#コンパス 桜華忠臣の受難   作:K+#ガソ林

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FINAL桜華作戦-4

 桜華忠臣は【カード】の軍勢を率い、【全翼飛将 グライフ】に乗って新生レジスタンス本部を出発する。

 

 20機のグライフはいずれも隊列を乱さず航行している。

 

「グライフが目指すのは、【震水廟】…旧【蒼王宮】の本部だね。」

 

 レジスタンスの一員、零夜は【ティワロロ族の戦士 イスタカ】へと話しかける。

 

「あと30分も経たず着くらしいな。グライフとやらはすごいものだ。」

 

「…待って、3時方向から4機、正体不明の飛翔体が飛んできてる。これは…。」

 

「マピヤ、お前の眼を借りさせてくれ。」

 

 イスタカは電脳空間の特性を活かして、鳥類である自らの相棒、マピヤと視界を共有した。

 

「…あれは、猿、か…?」

 

 イレギュラーウィングを背負う者。

 3対の翼を持つ化生───。

 

 グリート。

 

「───っ来る!伏せて!」

 

「うわぁぁぁ!?」

 

 激突。

 凄まじい揺れを前に、イスタカ達は手すりに捕まる。

 

「運転席!」

 

「制御が効かねえ!」

 

 運転席に座る、【銀行強盗 デリンジャー】は操縦桿に齧り付いている。

 

「零夜!なんとかならんのか!」

 

「無理だね…。計器を見れば分かる。エンジンが思いっきりやられてる。皆、ひとまず脱出だ。体勢を立て直してまた───。」

 

「きゃぁあぁぁ!?」

 

 【#夜光犯罪特区 #きてるちゃんライヴ】…金髪の少女、きてるちゃんが悲鳴をあげる。

 

「きてる!?…なっ!」

 

「グリートが…入り込んできた…!?」

 

 握りつぶされる肢体。

 グリートの強靭な五指が、きてるの肉体を破砕した。

 

「あうっ。」

 

 肉体がひしゃげる音。

 同時にエナジーが飛び出して、零夜の顔を汚した。

 

「……やれやれ、観測できてないことばかりだ。」

 

 グリートが機体に空けた穴を広げ───内部へと侵入する。

 

《 鏖殺だ 》

 

 フルアーマーは、仲間からの連絡に驚愕する。

 

「報告します…!バグドール所属の者と思わしき飛翔体、資料にもあった怪物…グリートにより、グライフが10機以上落とされてます!」

 

「グリートか…厄介だな。だが、構わん。」

 

 空飛ぶグライフの群の中央に陣ずる忠臣はきっぱりと言い切った。

 

「グライフに乗せた金枠のカードは17人おるのだ。軍勢は不滅。故に、我らはアダム・ユーリエフの元へ突貫する。」

 

 金枠のカードは他のカードに対して無限にエナジーを供給でき、供給する人数には制限こそあるが、基本的に枯れることはない。

 もし一般のカードがグリートに襲われ、実体化を解除してしまっても、金枠のカードがエナジーを供給すればすぐに復活することができる。

 

 4体のグリートに対して、後方のレジスタンス達は抵抗を続ける。

 

「さて、ついたぞ…。なかなかに醜悪な様相よな。」

 

 グライフの真下、【震水廟】には、夥しいほどの黒点───グリートの軍勢が待ち構えていた。

 

「…計器に異常無し、着陸できます。どうしますか?」

 

「全機、ポータルを投下せい。そこを起点に侵攻を行う。」

 

「了解!」

 

 ポータルが投下され、そこから忠臣が充填しておいた分解の魔力が溢れ出る。

 グリートにされていた【カード】達がイレギュラーウィルスの支配から逃れ、次々に昏倒していった。

 

「白兵戦だ。一度に攻めかかり、残滅する。」

 

 忠臣はそれきりいうと、グライフから飛び出し、空を降下する。

 浮遊感。

 空中を飛ぶグリートが忠臣に襲い掛かる。

 

「スピードが遅いな。所詮、コピー品か。」

 

「妖華穿突刃!」

 

 忠臣は刀を構え、足の裏から大量の魔力を放出して地上にいるグリート達めがけて突進する。

 流麗な軌跡は、まるで流れ星の如く、獲物を狩る鷹の如く地上へ降下する。

 忠臣の軌道上のグリート達は皆浄化され、地に落ちた。

 

「自分たちも降下します。空飛ぶグリートが相手なら、ポータルの効力が効く地上の方が安全だ。」

 

「了解だ!火砲支援は任せろ!」

 

「寄ってきた敵は俺が焼いてやるぜ。」

 

 フルアーマーに答えるのはゲームバズーカとスコーピオン。

 

 例え、グリートが【カード】達をいくら殺害しようとも、金枠が【カード】を復活させるため、イタチごっこだ。

 そのため、この状況は忠臣の援護という観点からは、非常に効果が高かった。

 

