───片目を閉じる。
アダム=ユーリエフは走っていた。
【蒼王宮】の内部を。
宝物庫へ向け、一心不乱に。
「オイお前!オレ様の名はピエール・ダ・イカッサマニャーギ・ファッキネッティ・ラッラ・ラ・ラブリオーラ・ドラゴナクター・ヒデヨシ・マクシミリアン・スキーヨカローリ・ビョルルンド・モッチモーチ・マリオージェ・マルーゲリータ・ウィルフレッド・プニット・プニャトフスキ77世だっ!俺と勝負しろっ!」
「邪魔だ!」
「えっ───。」
途中でこちらに攻撃を仕掛けてきた【イレギュラー】に感染したヒーローを瞬間凍結させ、先を急ぐ。
(───バグドールもイレギュラーを放ってきたということは、恐らくあちらも限界だ。近いうちに勝負が決まるだろう。)
窓から差す月光のみを頼りに、廊下を進む。
アダム=ユーリエフはバグドールがいつ復活してもいいように、【蒼王宮】を作り、かつての仲間達を【カード】から呼び覚まし、さまざまなカードを手に入れてきた。
(俺の勝ちで…終わらせてやる。)
「おい!リョーフキー!ジェニト!ヴィーセリツァ!時が来た!」
【-蒼王宮- 翠光騎士 リョーフキー】。
【-蒼王宮- 白翼騎士 ジェニト】。
【-蒼王宮- 監獄騎士 ヴィーセリツァ】。
三騎士が騎士団長の鶴の一声で集まる。
「【蒼王騎士団長 アダム=ユーリエフ】の名において命ずる!玉座の間から誰も通すな!全戦力を投用しても構わん!」
「ハッ!」
アダムは、指示を出すと同時に宝物庫へ走り出した。
ジェニトは【レーザー特注忍具 -双天小鳥丸-】を。
リョーフキーは【トリガーハッピー メグメグ】を始めとした仲間達を。
ヴィーセリツァは【切り裂き魔 ジャック】や、【聖女の後衛 銃士レオン】と言ったかつて蒼王宮に逆らった者達を実体化する。
「我々が揃って戦うのも久しぶりですね。」
「悪かったな。構ってやれなくて…。でも、俺たちしかアダムを手伝えるやつはいねーんだから、しょうがねーだろ?許してくれよ〜。」
「…そう言う話ではありません。ただ、久しぶりだと思っただけです。」
「リョーフキー、あまり虐めてやるな。ヴィーセリツァだって久しぶりに3人揃って内心嬉しいんだろうから。」
「違いますっ!」
戦士達は、魔の気配を察知しながら歩き出す。
玉座の間へ。
【蒼王宮】の終わりへ。
「ハァッ!ハァッ!…ここ、だな!」
蒼王宮の宝物庫である、【デジタル堅牢忍具-不可視金蔵-】は階段を何段も降りた地下に存在する。
普段ここを管理しているヴィーセリツァがいないため、数々のトラップがアダムに降りかかるが、アダムはものともしない。
最後のトラップは、大量の扉である。間違えた扉を開けると【宇宙連合軍 スタンビームライフル】によって昏倒させられる。
アダムはガチャリ、と、幾つもの扉の中から一つ、扉を開け───。
「【赤薔薇の聖王剣 セルピエンテ】!」
一振りの蛇腹剣を実体化させる。
目の前には、【デジタル堅牢忍具-不可視金蔵-】。
その鍵穴となる場所に、この剣を突き刺した…!
