臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか? 作:黒牙雷真
〈sideケンマ〉
「そんな……バカな……!?」
「何で……なんで………あれがあそこにあるんだ!?」
「嗚呼、私はなんてことを………!?」
突如として起きた激しい地震の最中、ドライグの指摘で空を見上げるとそこには俺が知っている月とは全く異なる色をした三日月が浮かび上がっており、それを見た神々であるヘルメス、ヘスティア、アルテミスが俺たちとは違った反応を見せていることに疑問を抱いた。
なので、神々に何故そんなにも信じられない物を見るように目を見開いていているのかを尋ねることにした。
「ヘルメス、神ヘスティア、アルテミス。そんなにあの紫色の三日月が空に浮かび上がっているのが信じられないのか? 確かに俺もあんな三日月は初めて見たけど、そこまで──────」
「違うんだ!違うんだよ、ケンマくん!」
「あれは………三日月なんて物じゃない!」
「あれは………あれは私の『神の力』で顕現させた私の『矢』だ」
「なにッ!?」
アルテミスから空に浮かんでいる紫色の三日月が、彼女の『神の力』で顕現させられている『矢』だと聞いて再び空を見上げると一つの仮説が脳裏にまるでカメラのフラッシュのように浮かぶ。
「まさか!?あの野郎、死際に自分とクローンたちのリソースを全てあの『矢』に注ぎ込みやがったなッ!!」
俺の仮説は今述べた通りで、『アンタレス』は己が俺に倒されると確信するや否や『エルソスの遺跡』を中心とした地上に放たれている己とそのクローンたちを生け贄に、アルテミスの『神の力』で顕現させた『矢』を、力の源である彼女で制御していたはずのアルテミスを失ってもなお制御して、地上へ放とうとして今に至るわけだ。
劇場版のボスキャラあるいはボスモンスターならやりそうな手口に俺は思わず舌打ちをしてしまう。だが、このままではあの『矢』が地上に放たれて、地上が消滅してしまう。
「なるほど、そういうことか。通りでサポーターくんの言っていた通り、ここまでの道で魔石が一つも残っていない訳だ。でも、そんな用意周到なことをモンスターが考えられるものなのかい!?」
「神であるアルテミスを食らうことを考えるモンスターだぞ? オレたちには理解出来ないような行動もしてみせるさ、ヘスティア。しかし、猶予もあまり多くは残されていないだろう」
「やはり、これしかないのだな………」
モンスターであるアンタレスが己が倒された後のことを考えて、ここまで用意周到な準備をするのかとヘスティアが問い、それにヘルメスが神であるアルテミスを食らうことを考えるモンスターだと答えて、あまり猶予が残っていないと告げると頭に被っている羽帽子を深く被り直し、表情を隠す。
そして、二柱の神とは違い。アルテミスは何か覚悟を決めるような諦めを悟るような表情する。
「オリオン────いや、ケンマ!今直ぐにでも私を送還させるんだ!今なら………今ならきっとまだ間に合うはずだ!」
「なっ、アルテミスを送還だと!?」
アルテミスの口から今直ぐにでも自分を殺して、天界に送還させるよう俺に指示が飛んでくる。あまりの内容に俺は思わずオウム返しで聞き返してしまう。
けれど、即座にベルがアルテミスの送還について否定的な発言をする。
「そんなの駄目だ!そんなの………そんなの絶対に駄目だ!せっかくケンマが頑張って、アンタレスからアルテミス様を救ってくれたのに!それなのに、なんでまたケンマにアルテミス様は自分を殺すように言うんですか!」
「だとしても、もう時間がないんだ! もうこれしかないんだ!空に浮かぶアレが放たれてしまえば、地上は滅びてしまう!人も動物も自然も、地上の何もかもが滅びてしまうんだ!私は………私自身の力でそんな光景を見たくないんだ!」
それは地下洞窟で残留思念だったアルテミスとはまた別の、心の底から地上で生きとし生ける者たちを愛して、守りたいと思っている女神としての叫びが響き渡る。
この世界を守るために『矢』を顕現させている力の源であるアルテミスを送還させるのがベストなのだろう。だが、俺としてもアルテミスの考えよりもベルの意見に賛同する。それにあの『矢』を何とかする手立てならば、一つだけ俺にある。
「アルテミス、悪いけど送還の話はなしだ。今は少しでもやれること────ッッ!!?」
