───目を開ける。
エンフィールドに融通してもらったアパートの一室で目が覚める。
まともな睡眠をとるのは、久しぶりのことであった。
「良い朝だ。」
窓の外では、大量の【カード】達が【エナジー缶】を求めて仕事を行っていた。
「いつの時代でも、民草のやることは同じか。」
仕事とは、多岐にわたる。
破損した施設の修繕、エナジー缶の代替エネルギーとなる物質の製造、たびたび侵攻してくる【蒼王宮】への対策…。
「下々の動きを知ることも肝要よな。」
忠臣は、今日からエンフィールドとの契約通り、地下世界の偵察任務に加わる。
レジスタンスの一人に加わるが故に、彼らの慣習などを知っておくのは急務であった。
服を着替え、階段を降りると、宿泊者は無料で利用できる食堂があった。
【ティワロロ族の戦士 イスタカ】が切り盛りする、原始風レストランである。
早速入ると、見目麗しい少女、【情愛の四女 クララ】から席へと案内される。
「今日の日替わり定食は、昨日の狩りの獲物のジビエの煮込みと、米、肉団子のお吸い物だ。野生の獣の肉が嫌いという者には他のメニューもある。」
「注文が決まったら、その卓上送信機を押せ。以上だ。」
白いカッターシャツに黒いズボン、腰下エプロンを身につけた、茶髪の青年…イスタカが、忠臣に今日のメニューを説明した。
イスタカは呼び出しベルを指差す。
他のメニューを見ると、ハンバーグ、ナポリタンなど、洋風な料理が占めていた。
「店主、聞きたいのだが。【カード】はみな【エナジー缶】を求めるのではないのか?経営はどうしているのだ。」
忠臣は疑問を抱いていたので、厨房に戻ろうとしていたイスタカに聞いた。
「食事を取ることでも、ある程度は【エナジー】を摂取できることが【迅雷の科学者 アバカン】により証明されたのが主な要因だな。」
「無味無臭のエナジー缶を摂取するよりも、食事を取ることが心理的に良いとのことで、食事の価値が高まり、客も増えた。」
「だから、経営に関しては安定している。」
まとめると、エナジー缶より、食事をとりたい【カード】が多いから、経営が成り立っているとのこと。
忠臣としては、少し疑問であったが。
(味がついてるか、ついてないかの違いで、エネルギー摂取という観点では何も変わらんだろうに。)
だが、実際に食事をしてみると、その考えは見事に裏返ることになった。
「ふむ。美味い。」
忠臣は脱いだ。
とてつもなく美味かったからだ。
テーブルを拭こうと移動していたクララは、手で目を塞いだ。
「キャーーッ!!」
クララの悲鳴に続くようにして、全裸の忠臣に対して他の客が戦慄するが、忠臣は気にせず、もくもくと料理を食べ進める。
何故ここまで美味いと感じるのだろうか、理由は単純だ。
忠臣達が、本来、人間だからだ。
人間は食べ物を消化して生きている。
それが本来の在り方だ。
だから、エナ缶をずっと摂取するばかりで、全く消化活動を行えなかった身体がずっと食事を求めていたために、ここまで食べ物が美味いと感じるのだろうと思われる。
「店主さーん!」
「どうしたクララ!敵か!」
「客の人が脱ぎ始めて…。」
「ふむ。そうか。マナーに反するな。注意してこよう。」
イスタカは、過去に自身が半裸であったために、周囲から咎められたのを思い出していた。
彼の民族衣装はそういうモノであったから、仕方がないのだが。
イスタカが見たのは、料理を食べ尽くした全裸の忠臣であった。
いや、よくみるとふんどしをつけている。
「美味かったぞ、店主。褒めてつかわそう。」
「他の者の目に悪いから、まずは服を着てくれ。」
イスタカは忠臣を注意した。
いそいそと服を着始める忠臣。
「次やったら、衛生上の観点から出入り禁止にしなくてはならない。よく肝に銘じておいてくれ。」
「よかろう。把握した。」
忠臣は服を着終わり、店から去っていった。
「すごい人でしたね…店長。」
「クララ、奴とは長い付き合いになるぞ。マピヤに調べさせたところ、あと三ヶ月はここに泊まるそうだ。」
「えーーっ!?」
アパートの2階にクララの絶叫が響きわたった。