臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか?   作:黒牙雷真

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第九十七話

 

 

 

 

〈sideケンマ〉

 

 

 

 

 

無事に『アンタレス』を倒すことに成功した俺は、アルテミスを救い出した時と同様にブーステッド・ギアに宿ってしまった【アルテミス・ファミリア】の皆が拍手喝采を籠手の中で上げているのを聞きながら、ベルたちと合流するために地下洞窟の中を飛んで彼らを探す。

 

 

「これで一件落着かな……。しっかし、まさか俺だけの新しい赤龍帝の姿が、あの指輪の魔法使いのドラゴンスタイルみたいな姿になるとは思っても見なかったぜ」

 

『相棒、言っておくが今のその姿はとても不安定な状態だ。イッセーの「真紅の赫龍帝」の時のような脱皮したてのカニとは違って、まるでカブトムシやクワガタの幼虫とでも言い例えるべき状態だ』

 

「幼虫ってお前なぁ………まぁ、幼体でこの強さなら成体になったらどれだけ強くなれるんだろうな。それに成体になれば、指輪の魔法使いみたいに翼以外に爪や尻尾も使えるようになるんじゃないのか!? 嗚呼、心踊るぜ!」

 

 

新しい赤龍帝の姿に、まるで自分が本当に憧れの仮面ライダーになったのではと擬似体験が出来ることに心をピョンピョンさせていると少し先の方に、皆が見えたので減速しながらゆっくりと降り立つ。

 

宙から降り立つ俺にリューさんと残留思念のアルテミス、それからベル以外の皆はギョッとした目で見たきたが、頭部の甲冑だけ外して顔を見せてやると俺だと分かったようだ。

 

 

「け、ケンマ!?」

 

「ケンマ様!?」

 

「ケンマくん!?」

 

「よッ、皆!何とか全員無事みたいだな!」

 

 

ヘスティア、ヘルメス、アルテミス、リューさん以外は全員ボロボロに見えるが全員無事に生きていることに安心感と達成感が込み上げてくる。一人で、それに浸っているとヘスティアとヘルメスが俺に感謝の言葉を送ってくる。

 

 

「ベルくんから聞いたぜ、ケンマくん!キミがアルテミスをアンタレスから助けてくれたって……本当に……ほんどうに"……あ"り"が"ど"う"!」

 

「ケンマくん、オレからも感謝の言葉を送らせてくれ。同郷の女神を助けてくれて、ありがとう」

 

 

神友であるアルテミスがアンタレスから救われたことに、ヘスティアは途中から涙混じりになり、ヘルメスは頭に被っていた羽帽子を取って、胸に抱えながら深々と頭を下げてきた。

 

二人の惜しみ無い感謝の言葉と態度を見て、諦めることなくハッピーエンドを目指して良かったと心底思っているとベルの鬼気迫るような叫びが聞こえてきた。

 

 

「あ、アルテミス様!」

 

 

ベルの叫びを聞き、そちらに視線を向ければ残留思念のアルテミスの身体がまるで虫に喰われた衣服のように身体のあちこちが所々に穴が徐々に空き始め、穴が空いている箇所からは金色の小さな光が未だに眠ったままの本体のアルテミスへと流れているのが確認できる。

 

そのことから残留思念のアルテミスは役目を終えて、本体のアルテミスへと吸収され始めているのだろうと推測できた。だからこそ、ベルを安心させてやるために俺はアルテミスにこう告げた。

 

 

「何の別れの言葉もなしに本体に戻るのかよ、アルテミス」

 

「お別れもなにも本体の私に戻るのだがら別れではないはずだぞ、オリオン」

 

「そうだな。でも、俺が知ってるアルテミスはお前だ。神月祭の夜にオラリオの街で出会い、一緒にここまで旅してきたアルテミスは他でもないお前だけ。それに残留思念の記憶が本体に受け継がれる保証もないだろう? だから、ある意味ではお別れだ」

 

「そう言われてしまっては、何も言い返せないな」

 

「じゃあな、アルテミス」

 

「ああ、オリオン。私を助けてくれて、本当にありがとう。………これは、そのお礼だ」

 

「ちょっ!?」

 

「「「「なっ!?」」」」

 

「ヒュ~!」

 

 

残留思念のアルテミスは、最後の最後で完全に消える寸前に俺に近付いて来たかと思いきや、そのままの勢いで俺の右頬に「チュッ♪」というリップ音と共に生暖かな口付けを落としてから消えてしまった。

 

まさかの右頬へのキスに反応が遅れてしまった俺は、キスをされた頬を軽く抑えながら唖然していると口笛を吹いたヘルメス以外は、あり得ないモノを見たように表情が固まってしまっている。無論、それは俺も同じだ。ヘスティアから『恋愛アンチ』や『不純異性交遊滅委員長』とまで云われたあのアルテミスが、異性である俺にキスを残していくことに皆、信じられなかったのだ。

 

 