最後まで言い終わる前に、俺の身体が突如大きく脈動すると腹の底から何かが込み上げて、そのまま吐き出されたのは俺の真っ赤な血だった。
「ゴフッ!!」
「「「ケンマ!?」」」
「「ケンマくん!?」」
「ケンマ様!?」
「あ"がっ………はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
吐血した途端、身体から力がどんどん抜けていき、終いには四つん這いに崩れる始末で、今まで維持していた新しい赤龍帝の形態どころか禁手までもが勝手に解除されてしまった。
ど、どうしていきなり禁手が解けた? それに吐血までするなんて、何がどうなってるんだ!? そう思っているとドライグが答えを教えてくれた。
『どうやら、リバウンドのようだ。身の丈に合わない力を偶然と奇跡が何重にも重なり、無理矢理に引き出していたんだ。よくここまで持った方だろう………』
(つまり、俺の実力不足ってことかよ…………)
ドライグから今の俺に起きている現象の見解を聴きながら、玉のような汗がボタボタと地面に吸い込まれ、震える身体を何とか抑えながら荒くなっている呼吸を整えることに努めるのと同時に自分の実力不足に苛立ちが沸いてくる。
加えてここまで来て、実力不足の所為で仲間のお荷物になるなんて、こんな格好の悪い展開があるのかと情けなかった。
「大丈夫、ケンマ!?」
「あ、ああ………だけど、ここまでじゃ、『矢』が………」
くそっ!このままじゃ、『矢』を止める手段を使えない。せめて、万全な状態に戻りさえすれば禁手を使って『矢』を止められる可能性のある手段を使えるのに…………。
呼吸は何とか整いつつあるが、未だに身体に力が入らなくて立ち上がれず、倦怠感も襲ってくる。これはまるで17階層で通常の『ゴライアス』を仕止める時に使った【一刀修羅】の副作用に近い。これは間違いなく、禁手を維持するのに消費した精神力の枯渇である精神疲弊だ。
「ぐっ……視界が点滅しやがる……!」
「無理しちゃ駄目だよ、ケンマ!」
視界が色彩のものから白黒になったり、逆に白黒から色彩のある景色に変わったりとあまりよろしくない現象が俺に起き、それを心配してベルが寄り添ってくる。
けれど、それが決定的な隙となってしまった。何とその隙を突いて、アルテミスがベルの腰から《ヘスティア・ナイフ》を奪ってしまったのだ。
「アルテミス様!?」
「ヘルメス!この際、お前でも構わない!この短剣を私の胸に突き立てろ!」
「アルテミス………もう、これしかないのか!」
「ちょっと待ってくれよ、二人とも!まだ、まだ何か方法があるはずだ!」
「ヘスティア、悪いがそんなものは有りはしない!既にあの『矢』は私の制御から離れている。もう、私では止められないんだ………」
「アルテミス………」
《ヘスティア・ナイフ》を握り締めたままで涙を流すアルテミスを見て、心の底から今までにないほど自分へ対しての怒りが沸き上がってきた。
「ベル……万能薬は……まだ残ってるか?」
「ううん。僕もヴェルフもリリも、もう万能薬どころか普通の回復薬すら残ってないよ」
「くそっ……駄目か……」
マジで駄目なのか?ここまで頑張ってきて、やっぱりアルテミスを送還するというハッピーエンドではなく、劇場版と同じトゥルーエンドのルートから外れられないのか?そんな終わりを認められるかよ!!
動けッ!動けよッ!約束したんだろうがッ!アルテミスを守ると、トゥルーエンドじゃなくてハッピーエンドにすると約束しただろうがッ!!
「万能薬があれば、何とかできるのですかケンマ」
「リューさん?」
「万能薬なら私の手持ちにあります。それで万能薬さえあれば、この最悪の状況を打破できるのですか?」
「…………できます。いや、やります!」
「では、口を大きく開けなさい」
俺が躊躇することなく答えると、リューさんは万能薬の栓を慣れた手つきで親指で弾き飛ばし、口を大きく開けるように言ってくる。なので、それに応えるようにできるだけ大きく口を開けて、万能薬を迎え入れる。
これが最後の命綱だ。
「んあー!」
「いきます!」
ゆっくりではあるが、しっかり溢さずに万能薬を飲み干していく。液体が喉を通って行く度、俺の身体から倦怠感や疲労が抜けていくように回復する。
万能薬で身体が軽くなって、身動きが取れるようになった俺はすかさず禁手のカウントダウンを始めながらドライグに尋ねる。
(ドライグ、さっきの新しい赤龍帝の姿にまた成れるか?)