 忠臣は地上に降り立ち、分解の魔力を四方八方へと放ちながら、軍勢に突貫する。

 すると、グリートの軍勢はたちまち無力になる。

「フハハハハハハハハハハ!」

 高笑いを上げながらコピー品のグリート達を追い回す忠臣。

 いくら強靭なグリートとはいえど、イレギュラーの要素が身体から剥がれ落ちてしまえば、ただの【カード】。

 

 有象無象とさして変わらない。

 

《 随分と、荒らし回ってくれたものだ 》

 

 前方から響く、嘲笑混じりの大声。

 

「…貴様、オリジナルのグリートか。」

 

 忠臣の目の前に佇むのは、強大な巨躯の化け物───グリート、その首領であった。

 

《 悲しいが、群による戦闘は不利 》

 

「そうとう堪えたようだな。」

 

《 ああ、大して悲鳴を増やさぬうちに、この戦を終わらせてしまうことが、残念でならぬ 》

 

「…。」

 

《 さらば、ここで希望の芽をくびりとり、この戦を終わらせようとも 》

 

《 椿の如く、その首を落としてやろう───桜華、忠臣! 》

 

 グリートが叫ぶと、周囲に存在するコピー品のグリートの体が解ける。

 イレギュラーウィルスの集積といったところか。

 夥しいほどの黒い蛆がグリートの体躯に群がり、オリジナルのグリートを新生させてゆく…。

 

 5mを越える体躯。

 背部より生える、6対の副腕。

 白き顔面。

 獣の牙と、竜の尾。

 4mほどはあろう両腕、両脚。

 

 黒き体毛の、恐るべき獣。

 

「我の力を恐れた結果が、その図体か?」

 

 グリートの手の中で、空を埋め尽くすほどの大量のイレギュラーウィングが繋がり、固まり、収縮し───一本の刀となる。

 

《 苦労したぞ。厄介な力を持ちおって。 》

 

「…。」

 

《 だが、苦労した甲斐はある。貴様のその面持ちを見れば分かるとも───恐怖しているな? 》

 

 【千血妖刀 牛鬼村正】───。

 イレギュラーウィングで構成された巨大なソレは、一撃を受けた者を確実に葬り去り、イレギュラーに変える。

 

《 貴様自身の力が効かないことになァ? 》

 

 忠臣は現在も、自身の魔力を放出してグリートの分解を試みているが、イレギュラーウィルスによる何重にも及ぶ装甲を身につけたグリートには効果が薄いようだ。

 

「…元の心根が我と同じ者としては、随分と臆病になったな。グリート。」

 

《 …。 》

 

 殺気。

 

「威張らなければ勇気が出ぬか。結構。───斬ってやる。近う寄れ。」

 

 忠臣は刀を構える。

 グリートは突撃する。

 

《 この我を愚弄するかッ!! 》

 

 グリートが扱うイレギュラーウィング製の似非村正はイレギュラーウィルスを放出し、その刀身を自由に伸ばすことができる。

 

 グリートの踏み込みの音が忠臣に聞こえるより速く、刀身は忠臣の眼前に迫る。

 

《 討ち取ったぞ───。 》

 

「───龍神形態。」

 

 グリートの眼は、翠の魔力の奔流をその虹彩に移す。

 無限の魔力が鎧を作る。

 兜、籠手、脛当て。

 武者の輪郭は灯篭の影の如くゆらめく。

 

「───失せろ。」

 

 眼圧。

 覇王のひと睨みにて、グリートの剣先が鈍る。

 

( 分解されている…だと? )

 

 グリートの腕が分解されて刀の握りが緩くなっている。

 忠臣は、自身の魔力を視界の中央に集中させて放射することにより、無限の魔力による遠距離攻撃を行うことを可能としていた。

 

( この我が…眼圧如きで? )

《 我慢ならぬッ 》

 

 グリートの副腕が枝分かれし、鉤爪のついた触手と化す。

 触手は伸縮自在。量と質と密度を両立した刃が、忠臣に襲い掛かる。

 

「…その様、まるで彼岸花のようだな。」

 

 忠臣はまず、自身の刀でグリートの村正を鎧袖一触に横凪に切り裂く。

 その後、刀に宿す魔力を増大させ、上段に構えて振り下ろした。

 無限の魔力によって延長された刀身は、バターのようにグリートの身体を両断してゆく…。

 

「赤く染めてやろう。」

 

 左右鳴き別れ。

 血飛沫がグリートの触手を赤に染める。

 

《 舐めるなよ。 》

 

 現在のグリートは、過度のイレギュラーウィルスを内包する。

 そのため、ある程度の不死性を保有する。

 赤に染まった触手が、忠臣を突き刺そうと伸びる。

 

「残心を我が怠る訳ないだろう。たわけ。」

 

 触手が忠臣の身体を直撃するが、貫通はしない。

 

