桜華忠臣は【カード】の軍勢を率い、【全翼飛将 グライフ】に乗って新生レジスタンス本部を出発する。
20機のグライフはいずれも隊列を乱さず航行している。
「グライフが目指すのは、【震水廟】…旧【蒼王宮】の本部だね。」
レジスタンスの一員、零夜は【ティワロロ族の戦士 イスタカ】へと話しかける。
「あと30分も経たず着くらしいな。グライフとやらはすごいものだ。」
「…待って、3時方向から4機、正体不明の飛翔体が飛んできてる。これは…。」
「マピヤ、お前の眼を借りさせてくれ。」
イスタカは電脳空間の特性を活かして、鳥類である自らの相棒、マピヤと視界を共有した。
「…あれは、猿、か…?」
イレギュラーウィングを背負う者。
3対の翼を持つ化生───。
グリート。
「───っ来る!伏せて!」
「うわぁぁぁ!?」
激突。
凄まじい揺れを前に、イスタカ達は手すりに捕まる。
「運転席!」
「制御が効かねえ!」
運転席に座る、【銀行強盗 デリンジャー】は操縦桿に齧り付いている。
「零夜!なんとかならんのか!」
「無理だね…。計器を見れば分かる。エンジンが思いっきりやられてる。皆、ひとまず脱出だ。体勢を立て直してまた───。」
「きゃぁあぁぁ!?」
【#夜光犯罪特区 #きてるちゃんライヴ】…金髪の少女、きてるちゃんが悲鳴をあげる。
「きてる!?…なっ!」
「グリートが…入り込んできた…!?」
握りつぶされる肢体。
グリートの強靭な五指が、きてるの肉体を破砕した。
「あうっ。」
肉体がひしゃげる音。
同時にエナジーが飛び出して、零夜の顔を汚した。
「……やれやれ、観測できてないことばかりだ。」
グリートが機体に空けた穴を広げ───内部へと侵入する。
《 鏖殺だ 》
フルアーマーは、仲間からの連絡に驚愕する。
「報告します…!バグドール所属の者と思わしき飛翔体、資料にもあった怪物…グリートにより、グライフが10機以上落とされてます!」
「グリートか…厄介だな。だが、構わん。」
空飛ぶグライフの群の中央に陣ずる忠臣はきっぱりと言い切った。
「グライフに乗せた金枠のカードは17人おるのだ。軍勢は不滅。故に、我らはアダム・ユーリエフの元へ突貫する。」
金枠のカードは他のカードに対して無限にエナジーを供給でき、供給する人数には制限こそあるが、基本的に枯れることはない。
もし一般のカードがグリートに襲われ、実体化を解除してしまっても、金枠のカードがエナジーを供給すればすぐに復活することができる。
4体のグリートに対して、後方のレジスタンス達は抵抗を続ける。
「さて、ついたぞ…。なかなかに醜悪な様相よな。」
グライフの真下、【震水廟】には、夥しいほどの黒点───グリートの軍勢が待ち構えていた。
「…計器に異常無し、着陸できます。どうしますか?」
「全機、ポータルを投下せい。そこを起点に侵攻を行う。」
「了解!」
ポータルが投下され、そこから忠臣が充填しておいた分解の魔力が溢れ出る。
グリートにされていた【カード】達がイレギュラーウィルスの支配から逃れ、次々に昏倒していった。
「白兵戦だ。一度に攻めかかり、残滅する。」
忠臣はそれきりいうと、グライフから飛び出し、空を降下する。
浮遊感。
空中を飛ぶグリートが忠臣に襲い掛かる。
「スピードが遅いな。所詮、コピー品か。」
「妖華穿突刃!」
忠臣は刀を構え、足の裏から大量の魔力を放出して地上にいるグリート達めがけて突進する。
流麗な軌跡は、まるで流れ星の如く、獲物を狩る鷹の如く地上へ降下する。
忠臣の軌道上のグリート達は皆浄化され、地に落ちた。
「自分たちも降下します。空飛ぶグリートが相手なら、ポータルの効力が効く地上の方が安全だ。」
「了解だ!火砲支援は任せろ!」
「寄ってきた敵は俺が焼いてやるぜ。」
フルアーマーに答えるのはゲームバズーカとスコーピオン。
例え、グリートが【カード】達をいくら殺害しようとも、金枠が【カード】を復活させるため、イタチごっこだ。
そのため、この状況は忠臣の援護という観点からは、非常に効果が高かった。
