さて、ローレルさんとデートなのでどんな服を着ていこうか。
悩むほど服のパターンはないのだが、一応悩んでみよう。
最初の候補は普段着。
Tシャツとレギンスという小学生の頃のスタイルだ。
だがこれはやめておこう、おそらく痴女だと思われる。
中学生になったボクは最低限の配慮は覚えたのだ。多分。
次に制服。
これはまあアリである。
外出にもそう困らない、可愛らしい制服だ。学園からも外出時の着用は推奨されている。
欠点はオンとオフの切り替えができないことらしいが、まだ入学3日目ではそういうのもよくわからないので問題はないだろう。
候補の最後は、母からもらった入学祝の服だ。
ひらっひらふりっふりの俗にいうゴシックロリータだ。
色合はこれまた黒が基調であり、脛ぐらいの丈の黒いフリルがついたスカートに、薄く透ける黒い袖、胴体部分はシンプルに体に張り付く形状のドレスだ。布製のカチューシャ付きである。
まあ、可愛いといえば可愛い。確かにわかる。こういう趣向のものは実は結構好きだ。
だが、ボクが着て似合うのかという問題がある。なんせこちら身長170cmオーバーの大女だ。こういうのは小さい女性が着た方が可愛いような気がする。
誰かに意見を求めたいが、聞く相手がいない。
ローマンちゃんは寝言を言いながら寝ている。叩き起こすのは忍びない。
ローレルさんに聞くのも何か違う気がする。何から何まで頼り過ぎだ。
うーむ、そうすると聞く相手が本当にいない。
友好関係が狭すぎである。
一度実家に帰って聞くことも考えたが、母は絶対ゴスロリプッシュだ。聞くまでもない。
少し悩んで、ボクはある人が思いつくのであった。
「アイせんぱーい♪ 早速貸しを返してもらいに来ました」
「早いな……」
さっきフレンチトーストを一緒に作った、マスカレードアイ先輩である。
あんな風にニシノフラワーさんのサポートをしていたぐらいだから、それなりに知識がありそうだなと思ったのだ。
「今からデートなんですが、服選びに難航していまして、アドバイスいただければと」
「クロちゃん、そういうの気にするタイプなんだねぇ。で、相手はどんな子?」
「それって、必要な情報です?」
さすがに相手の子と説明するのは少し恥ずかしいのだが…… アイ先輩は譲ってくれなかった。
「重要情報でしょ。相手によって適当な服は変わるし、場所によっても変わるからね」
「むむ……」
「ほら、さっさと吐きなさい」
結構楽しそうである。他人のことは蜜の味といったところか。
「同級生でして」
「ふむふむ…… え?」
「一昨日知り合ったんですが」
「え?」
「とってもきれいでお嬢様な感じの人なんです」
「ま、まあ、クロちゃん、ずいぶん進んでるね」
「そうですかね?」
ひとまずボクの部屋へ、どんな服があるのか確認するため移動しながら説明したのだが、アイ先輩は動揺を隠せない様だ。
何かおかしかっただだろうか。
「で、そのお嬢様? 「ローレルさんです」ローレルさんってどんな方?」
「えっと、綺麗な人です」
「いや、体格とか身長とか、あと毛色とかかな」
「身長は、ボクよりは低いですが平均から見れば高めです。体格は結構スレンダーですね。スラーっとしててきれいなんですよ。毛色は栃栗毛です」
ローレルさんのいいところを力説していると、部屋にたどり着いた。
早速クローゼットの中を見せる。
「制服と、Tシャツと、あと何このドレスみたいなの」
「母が入学祝でくれました」
「選択肢が極端すぎるでしょ。うわ、こっちはこっちで、ルドルフTシャツじゃん。これどうコーディネートするの?」
「上に着て、下はこの辺のレギンスですね。小学校の頃は大体そんな格好でした」
「クロちゃんの体型でそれはセクシー通り越して痴女でしょ……」
アイ先輩にもタマモさんと同じ意見を言われてしまった。ションボリルドルフである。
「で、このゴシック風のドレスはクロちゃん的にはどうなの? 完全にお母様の趣味?」
