「ココマデトシマショウ。忠臣。」
千日手。
彼らの戦いは、そう評価するのが正しい。
忠臣の突破力はバグドールの分裂力に敵わず、バグドールの侵食力は忠臣の分解力に敵わない。
「…どういう風の吹き回しか、聞かせてもらおう。」
「アダムガヤラレマシタ。ボクヘノ敵対意識ヲ折ル為ニ、徹底的ニ洗脳シタノガ敗因デショウ。」
「小心者め。」
「ヤツノ刃ハ、カツテノボクニ届キマシタ。コノ世界全テヲ凍結デキルヤツハ封ジテ置キタカッタ。」
「…なぜ、そうも饒舌なのだ。我は敵だぞ。」
「ボクハオマエヲ手ニイレタイ。」
「オマエノ力ガ有レバ、コンパスノ侵略ナド簡単ナモノダ。」
「グリートでは駄目だと?」
「彼ハ、分解ノ魔力ヲ生成スル器官ガ【削除】サレテイマシタ。…カツテノオマエノ体ニ潜ンデイタ、ボイドールニヨッテ。」
かつての忠臣の身体がイレギュラーウィルスに飲まれ、変貌したのがグリートだが、その身体にはボイドールも宿っていた。
ボイドールは最後の抵抗として、忠臣の固有能力を削除していたのだ。
…データの分解。
その能力を持つ忠臣は、あらゆるセキュリティを突破できる。
バグドールはその能力を欲しがる。
「…くく、先程自分の勝ちだと高らかに宣言したではないか。此処まで間抜けな勝利など、あったものか。」
「…ボイドールノコトダ、例エセキュリティデータガアッタトシテモ、攻略は一筋縄デハイカナイ。」
「ソレニ、ボクハ合理的ダ、忠臣。【ボクハ必ズオマエニ勝テル】。オマエハドウダ?」
「オマエハ合理的カ?」
(…フン。バグドール…小癪なやつだ。確かに物量では、我はお前に劣る。だが、しかし。)
忠臣が今ここにいるのは、成り行きだ。
忠臣は、実のところ自分のことなどどうでもいい。
この生のことも、思わず手に入った奇貨のようにしか考えていない。
彼にとっての人生は一度きりで、その先は道楽と何も変わらないのだ。
「…すでに我は死んだ。」
「妖華暦24年。我が治世は民草に壊され、我も処刑された。」
忠臣はかつて、妖華帝国と呼ばれる軍事国家の総統であった。
彼のそばにはゲネラールや月夜叉といった側近が控え、ケルパーズと言った忠実な部下や、フルーク・クォイツのような高性能の兵器を抱えていた。
千年の栄華は約束されたような物であったのだ。
「クーデターヲ止メルコトスラ出来ヌホド、耄碌シテイタノダナ。」
バグドールが笑う。
忠臣は笑みを浮かべた。
「我が人生は、我の背中を押す者たちに捧げた物。」
「最後までそれは揺るがぬ。」
「ククク。ククククク!ソレラシイ論理ヲ掲ゲテ無力ヲ否定スルノデスネ!オマエ!滑稽デス!」
「始めから決めていた事だ。始めから最期まで、我は背中を押され、民草を行くべきところへと送るための風除けとなった。」
忠臣は、バグドールの眼を見る。
「似たようなものではないか、バグドール。」
「貴様の生涯はコンパスの乗っ取りと共にあるわけだ。変わるまい、我も貴様も。」
「ただ違うのは───背中を押し続ける者が今此処にいるか、いないかだ。」
場に静寂が訪れた。
忠臣は刀の切先をバグドールへ向ける。
「…オワラセマショウ。リブート・シーケンス、スタート。」
忠臣の身体に青いリングがくくりつけられる。
「…此処までとするとは、なるほど、そういうことか。」
(…分解の魔力が通じん。転移は確実に行なわれるだろうな。)
「ボクノ領域ニ案内シテヤル。」
「オマエタチ全員ヲナ、感謝シロ。」
バグドールの顔面が、少しばかり歪んでいる。
「桜華忠臣。貴様ノ背中ヲ押ス者トヤラ全テ、オマエノ目ノ前デ断末魔ヲ聴カセテ殺シテヤル。」
忠臣の視界は、空白に染まった。
一方、レジスタンス本部では───。
「うはははは!!…あれー?もう終わり〜?」
メグメグは銃火器を命中させる相手がいなくなったことを悲しむ。
「こら!銃火器を使いすぎだ!音で敵を呼ぶ気か!?」
「敵が来たら倒せばいいじゃん!ジャスティスってばひどーい!」
「…そう言う問題じゃない!」
メグメグと口論するジャスティスであったが、ふと、忠臣達が向かった方向へと顔を向ける。
グライフからの通信だ。
「忠臣…ついに始まるか。」
暁に照らされる倒壊したビル。
ジャスティス達の周りに倒れるイレギュラー感染者達。
ジャスティスとメグメグは、テスラのマシン開発に邪魔が入らないように、拠点の防衛をたった1人で行なっていた。
「…テスラ!ケーニヒ・イェーガーの調子はどうだ!」
「調整OK!いつでも行けるよ!」
「よし!」
「わぁーい!大量殺戮兵器!」
「メーグーメーグー?言い方!」
メグメグをテスラが咎める中、ジャスティスはテスラが手がけた渾身作へと足を進める。
その道中、ジャンヌの姿を見かけた。
「ジャンヌ。」
「…。」
かつて、救国の聖女とも言われた女傑、ジャンヌは、すっかり意気消沈していた。
伏した眼で、椅子に座って祈っている。
「救える命がある。」
「…。」
「安寧を取り戻すことができる。俺達なら。行こう。」
「…もう、いいんです。戦いに関わりたくない。徒(いたずら)に死を繰り返させるこの力を使いたくない。」
ジャンヌの力は蘇生。
肉体を完全に修復することができる。
エナジーこそ、即時供給はできないが、第二次抗争───かつての【蒼王宮】との戦いでは戦術の核となるほどの重要な働きを成した。
その働きとは、死者を眠らせず蘇らせ、生者を殺すまで追い詰めるという、陰惨なものであったが。
「…せめて、乗れ。お前には見届ける義務がある。かつてお前が導いた者、利用した者が、今、何をしているのかを。」
ジャスティスはジャンヌを抱え上げた。
「…ふふ、乱暴な方…。」
「おーい!速くしてよ!間に合わなくなっちゃうかも!」
「馬力幾つ出るのかなー!楽しみ!」
テスラとメグメグが新型マシンの窓から顔を出し、ジャスティス達へ向けて腕を振る。
「ああ!今行く!」
ジャスティス達は、ケーニヒ・イェーガーへと乗り込んだ。