まるに連れて相棒の力が徐々に増しているぞ』
(なんだって?)
ドライグに言われて、自分の力に意識を向けると相棒の言う通り徐々にだが、力が確かに増してきている。やがて、光が完全にブーステッド・ギアへと集まり切ると籠手の宝玉も完全に黄金へと変色、かつ青い月に弓と矢の紋様が刻まれていた。
その紋様に俺は見覚えがあった。何故なら、その紋様はアルテミスが主神を務めていた壊滅したはずの【アルテミス・ファミリア】のエンブレムだったからだ。
さすがにそのことには俺も驚きを隠せなかった。
「これはアルテミスの………!?」
左腕のブーステッド・ギアに【アルテミス・ファミリア】のエンブレムがあることに驚いたのも束の間、突如として再び視界が暗転した。
オリ主たちの新本拠地候補
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第六区画 『竈火の館』の近く
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第七区画 元ヘスティア廃教会
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西地区 豊穣の女主人の近く
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北地区 適当に