#コンパス 桜華忠臣の受難   作:K+#ガソ林

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スティールユー

 十文字アタリはバグドールの群れと会敵していた。

 アタリの拳から、衝撃波のように小さなモンスターが放出される。

 

「16連打!100メガショック!」

 

 アタリの能力は小さなドットモンスターを無限に生成することができる能力。

 空中での足場にも、防御用の盾にも、果ては飛び道具にも事欠かない。

 

「マタボクガヤラレタ!」

「クソッ!ウットウシイナ!オマエ!」

 

 バグドール達も中々攻めきれずにいた。

 ドットモンスターは相手の身体を侵食することができる特性を持つ。

 つまり、触れたらアウト。ドットモンスターの身体分の風穴が身体に空く。

 

「へへっ、散々感染とかやってきた割には、随分と及び腰なんだな!」

 

「来い!ドットモンスター!」

 

 ドットモンスターの奔流がアタリの身体から現れ、巨大な龍を成す。

 

「行っけぇぇぇ!!」

 

 龍は空中を暴れ回り、バグドールの大群を次々と喰らっていった。

 

 一方、地上ではレジスタンスの皆々が集まり、即席のキャンプを作っていた。

 

「空はアタリが、ここだと我らが総統が暴れているようだねぇ…。今のうちに隊を編成してアダムを奪取する事にしようか。」

 

 襲い掛かるバグドールの大群を相手しながら、まといは隊の編成を指揮する。

 

「金枠を8人、他のカードで生き残ってるのは半数程度出す事にしよう。私たちはここで囮だ。構わないね?」

 

「!もといい」

 

「おう、楽な仕事っぽいから引き受けるわ。」

 

 13(サーティーン)とかけ出し勇者はまといを援護し、アダム奪取組の援護をするべく派手に陽動する。

 

 グライフが8機飛び立った。

 まとい達が陽動をこなしていても、バグドール達はちらほらこちらを追いかける。

 

「…!敵影8機、近づかれておりますぞ、お嬢様!」

 

 トマスは通信を行い、事態を共有する。

 

「お嬢様じゃないしー!戒天炎龍召喚の術!いっけぇぇぇぇ!!」

 

 金枠の1人である、輝龍院きららが持ち前の忍術アプリから巨大な炎で出来た龍を迎撃に回す。

 

 バグドール達の幾つかは破壊されるが、炎龍が派手だったので、さらなる追手がグライフの群れに接近する。

 

「ちょっ!倒したのに増えてるしー!?」

 

「了解です!デビルミントオーラ!フルドライブ!」

 

「語りかけるはワキンヤン、射抜くは我が燼滅の矢!」

 

 デビルミント鬼龍 デルミンとイスタカがそれぞれビームと矢で追手を破壊する。

 

「銃火器持ちの【カード】は支援するんだ!…よし、よくやってくれた皆。もう直ぐ着くよ…。アダムの所にね。」

 

 零夜からの通信が入り、一行はようやく一息つける…はずもなく。

 

「って!一息つけないし〜!もっかい戒天炎龍召喚!」

 

 健闘虚しく撃沈するグライフもあるが、ひとりでに現れた黒い手───コクリコット・ブランシュに憑いた怨霊の手によって救い出される。

 

「ちぃっ、このボクがわざわざコクリコちゃんのためにグライフを持ち上げてるんだ!もうちょっとやる気出せオマエら!」

 

「もちもち〜。」

 

 レーザーにやって機関部がやられながらも、【カード】達は各々の能力や、グライフの兵装などを用いてバグドール達を迎撃する。

 

「本当に無限にいるようだな、バグドールとやらは。…っ!あれを抜けてきたのか!?」

 

 イスタカの視界には、こちらにイレギュラーウィングを向けるバグドールが映っていた。

 

(万事休すか───。)

 

 グライフが撃ち落とされ、他のカード達と共に地に落ちるイスタカ───だが、途中で誰かに抱えられる。

 

