───片目を開ける。
アダムは、王の剣
氷剣を腰に構え───。
「俺が殺す。お前らは俺を守れ。」
指示とも言えぬ激情を吐き出し、アダムはその両目を開眼した。
【-蒼王宮- 終焉禁獣 グラナート】の力───冷気がアダムの体から漏れ出ている。
「氷点術改良式、展開───オドを集中する。」
アダムのオド…いわゆる魔力と呼ばれるソレが、エナジーへと変わってグラナートへ注ぎ込まれていく…!
《 来るか。アダム・ユーリエフ! 》
アダムは力をグラナートへ、限界まで注ぎ込んでいる。
その金の眼はグリートを強く睨んでこそいるが、グリートの攻撃に対処する事は叶わないだろう。
自身の身体からエナジーを意図して取り出し、限界までカードに注ぎ込むのは、平常時のカード使用と比較するととんでもない集中力が必要だからだ。
グリートの無数の"尾"がアダムを狙う。
銃弾の如き速さと、無限の再生能力を備えた無数の尾が繰り出す乱撃を防御するのは不可能。
「ボク達の事を忘れてはいないかな?」
だが、攻撃には攻撃を、だ。
グリートの尾を切り落とすのは、【狐面討魔士 狐ヶ咲甘色】。
グリートが尾を繰り出せば最後、アダムに届く前に切り伏せる。
「首元がお留守よ?怪物さん。」
グリートの首元に、【紅薔薇王女 マリア=S=レオンブルク】の持つ蛇腹剣が絡みつく。
「グスタフ!手伝ってちょうだい!」
「わかった。」
「せぇ───のッ!!」
絡みついた刀身を、マリアと【絶望の指揮官 グスタフハイドリヒ】の剛力で引くことによって───。
《 がっ 》
グリートの首を捻じ切ることに成功する…!
《 ハ、ははははははははは!!! 》
だが、首は断面から瞬時に再生する。
尾からの攻撃もまだ続いていた。
《 ───真の力を解放する。 》
グリートは手に、【千血妖刀 牛鬼村正】を顕現する。
カードの固有効果、雷撃によって甘色の防御をくぐり抜け、アダムを串刺しにするためだ。
「ん…ハッ!」
ルチアーノが刀目がけて銃を構え、引き金を引く。
銃弾が村正目がけて放たれた。
だが、たとえこの銃弾が刀身に当たったとしても、だ。
今のグリートの握力で握り締められている刀を、吹き飛ばすことができるほどの威力は出ない。
万事休す───。
「ぶハァァァッッ!!」
グスタフが口のガスマスクを開け、口内から紫色の液体をグリートの手に目がけて放射する。
グスタフは改造人間であり、体外の毒素を取り込み、体内で合成することでどんなに危険度が高い毒でも生成できてしまう。
今回の毒液は、グスタフ自身の喉と口内をグズグズに腐らせるほどの超毒素。
攻撃に反応して、毒液を防ぎにきたグリートの尾すら瞬時に溶かし、刀握る手へと付着、溶解を行う。
「よくやった。グスタフ。」
ルチアーノの持つ銃から弾丸が次々と放たれ───村正へと寸分の狂いなく命中する。
結果として、【千血妖刀 牛鬼村正】は、ルチアーノが放った3発目の弾丸に弾き飛ばされた。
《 猪口才な…。 》
その時だった。
アダムの剣が───今までにないほどの冷気を発する。
液体窒素をいくらぶちまけても、こうはならない。
空気中の水が霰となって地に落ちるだけならまだしも、グリートの尾の断面から溢れ出る血液でさえ、凍って止まってしまう。
「待たせたな。」
「無論、早く終わらせよう。───陛下がお待ちだ、怪物。」
【-蒼王宮- 終焉禁獣 グラナート】。
その特性は、あらゆる熱エネルギーの吸収。
かの獣の呼吸は氷となり、かの獣の起こす風は雹の嵐となり、かの獣がいる場所は、冷気に包まれる。
周囲の全てのエネルギーを吸収して生きる、凍原の獣なのだ。
アダムは、自身が保有する全てのエナジーを、グラナートが持つ凍結魔力に変換した。
これはすなわち、アダムが生来よりもつ、概念的な凍結能力がさらに強化された事を意味する。
「アイシクル───。」
周囲がパキパキと凍結する。
グリートのみならず、グスタフ達の体が、指先から凍っていく。
金色の目は、グリートへ向けて開かれた。
「───コフィン。」
グラナートの熱吸収性を利用して放たれた絶技は、アダムの半径2kmまでの、実質的な絶対零度以下の気温を実現した。
剣が、上へと振り上げられ、空が割れる。
空間が氷によって裂ける。
波の波濤のように、氷がさざめく。
アダムの周囲全域が、凍結した。
冷気が届く場所はあらゆるエネルギーが存在しないが故、疑似的な時間停止を成したのに等しい。
