───目を開ける。
ボイドールによって、世界の真実を知った桜華忠臣。
得た情報から、【アダム・ユーリエフ】がグリートに倒される前に、【バグドール】を抱える十文字アタリを倒そうと、桜華忠臣は画策した。
そして、グリートの肉体から磔にされていた忠臣への【データの転送】を経て、今に至る。
忠臣が目覚めたのは、グリートになる少し前に来た、ヒーロー達が磔にされている部屋であった。
「良し、"この身体"へのデータ転移は完了したようだな。」
忠臣は自身と壁を繋ぐチューブを引きちぎり、地面へと降り立つ。
(我には今、【ボイドール】からダウンロードした知識がある。)
(状況を整理するか。)
1.この世界はバグドールがコピーした#コンパスである。
2.バグドールを無力化したのは【アダム・ユーリエフ】、【十文字アタリ】である。
3.【アダム・ユーリエフ】が殺害されてしまうと、バグドールの凍結が解除されてしまう。
4.【アダム・ユーリエフ】が倒される前に忠臣は【十文字アタリ】を倒さなければならない。
3の事実は忠臣も意識していた事であった。
【カード】は基本、倒されるとその効力を失ってしまうのだ。
例えば【放火魔 スコーピオン】が火災を発生させたとしても、スコーピオンが倒されれば火は止まってしまう。
それと同じ理屈で、アダムの氷も溶けてしまうのだ。
「さて、と。」
忠臣はまず、この部屋に磔にされていた他のヒーローを全員叩き切った。
この部屋にいた全てのヒーローが金枠の【カード】へ戻る。
「…ふむ。」
【虚無の管理人 ボイドール】
【ハイスペックニート マルコス'55】
【ギャリギャリ女子高生 双挽乃保】
【夢見る☆魔法少女 リリカ】
ボイドールのデータベースを参照し、忠臣が今まで見聞きしたり、出会ったりしていた金枠のカードを除くと、この4枚のカードのみがここにはなかった。
「おそらくは、レジスタンスにでも捕まえられているのであろうな。」
レジスタンスは金枠のカードを【エナジー缶】生産のために捕獲している。
ボイドールは捕まってはいないだろうが、他の3人は捕まっている可能性が高い。
「…さて、そろそろ出てくるが良い。」
忠臣は、自身の背後へ向けて声を放った。
「我の前で姿を隠すその不敬、その舌切り刻むだけで済むとは思うなよ?」
言葉が空間にこだまする。
壁に何度も反響する。
「やれやれ、困ったな。」
ブラストアッパーが壊した壁から現れたのは、金髪の伊達男。
その身体の至るところにスノーノイズが走る。
「…楽な仕事をやらしてくれよ。【バグドール】。」
名を、【武器商人 エンフィールド】。
「随分と様変わりしたな、貴様。」
忠臣がエンフィールドへ問いかける。
そう、エンフィールドは【反転】している。
白目は黒に、黒目は白に。
服の色でさえ黒白で、アナログテレビから出てきたような様相だった。
「…急に、なんだ。こんなに速く始末するつもりじゃなかった…。」
「急に活性化しやがったんだ。ウィルスが。」
「ああクソッたれ。タバコの味もわかりゃしねぇ…。」
エンフィールドは問いに答えない。
要領を得ない回答ばかりであった。
「───自業自得であろう。」
「そりゃそうだ。おre達はそもそもga───【irregular】なんだかra…。」
「ああ、soうだ…。ダメにnaっちまう前に一つ…。【エナジー缶】を売り捌いてたのha、俺じゃなi。」
「【月夜叉】…。奴だ。奴には…。」
言葉の節々に、ノイズが混じる。
【月夜叉】。
かつて死んだ配下の名を、語りながら。
「───指令だ。o前を殺せと…。」
…エンフィールドはもう限界のようであった。
(やつは初めから、我と同じようにバグドールのウィルスに侵されていたのか。)
───だが、どうやって?