「甦れ!我が
不可視金蔵が開いてゆく。
電子空間にデータ化して物品を収納する、規格外のステルス金庫が、役目を果たしたことで消滅してゆく。
データの波濤が、赤と青の光となってアダムの視界を覆った。
…光が収まる。
立っていたのは、5人の【ヒーロー】。
ガスマスクをした金髪の大男。
【絶望の指揮官 グスタフハイドリヒ】。
狐の仮面を被った和風制服少女。
【狐面討魔士 狐ヶ咲甘色】。
真紅の髪、妻の棺桶を背負った初老の男性。
【刹那の殺し屋 ルチアーノ】。
聖女とも呼ばれた、いつかあった国の旗を持つ女性。
【オルレアンの乙女 ジャンヌ・ダルク】。
聖王の国に伝わる装束を身に纏った、アダムの宿敵。
【紅薔薇王女 マリア=S=レオンブルク】。
「───敵は、いるのか。」
「ややっ、ボク達を呼び出すなんて、大層なことのようだね。」
「仕事は選ばん。なんでも頼め。」
「また───闘いなのですね。」
「久しぶりじゃない。氷男。どういう要件な訳?」
アダムは端的に状況を説明した。
「バグドールが最後の足掻きを見せている。ここで止めなければならないと思い、【-蒼王宮- 終焉禁獣 グラナート】を回収しにきた。」
アダムはグラナートのカードをマリア達に見せる。
「…【イレギュラー】に感染させられ、こちらに反逆を起こした貴様らまで封印から解く気はなかったがな。」
そう、マリア達が【蒼王宮】に捕まる原因となった、はじまりの第一次抗争、第二次抗争の原因は、彼らがイレギュラーウィルスに感染したがためであったのだ。
アダムにとっては、バグドールのウィルスに感染し、こちらへ反逆を起こしたマリア達を起こすのは予定の内には無かった。
「あら、別にいいじゃない。免疫を得たのよ。め、ん、え、き。」
「2度も言わなくて良い!それより、俺は速く上へ上がるぞ。お前たちはどうするんだ?」
アダムはマリア達に聞いた。
「もちろん、あなたについていくわ?ねぇ、みんな。」
「敵があれば倒すだけだ。」
「仕事なら何だってするさ。言っただろう。」
「アダム…君には敵わなかったみたいだが、今度こそ討魔の力、存分にお見せしよう。」
「……。」
ジャンヌ以外の【ヒーロー】達はアダムについていく意思を示した。
「お前たちはグラナートの力を身をもって知っているだろう。十中八九、お前たちも巻き込まれるぞ?」
「御託はいーの!ジャンヌちゃんはどうする〜?」
「…私は、離れます。戦いはもう懲り懲りです。嫌いです。」
「あーら、残念。じゃあ私たちだけね。男共!速くいくわよ!」
「何でお前に命令されなきゃならないんだ!」
「速くいくぞ。」
「ああ。」
「ボクは女の子だけどね!」
アダム達はひたすらに長い階段を登りきり、ジャンヌと別れる。
「───。」
玉座の間へと急いでいたアダムは、夥しい血が染みた廊下を見る。
絨毯が、赤く濡れていた。
砕かれた鎧をつけた肉塊が、あった。
三つほど。
アダムは繋いでいたエナジーラインを確認すると、それは三つ切れていた。
「───バグドールッ!!」
血管が、握りしめた手の甲に浮いていた。
走り出すアダム。
ついていくマリア達。
「アダム。」
グスタフがアダムへ声をかける。
「止まれ。"いる"ぞ。」
アダムは瞬時に立ち止まり、氷剣を実体化させる。
「そこだ。」
グスタフは前方───玉座の間へと続く扉に手榴弾を投げた。
手榴弾が爆発し、その煙の中から、触手が3本、銃弾のようなスピードで飛び出てくる。
電子機器をつなぐケーブルのような細さで、黒い体毛、鋭利な爪が生えていた。
「ふーん?怪物退治ってわけ?」
マリアの操る蛇腹剣が3本の触手を切り飛ばした。
手榴弾の煙が、辺りに満ちる。
「油断するな。」
ルチアーノが手榴弾の煙の中から襲い来る触手を、銃弾で狙撃した。
「グスタフ、手榴弾は愚策だ。」
「了解した。」
触手は無限に襲い掛かる。
切り落としても、撃ち抜いても再生し、何度でも───。
「五月蝿い。」
蒼、一つ。
景色を分断する。
アダムの凍結能力からすれば、氷剣を伸ばすことなど容易いこと。
その長さを長大する氷剣が、触手を切り飛ばしたのだ。
「アルマ一刀流───奥義、
氷の剣のみならず、切断された触手の断面から、氷枝が生える。
「俺たち…【蒼王宮】を怒らせたら、どうなるか───教えてやる。」
氷枝は、ひたすらにアダム達の前方、触手が伸びてきた場所───玉座の間へと突き進む。
が、そこまでだった。
玉座の間の扉が開いた。
───唸り声が轟いた。
「───ッ!」
狼の吠え声のようであった。
猪の息吹のようであった。
鯨の断末魔のようであった。
形容するならば、さしずめ、幾万、幾千もの泡沫が弾ける音だった。
《 ハッハッハッハッハッハッ 》
ノイズのかかった男の声が笑う。
扉が開ききった。
「───悪魔。」
誰が言ったか、その言葉は。
あの触手は、彼の"尾"であったのだ。
《 ククク 》
全身が黒き体毛に覆われた神敵の獣。
グリート。
彼の獣は、正体得たりと笑った。
《 分かる者もいるか。そうだ。我こそ、悪魔よ 》
猿耳、竜角、背より生えた複腕。
翼無き獣。
《 あらゆる【悪】を成し、あらゆる【魔】とならんとするが故に 》