───目を開ける。
桜華忠臣達の目の前には、【#コンパス】に潜り込んだウィルス───バグドールが佇んでいた…!
「馬鹿ハオマエダジャスティス。ソノ【アダム】ガ死ンダカラニ決マッテイルダロウ?」
バグドールはケタケタと笑った。
「───アダムが…!?」
驚愕するのは、【連合宇宙軍大尉 ジャスティスハンコック】。
彼はアダムと共闘したこともあってか、アダムの実力を信頼していた。
そのアダムが凶刃に倒れたとあっては、相当の衝撃であったに違いない。
「あ、あの鬼のように強かったアダムが…死んだ?本当ですか…?」
「ふむ、アダムって誰だ?」
「ゲームバズーカ、あいつだよ。忠臣とカード取りに行った時の氷剣使い。」
各々が感想を述べる。
「ほう…ようやく、ピースが揃ったといったところか。」
忠臣は冷静沈着であった。
「では、言うぞ。バグドール。"ボイドール"の【カード】を出せ。」
ここで、なんら突拍子もないことを言い出す忠臣にジャスティスは困惑する。
「おい、忠臣。どう言うことだ?」
「やつは一度、我々をイレギュラーに感染させただろう?その時にボイドールの【カード】を隠し持っていた可能性がある。」
始まりの決戦。
その時に集まったヒーロー達で生き残ったのは、アダム、ジャスティス、アタリの三人。
そのため、ボイドールもイレギュラーに感染していると考えられる。
バグドールはその笑みを崩さない。
「名推理ダナ。亡国ノ王。ソノ通リダ。」
バグドールは【虚無の管理人 ボイドール】のカードを取り出した。
「ボ、ボイドール…!くそっ…!」
ジャスティスは正義感が人一倍強い男だ。同じ戦場で戦った仲間を守ることができなかった事実に、その無念の感情を隠しきれなかった。
「ダガ無念デショウ。ソノ推理ヲ聞ケルノハ此処二イル者ダケノヨウデス。」
バグドールはこちらへと、黒い金属でできた腕を向ける。
「コウシテコノ世界ニ再誕シタ以上、全テヲ"埋メ尽クス"コトハ可能ニナッタ!」
「…。」
忠臣は押し黙る。
バグドールに今は何の枷もない現状は、バグドールの自己増殖の機能が解放されたということを指す。
そうなれば、バグドールを倒せる望みは薄くなるばかりか、この歪の地に暮らす全ての【カード】が全滅することも容易に考えられる。
「そ…そんな!じゃあ、レジスタンスも…!」
【レジスタンス】は自由に生きるために作られた組織であった。
「自由ノタメトカイッテイタガ、所詮ハ、ボクノ尖兵ニスギナカッタデスネ。」
だが、【バグドール】からエナジーの供給を受け、成り立っていた組織でもあった。
「トリアエズ、【レジスタンス】ニハボクノウィルスガ入ッタ【エナジー缶】ノ代金を支払ッテモライマショウ。」
「オ代ハ、コノ世界デ結構。本体ノ【#コンパス】二攻メ込ムタメノ資金石トナッテクダサイ。」
忠臣達は負けた。
氷は溶け、檻は壊され、【蒼王宮】、【レジスタンス】、皆が無駄に争った。
バグドールの計略の上で転がされ、落ちるところへ落ちたのだ。
「───ふん。」
忠臣は笑った。
「ナニカ不服デスカ?」
「イエ、不服ガ当然デショウ。ソウ、オマエタチハ───。」
「───上手クイカナカッタノデ。」
静寂。
しかし、忠臣は───。
「クク、勘違いもほどほどにしろ。」
その不適な笑みを崩さない。
「貴様の計略は───【失敗】した。」
忠臣はバグドールへと剣を構える。
「我が此処にいるのがその証左。」
「我が無限の魔力、此処で放てばどうなるか、わかるな?」
忠臣の能力はデータの分解。
イレギュラーウィルスを分離し、分解することができる。
「フン、既ニバックアップハ飛バシテイマス。バグドールデアルノハ、此処ニイル【ボク】ダケデハナイ。」
しかし、バグドールが目覚めた瞬間にあらゆる場所へウィルスが飛ばされている。
忠臣達は金枠の【カード】であるため多少、影響を防ぐことができるが、ブラストアッパーのような一般の【カード】は既にイレギュラーに染まっていることだろう。
「コノ世界全テガ、ボクダ…!」
此処、歪の地とバグドールは一体と化した。
「では勝負と行くか。バグドール。我と貴様───勝敗がつくまで。」
「待て!忠臣ッ!お前がイレギュラーを分離できると言ってもだ。バグドールは無限!このままでは勝てん!」
ジャスティスが忠臣を止める。
「アダム=ユーリエフ…!彼の【カード】を回収するべきだ!」
だが、忠臣はそれを拒否した。
「…我の魔力は無限だ。先の戦いより、貴様が心配するのもわかるが、まぁ、見ていろ───。」
