───目を開ける。
「…ここは。」
地面は───ない。
地平線は───ない。
重力は───ない。
そこは見渡す限り───【黒】しかない世界だった。
男達は浮遊していた。
「───ヨウコソ、ボクノ、【#コンパス】ヘ。」
「ボクノ名ハ、バグドール。」
電子音がこだまする。
それを始点に、CとP、二つの文字を弄った黒き構造体がさっと現れる。
視界に、ノイズが走る。
空間に走る次元の裂け目は、テレビの砂嵐の如くだった。
「オマエ達ガココニ来ルノハ、モウスコシ後ダトオモッテイタゾ。」
"いつか見た光景だ"。
「【#イレギュラー 亡国の王】。」
電子音は忠臣に告げた。
忠臣の、真実を。
忠臣がイレギュラーであることを。
桜華忠臣は、思い出した。
(この世界はすべて複製。)
(テストケースだ。)
(バグドールの箱庭だ。)
(隔離されていたのだ。)
(全ては、イレギュラーを作るためだった。)
(初めから、今に至るまで我らは、データの泡だったのだ。)
(全ては演算だ。)
(今からは精算だ。)
身体に紋様が走る。
黒き紋様だ。
忠臣を飲み込んで、染める。
「───忠臣ッ!」
仲間の声も、届かない。
元々、忠臣は潜在的な敵であった。
歪の地を運営するための手駒だった。
あの憎き、【アダム・ユーリエフ】を捕まえるためだけの。
「サア、タチアガレ。亡国ノ王ヨ。」
「正常ナ機能デモッテ、今一度ボクノ役ニタツガイイ。」
───忠臣の身体が、"割れる"。
外殻が剥がれ始める。
ぽろぽろと、崩れて消える。
「aあ。そうdeあったna…。」
「わreは初meカラ、コの"はらわた"の奥に、飼っteいたノだ…。」
角が。
竜の角が。
爪が。
長き爪が。
腕が。
四の腕が。
顔が。
地獄の悪魔が如く。
人ではない。
黒き体毛。
緑の紋様。
歴史に語られる、ハヌマーンのような。
神の獣であった。
───黒緑の、その怪物の名は。
「G u R e e e e e e e e e e e e e T o ! ! ! !」
G-R-E-E-T。
グリート。
神敵。
忠臣だったモノは、その四腕で空間を暴力的に引っ掻き、時空の裂け目を開ける。
無限のエナジーが為せる技だ。
「【アダム・ユーリエフ】ヲ、殺シテキナサイ。」
発破を受け、そこから、飛び立つ。
「…!待てよ!忠臣!」
ブラストアッパー達もこれを機に、裂け目へと突入した。
…静寂が、またしてもこの空間に訪れた。
空間に表示されたバグドールの【ホログラム】が消える。
元よりこの場には、来訪者たる忠臣達以外の人物は、誰も存在していなかったのだ。
…彼らを、除けは。
地面に置かれた映写機を破壊するハンマー。
すると、空間はただの白い部屋へ戻る。
ハンマーの持ち主は舌打ちする。
「…バグドールが最後に残したホログラムか…。クソっ。奴め、"消える"前にこんなモノを用意していたとはな…。」
【連合宇宙軍大尉 ジャスティスハンコック】。
「…空間遮断機能か、これは。」
映写機の中に仕込まれていたのは、【ドリーム☆コンパクト】。
本来であれば、魔法少女が人払いの結界を展開するための【カード】である。
「この【カード】のせいで、一体何がやられていたのかわからんかったな…。」
「…【少年】の守衛を行うだけで満足していた、俺のミスだ。」
ジャスティスは部屋を後にし、【少年】の近くへと戻る。
ただの一般人に見える少年が、壁を背に眠っていた。
時が違えば、ゲームを遊んで悔しがったり、笑ったりするような、そんな普通の少年だ。
…彼は眠っている。
これからも、永遠に眠り続けるだろう。
「…アダム、頼んだぞ。」
ジャスティスは【蒼王宮】騎士団長の名を口にする。
「お前が【voi doll】を見つけられれば、もしかしたら───。」