───目を開ける。
「驚いたな、アレを抜けて来られるのか。」
白銀の鎧を纏う、好青年。
【聖女の前衛 ジル・ド・レ】
「チッ…。クソッタレが…。」
「後続部隊が来てますよ。どうしますか?」
どこか気怠そうに目を細める、翠緑のサーコートを身に纏う騎士。
【-蒼王宮-翠天騎士 リョーフキー】
「ぜーいんぶっ殺せばいいんでしょ?むしろ話が速いじゃん!」
両手に愛銃、ガトリンを装備する、防弾パーカーを着た少女。
【トリガーハッピー メグメグ】
3人は【暁翼街】内の建物に現れた侵入者が、トラップを抜け、ここまで辿り着くということで話し合っていた。
「そういう話ではないよ、メグメグ。私たちが交渉を行わずして、ここに立て籠ったのも全て、時間を稼ぐためなんだからね。」
「メグメグ、わかんなーい。」
「リョーフキー。君は【全翼飛将 グライフ】(戦闘機のようなもの)の準備をしておきなさい。」
「後続部隊には、【爆術死鬼 ツクモ】を持たせた【無限軍旅 ケルパーズ】(大きな目玉を頭部とする、軍服を着た妖怪の小人達)でも差し向けておけばいい。」
「おう、わかった。」
「…ああ、そうだ。リョーフキー。【ジェニト】がこちらに来るまでは、君は絶対にこっちに来てはいけないよ。君がいないと"取引"が成り立たない。」
「ああ…絶対、無理するなよ。お前ら。」
「出てきちゃダメだからねーっ。」
「わかってるよ!…わかってる…!」
ジル・ド・レに指示されると、リョーフキーはこの場から立ち去った。
「ようこそ。待たせて悪いね、鎮圧者諸君。」
階段を登りきる、侵入者達。
忠臣とブラストアッパーは、数々のトラップを超え、ジル・ド・レ達の前に立っていた。
「茶番は終わったようだな。」
忠臣が刀を抜く。
「ジル・ド・レ…メグメグ。お前ら…本気かよ。」
ブラストアッパーは拳を構えた。
「うん。本気だとも。メグメグ!頼んだ。」
引き金を引いたのは、羽根の如く軽い号令だった。
「そん、な───。」
殺意が場に充満する。
「OK!やっちゃうよ!」
「絶対死なないようにね、メグメグ。」
「もっちろーん!」
「───!逃げろッ!忠臣!」
───それは、蹂躙だった。
ガトリングガン。
機関銃との名称があるが、ともかく、この銃は反動が強く、ブレも大きいが───。
───圧倒的な連射性能を持つ。
それも二丁とあれば、尚更だ。
「───閃ッ!」
忠臣は絨毛銃撃から脚力を最大限活用して抜け出し、メグメグの無力化を狙う。
「忠臣ッ!」
しかし、避け切れず、足、腕に数発程度銃弾を食らい、壁際まで吹っ飛ぶ。
「がはっ。」
(だが…。)
見れば、ブラストアッパーが、ガトリンを乱射するメグメグへ近づき、接近戦を仕掛けようとしている。
(あのガトリングガン使いの背後から近づけば…。)
ブラストアッパーが機動力で撹乱しようにも、二丁ガトリングガンという暴力の奔流が、なかなか近づくことを許さない。
忠臣は、起き上がり、足に力を込める。
「通すわけないだろ。」
そこで、呆れ顔のジル・ド・レが忠臣の前に立ち塞がった。
「む───。」
忠臣はジル・ド・レへと斬りかかる。
だが、刀を弾き飛ばされた上で、右腕を斬り飛ばされた。
一瞬にして、刀と腕を失った。
「───は?」
忠臣は、理解できずにいた。
ジェニトでも、アダムでも。
どのような攻撃が来るか程度は、見えていたのだ。
見切ることができたのだ。
(だが、こやつは───。)
剣が、見えない。
ジル・ド・レの攻撃が迫る。
間違いなく、忠臣はここで───死ぬ。
「ブラストォ、アッパーッ!!」
仲間がいなければ、だが。
メグメグと交戦していたらしきブラストアッパーが、こちらへ援護の拳を向ける。
「ダメなんだよ?敵から目を逸らしちゃ。」
「はらわたを───ブチまけろッ!」
拳を放った硬直のために、45発程度、生身に弾丸を受けるブラストアッパーだが───。