『残留思念とはいえ、三大処女神の一柱からの口付けか。歴代赤龍帝でも無し得なかったある意味での偉業だな。なかなかやるではないか、相棒』

 

『あ、あのアルテミス様が赤龍帝殿にキスゥゥウウ!?』

 

『生前、あたしが街でちょっと男性と視線を交わしたのを団長が告げ口したら「異性と関わりを持ちたいのなら私の元から去っても構わん」と破門宣告一歩手前の言葉を言っていたあのアルテミス様がッ!?』

 

 

ブーステッド・ギアの中にいるドライグや【アルテミス・ファミリア】の皆さんも残留思念のアルテミスとはいえど、恋愛アンチだったはずの主神が自ら異性に頬へ口付けを落としたことに驚愕と発狂している。

 

しばらくの間、何とも言い難い空気に包まれてると直ぐ側の壁に寄りかからせて寝かせていた本体のアルテミスが目を覚ました。それに真っ先に反応したのは、涙と鼻水で顔がぐちょぐちょのヘスティアであった。

 

 

「ん、んん……ここ……は?」

 

「ア"ル"テ"ミ"ス"~~~!!」

 

「うわああっ!へ、ヘスティア?!」

 

「よ"がった"よ"ぉぉ~~!キミが目を覚ましてくれて、本当によ"がった"よ"ぉぉ~~!!」

 

「嗚呼、そうか……少しずつだが、思い出してきたぞ。約束通り、オリオン───ケンマは私を助けてくれたのだな」

 

「約束したからな。それとアンタレスはしっかりと倒してきた。一度野営地に戻って、準備をしてから彼女たちの遺体を埋葬してやろうぜ」

 

 

アンタレスの討伐報告をアルテミスにしながら亡くなった【アルテミス・ファミリア】の冒険者たちを埋葬してやろうと提案すると、俺がアンタレスを討伐したと聞いて、またしても皆して信じられないモノを見たような表情になる。

 

皆が困惑している最中、アスフィさんが『嘘』を見抜ける神々に真偽を訪ねる。

 

 

「ヘルメス様、今のケンマの話は………?」

 

「『嘘』はついていない………」

 

「神ヘスティア」

 

「ボクも同じだよ」

 

「神アルテミス」

 

「私も同じだ。オリオン───ケンマは本当にあのアンタレスを討伐したようだ」

 

 

三人の神から俺が『嘘』を付いていないことをアスフィさんが確認を取ると今度は沈黙ではなく、ヴェルフとリリの絶叫が地下洞窟に響き渡る。

 

 

「「はあああああああ!!?」」

 

「ふざけ過ぎだろ、それは!あんな化け物を一人でぶっ倒すとか、さすがに笑えないぞケンマ!!」

 

「やっぱり規格外です!ケンマ様は、規格外が人の皮を被った何かですう!それと毎回毎回なにかしらの規格外なことをやらかさないと気が済まないですか、ケンマ様は!?」

 

「まさか、本当にアンタレスを倒してしまうとは………我が弟子ながら尊敬を通り越して感服してしまいますね」

 

「18階層であのゴライアスを殴り飛ばしたケンマならばと期待をしていましたが、ここまでやるとは…………」

 

「さすがのオレもこれは予想外だな………」

 

 

ヴェルフ、リリ、リューさん、アスフィさん、ヘルメスの順で俺がアンタレスを単独討伐したことについての感想を述べる。そんな彼らの反応を見て、俺も冷静に聞く側の立場になれば、同じ反応していただろうと苦笑いを浮かべる。

 

苦笑いを浮かべていると、不意に『ハイスクールD×D』のアニメでアザゼルが『駒王協定』の時に言っていた台詞を思い出す。

 

 

まともじゃねぇのさ。ドラゴンを宿すような奴は、どこかな?

 

 

自分がまともだなんて一度も思ったことはないが、イッセー然り、ヴァーリ然り、俺も然りとアザゼルの言う通りドラゴンを宿すような奴はまともではないようだ。

 

アザゼルの言葉に一人で納得していると、この中で唯一の鍛冶師であるヴェルフから質問を受けた。

 

 

「ところでよう、ケンマ。ずっと気になってたんだが、なんで右腕のブーステッド・ギアだけ色が変わってるんだ?」

 

「言われて見れば………」

 

「確かに姿、形はそのままですがヴェルフ・クロッゾの言う通り色が赤から白に変わってますね。あと、籠手に填められている宝玉も緑から青に変わっています」

 

「他にも18階層や未開拓領域で見た時とは鎧の形状が大きく異なっています。最早、鎧ではなく戦闘衣と言っても差し支えないくらいに変わってしまっています」

 

 

ヴェルフを皮切りにリリとアスフィさんからの指摘で、皆して俺の右腕にある『白龍皇の籠手』や新しい赤龍帝の姿に視線が集まる。未だに禁手化を維持したままなので、それはそれは目立って仕方がない。

 

 

「まぁ、この籠手についてはあまり口外しないようにお願いします。一応、ガチの奥の手で使うにもそれなりの代償を支払う必要があるので………」

 