『残念だが、それは無理だ。あれは、相棒がヴィクトリアの「神の血」を少量とはいえ取り込んだことによる裏技に近い至り方だ。一度禁手が解けてしまった今では、その効果もリセットされてしまっている』
(なら、通常の禁手で何とかするしかないな!それと翼は出せるのか?一応、あの新しい赤龍帝の姿は『覇龍』の力を安全な方法で使用した『真紅の赫龍帝』に近いと思うんだが)
『さっきも説明したが相棒が目覚めたあの新しい力は裏技に近い。それ故か、歴代赤龍帝やイッセーのようにドラゴンの翼を展開できる機能はまだ使えん。例え、翼を使えたとしてどうするつもりだ? 今の相棒では、覇龍にでも成らん限りは神の攻撃を退けることはできんぞ?』
(やれるかは賭けになるが、作戦としては最大倍加を連続で譲渡したクロス・クライシスで空間に穴を開けて、あの矢を次元の狭間に放り込む)
『なるほど、次元の狭間か………。確かにあそこならば、神の一撃さえも無に還せるだろう。しかし、そう上手くいくか?』
(上手くいけば勝ち、いかなければ死の二択だ。それにこういう時は、やれるかじゃなくてやってみせるもんなんだよ!!)
ドライグにアンタレスが乗っ取ったアルテミスの『矢』を止める作戦を伝えると鎧を顕現させる一分のカウントダウンが満ちる。
『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!』
「何故だ!何故、お前はそんなにも無謀な選択肢を選ぶんだ!私を送還すれば、それで事は済むはずなのに!それで世界は救われるはずなのに!」
鎧を顕現させると俺が『矢』を止めるべく動き出すことを理解するアルテミスは、未だに涙を流しながら何故だと問うてくるが俺の中でその答えは決まってる。
「何故、ねぇ…………そんなの決まってるだろう。アルテミス、お前が泣いているからだ。大切な仲間が、一人の女の子が泣いているならば、男として拳を、剣を振るわない野郎はいないだろうぜ。それに、俺は赤龍帝だ!」
「赤……龍……帝?」
「ああ。それに言ったろう、俺が『最後の希望』だって」
【指輪の魔法使い】の台詞をアルテミスに言い残してから膝を曲げて禁手で向上している身体能力で、空に向かって跳躍。その後、最高地点に到達したタイミングで【魔力操作】で足裏に固めた魔力の足場を踏み台に、更に上空へと跳躍。
それをひたすら繰り返しながら『擬態の聖剣』で【指輪の魔法使い】の変身ベルトに擬態させていた《エクス・デュランダル》を元の姿に戻して、《真のエクスカリバー》と分離。その後は、高めた倍加を途中で使ってしまわないように注意しながら二本の聖剣にできる限り力の譲渡を施す。
「翼さえ、使えれば!こんな、非効率な方法で飛ばなくてもいいのになッ!チクショー!!」
『相棒、そろそろ限界だ。これ以上の力の譲渡は、地上に戻る前に空中で禁手が解けて、そのまま熟れたトマトが真夏の太陽に熱せられたアスファルトに落ちるかの如く、悲惨なことになるぞ!』
「とても分かりやすい説明をどうもッ!」
正直、俺も薄々これ以上の力の譲渡はヤバいことは理解している。だけどさ、イッセーみたく真『女王』や『龍神化』になれない今の俺が本当に空間を切り裂いて、次元の狭間を切り開くことができるのか不安で仕方ない。ならば、限界ギリギリまで力を高める方が安牌だろう。
「これでラストだ」
最早、何重何回分の力を《エクス・デュランダル》と《真のエクスカリバー》に譲渡したのかは分からない。それでも、今のこの二振りを人間に向けたら確実に跡形もなく消し飛ばせる程の聖なるオーラが高まっていることだけは理解出来る。二本の聖剣を落とさないように握り締めている俺ですら悪寒を感じることを禁じ得ない。
聖なるオーラを高めに高めた二本の聖剣を一度見たあと、俺よりも更に空高くにある禍々しい紫色の『矢』に厳しい眼差しを向ける。
そして、時は来た。
禍々しい紫色をした『矢』は、アンタレスの意思をも取り込んでいるのか己に止めを刺した俺に矢先を向け、弦を引き絞り、その『矢』を解き放った。
『来たぞ、相棒!』
「分かってる!」
ドライグの言う通り『矢』は俺に向かって飛んでくる。幸い、隕石のような肉眼で捉えるのがやっとな速度ではなく、鎧を身に纏っている状態であれば十分に捉えられる速度で飛んできている。