「メタドール!───上手くいってくれよ…!」
【液体金属ロボ Metadoll-774】を起動。
銃弾による、45発の殺人的な衝撃にて壁際へと吹っ飛ぶが、かろうじて銃弾が体を貫通するのは防ぐことができた。
「あれ、血が見えないなぁ…。もっと楽しめるってこと?」
プラズマ化した爆炎が、忠臣諸共ジル・ド・レを包み込もうと爆走する。
「───正気かよ。」
ジル・ド・レはため息をつくが、退避できなくはない。
(今の"強化された身体"あってこそ、だがね。)
「逃すか───。」
忠臣は村正を起動する。
迅雷を左手にて掴み、ジル・ド・レへと投げ放つ。
放たれた矢の如き一撃は、ジル・ド・レの腹を穿った。
流石のジル・ド・レも、雷を避ける事は出来ない。
「…ぐっ。」
血を吐くジル・ド・レ。
だが、炎の回避には成功した。
忠臣は炎に飲み込まれる。
あとは、ブラストアッパーをメグメグと共に始末すれば終わりだ。
終わり、だ───。
「ふーん。立ち上がるんだね。」
「ああ。仲間を───助けなきゃならねぇ。」
「メグメグも、そうだよ。」
ガトリングガン二丁による、弾幕。
轟音。
とても、人が生きていられない環境。
火花が咲いて、血が落ちる。
銃撃の暴風雨、その真正面に、ブラストアッパーは立っていた。
「ブラスト───。」
Metadoll-774による防御は、気休め。
すでに筋肉は衝撃によってボロボロ。
だが、拳を少し振るぐらいは、彼にも出来る。
「ぐっ───。」
腹が───目が足が腕が肩が肘が首が頭が。
(負けねぇ。)
全て撃ち抜かれようとも、立つ。
(倒れてる仲間が、いる。)
振り抜くまでは。
(仲間が頼れるのは、仲間《オレ》だけだ───。)
いずれあの───フルーク・クォイツを撃ち落とすために。
立つ。
振り抜く。
(ブラスト───。)
振り抜け───。
「ブラスト───アッパーッ!!!」
ジル・ド・レの横を吹き抜ける爆炎。
プラズマ化した分子の活性。
けたたましい程の銃撃音は、爆炎に攫われた。
「あ。」
煙が徐々に薄まれば、立っていたのは、一人のみ。
ジル・ド・レの視線の先にいたのは、ブラストアッパー。
彼が持つ、金枠の【カード】。
「メグメグ。」
【トリガーハッピー メグメグ】。
そのカードが、ブラストアッパーの手に収まっていた。
ブラストアッパーの身体には、夥しいほどの穴が空いており、凄まじい激戦が展開されたのだろうと思われる。
だが、メグメグは生き残れなかった。
「───ジル・ド・レ、こいつ。金枠だろ。」
出血、脳の損傷により、身体機能のほぼ全てを失いながらも、彼は口を開けた。
「エナ缶中毒を装って、こいつをなんとかしたかったんだな?」
「…そうなんだろ。」
途中でメタドールの防御を頭部に集中させた事で、かろうじて話すことができた。
「ああ、そうさ。」
「【死献薬 シュタルク・トート】まで使った。」
「それなのに、このザマだ。」
「持っていけ。」
ブラストアッパーはメグメグのカードを、ジル・ド・レへと投げつけた。
「───何故、だい。」
「アンタは腹を貫かれただけでほぼ健在、オレたちは生きてるかもわからねぇ忠臣と、ボロボロのオレ。」
「───命乞いって奴だ。」
建前なのは、わかっていた。
だが、事実でもあった。
「…ハハ。確かにそうだ。」
「じゃ、貰っておくよ。」
メグメグのカードがジル・ド・レに渡された瞬間に、【全翼飛将 グライフ】の起動を終えたリョーフキーが戻ってくる。
「オイ!ジル・ド・レ!何があった!」
「見ての通りさ、完敗だよ。そっちは?」
メグメグのカードを見せるジル・ド・レ。
「ぐっ…ジェニトさんが来た!もう"脱出"できる!早く来い!」
ジル・ド・レは、微笑んだ。
が、シュタルク・トートの副作用か、吐血する。
「ああもう!背負ってやるから!」
リョーフキーに背負われ、撤退するジル・ド・レ達。
それを静かに見送るブラストアッパーであった。