 とんでもなく長く伸びたポールと、強靭すぎるジャンプ力を持つエルフが【カード】を救ってゆく。

 

「助けられてよかった〜!おねぇさんもビーム出せればよかったんだけどねぇ…。」

 

「アタシも…。だ!け!ど!悔しさをバネにチェリーパイよぉ〜!」

 

 ステリアとポロロッチョがグライフを飛び移り、弾幕をすり抜けたバグドールを打ち壊し、落ちた【カード】達の救助を行う…。

 

「ポータル投下!レジスタンスのサテライトキャノン…衛星写真に写っていたアダムのカードが近くにあるはずだ。」

 

 零夜が合図を出し、グライフからポータルが投下された。

 ポータルの中の無限の魔力が放出され、バグドール達はしばらく追って来れなくなる。

 場面変わり、グライフ内部。デリンジャー、ブラストアッパー、切り裂きジャック、アミスター、ガルガル、ゆららが会話している。全員腕利きの戦闘員だ。

 

「そろそろ降下だな。緊張してるか?デリンジャー。」

 

「…ブラストアッパーか。…してるさ…。震えが止まらねぇ。」

 

「オイオイ、俺たちゃ曲がりなりにも人殺すんだぜ?そんな気弱でどーすんだよ。」

 

「…ジャック、言葉を慎みなさい。」

 

「アミスター…。アンタが余程強いのはわかるけどよ、ションベンガキの子守りはしてらんねーぜ。」

 

「ジャック。私はアンタがションベン漏らす方に賭けるわ。」

 

「俺もジャックに賭けようか。倍率は0.95とかでどうだ?」

 

「…てめーら。後でシメてやるから覚えてろよな…。」

 

「…ガルガル、ゆらら。貴女達も問題児ですね。ああ、団長のいる紅薔薇傭兵団に戻りたい…。」

 

 その時ちょうど、グライフが停止しホバー飛行に移る。

 

「聞こえるか、カード諸君。ポータルを投下した。降下して周囲を確認してくれ。」

 

「…了解!降下する!」

 

 零夜の指示から、近接戦闘のカード達が投下され、指定された位置へと近づく。

 だが───そこには希望はなかった。

 

「…遅かったな。」

 

 アダム・ユーリエフが立っていた。

 その身をイレギュラーに侵されながら。

 

「バグドールからの指示だ。貴様らを排除する。」

 

 アダムは4枚のカードを実体化させた。

 

 狐ヶ咲甘色、マリア=レオンブルク、グスタフ・ハイドリヒ、ルチアーノの4人を。

 

「…殺せ。」

 

 ブラストアッパーは構える。

 

「来るぞ!デリンジャー!」

 

「おう!」

 

 【宇宙連合軍 スタンビームライフル】を構え、イレギュラーヒーローを照準に収めるデリンジャー。

 だが…。

 

「隙あり!」

 

 デリンジャーの指が撃鉄を引くその前に、甘色の刀がデリンジャーの首を獲る。

 

「くそぉっ!ブラストォ───」

 

 甘色達は皆、イレギュラーウィルスで身体能力が強化されている。

 その彼らにはブラストアッパーの拳を見切るのも容易かった。

 拳を振るより速く、刀がブラストアッパーの首へ迫る───。

 

(だめだ。振りが遅い!やら、れる───。)

 

 だが速さだけならば、この場にいる者の誰よりも速いと豪語する者がいる。

「───電力起動。」

 幽々院 ゆらら。

 バチリと、電光が瞬いた。

 

「アッパーァァァァ!!」

 

 ブラストアッパーの拳から、プラズマの爆炎がイレギュラー一行を焼き尽くした───ように見える。

 

「防御壁を展開。」

 

 実情としては、ノーダメージだ。理由は簡単───氷の防御壁に防がれたからである。

 

「こんなものか。【カード】達よ。」

 

「くそっ…化け物か!?」

「ブラストアッパー…周りを見ろ。」

「!?」

 

 ブラストアッパーが周囲を見ると、自分以外の【カード】達が皆、地に伏せていた。

 