瞬間凍結。
その後の、伸び切った腕。
疲弊したアダム。
「…やりすぎた。エナジーがほぼ…。ぐっ…。」
アダムは自身のほぼ全てのエナジーをグラナートへと注ぎ込んだ後遺症で、ろくに動けなくなっている。
疲弊した中で、氷原の花。
氷の花を、アダムは見つけた。
巨大な花だ。人を何人か囲えるような、守れるような───。
「───今が、チャンスです。」
花が、散る。
花弁の中、彼らは現れる。
【-蒼王宮-恩寵天使 ソーン=ユーリエフ】。
【#夜行犯罪特区 #やめるちゃんアゲ】。
【¦¦¦狸ヶ原¦¦¦ 偽紫 刀一郎】。
【銀行強盗 デリンジャー】。
【おにいちゃん ぎゅーってして】。
そして、【一撃必殺 ブラストアッパー】。
「【蒼王宮】を倒すチャンスです!」
ソーン=ユーリエフ。
アダムの弟が、彼の前に立ち塞がる。
ソーンの固有効果は、奇しくも、グラナートと同じ熱エネルギーの吸収。
冷気を操る彼からすれば、絶対零度の中、五体無事で生き残るなど容易いことであった。
「…。」
アダムは、周囲を見渡す。
グスタフ達はアイシクルコフィンの巻き添えとなって凍ってしまった。
この場には、ソーン達【レジスタンス】と、ひとりぼっちのアダムしかいない。
顔面が、歪む。
ああ、憎たらしい。
バグドール。
そして、その言いなりの【レジスタンス】。
【蒼王宮】を、滅ぼした者どもに───復讐を。
「……俺の弟の顔を使うなッ!!」
アダムはソーンへと切りかかる。
「"バグドール"ッ!!」
そうだ、ソーン=ユーリエフこそ、生き残りのイレギュラー。
バグドールのウイルスへの免疫を作れなかった被害者。
「っ!来るぞっ!」
デリンジャーが銃弾を放つが───。
「全天───起動。」
アダムは、なんとか生成できたエナジーで【全天首都防壁 Hum-Sphere LLIK】を展開。
「まぁじい!?やばいじゃん!」
やめるちゃんに戦闘能力はあまりなかった。
…生命力を削りながらも、アダムは戦う。
ここでソーンを取り戻さなければ、次はないのだから。
ソーン=ユーリエフが免疫を得ない限り、倒さなければ、イレギュラーから戻ることはない。
「固有効果を使用します…!」
「【聖槍ろんぎぬす】を使うっ!」
「───やめろ!刀一郎ッ!」
故に。
その我欲が、彼を殺したのだ。
【おにいちゃん だーいすき】が固有効果を発動し、刀一郎も続いて【聖槍ろんぎぬす】を発動する。
【聖槍ろんぎぬす】。
その固有効果は貫通。
あらゆる防御を無視し、ダメージを与える力。
【おにいちゃん ぎゅーってして】。
こちらの方の固有効果は、前方にいるカードの移動速度を鈍重にする。
たとえ高速の速さで走り回る者であっても、この能力を喰らえば牛歩の如く遅くなる。
…今のアダムには、カードを発動できるだけのエナジーがなかった。
「───がっ。」
故に、赤い槍が、アダムを突き刺す。
エナジーがないため、治癒効果のあるカードを使うこともできず、遠距離武装の起動も不可能だ。
「ぐっ、うっ。」
何本も、何本も。
一歩も歩けぬうちに。
「……っ。ぐあっ…!」
全天を無視して、槍はアダムを地面に縫い付ける。
「だからやめろっ!刀一郎!」
ブラストアッパーが、槍を投げようとする刀一郎を押さえつける。
他の者は、ただ見ているだけだった。
皆、迷っていたのだ。
忠臣がグリートに変貌したきっかけである【バグドール】の存在を、どのように受け止めればいいか。
敵なのか、味方なのか、それとも、なんら関係ないのか。
「なぜ止める…!アダムは【蒼王宮】の首領、【レジスタンス】の敵なんだぞ!」
「ぐっ…。だけど、嫌な予感がすんだよ!【バグドール】ってのが───。」
「…それでも、お前は第一に【レジスタンス】だろうが。」
ブラストアッパーと、刀一郎が言い争いを続ける中…。
「───まだ、だ。」
アダムは、立ち上がる。
「カラド…ボルグッ───!」
ソーン=ユーリエフ目がけて、氷剣を振りかざす。
「え───。」
ソーンと、アダムの距離は離れていた。
【おにいちゃん ぎゅーってして】の固有効果によって、
故に油断していた、この場の誰もが。
氷剣は、伸びるのだ。
彼のエナジーを吸って。
彼の残り全ての生命力を支払うことで───。
ソーン=ユーリエフは切り裂かれ、【カード】に。
そして、無敗の男、アダム=ユーリエフも、また───。
【カード】に、戻った。
氷剣は最後に棺となり、弟を守るよう寄り添った。