「 妖華───山海鳴斬 ! 」
具足が、鎧が、竜兜が。
彼の発声に共鳴する。
忠臣の翠の魔力が、彼の体から溢れ出た。
翠光の泡に世界が塗り替えられる。
大武神の、横薙ぎ一閃。
「 さぁ、遠慮なく死ぬがいい!! 」
バグドールに放たれたその一撃は───。
「対象ノ解析完了。防御プログラムハ無効ト判断。【虚無の管理人 ボイドール】。固有効果起動───。」
姿形なく、初めから存在しなかったかのように、この場から消え失せた。
「転移シークエンス、完了。クク、ボイドールノ【カード】ハ扱イヤスイ。」
【虚無の管理人 ボイドール】。
その固有効果は、対象とした物質、またはエネルギーの転移。
持ち主に降りかかる銃弾などは勿論───放たれたエネルギー波なども転移することができる。
「う、嘘だろ…。今まで見たことがないくらいの強烈な攻撃だったのに…。」
「うーむ。転移か…。流石の俺でも、なすすべがないか?どうだ、スコーピオン。」
「…不可能だ。それこそ、【発動させない】ということができれば───無理ではないだろうが。」
忠臣達は手詰まりであった。
「我の力を持ってしても、か…。」
「オ前ノ無限ノ魔力ハボクニ届キマセン。仕様デス。」
「【ウィング】!アノ愚図共ヲ、一掃シナサイ!」
バグドールが意思を示すと、忠臣達の全周囲を囲むように、浮遊兵器【イレギュラーウィング】が現れる。
「!撃ち落としてやるぜッ!Gバズーカァッ!!」
「くっ…!全方位からじゃ、防ぎようがない…!」
(くそっ。狭いここだと【とある家庭用メカの反乱】は使えん…!)
それらは一つ一つがバグドールのホバー移動を助ける【羽】であり───また、銃口である。
忠臣達は何機かウィングを叩き落とすが、大した影響はなかった。
今のバグドールは、何体にだって分裂できるが故に。
「───お前、確か【フルアーマー装甲兵】と言ったな。」
「あ、は、はい。」
「俺に任せていろ。」
ジャスティスが【連合宇宙軍 フルアーマー装甲兵】の肩を叩く。
レーザーが放たれ、忠臣達は万事窮す。
しかし、バグドールの誤算は忠臣だけではない。
もう一つ、誤算があった。
「───【鉄壁】ッッッ!!!」
ジャスティスハンコックだ。
彼の多層型ヘキサバリアが忠臣達の周囲を囲むように現れる。
あらゆる攻撃は電網や、反射構造、衝撃吸収構造を有したこの壁の前に防がれる。
レーザーも例外でない、しかし…。
「忠臣ッ!俺を切れ!」
「承知。」
イレギュラーウィルスは、防ぐことができない。
忠臣は翠の魔力刀でジャスティスを切りつけ、無限の魔力でウィルスを分離した。
「忠臣!アダムだ!」
「2度言わずともわかる…。奴の凍結能力が必要なのだな。」
「よし!では、ここから撤退するぞ!」
忠臣達は部屋から脱出する。
「桜華忠臣、ボイドールノミナラズ、貴様モボクノ邪魔ヲスルカ…。」
「フフフ…デリートシマス。ジャスティスハンコックヲ、桜華忠臣ヲ。不要ナモノハ、デリートシマス。」
「コノ世界全テヲ使ッテ。」
バグドールは思いのままに成らぬ戦局に、ついに癇癪を起こした。
逃げようとする忠臣達を追ってくるイレギュラーウィング。
「出口がないぞ!総統!」
スコーピオンが嘆く。
「我が無限の魔力にてこじ開ける!」
「 ───妖華穿突刃! 」
データを分解する力とはすなわち、この歪の地全てを破壊することができる力。
前方にある壁などを壊して前に進むことなど容易いことだ。
「殿は必要か!大将ッ!」
「全員欠けてはならん!」
ジャスティスのヘキサバリアが後方からの射撃を防ぐ。
地上へ向けて、ただただひたすらに前進する一行。
光が見える。
「出口だ!」
「よし!」
ジャスティス以外の忠臣一行は地上に上がり、辺りを見渡す。
そこは、ビルなどが埋まっている、砂漠であった。
「忠臣!流石の俺でもこれ以上は防ぎきれんぞ!なんとかできんのか!」
ジャスティスが、忠臣達が通ってきた穴の前に立ち塞がってバグドールから放たれるレーザーを防いでいるが、時間の問題だ。
「あと少し持たせろ!」
忠臣は自身の魔力刀を地面へと突き刺した。
目を瞑って集中する。
「 ───グリート拘束術式、解放…! 」
忠臣は自身の身に宿る悪魔の力を解放する。
「 ぬううううううッ!!! 」
魔力はより一層噴き出て、空を翠に染めるほどであった。
「 我に───従えッッッ!!! 」
その光景は、一種の神秘性を秘めていた。
魔力の泡が空を駆け抜けて飛ぶ。
翠の炎が地を焼き尽くす。
そして、地中へ魔力が浸透する…!