忠臣は地上に降り立ち、分解の魔力を四方八方へと放ちながら、軍勢に突貫する。
すると、グリートの軍勢はたちまち無力になる。
「フハハハハハハハハハハ!」
高笑いを上げながらコピー品のグリート達を追い回す忠臣。
いくら強靭なグリートとはいえど、イレギュラーの要素が身体から剥がれ落ちてしまえば、ただの【カード】。
有象無象とさして変わらない。
《 随分と、荒らし回ってくれたものだ 》
前方から響く、嘲笑混じりの大声。
「…貴様、オリジナルのグリートか。」
忠臣の目の前に佇むのは、強大な巨躯の化け物───グリート、その首領であった。
《 悲しいが、群による戦闘は不利 》
「そうとう堪えたようだな。」
《 ああ、大して悲鳴を増やさぬうちに、この戦を終わらせてしまうことが、残念でならぬ 》
「…。」
《 さらば、ここで希望の芽をくびりとり、この戦を終わらせようとも 》
《 椿の如く、その首を落としてやろう───桜華、忠臣! 》
グリートが叫ぶと、周囲に存在するコピー品のグリートの体が解ける。
イレギュラーウィルスの集積といったところか。
夥しいほどの黒い蛆がグリートの体躯に群がり、オリジナルのグリートを新生させてゆく…。
5mを越える体躯。
背部より生える、6対の副腕。
白き顔面。
獣の牙と、竜の尾。
4mほどはあろう両腕、両脚。
黒き体毛の、恐るべき獣。
「我の力を恐れた結果が、その図体か?」
グリートの手の中で、空を埋め尽くすほどの大量のイレギュラーウィングが繋がり、固まり、収縮し───一本の刀となる。
《 苦労したぞ。厄介な力を持ちおって。 》
「…。」
《 だが、苦労した甲斐はある。貴様のその面持ちを見れば分かるとも───恐怖しているな? 》
【千血妖刀 牛鬼村正】───。
イレギュラーウィングで構成された巨大なソレは、一撃を受けた者を確実に葬り去り、イレギュラーに変える。
《 貴様自身の力が効かないことになァ? 》
忠臣は現在も、自身の魔力を放出してグリートの分解を試みているが、イレギュラーウィルスによる何重にも及ぶ装甲を身につけたグリートには効果が薄いようだ。
「…元の心根が我と同じ者としては、随分と臆病になったな。グリート。」
《 …。 》
殺気。
「威張らなければ勇気が出ぬか。結構。───斬ってやる。近う寄れ。」
忠臣は刀を構える。
グリートは突撃する。
《 この我を愚弄するかッ!! 》
グリートが扱うイレギュラーウィング製の似非村正はイレギュラーウィルスを放出し、その刀身を自由に伸ばすことができる。
グリートの踏み込みの音が忠臣に聞こえるより速く、刀身は忠臣の眼前に迫る。
《 討ち取ったぞ───。 》
「───龍神形態。」
グリートの眼は、翠の魔力の奔流をその虹彩に移す。
無限の魔力が鎧を作る。
兜、籠手、脛当て。
武者の輪郭は灯篭の影の如くゆらめく。
「───失せろ。」
眼圧。
覇王のひと睨みにて、グリートの剣先が鈍る。
( 分解されている…だと? )
グリートの腕が分解されて刀の握りが緩くなっている。
忠臣は、自身の魔力を視界の中央に集中させて放射することにより、無限の魔力による遠距離攻撃を行うことを可能としていた。
( この我が…眼圧如きで? )
《 我慢ならぬッ 》
グリートの副腕が枝分かれし、鉤爪のついた触手と化す。
触手は伸縮自在。量と質と密度を両立した刃が、忠臣に襲い掛かる。
「…その様、まるで彼岸花のようだな。」
忠臣はまず、自身の刀でグリートの村正を鎧袖一触に横凪に切り裂く。
その後、刀に宿す魔力を増大させ、上段に構えて振り下ろした。
無限の魔力によって延長された刀身は、バターのようにグリートの身体を両断してゆく…。
「赤く染めてやろう。」
左右鳴き別れ。
血飛沫がグリートの触手を赤に染める。
《 舐めるなよ。 》
現在のグリートは、過度のイレギュラーウィルスを内包する。
そのため、ある程度の不死性を保有する。
赤に染まった触手が、忠臣を突き刺そうと伸びる。
「残心を我が怠る訳ないだろう。たわけ。」