《 これほど、とはな 》

 

 分解の魔力による鎧…ソレを纏う限り、忠臣は実態を伴う攻撃を分解し無効化する。

 無論、触手などは容易いことだ。

 

「妖華───帝皇斬。」

 

《 だが、我は負ける気はない! 》

 

 イレギュラーウィルスで出来た村正と、忠臣の魔力を纏う村正が拮抗する。

 

「…何?何故斬れぬ。」

 

 分解の魔力とウィルスが拮抗する。

 

《 …我は厭わん。 》

 

 グリートの身体は溶けかけている。

 

《 例え、己が肉体が滅びようと、己が軍勢が滅びようと。 》

 

 末端から身体が消失している。

 

《 我は、後の者共から負け犬と揶揄され、後ろ指を刺されることこそを拒む。」

 

 グリートの外殻は消えた。

 忠臣の前に立つは、もう1人の忠臣。

 

「己一人すら奮い立たせぬ心では!まして、安寧に食われ、死の中の活を求めれぬようでは!」

 

 イレギュラーの忠臣は、自身が内包する全てのイレギュラーウィルスを愛刀に込める。

 

「我は決して覇道を掴むことなどできぬ!」

 

「ぐっ!?」

 

「故に、超克する!我を刃として、貴様を超える!」

 

 忠臣は押し切られる。

 甘かった。

 忠臣はわかっていたはずだった。

 自分とは、こういう生き物だと…。

 プライドに食われ、堕落するのではなく、プライドを食って高みを目指す生き物だと…。

 

「意地の張り合い、我の勝ちのようだな!」

 

 イレギュラーの忠臣が、オリジナルの忠臣の首を取らんと全体重をかける。

 

「…ぬ、ぐ、おおおおおおおおおお!!」

 

「往生際が悪いぞ!桜華忠臣ィィィィィ!!」

 

「我は負けぬ!」

 

「我が勝つ!」

 

 イレギュラーの忠臣はオリジナルの忠臣の足を払う。

 そして、力が入らなくなったオリジナルの忠臣の首を、イレギュラー村正が斬りとらんとする。

 

「まだだ!」

 

 魔力の鎧が首元に展開される。

 間一髪鎧は間に合い、イレギュラー村正はオリジナルの忠臣の首を取ることなく、ガチリと硬質的な音を立てて静止した。

 

「…ハッ、ハッ、ハッ…。」

 

「ふ、ふふ、は…。」

 

 憔悴するオリジナル。

 笑うイレギュラー。

 

「…我の負けだ。」

 

 イレギュラーは村正を手放した。

 彼の身体は、限界を迎えていたのだ。

 

「…フ。」

 

 座り込むイレギュラー。

 その体躯は無限の魔力により分解される。

 

 その時だった。

 

 空を黒雲が包む。

 大地を影が覆う。

 イレギュラーの忠臣…グリートはイレギュラーウィルスに包まれ、姿を消した。

 

「───随分ト、ヤッテクレマシタネ。」

 ポータルの範囲の中であるのにも関わらず、イレギュラーウィルスが忠臣の周囲を包み込む。

 

「…フン。やっとお出ましか。」

 

「アナタニハ手ヲ焼キマス。本当ニ。」

 

 黒雲の中から現れたのはイレギュラーの首魁、バグドール。

 

「ココデ終ワラセマショウ。オタガイニ、時間ガナイデショウカラ。」

 

「…お互いに?どういう事だ、バグドール。」

 

「模造品ノサーバーニ限界ガ来テイマス。ソノウチコノ世界ハ消滅スルコトデショウ。」

 

 バグドールが復活し、コンパス本体への侵攻のためにウィルスの増殖を始めた結果、サーバーの負荷が多大になり、活動が難しくなっていたのだ。

 

「故に、お互いか…。」

 

「アナタガタガ消滅スレバ、多少ハマシニナリマス。」

 

「…アダムガ死ンダ事デ、カツテノオマエガ行ッタ取引ガ再開シタ。ツマリ、セキュリティデータハ既ニ手ニ入レテイマス。オマエラ、負ケチャイマシタネ。」

 

 ペラペラと喋るバグドール。

 単純な自慢ではない。

 何をやっても、運命は変わらないことを示して戦意を折る気なのだ。

 桜華忠臣は考える。

 引き連れてきた【カード】達がここに来ていない意味を。

 

(増援が遅い…。おそらくだが───バグドールによって足止めされているのか。)

 

 現時点でもアダムが確保できていないことを。

 

(アダムがいなければ、バグドールの増殖を止めることができない。)

 

「我はここに来た目的を達成する。」

 

 忠臣の心臓はさらに躍動する。

 翠の魔力が全身を覆う。

 

「アダムを手に入れる。貴様を押しのけてな。」

 

「…クク、ムダナ足掻キデスヨ?」

 

 黒と翠が荒れ狂う。

 事態は加速する───!

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