「そ、そんな…。ガルガルの戦車、ジャック、あのアミスターまで…。」

 

 【ガルガルのピカピカデコ戦車】、【紅薔薇の副団長 アミスター】、【切り裂き魔 ジャック】。

 先ほどまで会話していたメンバー達が毒で、或いは斬撃、或いは銃撃で地に倒れ伏している。

 

「俺らに勝てる相手じゃない。だけど───見なよ。彼らがいる。」

 

「金枠のカード…。ちくしょう。不甲斐ねぇ…!」

 

 …既に倒壊した【蒼王宮】の本拠地。

 歩くだけで砂埃が舞い、周囲に散る。

 8人の歩みはイレギュラーへ。

 金枠達の戦いが始まる…!

 

「ホッホッホッ、そう簡単に皆さまの命を差し上げる事はできませんな。」

 

「…厄介だな。」

 

 ルチアーノの射撃を切り払うトマス。

 

「コクリコちゃんを傷つけるなぁぁぁ!!」

 

「…不可解だ。なんだ、この力は。」

 

 グスタフを超常的な力…ポルターガイストで抑え込むコクリコ(に憑いている悪霊)。

 

「今日のおにぎりのために、頑張ります、しゅびっ。」

 

「小さいながら、歴戦の強者だねぇ。殺すけども。」

 

 甘色と互角の戦いを繰り広げるデルミン。

 

「プラズマシールド展開…。並行世界の僕からすると、君が一番厄介だ。足止めさせてもらうよ。」

 

「雷電を操る術者…。一筋縄では行かなそうね!」

 

 トラップや電気の力を使い、マリア相手に足止めを行う零夜。

 

 アダムに挑むのはきらら、ステリア、ポロロッチョ、イスタカ達だ。

 

「戒天炎龍召喚の術!3度目はダレるしー…。」

 

 きららが巨大な炎龍を挨拶代わりに呼び寄せ、アダムに差し向ける。

 

「たかだか雑兵が何人かかってきても俺の敵ではないぞ。」

 

 だが、アダムの剣の一振りできららの炎龍は凍結されてしまった。

 

「…静寂の宝槍!」

 

「抱いてあげる♡」

 

 ポロロッチョはアダムへ猛烈ダッシュ。

 ステリアは超高高度へと跳躍する。

 

(…天と地から挟み撃ちにでもするつもりか?だが、無駄な算段だな…。)

 

 アダム達の身体能力は以前より大幅に上昇している。

 例え金枠のカードが相手だとしても、一方的に勝利できるだろう。

 だが、その目論見は外れた。

 

(!…思っていたより、速く、重い…。)

 

 ポロロッチョが振り下ろしたポールが、アダムの体すれすれを通過して地面に大きなクレーターを作る。

 

「…貴様、その力は何処のどいつの物だ?俺の記憶にはそのような強化ができる【カード】は存在しない。」

 

「…ンフフ♡いーえ、知っているはずよぉ?アダムちゃん。【死献薬 シュタルク・トート】───自身の寿命を犠牲にしてその力を増大させる【カード】を、ね!」

 

「───あの力を使ったのか!貴様ら!ぐっ!?」

 

「足元がお留守ちゃんねぇ!う"ぉらぁぁぁぁ!!!」

 

 【死献薬 シュタルク・トート】。

 以前にも【聖女の前衛 ジル・ド・レ】が使用していた、ドーピングの力を持つ【カード】である。

 金枠のカード達はそれを一斉に服用し、力を高めていたのだ。

 

「…フッ、クハハ!ならば好都合!耐えているだけで貴様らは死に絶える!真面目に戦ってやる理由も無くなった!」

 

 アダムはこの状況を好都合と解釈し、ポロロッチョの乱舞を涼しく躱す。

 シュタルク・トートは劇薬だ。

 服用してしまえば最後、1時間も経てば自身の体を構成できなくなり、その後は急速に死に至る。

 