「 ───カァッ! 」
忠臣は目を開いた。
地面に刺した剣から手を離す。
「よし。浄化は完了した。」
どうやら、事は済んだようだった。
「浄化?何をやったんだ、総統。」
スコーピオンが忠臣へ疑問を投げかける。
「我が分解の魔力を地中へ浸透させた。しばらくは追撃も来ないはずだ。」
「しかし…ぐっ。」
「忠臣さん!?」
忠臣は突如胸を押さえ、苦悶の表情を浮かべながら前のめりに倒れ込んだ。
フルアーマー装甲兵が忠臣を抱える。
「バカ者、総統閣下…だ。ぐっ…。」
「ど、どうしたんだ!?」
忠臣のうめきのような言葉と同時に、追いついてきたジャスティスが忠臣に駆け寄る。
「フゥ…。ハァ…。」
「む、この症状は恐らく、【エナジー】の使い過ぎだな。俺も昔見たことがある。前後不覚と呼吸困難、心臓部の強い痛みを誘発する身体異常だ。」
「治るのか?ジャスティス。」
「…まぁ、金枠でも1日はかかる。だが、バグドールに対してそこまで時間をかけてはいられん。」
「……。」
忠臣はバグドールと拮抗で勝負することができる唯一の【カード】。
この男の替えは、誰にもできない───。
場が静寂に包まれた、その時だった。
「おい!大将!【コイツ】目が覚めたぞ!」
ゲームバズーカが走り寄ってきた。
肩に金髪の少年を抱えて、だ。
「───誰だ?そいつ。」
スコーピオンがフルアーマーの方を見る。
「確か、【アタリ】という名前の少年…でしたっけ。」
「───アタリが起きたか。」
「あ、おい。ジャスティス。どうしたんだ?」
ジャスティスは、おもむろに立ち上がると…。
「おい、ねぼすけ。もう終盤だぞ。」
ゲームバズーカの肩に捕まる少年へと声をかけた。
「……zzz。」
「おい!起きろ!!」
「うひゃあっ!?って、ここ何処だよ!」
少年…【十文字アタリ】は飛び起きる。
「おっと、少年。危ないぞ。」
肩から落ちそうになったアタリをゲームバズーカが支えた。
「お?お?俺もしかして、抱えられてる?って、アンタ、【ゲームバズーカ】じゃん!俺大ファンなんだー!」
アタリはゲームバズーカの肩から降りた。
「よっと、握手いいか?」
「あ、ああ…。」
ゲームバズーカとアタリは固い握手を結ぶ。
「うおおおおお!3Dも悪くねぇなぁ!」
「…おい。」
ジャスティスは興奮するアタリの肩に手を置いた。
「…わかったよ。ジャスティス!真面目にやればいーんだろ?でも俺も、起きたばっかで何もわかんねーんだよ!」
「バグドールが解放されたんだ。お前も少し手伝え。」
「…え?なんで?」
「アダムがやられたんだ。諸事情あってな…。」
「ん〜〜。アダムがやられてバグドールが復活、と…。ハードモードじゃね?ジャスティスのおっさんと…あとパッとしない奴らだけだろ?」
「………彼らは頼り甲斐のある仲間だ。とりあえず話を聞け。」
ジャスティスは静かにため息をついた。
「あーうん。OK!わかったよ。話聞く。攻略はそれからなんだろ?アンタらも、馬鹿にして悪かったな!ごめん!」
アタリはスコーピオン達に頭を下げた。
「…でも、まぁ、俺が居れば悪いことにはならねーと思うぜ!」
アタリは忠臣達へ、力強い笑顔を見せた。
翠炎に囲まれた安全領域で、反撃の灯火が燃え盛る───。