「いえ、こういうのも嫌いなわけではないですが、ボク、体格いいですし似合わないかなーと。母なんか小柄なのでこういうの良く似合うんですが」
「気に入ってるならこれでいいじゃない。あとはどうコーディネートするかでしょ」
ゴスロリが押し付けられてしまった。
ひとまず下着から着替えよう。母のそろえた一式はセクシーなレースの黒下着からなのだ。
ひとまず着替えてみて、アイ先輩に見せる。
「普通に似合ってるわよ。うん、とってもきれいよ」
「あ、ありがとうございます」
「確かに貴方の真っ黒な髪にその黒い服だと、ちょっと威圧感あるけど、相手の子、結構身長高いみたいだし大丈夫でしょ」
「そういうもんですか?」
「うちのニシノちゃんみたいな子だったらダメよ」
「……なるほど」
ニシノフラワーさんは身長が140cmもなかったはずだ。30cm以上の差がある二人の片方がこれだと、確かに相手が可愛そうかもしれない。
「で、髪飾りは…… と。案外数あるじゃない」
「そうですかね?」
ちなみに全部昨日貰ったやつである。
アイ先輩は父からの真っ赤な花の髪飾りを取り出した。
「白でアクセント付けるのもアリだけど、どうせならこれでビシッと決めましょう」
「重すぎませんか?」
「あなた、雰囲気と表情が明るいからこれくらい暗い感じでも大丈夫よ」
個人的感覚とはズレているが、先輩に頼ったんだし、先輩の意見を尊重しよう。
「じゃあ最後にお化粧してあげる。お風呂場に行きましょう」
「え? お化粧?」
「ふふ、大人な気分になれるわ」
そのままゴスロリの格好で、ボクはお風呂場の脱衣所に連れていかれるのであった。
「まあ、お化粧といっても軽くね。あなたぐらいの年じゃ、ごてごてつけると逆にけばけばしいし」
そんなことを言うアイ先輩により、鏡台の前に座らされたボクは、すでになされるがままである。
アイ先輩は、グッズ置き場から、口紅っぽいものを取り出してきた。
「あったあった。リップクリーム」
「これですか?」
棒状の謎の物体をつんつんする。
「唇に塗って保湿するのよ。さっき、肌には化粧水とクリーム塗ってたけど、唇に何もしてなかったじゃない。こういうの塗ると乾燥が防げるし、艶が出るのよ」
「ほへー」
捻るとみにょん、と棒状のものが出てきた。
リップクリームをアイ先輩がボクから取り上げるとボクの唇に塗り始めた。
「横に塗りたくなるけど、縦に塗るのよ。唇のしわって、よく見ればわかるけど縦にあるからね」
「ふがふが」
「こんなところね。キスするときに、唇綺麗な方がいいもの」
「ふが」
いつも使ってないものを塗られて少し違和感がある。
だが舐めちゃだめだろうな、と我慢する。
「もっと口紅とか、アイラインとか、いろいろ化粧もあるけど、特に口紅は食べたら崩れちゃうし、自分で引けないと難しいわ。レースの時なら終わるまでだし、自分でできなくても問題ないけど」
「ほへー」
「ということで、キスする前にはもう一度塗りなさいよ」
「はーい」
まあさすがにキスするつもりはないが、アイ先輩にとってデートの最終目的イコールキスなのだろうか。可愛いので訂正しないでおく。
ローレルさんとキスかぁ…… いや、できるものならしてみたいが。
さて、身だしなみが整ったので、姿見で自分の姿を見てみる。
改めて結構いい感じではなかろうか。
昨日着たときは自分の姿を見ていなかったのでよくわからなかったが、意外と黒だけなので、ひらひらが目立たず、ボクでも締まって見える。
赤い花飾りが一際目立つが、それもまたアクセントとして存在感をアピールしている。
確かにいい感じかもしれない。
「ほら、相手に一度見せてきなさい」
「え? デート開始時点で見せた方がよくないですか?」
「あなたがこんなにおしゃれしているのに、相手が制服だったらかわいそうでしょ。あらかじめ準備させてあげないと」
「なるほど、わかりました。今日はありがとうございました」
「お礼はフレンチトーストで頼むわ」
どうやらアイ先輩はあのフレンチトーストが、気に入ったようだった。
