#コンパス 桜華忠臣の受難   作:K+#ガソ林

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最後の異分子

 

 

 黒緑の獣、グリートはその目を開けた。

 

「A a ア a a あ a a a a a a a ァ a a! ! ! !」

 

「こ、ここは…。」

 

 デリンジャーが慄く。

 何故ならばここは───【蒼王宮】の本拠地。

 

 黒いヴェールでその顔を覆う、冷酷なる支配者。

 【-蒼王宮- 氷冠女王イデア=N=ユランブルク】が玉座の場所。

 

 名を、【震水廟】。

 

「───曲者ォ!」

 

「承知した。」

「グオオオオオッ!」

 

 【-蒼王宮-黒滅導師 アカンティラド】の叫びに同期して、

 【妖軍一統 ゲネラール】、

 【荒れ狂う天空王 ぶれいずどらごん】、

の二体が実体化し、イデアを庇うように立ち塞がる。

 

「 S i E N ! ! !」

 

 グリートはその身から黒い煙…無限のエナジーを放出する。

 

「…アカンティラド。誤りましたね。」

 

 あなたが固有効果を使っておけば…とイデアはため息をつく。

 

 …エナジーはドーム状の黒き壁となって、イデア達とグリートを囲んだ。

 増援を待つのも、脱出を行うのも、どちらも不可能になったという事だ。

 

「我が騎士よ。」

 

 イデアは、切り札を呼んだ。

 

「───はっ。ここに。」

 

 アダム・ユーリエフ。

 怪物殺しの騎士。

 絶対零度の視線を、目の前の怪物へと向ける。

 

「【蒼王宮】は滅びます。」

 

「ですが、あなたは生き残れる。【凍結】の力。この世界において、それに勝るものはない。」

 

「壁を壊し、【デジタル堅牢忍具-不可視金蔵-】の元へと行きなさい。グラナートを解放してから、このモノを討ち取るのです。」

 

「───了解いたしました。このアダム。全霊を持って。」

 

 ゲネラールとぶれいずどらごんが、グリートに対し、大質量の拳や火炎の息で応戦する中、ブラストアッパー一行は領域の隅へと集まっていた。

 

「どうするー?一難去ってまた一難って感じ〜。」

 

「見ればわかる、忠臣を止めようにも俺たちだけじゃ勝てない。…いや、そもそも、あいつを止めるのが正しい事なのか、俺にはわからない。」

 

「…いやー、とんでもないことになっちゃいましたね…。ブラストアッパーさん。どうしましょうか。」

 

 今の状況を整理すると、忠臣が謎の生物となり、【蒼王宮】へと戦いを挑んでいる。

 レジスタンスからすれば、この状況は悪くない。

 だが、懸念するべきはバグドールだ。

 忠臣をあんな風にした黒幕。

 

 【蒼王宮】を倒してしまうと、やつが得をする展開になるらしい。

 

「忠臣を止めるにしても、俺たちが生き残るにしても、増援が必要だ。今、液体金属ロボの通信機能で助けを呼んでる。」

 

 地上に戻った事で、電波が届くようになったのだ。

 携帯端末から声が聞こえてくる。

 

『デュノアだ。何かあったか?ブラストアッパー。』

 

「ワープする機械を見つけてな、今、【-蒼王宮-氷冠女王イデア=N=ユランブルク】の前にいる。応援部隊をもらえねぇか?」

 

『───なんだと!それは大変な事だ…ん?応援部隊?』

 

「ああ、そうだ。イデアをここで討つ。幸いにも俺達はまだ、気づかれちゃいねぇ。」

「頼む。俺のパワーなら、全天さえ展開されなきゃ勝てる!賭けてくれ!」

 

 ブラストアッパーは、イデアを討つという名目でレジスタンスへと救援を求めることにした。

 

『…動かせる人員をそっちに送る。───絶対に死ぬなよ。』

 

「サンキュー!デュノアのおっさん!」

 

『まだ23だ!全く…。』

 

 それきり、通信は途絶えた。

 Tele-Passにて、ここに転移されたのは、たったの2名。

 

 狸の仮面を身につけた、刀を構える青年。

 【¦¦¦狸ヶ原¦¦¦ 偽紫 刀一郎】。

 アダムと瓜二つの目。

 白雪かと見紛うほど、綺麗な白髪。

 いつか忠臣を救った少年。

【-蒼王宮-恩寵天使 ソーン=ユーリエフ】。

 

 この2名がブラストアッパー達の前に救援として現れた。

 

「【聖槍ろんぎぬす】と、【全翼飛将 グライフ】しか持ってこれなかった。十分か?ブラストアッパー。」

 

「ああ、めちゃくちゃ助かるぜ!」

 

 刀一郎とブラストアッパーは度々任務を共にしていたので、仲が良い。お互いに握手を交わし、がっちりと手を握った。

 

「あ、あの。よろしくお願いします。今回は【蒼王宮】の女王様をやっつけるんでしたよね。」

 

 ソーンは【魔道死書 チェーニ】を抱え、ブラストアッパー達に挨拶をする。

 

「いつ、仕掛けますか?」

 

「…見ろよ。そろそろ、あっちが終わる。」

「相手が消耗し切った時に、仕掛けるべきだ。」

 

 

 グリート相手に応戦するゲネラール達、だが…。

 

(攻撃が───効かぬなぁ。)

 

 グリートの動きは怠慢だ。

 ゆらりと動き、時に、機敏に爪を振りかざす。

 それだけしか、やっていない。

 隙を見つけることは簡単だし、そこに攻撃を差し込むのも訳無いことだ。

 

