臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか? 作:黒牙雷真
〈sideケンマ〉
「ここは?」
いきなり視界が暗転したと思ったら、次は全てが真っ白な空間に立っていた。まるで、18階層の時に来たブーステッド・ギアの中に酷似しているように感じる。
「突然お呼び立てて申し訳ない、赤龍帝殿」
「ッ!!」
無警戒な所を後ろから声をかけられて、反射的に振り返りながら後ろへバックステップを踏むとそこには見覚えのある顔をした女性が、いや女性たちがいた。
「あ、あんた達は……アルテミスの……!?」
「はい。アンタレスに敗れたアルテミス様の眷属です」
そう。彼女たちの顔は、地下洞窟に降りてきて直ぐに目撃した【アルテミス・ファミリア】の死骸となってしまった女性たちと同じだったのだ。
「何であんた達がこんな所に? それにここは?」
「ここは貴方の左腕に宿っている不思議な力の源の世界。謂わば、精神世界とでも言えばいいのでしょうか?」
「あー、なんとなく理解出来てきた」
俺の憶測が正しければ、現実世界でブーステッド・ギアに俺の強い想いを注ぎ込んだ際に現れた不思議な光たちは、【アルテミス・ファミリア】の───彼女たちの残留思念だ。そんな彼女たちの残留思念と俺の強い想いに呼応して、神器であるブーステッド・ギアが彼女たちを取り込んで今の状況を生み出したのだろう。
もう、何と言えばいいか分からないがとんだご都合主義だと思うしかない。『ハイスクールD×D』の原作でもここまでご都合主義な展開は滅多にない。
「それで俺に何をさせたい?悪いけど今は少しでも速く仲間のところへ行きたいんだ!」
「それは重々承知です。ですが、貴方が現実世界で飲み飲んだヴィクトリア様の【神血】の影響で、我々の想いが貴方の不思議な力に呼応しているのです」
「それって、つまり………」
「我々も主神であるアルテミス様を御救いしたいのです。どうか、我々にもその機会を御与えいただけないでしょうか!」
「「「お願いします!」」」
主神であるアルテミスを置いて残留思念となってしまった彼女たちは、肉体を失ってもなお救おうとするその強い想いに俺は感激した。
「勿論だ!断る理由なんてない!あんた達がアルテミスを救いたいように俺もアルテミスを助けたい。だって、俺は赤龍帝だからさ!」
「………感謝します、赤龍帝殿」
「それじゃあ、一丁あの蠍野郎にお礼参りと行こうぜ!皆、アルテミスを救いたいという強い想いをブーステッド・ギアに注ぎ込んでくれ!」
「わかりました。やるわよ、皆!」
「「「「はい!」」」」」
全員、目を瞑り、アルテミスを救いたいと絶対なる強い想いをブーステッド・ギアに送り込み、念じると宝玉が眩しいほどにその輝きを放つ。
宝玉の輝きが強まり続ける中で俺はとある詠唱文を口ずさむ。すると、【アルテミス・ファミリア】の彼女たちも合わせるように詠唱を唱える。
「我、目覚めるは絶望を希望へと変えし、赤龍帝なり!」
『汝は、我らの希望なり!』
イッセーの『真紅の赫龍帝』に似た詠唱文を皆で唱え始めると足元が深い紅色に光輝き、そのまま光はアニメでブーステッド・ギアが適切な倍加が完了した際に宝玉に浮かび上がる紋様をした魔法陣を描き始める。
「嘆き泪を止め、絶望の闇を晴らし、希望の光を輝かせる!」
『汝は、希望の光を照らす者なり!』
更に現実世界同様に俺の身体に『赤龍帝の鎧』が顕現。