触手が忠臣の身体を直撃するが、貫通はしない。
《 これほど、とはな 》
分解の魔力による鎧…ソレを纏う限り、忠臣は実態を伴う攻撃を分解し無効化する。
無論、触手などは容易いことだ。
「妖華───帝皇斬。」
《 だが、我は負ける気はない! 》
イレギュラーウィルスで出来た村正と、忠臣の魔力を纏う村正が拮抗する。
「…何?何故斬れぬ。」
分解の魔力とウィルスが拮抗する。
《 …我は厭わん。 》
グリートの身体は溶けかけている。
《 例え、己が肉体が滅びようと、己が軍勢が滅びようと。 》
末端から身体が消失している。
《 我は、後の者共から負け犬と揶揄され、後ろ指を刺されることこそを拒む。」
グリートの外殻は消えた。
忠臣の前に立つは、もう1人の忠臣。
「己一人すら奮い立たせぬ心では!まして、安寧に食われ、死の中の活を求めれぬようでは!」
イレギュラーの忠臣は、自身が内包する全てのイレギュラーウィルスを愛刀に込める。
「我は決して覇道を掴むことなどできぬ!」
「ぐっ!?」
「故に、超克する!我を刃として、貴様を超える!」
忠臣は押し切られる。
甘かった。
忠臣はわかっていたはずだった。
自分とは、こういう生き物だと…。
プライドに食われ、堕落するのではなく、プライドを食って高みを目指す生き物だと…。
「意地の張り合い、我の勝ちのようだな!」
イレギュラーの忠臣が、オリジナルの忠臣の首を取らんと全体重をかける。
「…ぬ、ぐ、おおおおおおおおおお!!」
「往生際が悪いぞ!桜華忠臣ィィィィィ!!」
「我は負けぬ!」
「我が勝つ!」
イレギュラーの忠臣はオリジナルの忠臣の足を払う。
そして、力が入らなくなったオリジナルの忠臣の首を、イレギュラー村正が斬りとらんとする。
「まだだ!」
魔力の鎧が首元に展開される。
間一髪鎧は間に合い、イレギュラー村正はオリジナルの忠臣の首を取ることなく、ガチリと硬質的な音を立てて静止した。
「…ハッ、ハッ、ハッ…。」
「ふ、ふふ、は…。」
憔悴するオリジナル。
笑うイレギュラー。
「…我の負けだ。」
イレギュラーは村正を手放した。
彼の身体は、限界を迎えていたのだ。
「…フ。」
座り込むイレギュラー。
その体躯は無限の魔力により分解される。
その時だった。
空を黒雲が包む。
大地を影が覆う。
イレギュラーの忠臣…グリートはイレギュラーウィルスに包まれ、姿を消した。
「───随分ト、ヤッテクレマシタネ。」
ポータルの範囲の中であるのにも関わらず、イレギュラーウィルスが忠臣の周囲を包み込む。
「…フン。やっとお出ましか。」
「アナタニハ手ヲ焼キマス。本当ニ。」
黒雲の中から現れたのはイレギュラーの首魁、バグドール。
「ココデ終ワラセマショウ。オタガイニ、時間ガナイデショウカラ。」
「…お互いに?どういう事だ、バグドール。」
「模造品ノサーバーニ限界ガ来テイマス。ソノウチコノ世界ハ消滅スルコトデショウ。」
バグドールが復活し、コンパス本体への侵攻のためにウィルスの増殖を始めた結果、サーバーの負荷が多大になり、活動が難しくなっていたのだ。
「故に、お互いか…。」
「アナタガタガ消滅スレバ、多少ハマシニナリマス。」
「…アダムガ死ンダ事デ、カツテノオマエガ行ッタ取引ガ再開シタ。ツマリ、セキュリティデータハ既ニ手ニ入レテイマス。オマエラ、負ケチャイマシタネ。」
ペラペラと喋るバグドール。
単純な自慢ではない。
何をやっても、運命は変わらないことを示して戦意を折る気なのだ。
桜華忠臣は考える。
引き連れてきた【カード】達がここに来ていない意味を。
(増援が遅い…。おそらくだが───バグドールによって足止めされているのか。)
現時点でもアダムが確保できていないことを。
(アダムがいなければ、バグドールの増殖を止めることができない。)
「我はここに来た目的を達成する。」
忠臣の心臓はさらに躍動する。
翠の魔力が全身を覆う。
「アダムを手に入れる。貴様を押しのけてな。」
「…クク、ムダナ足掻キデスヨ?」
黒と翠が荒れ狂う。
事態は加速する───!