 だが、壊しても。

 壊しても、壊しても、壊しても、壊しても。

 無限に───"復活"する。

 

 ゲネラールとぶれいずどらごんの炎で傷口を焦がすほど焼いても傷の再生が止まらないため、2人はもう、グリートに対しなすすべがなかった。

 

「なるべく傷を負うなよ!妖の子!」

「ああ、我々は時間稼ぎに徹する。そうだな、龍よ。」

 

 が、それでも。

 時間稼ぎはできる。

 身体を再生している間は、グリートの身動きが止まるからだ。

 

(この身尽きるまで、この怪物を押しとどめようぞ───。)

 

 

「───嗚呼、そうか。」

 

 グリートは、何の前触れもなく人語を話し始めた。

 

「そうか、奴か。アダム・ユーリエフか。」

 

「───全ての憂いから、【お前】を救おう。」

 

 

 忠臣の愛刀、【千血妖刀 牛鬼村正】が、グリートの手の中に顕現する。

 

「我が、真の力を───。」

 

(刀を手にした…?何かする気か───。)

 

「退避しなさい。ゲネラール。【全天首都防壁 Hum-Sphere LLIK】展開!」

 

 イデアが、ゲネラール達を守ろうと全天首都防壁を展開し、前へ出た。

 

「───解放、する。」

 

 今、一つ、焼けるような煇(ひかり)が顕れ、今宵を闇へと落とす。

 

 緑の閃光、光り輝く壁を破壊し、この場を闇へと塗り替える。

 

「女王陛下───!」

 

 しかし、【-蒼王宮-氷冠女王イデア=N=ユランブルク】と、【-蒼王宮-黒滅導師 アカンティラド】、二人の固有効果により、閃光は収まる。

 

 イデアの固有効果とは、【凍結】したモノを支配する力。

 また、アカンティラドの固有効果は、概念に対する凍結術式を操る力。主に、病気の進行や、計画の進行を魔術的に【凍結】させることができる。

 そして、その延長、その身を犠牲とした超概念型凍結術式により、グリートの斬撃は見事に凍結。

 

 凍結されたためにイデアの支配下へ置かれた斬撃は、グリートへとそのままそっくり返された。

 

 グリートは返された斬撃によって上半身と下半身を分断されるが、赤い肉から腐肉が弾ける音を伴って体組織が組み上がっていく。

 

 再生速度は、今までの比ではなく。

 比喩ではない。

 一つ、瞬きをする間にグリートは復活した。

 

「泡沫の命を灯す蝋燭よ、死ね。」

 

「破かれし書物の如く、散って、消えて、死ね。」

 

「我に逆らう者は、切り捨てる。」

 

 

「ぬおおおォォォォォォォォォオッッ!!」

 

 ゲネラールは感じていた。

 今こそ、全力を出す時であると。

 アカンティラド亡き今、斬撃を凍結させることはできない。

 であれば、一体ずつ、ゆっくりとグリートとやらに殺されるのが、時間稼ぎとして最も有効な方法だ。

 

 アダム・ユーリエフ。

 【蒼王宮】にて、最も優れる騎士。

 一度自身を【救った】彼に、この世界の存亡まで託すのは忍びないが…。

 

(彼さえ生きていれば───。)

 

「───魔星拳ッ!!」

 

 最大まで力を溜め、

 最高まで研ぎ澄ました精神から放たれる───ゲネラール、必殺の技。

 

「ほう、貴様。ゲネラールか。」

「会いたかったぞ、我が配下よ。」

 

 揺さぶられる。

 かつての主君への忠誠が、ゲネラールの中を燻った。

 

「ふは。」

「───褒美をくれてやる。」

 

 拳に、刀が合わせられる。

 凝視しても捉えられないほど、その刀は素早かった。

 

 グリートはその顔を諧謔の悦びに染め、蟻を引きちぎる赤児の如く、ゲネラールの拳を刀で嬲った。

 ゲネラールは、止まった時のように感じられる空間の中で必死に刀から拳を逸らそうとした。

 

 だが、無駄で、無様な行為に終わった。

 

 突き出した右拳は、切り裂かれた。

 

 痛み。

 拳から、指から、力が抜けた。

 

 伸び切った右腕は、切り裂かれた。

 

 痛み。

 逃げようとする足から、考えようとする脳から、力が抜けた。

 

(───総統、閣下。)

 

 右肩、胸、首、頭、左肩、左足───。

 

 そこは、グリートしか捉えることができない世界。

 ───怪物が嬉々として人を弄ぼうと闊歩する、悪魔の時間だ。

 

「フハハハハハッ!!」

 

 一筆書きのように、グリートはゲネラールの身体を両断した。

 何の抵抗もないような滑らかさで、骨を含めた身体を2枚に捌いた。

 ゲネラールだった赤い肉と血とはらわたが地面へと落ちて───。

 

「どれ、うまいだろう。」

 

 ───グリートは、顔を歪めて嗤った。

 嗤って、一歩前へと踏み出した。

 踏みつけたゲネラールの身体が、液状になって弾け飛び、イデア達へと飛び散った。

 

「───悪魔め。」

 

 全天すら破壊する膂力。

 ゲネラールすら児戯の如く手折る俊敏。

 悪魔の如き無慈悲な精神。

 

「ふむ、道化どもがやけに静かだ。…これはいかん。」

 

 #コンパスの中でも最高峰の【カード】である【蒼王宮】でさえ、数秒と時間を稼ぐことは叶わないだろう。

 

「腕の一つでも引きちぎれば、もう少し元気になるか?」

 

 グリートとは、ひたすらな暴虐。それ故に。

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