なぜこの男に、ウィルスが混入したのか。
(───しかし、何故、【月夜叉】の名が…。)
「───…。」
忠臣は、考えるのをやめた。
眼前の脅威を打ち倒す事が、最優先だと思ったからだ。
腰の鞘から刀を抜き、構える。
「【ロングレンジライフル】ッ!」
エンフィールドの叫びと共に、【4丁】もの【対消滅ロングレンジライフル Hum-Buster】が銃身を実体化させた。
「───放てェッッ!!!」
1発の弾丸を放つだけでもとんでもない量のエナジーを使用するロングレンジライフル。
それを4発。
エナジー消費は凄まじいだけに───どんなカードでも受けきれない破壊を、相手に与える。
忠臣に防げる攻撃ではなかった。
そう、忠臣には。
「───お久しぶりです。」
忠臣の目の前には、盾。
「長らく彷徨ってたが、ようやく見つけられたぜ。大将!」
忠臣の目の前には、大砲。
「…まさか、地下にいるなんてな。座標も変わりすぎだ。反省してくれ。」
忠臣の目の前には、炎。
「───まったく、遅いぞ。貴様ら。」
【連合宇宙軍 フルアーマー装甲兵】。
【ゲームバズーカ】。
【放火魔 スコーピオン】。
長き時を経て、ここに、役者が揃ったのであった。
「【必殺!滅殺!超重粒子砲 G-バズーカ】ァァァァッ!」
ゲームバズーカ渾身の一撃にて、ロングレンジライフルの弾丸1発がその軌道を外れ、地中を掘り進める。
「【とある家庭用メカの反乱】ッッ!頼むぞォ!」
スコーピオンは天井を突き破る程に巨大なロボットを召喚する。
ロボットはロングレンジライフルによって即座に破壊されるが、3発の弾丸は勢いを失う。
「───鉄壁ッッ!!!」
フルアーマー装甲兵は忠臣達を捉えた弾丸を受け止める。
両手を広げ、後ろに何も被害が及ばないように。
俺の後ろが安全地帯だと、言わんばかりに。
「───ぬォォォォォォォォォッッ!!!」
「見事だ。貴様ら。」
「褒めて遣わす。」
フルアーマーは、かろうじて被害を抑えることに成功した。
だが全員疲労困憊、忠臣からのエナジー補給はあれど、身体の負傷は治らない。
「ロングレンジライフル、2射目、構え。」
故に、この宣言は彼らにとって絶望的であった。
「…皆さん、俺、次のは一人で耐え切ります。弾丸じゃなくて、あちらの金髪を狙ってください。」
フルアーマー装甲兵の悲痛な決意が、今の状況を物語っていた。
犠牲無くして、勝利は得られない。
「案ずるな、【我ら】がいる。」
「何のために【ヒーロー】などと呼ばれているのか、わかっておるな?貴様ら。」
だが、それを覆すのが───英雄だ。
「当たり前!お姉さん、今度こそ頑張っちゃうからね!」
「お嬢以外に従うのは癪ですが…良いでしょう。───躊躇も無く、慈悲も無く。ただただ此度の平穏の為に、再び血塗られた糸の上を歩きましょうとも。」
「インターネット関連の仕事は苦手だがな。絶対に、今度こそ解決してやるぜ。俺の刑事魂にかけてな…!」
この場に集った───。
「ええーっ!?また此処ですかぁぁ!?また銃とか剣とか怖い攻撃の真正面でトランプ兵構えなきゃならないんですかーっ!?」
「師匠ッ!お久しぶりッス!たとえ1度は倒れても!2回目こそがゲームバズーカ流ッ!魅せてやるっすよッ!」
「ム、此処は…。なんだかテスラ君に運ばれてから意識がなかったが、よかった。俺は無事再起動できたようだな。」
18人の金枠───ヒーロー。
「…またリリカがいないわね。全く、私とリリカは二人で一つなのよ?ここまで運が悪いとつくづく嫌になるわ…。」
「観測結果の変化を確認…。ついに、状況がここまで来たね。【ボイドール】。」
「んん、急に呼ばれると困ります。ご飯中でした。しゅびっ!」
彼らの行先は常勝であり───。
「各員、準備はよろしいですかな?今度こそは、皆様を守りきって見せましょう。」
「ヘイカモン!チェリーパイ!ワテクシは美の化身ヴィーナス!」
「いやー久しぶりの実体化は疲れるわー。え?ずっと磔にされてた?それほんとだしー?」
故に、彼らこそは、背後の者へ希望の光を翻す、反撃の旗。
「のもいなめ諦はと者勇!よる張頑回一うも!」
「…やーれやれ。無様晒しちまったなぁ…。空飛ぶカタコトマシーンには悪いが、2度目のチャンスだ。…本気でやってやるよ。」
「さぁ行こうか…コクリコちゃん。ボクともあろう者がドキドキしてきたよ。」
「さつじんてきなぷにぷにぃ……。」
長い眠りを経て、今ここに彼らは───。
「アンコールですわね、よくってよ!私の演奏にとくと聞き惚れなさい!」
「おいで!ボクの可愛い工作アームズ!…あ、ニーズヘッグくん。あの時はごめんね?ちょっとキミの分解と組み立てがしたくなっちゃってさぁ。」
「やれやれ、このメンバーが揃ったら負けなしだろうね。───さあさあさあさあ、祭りの始まりだよ!」
その矛を、狡猾なる敵へと向ける…!