それに対して俺は、限界ギリギリまで力の譲渡を施した二本の聖剣の刀身を✕の字に交差させる。そうすることで聖剣の聖なるオーラを高める効果を持つ《エクス・デュランダル》の作用で更に聖なるオーラを本当の限界ギリギリまで高めさせる。
そして、『矢』が地面に近付くにつれて起こる暴風に身体を煽られる中、俺は二本の聖剣を振り抜いた。
「空間を突き破れ!クロス・クライシス!!」
過去一番の威力を誇る特大の【クロス・クライシス】が放たれると、そのまま特大の黄金の✕字の斬擊は空間を切り裂くことなく『矢』に向かって飛んでいく。
大空で衝突する紫色の『矢』と黄金の『斬擊』。その衝突の余波で周囲に浮かんでいた雲が一つ残らず一気に消し飛び、快晴の青空を作り上げた後にそれは起きた。突如として、世界が悲鳴をあげるかのように『矢』と『斬擊』を中心とした大空に亀裂が走り、硝子が割れるような甲高い破砕音が世界中に鳴り響き、空間が割れた。
そう、俺の目論見通りに空間が割れたのだ。そして、そこから次に起こる現象は、まるでSFアニメあるあるの真空の世界に酸素が漏れるように内側から外へ吐き出されるように、『ダンまち』の世界の物が次元の狭間へと吸い込まれる。
「アハハハハ!!やった、やったぞドライグ!一か八かの賭けは俺たちの勝ちだ!!」
『そんなことを言っていられる場合か、相棒!このままでは俺たち諸共次元の狭間に吸い込まれかねんぞ!今回ばかりは真面目に逃げろ!!』
「それはマジで勘弁だ!アニメのイッセーみたく、運良くグレート・レッドに導かれるなんて可能性は天文学的確率よりも希だぞ!」
今回ばかりは真面目にドライグの言う通りに残りの体力を全て、次元の狭間の引力から逃げるために使う。それでも『矢』と『斬擊』が開けた空間の穴は規模が大きいようでどんどん次元の狭間に引きずり込まれている。
「死んでたまるかぁああああ!!!」
〈Side???〉
とある木造の部屋で魔術に関する書物を読んでいると、生まれた時から共に戦ってきた相棒と呼べる龍が何かに反応して、珍しくも声をもらした。
『ん? この気配は、まさか…………』
「どうした□□□□□? 自分から出てくるは珍しいな。何かあったのか?」
『いや、酷く懐かしい気配を感じたのでな』
「ほう?こんな場所でか?」
窓から外を覗けば、まるで絵の具をぐちゃぐちゃにぶちまけたような混沌としていて景色と言い難い光景が無限に広がっているだけ。
『ああ。奴は、前の宿主が■■■■の毒を食らったと●●●●から聞いて、宿主共々消滅してしまったとばかり思っていたが、どうやら世界を越えて新たな宿主に宿っていたは…………奴め、存外にも邪龍並にしぶといようだな』
「へぇ、彼が死んだあとの新たらしい宿主に巡り会ったのか……あるいは人間界に出回っているSF小説とかに出てくる俺たちの世界と似たようなパラレルワールドかもしれないな。ふむ、少し興味が湧いたな。□□□□□、その座標は分かるか?」
『正確な位置までは特定出来んが、ある程度は補足している』
「なら、その座標を教えてくれ。◇◇◇◇に進路を伝える」
『わかった』
読んでいた本を閉じる前に途中まで読んでいた場所を見失わないように栞を挟んでから席を立ち上がり、俺たちが乗っているかなり特殊な箱船の進路を変えるために、舵を取っている仲間の下へと向かう。
「さて、異世界にいる新たな宿敵くんはどんな奴でどれだけ強いのか、はたまたその世界にはどんな強敵がいるのか興味がそそられるな」
オリ主たちの新本拠地候補
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第六区画 『竈火の館』の近く
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第七区画 元ヘスティア廃教会
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西地区 豊穣の女主人の近く
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北地区 適当に