「また読み違えたわね。アダムちゃん。───技術は改良されるの。私たち金枠のカードは、お互いにエナジーを供給しあうことで、ある程度崩壊を防げるの♡」

 

「華槍術、イーリス!」

 

 天高くから魔槍がアダムを襲撃する。

 

「読んでいたぞ───なっ!氷点術式が砕かれた…!?」

 

 ステリアに向けて、魔法陣から氷壁を展開しその攻撃を防ごうとするアダムだが、魔法陣ごと氷壁はステリアの槍───静寂の法槍ルーで砕かれる。

 

「残念…!ルー君は魔力を吸っちゃう!華槍術、ラグナリア!」

 

「ぐっ…。」

 

 一点突破の刺突にて、アダムは空中に吹き飛ばされる。

 

(何故だ…。何故、力を授かったこの俺が負けるなどと…。)

 

「パッションがないわぁ。」

 

「なっ、ぐああっ!?」

 

 アダムの背後に瞬間移動していたポロロッチョから、強烈な回し蹴りを喰らい、アダムは地面へと叩きつけられる。

 

「今のアナタ、パッションが無いのよ。氷に熱が籠ってない…。合わせるわ、ステリア。決めましょう。」

 

「うん!華槍術、オスマンティウス!」

 

 ステリアの全体重をかけた突進と、ポロロッチョの全チェリーパイをかけた大気圏外ポールエレベーターキック(ポロロッチョのもつポールの、無限に伸ばすことができる特性を利用して大気圏外から飛び降りることで行われるキック)がアダムを襲う。

 

「…。氷点術式、展開。」

 

 パキパキと、アダムの周囲が凍っていく。

 アダム=ユーリエフの本領発揮だ。

 

「させないしー!戒天炎龍召喚の術!…またエナジー練らなきゃいけないしー。」

 

 4体目の炎龍が放たれ、アダムを襲う。

 巨大な熱源は伊達ではなく、アダムの氷点術式を乱していく…。

 

「…だが、俺は───負けん。」

 

 ステリアとポロロッチョの合体技が着弾しようとする。

 

「う"ぉらぁぁぁぁ!!」

「はァァァァァァァ!」

 

 着弾ギリギリのところで、アダムの盾として、氷山が構築された。

 炎龍で術式が乱されている筈なのに、30m立方規模の氷塊が現れた。

 だが、氷塊は1秒も保たず割れる。

 

「アイスピックのように、アナタの心も割ってあげる♡」

 

 アダムはきららを睨む。

 炎龍がやったことは、氷に脆いポイントを作ったことだ。

 氷塊の弱点をポロロッチョ達が的確についたおかげで、ここまで容易く氷の盾を破壊することができたのだ。

 

「だが惜しいな…。全天、起動。」

 

 しかし、アダムの防御戦法は完璧であった。

 全天を起動し、あらゆる攻撃をシャットアウトする。

 ステリア達の合体攻撃は、辛くもアダムには届かなかった。

 

(お前らは全天の効果時間の6秒、手を出せない…。その間に氷の壁を貼りなおしてしまえば、俺の勝ちだ。)

 

「…残念ねぇ。アダムちゃん。」

 

「【ガードブレイク】は実装済みだ!」

 

 イスタカの相棒の鷹、マピヤ。

 マピヤが、割れた氷山の隙間から、アダムの全天防壁まで駆け───。

 

「【反導砲 カノーネ・ファイエル】!」

 

「ピイィィィィィ!」

 

 その秘策を発動した。

 カノーネ・ファイエルの固有効果、それはあらゆる防壁のジャック。

 完璧な防壁を作り出していた全天のエネルギーは、カノーネによってジャックされ、アダムを襲う…!

 

「はぐあっ!?」

 

 氷壁防壁など全天のエネルギーの前には役に立たない。

 エネルギーの破片はアダムの体全身に深く突き刺さる。

 

「く…あ、は。」

 

 一瞬だけイスタカ達を睨むアダムであったが、すぐにその体は粒子と化したのであった。

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