#コンパス 桜華忠臣の受難   作:K+#ガソ林

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異世界珍道中-2

 

 

 

 ───目を開ける。

 状況は概ね整理できた。

 でらクランクが沈んだ事。

 voi dollがこの不具合を解決できない事。

 

 

 そして、"桜華忠臣のあらゆる思考・行動が制限されていない事"。

 

「フン。自由意志、か…。」

 

 桜華忠臣は今まで、voi dollに従う事に対してなんの疑問も抱かなかった。

 ただ、無制限に戦闘を行い、データを提供する。

 無数の"ヒーロー"達の一人であった。

 

 でらクランクストリートから飛び降りる行為。

 定型句以外を口にする行為。

 

 あらゆる言動、行動、思考が全て、今までは制限されていたのだ。

 

「ふむ。」

 

 だが、不思議と、自由意志を縛った張本人へと反逆する気持ちにはならなかった。

 というか、今の忠臣の心の内には、憎しみや怒りといったものが介在する余地がなかった。

 

「探索するか。」

 

 現在の状況に対する好奇心が、忠臣の心を占めていたのであったから。

 

 

 

 ───目を開ける。

 

 都会の風景。

 羅針盤街。

 手近にあったビルの中に、忠臣は入ってみる事にした。

 

「いらっしゃい。ミスター。」

 

 自動ドアはひとりでに開き、忠臣を迎え入れる。

 照明がついた明るい部屋の奥には金髪の優男の姿があった。

 

「俺の名前はエンフィールド、武器商人なんかをやってる。」

 

 彼の名はエンフィールドと言うらしかった。

 

「武器商人などと、堂々と公言して良い職業とは思えぬが。」

 

「オイオイ、今の世界を見てみろよミスター。ポリ公なんかが稼働できるわけないだろ。」

 

 道理であった。

 

「我には金の持ち合わせはない。」

 

「いや、いいよ。アンタ気に入った。」

「【カード】を見せてくれよ。そしたら一品は融通してやる。」

 

 ……。

 

「【カード】、とは?」

 

「ちょっと探してみろよ。持ってないはずはない。」

「本当に持ってなかったら、それはそれで面白いけどな。」

 

 忠臣は身体のあらゆるところを探した。

 

「【妖華帝国総統】桜華忠臣…これか?」

 

 忠臣は自身の描かれた、金色のフチの【カード】を取り出した。

 

「おう、じゃあ死んでくれ。ミスター桜華。」

 

 エンフィールドはなんでもないことのように、宣戦布告を忠臣に告げた。

 

(───敵か。)

 

 忠臣は刀を抜き、戦闘の構えを取る。

 

 対面するエンフィールドがカウンターのボタンを押せば、建物の壁が開き、一つの巨大な銃口がその顔を覗かせた。

 

(あれは───対消滅ロングレンジライフル。)

 

 エンフィールドの背丈ほどの銃口。

 1800mm口径から発射される超巨大な弾丸は、山をいくつか貫く程のとんでもない威力を誇る。

 

 とてもではないが生身の人間に向けるようなものではない。

 

 これの前では刀など、そこらの棒切れと同じだ。

 

「死刑宣告さ、受け取りな。」

 

 けたたましく金属が軋む音が鳴る。

 幾つか瞬きする間に、死の弾丸が発射された。

 

「待て!貴様も反動で死ぬぞ───!」

 

 とてつもない衝撃が羅針盤街を揺らし───。

 

 

 

 桜華忠臣の肉体はこの場から"消失"した。

 

 

 

 轟音、倒壊した建物。

 ゆらゆらと、タバコの煙が一つ。

 

 

「死を超えるからこそ…ってな。」

 

 

 エンフィールドが持っていたのは、【¦¦¦狐ヶ咲¦¦¦ 黒漆祓拵 為次】。(以下為次)

 

 局所的に時空断層を作り、全ての攻撃を短時間だけ、無効化できる霊滅武装だ。

 これでロングレンジライフルの反動を無効にしていた。

 

 エンフィールドは周囲を見渡すが、忠臣の姿はどこにも見えない。

 

「…金枠のカードを奪う。」

「それが俺たちに残された、最後の選択肢だ。」

 

 桜華忠臣の姿と同様に、彼が保有していた金枠のカードも、ここには存在しなかった。

 

「なぁ、ミス月夜叉。」

「君もその筈だろう?」

 

 タバコの煙が、青空の街に溶けていく。

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