「我、最後の希望となりて─────」
『汝は、希望の救世主なり!』
続けて、鎧は一度解除されると鎧は深紅のオーラへと成り変わり、そのまま緑色の眼をした龍へと姿を変えた。
「汝らを絶望の淵から救い出だそうッ!」
『汝は、希望の赤龍帝なり!!』
最後の詠唱文に突入すると深紅の龍は、俺の周りをぐるぐると旋回し始める。その光景に俺は何処と無く見覚えがあった。それは前世で見ていた【指輪の魔法使い】と呼ばれる仮面ライダー。
まるでその仮面ライダーが変身する時のような演出が今、俺に起こっている。そんな状況になればテンションが上がらない青少年はいないだろうと思わずにはいられず、両手を広げてあの言葉を力強く口にする。
「変身!」
その言葉を力強く口にすると深紅の龍は雄叫びを上げ、足元の魔法陣は徐々に頭を目指して上へと登り始め、魔法陣を通過した俺の身体を足元から新しい赤龍帝の姿へと変える。そして、魔法陣が胸元まで届くと龍は背中から真っ直ぐに俺の身体を貫き、その顔を俺の胸元に留めた。
完全に魔法陣が頭の上まで到達すると変身が完了したようで、漲るような力を身体中に感じながら掌を開いたり閉じたりを数回繰り返す。
「ケンマの鎧が変わった!?」
「お、オリオン……?」
新しい姿の感覚を確かめているといつの間に現実世界に戻って来ていたのか、リューさんとアルテミスが新しい俺の姿に困惑していた。
「アルテミス、お前の眷属たちと共に俺はもう一度戦う。今度こそ、お前を守るから信じて、待っていてくれ」
振り返らずにそうアルテミスに言うと、彼女は声を漏らしながら泣き始めて、次に放たれた言葉は純潔と貞節を重んじる女神様ではなく。
ただ救いを求める一人の女の子の願いの言葉だった。
「お願い……お願いだ……オリオン……どうか、私を……助けてッ!」
「任せろ、俺が最後の希望だ!」
アルテミスの心の底からの救いを求める願いを叶えるべく、俺は希望が込められた深紅の翼を背部から展開する。その際にブーステッド・ギアから鳴る音声は原作やアニメのイッセーのとは別のものだった。
『Wing!!』
「リューさん、アルテミスを頼みます!」
「任せてください。貴方は貴方の成すことを思う存分になさい!それが私の───私たちの弟子なら尚更だ!」
「行ってきます!」
リューさんに背中を押されたあと、俺は翼を羽ばたかせて一気に『アンタレス』の大きな気配がする方へ飛んで行く。その途中で、地面に転がっていた《エクス・デュランダル》は回収。
以前の18階層時のように拗ねられては困るし、今回は新しい赤龍帝の姿に加えて、今度こそ奴を倒すためにはこの剣が必要になる。
「今、行くぞ皆!!」
◇◆◇
〈sideベル〉
「【ファイアボルト】ォォオオオオ!!」
何度目になるのかは分からない【英雄願望】で強化した【ファイアボルト】を《神様のナイフ》を通して、アンタレスの内部に流し込んで大鋏を爆散させる。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
『────オオオオオ!!』
「しまっ───!?」
「撃てぇええ!リリスケェェエエエ!!」
「行ッけェエエエ!!」
『スキル』と『魔法』の使い過ぎて身体の動きが大きく鈍り出した時、偶然にもそれを狙うようにアンタレスのもう片方の大鋏が僕に迫る。鈍っている今の僕の身体では回避することは出来ないと咄嗟に察して、防御姿勢を取るとヴェルフが大きな声でリリの名前を叫び呼ぶ。
