───目を、開ける。
一叫。
「閃ッ。」
一殺。
地を揺るがし轟音を上げるほどの震脚から放たれた、光の矢の如き一閃。
だが、アダム・ユーリエフの目に見切られる。
「守護障壁を展開。」
アダムは自身が持つカードを起動し、その効果を発現する。
【全天首都防壁 Hum-Sphere LLIK】。
全ての攻撃を拒絶する、非干渉防壁。
その硬度は、忠臣の愛刀を容易く折った。
「───ッ。」
忠臣は動揺する。
だが、それは、明らかな隙だ。
「俺の剣は───。」
アダム・ユーリエフの魔剣が、蒼き軌跡を刻む。
「───何人も見切れぬ。」
忠臣が、その肩ごと腕を完全に切り落とされようとする時、やっと月夜叉が転移妖術を使用する。
これは月夜叉の位置と、忠臣の位置を入れ替える妖術である。
月夜叉は体を両断され、絶命した。
「月夜叉。」
光の粒子となって消えた。
「ふむ。」
「貴様、ただのカードではないな。」
「金枠だろう。」
「金枠であれば、身代わりになってでも生かすのが合理的だ。」
アダムが忠臣に近づく。
静かな城内では、彼の足音しか、この場に響くものはない。
忠臣を助ける者は、ここにはいない。
「氷柱よ、いでよ。」
アダムの言葉に呼応して、成人男性程の大きさの巨大な氷柱が、円形となって二人を囲む。
氷の闘技場の中で、アダムは忠臣へと剣を向けた。
「騎士団長の名にかけて、貴様を生かして返す気はない。」
これで、エイワズに乗っての脱出も、不可能なものになった。
「ふん。」
「それは好都合なことだ。」
「こちらとて貴様を逃すつもりは無かったからな。」
忠臣は月夜叉から託された、【千血妖刀 牛鬼村正】を起動する。
忠臣の愛刀が、瞬時にその手に収まった。
「貴様…立場がわかっているのか?」
「…いや。いい。」
「言葉は不要。」
「来い───!」
───目を開ける。
「行くぞ、侵入者。」
忠臣と相対するは、蒼き騎士。
アダム・ユーリエフ。
…忠臣は、カードを起動したことで、やっと【千血妖刀 牛鬼村正】の力を把握した。
今まで、ずっと身につけていた愛刀の力を把握していなかったというのも、また不思議な話だが。
相対する敵の意識の隙間を感じとり、アダムは魔剣を差し込む。
「カラドボルグッ!」
筋肉の強張り、瞬き、涎、凝視。
人間が生活を行う際に、"何気なく行う"動作、身体機能。
それらは、アダムからすると、致命的な隙となる。
忠臣の目の前に現れた、鋭く、蒼き剣閃。
本来なら、受けれないはずだ。
本来なら、負傷した忠臣が防げるはずがない。
だが、忠臣はなんでもないように、刀でそれを受け止め、力を受け流す。
(我の記憶に、またしても制限がかかっていたということか。)
予測していたのだ。自身の身体がいつ、無駄な動きをするのか。
アダムがいつ、切りかかってくるか。
忠臣は反撃に移ろうとするが、刀は強固な力で固定され、とても動かせない。
「馬鹿めッ!」
(我が村正を起動したことで、条件を満たし、記憶の制限が解除されたといったところだろうか。)
…アダムはカードの力を使用していた。
名を、【-蒼王宮- 第一魔剣 サヴァイヴァーニィ】。
アダムの持つ、氷の魔剣である。
魔剣から伸びる氷枝が、村正を絡め取り束縛していた。
「…クズの考えそうな事だ。」
「下準備は終わりだ…!」
緑と蒼、二つの視線が交差する。
今、村正は全く動かせず、忠臣は身動きが取れない。
このままでは、アダムの魔剣の力によって容易く殺害されるだろう。
だが、【千血妖刀 牛鬼村正】にも真の能力があった。
その能力としては───。
「───閃。」
攻撃している際に、雷となる。
刀身が、雷電へと変化する。
即ち神速。
即ち無形。
防ぐこと───。
「なっ。」
(全天、きど───。)
───能わず。
「がっ。」
アダム・ユーリエフの心臓は、雷電の刃にて穿たれた。
深く、深く、村正は彼の肉体を貫いた。
が。
かの男には秘密があった。
アダム・ユーリエフはグスタフ・ハイドリヒ、ぶれいずどらごん、ゲネラールの三体と同時に戦い、勝利した。
それにはもちろん、理由がある。
彼は、彼の氷結能力は、全てを凌駕する。
変幻自在にして、千変万化。
「…下準備は終わりだ、と言っただろう。」
村正に纏わりついた氷が、変化する。
周囲の温度が一段と下降し、空気中の水蒸気が霰となって地面へ落ちた。
「…アルマ一刀流、奥義。」
「
祈るように、傅くように。
彼の剣。
2人の周囲を囲む氷柱の壁。
それらから、波濤の如き勢いで氷枝が伸びる。
それこそが、アダム・ユーリエフの誇る奥義である。
例えるならば、氷の槍衾。
「よもやだな。」
まさか、心臓を貫いても負けるとは。
【千血妖刀 牛鬼村正】の能力ではこの状況を脱すことはできない。
だが、忠臣は最後まで抵抗すると決心した。
それが、月夜叉の献身に唯一答えられる行為だからだ。
アダムを見れば、治癒の効果を持つカードを起動したのか、傷口が既に塞がっていた。
「貴様が使わせた。」
「誇るがいい。刀使い。」
アダムは忠臣を、強く睨みつけた。
「俺の膝を地につけたのは、お前で2人目だ。」
忠臣は襲い来る氷を斬撃にて払うが、全く効果はない。
無制限に氷は忠臣に突き刺さらんと侵攻する。
「…我の完敗だ。誇れ、騎士。」
(次があれば、狙うのは頭部であるな。)
ついに、忠臣が氷の枝によって串刺しにされようとした、その時だった。
「ゲームバズーカ流を見せてやるッ!」
ひとりの英雄の一声が、死の静寂を塗りつぶした───。