ということで、アイ先輩と別れたボクは、早速ローレルさんの部屋に向かった。
「ローレルさーん。まだまだ早いですが、ちょっとおしゃれしたので遊びに来ましたー」
「いらっしゃい…… クロちゃん気合入ってるわね」
ローレルさんの同室のサエズリ先輩が出てきた。
「ローレルさんとデートですからね!!」
「だってよローレル。制服じゃまずいんじゃない?」
「え、クロクモさん、そんなおしゃれしてるんですか?」
遅れて奥からローレルさんが出てくる。
ふむ、ローレルさんは制服でも綺麗である。
「どう? ワタシ、キレイ?」
「綺麗ですよ。私もおしゃれしますね」
少し照れ臭くなって、特に意味もなくホラーっぽく聞いたつもりだがローレルさんには流されてしまった。
「約束まで30分ぐらいだけど、遅らせた方がいい?」
「いえ、大丈夫です」
「じゃあまた後で入り口で」
ローレルさんもおしゃれをしてくる予定のようだ。
それがとても楽しみになりながら、ボクはひとまず部屋に戻るのであった。
結局ローマンさんが目覚めないまま、ボクは約束の時間の5分前に寮の門の前へと移動した。
さすがにちょっとひらひらしすぎている格好のせいか、待っている間に通りすがる人にチラチラ見られている。
少し恥ずかしい。
ローレルさんはボクの後からすぐにやってきた。
「うわ、ローレルさんかっこよすぎる……」
「ふふ、そうですか? ありがとうございます」
ローレルさんの格好は、ドレッサージュ衣装とよばれる正装であった。
ヒトソウルさんの知識によると前世の乗馬用の正装らしいこれは、バ術とよばれる競技時に着る正装であり、普段でも正装として使えるとてもかっこいい衣装なのだ。
真っ黒なドレッサージュコートには、ダブルの銀ボタンが6つ輝いており、それと対比するような真っ白なドレッサージュキュロットは、ローレルさんの体にぴったりとしたものであり、その脚線美が浮き上がっている。
白のアスコットタイもとても似合っており、端的に言ってすごいかっこいい。
「クロクモさんが、おしゃれなドレスだったので、私も張り切ってしまいました」
「ひょえぇぇぇ」
ボクのよくわからないゴスロリドレスと違って、本気の正装で来たローレルさんを前にボクは勝ち目がなかった。
「さて、お姫様? お手を。エスコートさせていただきます」
「うう……」
堂に入ったローレルさんのイケメン行動に、ボクは赤面することしかできない。
結局左手を差し伸べると、ローレルさんはボクの手を取って、右手でぎゅっと握った。
そのままボクたちは、東京競馬場までの短い距離を、手をつないで移動する。
トレセン学園と東京競馬場の距離はそう離れてはいない。
丁度桜が満開の時期であり、風景も、気候も散歩にはちょうどいい時期である。
だが、ローレルさんに手をつながれていると、顔が火照るし、手に変な汗をかいている自信がある。ローレルさんの白手袋を汚していないだろうか。
「大丈夫? 体調悪かったりはしないですよね?」
「だ、大丈夫だよ。単に、こう、緊張してるだけ」
「ふーん、デートだって言ってきたのクロクモさんなのに…… かわいいですね」
一杯一杯になってしまったボクに対し、ローレルさんはそんなことを言いながら、ボクの前に回り込んで、空いた左手でボクの赤くなった頬をなでる。
そういうムーブをしないでほしい!! 好きになっちゃうだろ!?
いやもうローレルさんのこと好きだから手遅れかもしれない。
真っ赤になったボクを見て満足そうな笑顔を浮かべ、嬉しそうに尻尾を振るローレルさん。
ボクは比較的同性愛的な志向だが、ローレルさんもボクのこと好きになってくれるんだろうか。それともからかわれてるだけだろうか。
そんなことを考えつつ、動揺したまま、ボクは東京競馬場へとどうにかたどり着くのであった。
おかしいぞ
2-3はレース観戦だったはずなのに、なぜかまだ東京競馬場にたどり着かない。
何かが、おかしいぞ……
クロすけは結構ちょろい部分がある。