すると、リリから一本の矢が───いや、あれはヴェルフがリリに渡していた短剣型の『魔剣』がバリスタによって放たれたのだ。放たれた魔剣は放電をしながらアンタレスに迫り、偶然にも奴の単眼に命中するも全く効いていなかった。
しかし、意識は僅かに逸れたお陰で大鋏は僕の直ぐ側を掠める程度で済み、僕自身に当たることはなかったが風圧に身体が吹き飛ばされてしまった。
「うわああああっ!?」
「ベル!?」
「ベル様!?」
背中から地面に叩きつけられ、それでも勢いは止まらずに一回転してうつ伏せで倒れ伏す。アンタレスが砕いた地面の破片で唇を切ったのか口の中に鉄臭さが広がる。
「二人は目の前のことに集中なさい!」
「アスフィ様!?」
「【万能者】!?」
倒れ伏していた僕をまたしてもアスフィさんが拾い上げ、空中で最後の万能薬を僕の口に差し込んで飲ませてくれる。
「これが最後の万能薬です」
「んムッ……ゴクッ……ゴクッ……んんんッ!?」
何とか万能薬を飲み干すと電撃が走るような感覚と共にあっという間に体力と精神力が回復していくのが分かる。
「あ、ありがとうございます、アスフィさん!」
「先ほども言いましたが、万能薬は今のが最後です。気を引き締めてください!」
「分かりました!」
アスフィさんにもう後がないと忠告されながら空中で離してもらい、受け身を取りながら僕はアンタレスの近くに落ちてしまった大切な《神様のナイフ》を拾い上げるために駆け出す。
すると、《神様のナイフ》が落ちている場所から少しだけ離れているところで折れた大刀を握って仰向けで倒れているボロボロのヴェルフをアンタレスが僕を吹き飛ばした紫の光線で止めを刺そうとしていたので、右手を付き出して炎雷を奴に向けて放つ。
「【ファイアボルト】!!」
僕の右手から放たれた一条の炎雷は、そのままアンタレスが溜め込んでいた紫の光線の塊に命中して、そのまま奴の目の前で暴発したのか、そのまま顔の前で大爆発を引き起こした。
「ぐぅっ……ベル……!」
「ベル様!」
「リリ、ヴェルフをお願い!アンタレスは僕が!」
幸い、先ほどの大爆発で吹き飛ばされずに済んだヴェルフをリリに任せて、僕は再びアンタレスの注意を引き付けるべく走りながら魔法を撃つなか、僕は心の中で呟き続ける。
走れ!走れ!走れ!走れ!走れ!心の底から速く走りたい。あの人のように、親友のように、僕の魔法のように疾く走りたいとそう思いながら走り続ける。
その思いが通じたのかはわかないけど、不思議なことに少しずつだけど僕の身体が軽くなっていくに連れて背中に熱が帯びていく。その感覚はまるで、18階層で『黒いゴライアス』を倒したあの時に似ていると冒険の記憶がチラリと顔を覗かせるが即座に意識を切り替えて、目の前のことだけに集中する。
「ただ出鱈目に魔法を撃っても駄目だ!」
出鱈目に魔法を撃って居てはさっきと同じことを繰り返しているとそう一人で愚痴るとまたしても18階層での出来事を思い出す。それはケンマがリューさんの受け売りで冒険者としての心得のようなことを言っていた時の出来事だ。
「『冷静に状況を把握しなさい、敵がどんな得物を持ち、どのような動きを仕掛けてくるのかを見極めなさい。周りの環境も把握し、己の武器へと変えなさい』」
あの時、ケンマが言っていたことをそのまま復唱しながら周りの環境に目を向ける。ここは『エルソスの遺跡』の地下にある洞窟、そんな場所に武器になるような物なんて…………待てよ、地下洞窟?