「へぇ、代償ねぇ。因みに、代償の内容は?」

 

「悪いが、ここでは言えない」

 

 

ヘルメスが『白龍皇の籠手』を使用する代償について訪ねてくるが、近くにアルテミスがいる以上はその内容を話す訳にはいかない。もしも、代償が俺の寿命だと彼女にバレてしまえば、その代償の重さにアルテミスはヴィクトリアに自分を送還してくれと言い出しかねないと俺は思う。

 

 

「籠手についてはここまでにして。俺もちょっと気になったことがあるんだが、大元であるアンタレスは倒したけど、奴のクローンたちはどうなるんだ? やっぱり自己進化でまだ生きてたりするのか?」

 

 

これは劇場版でも明確に描かれていない内容だ。大元であるアンタレスを倒したあと、そのクローンたちはどうなったのか? 現実的に考えるならば、モンスターの核となる魔石を体内に宿しているのでクローンたちは未だに生きている可能性が高いだろう。

 

そうであれば、第二のアンタレスが誕生する前に全て討伐するのがベストだろう。ついでに奴らの魔石を回収して、俺たちの物にしても問題はないだろうしな。

 

 

「ケンマくんの言う通り、あのクローンたちには脅威的なまでの自己進化がある。最悪の場合は、奴らの中から第二のアンタレスが誕生しても可笑しくないな」

 

「あまり考えたくはありませんが、ケンマやヘルメス様の言う通りかもしれませんね」

 

「アスフィ、遺跡から出たあとファルガーたちの状態を把握、準備を整えてから再度遺跡にアタックを仕掛けてくれ。目的は、残党の殲滅。主神命令として、決して一匹も残さず殲滅してくれ」

 

「わかりました」

 

 

俺が出した疑問をヘルメスは重く受け止めると、主神命令まで持ち出してアスフィさんに【ファミリア】全員でのクローンの完全殲滅を命じた。

 

その後、俺たちは残存しているかもしれないクローンたちに警戒しながら地下洞窟から地上へと進むと、道中でクローンたちに鉢合うこともなく無事に帰還することが出来た。

 

 

「どうやら、アンタレスのクローンたちは大元であるアンタレスが倒されたことで自然消滅したようだね」

 

「ですが、魔石すら残っていないなんてあまりにも不可解です。普通であれば、モンスターか魔石が残っているはず………」

 

 

ヘルメスの仮説にリリの指摘が加わったことで俺たちも思考を巡らせる。以前、『エルソスの遺跡』に来る途中でクローンたちに追われている親子を助けた際に、倒した個体はしっかりと魔石を残していた。

 

しかし、奴らの巣窟であった今の『エルソスの遺跡』には、奴らの魔石が一つも残っていない。これは明らかに何かの前触れではないかと俺はアンタレスを倒した際にも感じた不穏な予感を拭えなかった。

 

そして、『エルソスの遺跡』の入り口にあった石橋を渡った後、それは起きた。突如として、地面が激しく揺れ始めた。それにはさすがに驚きを隠せず皆も困惑を露わにしていた。

 

 

「な、なんだ!?」

 

「地面が揺れています!」

 

「次から次へと何なんだ!?」

 

 

あまりにも大きな地震に俺たちは堪らず、地面に手足を着いてしまう。幸い、周囲には地震の影響で何か倒れそうな物はないため、安全は多少確保できている。

 

地震が多い国である日本人ならではの考えで安全を一人で確かめていると、ドライグが鬼気迫るような声である場所を見るように指示を飛ばしてくる。

 

 

『相棒、空だ!』

 

「えっ? なっ………!?」

 

 

ドライグの言う通りに空を見上げると、そこには朝を迎えてうっすらと見える月とは別にもう一つ、くっきりと肉眼で捉えられるほどの禍々しい紫色をした三日月が遠い空に浮かび上がっていた。

 

あまりにも不自然な色をした三日月に驚いていると、俺が空を見上げていることに疑問を感じたベルも同じく空を見上げた。

 

 

「どうしたのケンマ…………あれは、三日月?」

 

「どうしたのですか、ベル様………えっ、あれは一体………?」

 

「なんだよ、あれ………」

 

「紫色の三日月?」

 

「ですが、あまりにも禍々しい色合いの三日月ですね」

 

 

ベルを始めとした、リリ、ヴェルフ、アスフィさん、リューさんの順で紫色の三日月を初見で捉えた感想を述べると神々であるヘルメス、ヘスティア、アルテミスが頬に一滴の汗を垂らしながら目を見開いていた。

 

 

「そんな……バカな……!?」

 

「何で……なんで………あれがあそこにあるんだ!?」

 

「嗚呼、私はなんてことを………!?」

オリ主たちの新本拠地候補

  • 第六区画 『竈火の館』の近く
  • 第七区画 元ヘスティア廃教会
  • 西地区 豊穣の女主人の近く
  • 北地区 適当に
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