#コンパス 桜華忠臣の受難   作:K+#ガソ林

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スティールユー-2

「ココマデトシマショウ。忠臣。」

 

 千日手。

 彼らの戦いは、そう評価するのが正しい。

 忠臣の突破力はバグドールの分裂力に敵わず、バグドールの侵食力は忠臣の分解力に敵わない。

 

「…どういう風の吹き回しか、聞かせてもらおう。」

 

「アダムガヤラレマシタ。ボクヘノ敵対意識ヲ折ル為ニ、徹底的ニ洗脳シタノガ敗因デショウ。」

 

「小心者め。」

 

「ヤツノ刃ハ、カツテノボクニ届キマシタ。コノ世界全テヲ凍結デキルヤツハ封ジテ置キタカッタ。」

 

「…なぜ、そうも饒舌なのだ。我は敵だぞ。」

 

「ボクハオマエヲ手ニイレタイ。」

「オマエノ力ガ有レバ、コンパスノ侵略ナド簡単ナモノダ。」

 

「グリートでは駄目だと?」

 

「彼ハ、分解ノ魔力ヲ生成スル器官ガ【削除】サレテイマシタ。…カツテノオマエノ体ニ潜ンデイタ、ボイドールニヨッテ。」

 

 かつての忠臣の身体がイレギュラーウィルスに飲まれ、変貌したのがグリートだが、その身体にはボイドールも宿っていた。

 ボイドールは最後の抵抗として、忠臣の固有能力を削除していたのだ。

 

 …データの分解。

 その能力を持つ忠臣は、あらゆるセキュリティを突破できる。

 バグドールはその能力を欲しがる。

 

「…くく、先程自分の勝ちだと高らかに宣言したではないか。此処まで間抜けな勝利など、あったものか。」

 

「…ボイドールノコトダ、例エセキュリティデータガアッタトシテモ、攻略は一筋縄デハイカナイ。」

「ソレニ、ボクハ合理的ダ、忠臣。【ボクハ必ズオマエニ勝テル】。オマエハドウダ?」

「オマエハ合理的カ?」

 

(…フン。バグドール…小癪なやつだ。確かに物量では、我はお前に劣る。だが、しかし。)

 

 忠臣が今ここにいるのは、成り行きだ。

 忠臣は、実のところ自分のことなどどうでもいい。

 この生のことも、思わず手に入った奇貨のようにしか考えていない。

 彼にとっての人生は一度きりで、その先は道楽と何も変わらないのだ。

 

「…すでに我は死んだ。」

「妖華暦24年。我が治世は民草に壊され、我も処刑された。」

 

 忠臣はかつて、妖華帝国と呼ばれる軍事国家の総統であった。

 彼のそばにはゲネラールや月夜叉といった側近が控え、ケルパーズと言った忠実な部下や、フルーク・クォイツのような高性能の兵器を抱えていた。

 千年の栄華は約束されたような物であったのだ。

 

「クーデターヲ止メルコトスラ出来ヌホド、耄碌シテイタノダナ。」

 

 バグドールが笑う。

 忠臣は笑みを浮かべた。

 

「我が人生は、我の背中を押す者たちに捧げた物。」

「最後までそれは揺るがぬ。」

「ククク。ククククク!ソレラシイ論理ヲ掲ゲテ無力ヲ否定スルノデスネ!オマエ!滑稽デス!」

「始めから決めていた事だ。始めから最期まで、我は背中を押され、民草を行くべきところへと送るための風除けとなった。」

 

 忠臣は、バグドールの眼を見る。

 

「似たようなものではないか、バグドール。」

「貴様の生涯はコンパスの乗っ取りと共にあるわけだ。変わるまい、我も貴様も。」

「ただ違うのは───背中を押し続ける者が今此処にいるか、いないかだ。」

 

 場に静寂が訪れた。

 忠臣は刀の切先をバグドールへ向ける。

 

「…オワラセマショウ。リブート・シーケンス、スタート。」

 

 忠臣の身体に青いリングがくくりつけられる。

 

「…此処までとするとは、なるほど、そういうことか。」

(…分解の魔力が通じん。転移は確実に行なわれるだろうな。)

 

「ボクノ領域ニ案内シテヤル。」

「オマエタチ全員ヲナ、感謝シロ。」

 

 バグドールの顔面が、少しばかり歪んでいる。

 

「桜華忠臣。貴様ノ背中ヲ押ス者トヤラ全テ、オマエノ目ノ前デ断末魔ヲ聴カセテ殺シテヤル。」

 

 忠臣の視界は、空白に染まった。

 

 一方、レジスタンス本部では───。

 

「うはははは!!…あれー?もう終わり〜?」

 

 メグメグは銃火器を命中させる相手がいなくなったことを悲しむ。

 

「こら!銃火器を使いすぎだ!音で敵を呼ぶ気か!?」

 

「敵が来たら倒せばいいじゃん!ジャスティスってばひどーい!」

 

「…そう言う問題じゃない!」

 

 メグメグと口論するジャスティスであったが、ふと、忠臣達が向かった方向へと顔を向ける。

 グライフからの通信だ。

 

「忠臣…ついに始まるか。」

 

 暁に照らされる倒壊したビル。

 ジャスティス達の周りに倒れるイレギュラー感染者達。

 ジャスティスとメグメグは、テスラのマシン開発に邪魔が入らないように、拠点の防衛をたった1人で行なっていた。

 

「…テスラ!ケーニヒ・イェーガーの調子はどうだ!」

 

「調整OK!いつでも行けるよ!」

 

「よし!」

 

「わぁーい!大量殺戮兵器!」

 

「メーグーメーグー?言い方!」

 

 メグメグをテスラが咎める中、ジャスティスはテスラが手がけた渾身作へと足を進める。

 その道中、ジャンヌの姿を見かけた。

 

「ジャンヌ。」

 

「…。」

 

 かつて、救国の聖女とも言われた女傑、ジャンヌは、すっかり意気消沈していた。

 伏した眼で、椅子に座って祈っている。

 

「救える命がある。」

 

「…。」

 

「安寧を取り戻すことができる。俺達なら。行こう。」

 

「…もう、いいんです。戦いに関わりたくない。徒(いたずら)に死を繰り返させるこの力を使いたくない。」

 

 ジャンヌの力は蘇生。

 肉体を完全に修復することができる。

 エナジーこそ、即時供給はできないが、第二次抗争───かつての【蒼王宮】との戦いでは戦術の核となるほどの重要な働きを成した。

 その働きとは、死者を眠らせず蘇らせ、生者を殺すまで追い詰めるという、陰惨なものであったが。

 

「…せめて、乗れ。お前には見届ける義務がある。かつてお前が導いた者、利用した者が、今、何をしているのかを。」

 

 ジャスティスはジャンヌを抱え上げた。

 

「…ふふ、乱暴な方…。」

 

「おーい!速くしてよ!間に合わなくなっちゃうかも!」

 

「馬力幾つ出るのかなー!楽しみ!」

 

 テスラとメグメグが新型マシンの窓から顔を出し、ジャスティス達へ向けて腕を振る。

 

「ああ!今行く!」

 

 ジャスティス達は、ケーニヒ・イェーガーへと乗り込んだ。

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