「やれるか? いや、やるしかない!」
走りながら地下洞窟の天井を見上げた僕の考えはそこへと行き着いた。その考えを実行するためには、周りへの計りしれない被害のことを踏まえて仲間たちに指示を飛ばすことにした。
「アスフィさん、リリ!神様たちを連れて、この場から少しでも遠くへ離れてください!!」
「ですが、ベル様!」
「お願い、リリ!ケンマみたく強くない僕にはもうこの方法しかないし、説明してられる余裕もない!だから、僕を信じて!」
「ベル様…………」
本当に説明してられるほど余裕がない。今だって、走り続けながら定期的に【ファイアボルト】をアンタレスに浴びせて、注意を引き付けるので手一杯なんだ。
僕が考えた出鱈目な策を皆に伝えられなくても、せめてケンマたちがいる方向だけは示せるだろうと思って、リューさんたちがいる方向に片手で何度も指差しながら奮闘する。
僕とアンタレスが周りから離れてしばらく経った頃を見計らって『スキル』で畜力を始める。何十秒畜力すればいいかは分からないけど、これしか奴をこの場に引き止められる方法が僕にはなかった。
「イメージするのはケンマの魔法……あの九つの首を持った龍……」
ある程度、畜力が溜まったであろうと確信が得られたところで腰を少し落として踏ん張れるような体勢になってから、左手を右手に添えてから付きだしアンタレスの真上にある天井に目掛けて強化した魔法を全力で撃つ。
「ファイアボルトォォオオオオオ!!」
『~~~~~~~~~!!?』
右手から放たれる特大の九条に連なる炎雷は天井に着弾し、大爆発を引き起こした後に天井をアンタレスの頭上に降り注がせる。奴の魔石の中にはアルテミス様の本体がいるが、経験が浅い僕の冒険者としての勘が言っている。この程度ではあのモンスターを倒すことなど不可能だと。
悔しいけど、心の底から悔しいけど、今の僕ではあのモンスターを倒せない。奴を倒せるとしたら間違いなく、親友であるケンマだけだ。
「はぁ……はぁ……だからさ……はぁ……はぁ……早く来てよ、ケンマ……」
思わず口から溢れる弱気な言葉は、『スキル』の影響でせっかく回復した体力と精神力を一気に消費した影響で身体に襲いかかっている倦怠感の所為だと思ったその時、目の前の瓦礫が動き始めた。
「嘘、でしょう………」
どんどん上から瓦礫が崩れて行き、瓦礫の山から現れたのはやはりというべきか無傷のアンタレスであった。そして、奴は自分を瓦礫で押し潰そうとした僕を見つけるや否やケンマが相殺するので精一杯だったアルテミス様の矢を作り上げ始めた。
その攻撃は、僕ではどうしようもないことを理解して一ヶ月ぶりに『死』という物を実感させられる。
「あははは………懐かしいなこの感覚、前は5階層でケンマと一緒にミノタウロスに追い掛けられた時だったっけ………」
たった一ヶ月くらい前のことなのに酷く懐かしく思えるのは、ケンマと出会って、リリが僕たちのサポーターになって、ヴェルフがパーティーに加わってと目まぐるしく状況が変化していったのでそう感じるのだろう。
「でもさ……やっぱりキミは来てくれるんでしょう、ケンマ!」
親友の名前を呼んだ刹那、アンタレスの真横から赤い何かが一条の光となって奴の身体にぶつかり、軽々とその身体を吹き飛ばして見せた。
そして、その赤い何かは僕の下までやってくると大きな翼を広げながらこう言って来た。
「よう、ベル。クライマックスタイムには間に合ったか?」
「は、はは、ははは!うん、もちろんだよ、ケンマ!!」
最初は誰だか分からなかったけど、僕にかける声音と肘まである両手の赤い籠手に見覚えのある青い剣を見て、誰だか確信した。
でも、今の彼は先程とは姿が全く異なる。『鎧』の時とは違い、両手の籠手はそのままに全体的にスリムな衣装に変わっており、腰周りはヒラヒラとコートの裾のようになっている。
言うなれば、今のケンマは─────
「ドラゴンの魔法使い?」
オリ主たちの新本拠地候補
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第六区画 『竈火の館』の近く
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第七区画 元ヘスティア廃教会
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西地区 豊穣の女主人の近く
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北地区 適当に