東京競馬場は日本最大の競馬場である。
最大収容人数20万人を超えるといわれるその場所は、今日はしかしひっそりとしていた。
なんせ開催中ではないので、今日きているのは場外観戦所に来る人ぐらいである。
通常開催でも1万人以上、GⅠならば少なくとも5万人は集客するような場所であるが、今日は1000人ぐらいだろうか、その程度の込み具合である。
そんな閑散とした中、ばっちりドレッサージュ正装をしたウマ娘と、黒いドレスを着たウマ娘が、手をつないで現れたのだ。
思いっきり注目を集めた。
「なんかすごくみられてない?」
「クロちゃんが可愛いからですね」
「かわいいっていうの禁止~!!」
「禁止が禁止です」
「なんで!!」
「いつもクロちゃんが私のこと綺麗とか可愛いとかカッコいいとかいうじゃないですか。だからダメです」
「ぴえん」
さっきからローレルさん「クロちゃんもローレルちゃんって呼んでください。ローマンさんだけずるいです」心読まないで!?
うう、何にしろさっきから、やられっぱなしなのである。呼び方もちゃん付けになったし、何度も褒めてくるし、思わせぶりな態度をとってくるし、もういろいろダメなのである。
もともと両親祖父母か、従弟(あの子は本当にいい子だ)ぐらいにしか可愛いといわれたことがなく、小学校では男女とか、番長とか呼ばれてたボクは、親族以外から容姿を褒められるのに一切耐性がないのだ。
だから、可愛いといわれ続けたボクの顔はすでに真っ赤である。
嫌ではないのだが、まあ、褒められているし嬉しいのだが、でも恥ずかしいが上回ってしまう。
周りの視線が気になってもじもじしていると、ローレルちゃんが、ボクの肩に手をまわしてきた。
「ローレルちゃん!?」
「真っ赤になって照れてるクロちゃんが可愛すぎて、他の人に見せたくないなって」
「~~~~~!!!」
そういうイケメン甘々な発言は慎んでいただきたいと思いながら、声にならない悲鳴を上げるボクを、ローレルちゃんは抱き上げた。
お姫様抱っこである。
不安定な姿勢に、ボクは慌ててローレルちゃんの首に抱き着く。
目の前にローレルちゃんの顔が来る。
ローレルちゃんの顔は間近で見てもやっぱり綺麗だ。
肌はきめ細かい上に真っ白だ。
口紅を薄く塗っているのか、この前よりも唇が赤みを帯びて輝いている。
桜が浮かぶ紅色の瞳もキラキラしていた。
甘い香りが鼻をくすぐる。香水かお香の香りに、ローレルちゃん自身の香りが混じった、とてもいい香りである。
「こうすれば、クロちゃんのかわいい照れ顔は私が独占できますね」
「っ!! ~~~っ!!!」
もう何も言えねえ……
ボクは、ローレルちゃんになされるがまま、運ばれるしかできなかった。
ボクは場外観戦というと、大きなモニターがどこかにあって、それを適当に座ってみながらみんなで応援する、みたいなことを漠然とイメージしていた。
だが、ローレルちゃんに運ばれて連れてこられた場所はそんなイメージとまるで違った。
一流ホテルのような入り口から入る。関係者以外立ち入り禁止とか書いてあるが入っていいのかと疑問に思ったが、ローレルちゃんは普通に入っていく。
中に入るとホテルのラウンジのような場所になっており、奥にある専用エレベーターに乗り込む。
そのまま上へ、おそらく5階か6階に上がると、二人一席のシートがずらーっと並んでいた。
俗にいう指定席というやつではなかろうか。
入り口の綺麗さとか、席にいくつもモニタが置いてあるのとか見ても、絶対高い席である。
そんなシートの一つにボクは降ろされた。
ローレルちゃんは隣に座る。席はあまり余裕がなく、肩と肩が当たるぐらいの広さだ。
眼前には東京競馬場のコースがガラス越しに見える。
綺麗な芝が敷かれた、第四コーナーから直線に向かう範囲が見えて、ここでレース観戦したら確かに盛り上がるだろう。
やっぱりすごい高そうな席だということだ。
「ローレルちゃん? ここ指定席だよね。予約取ってくれたみたいだけど、高い席じゃない?」
「Sランク指定席ですけど、開催日じゃないからそうでもないですよ」
「Sランク!?」
うわさでしか聞いたことがないランクの席である。
指定席にはCランク、Bランク、Aランクとあり、それぞれ席代はランクが上がるごとに倍になっていくとか聞いたことがある。
友達がCランクの指定席に行ったことがあると聞いたがそれで数千円とかそんな席代がかかったとか、そんな話を聞いていた。
そしてAランクの上にあるのがSランクであると聞いたことがある。VIP席で、一般人は入れないとか。
何かあったら割り勘にしようと、多めにお金を持ってきているが、きっとボクの財布の中身じゃ絶対割り勘なんかできない席代がかかっている。
名家のお嬢様怖すぎる。
「そんな高い席の料金のお金、持ってないんだけど……」
「私の奢りだから大丈夫ですよ」
「それはそれで大丈夫じゃないんだけど!?」
「大した金額じゃないですから」
「うう、それじゃ気が済まないよぉ。代わりに何でもするから、お金以外なら!!」
「何でもですか?」
「なんでも!!」
軽率にボクはそんなことを言ったが、ローレルちゃんからの回答はさらにぶっ飛んでいた。
「じゃあ、お姫様のキスをしてもらいましょうか」
「……お姫様? ……キス?」
ボクの脳みそは一瞬でフリーズした。
でもそのまま固まっているわけにはいかない。
ひとまずこの場を切り抜けなければ
「ローレルちゃん。ここにお姫様なんていないよ、ははははは」
「クロちゃんというお姫様がいるじゃないですか」
「私はお姫様じゃないよぉ!?」
そういう趣旨で言ってることを察したくなかったボクは誤魔化しにかかろうとしたが、すぐに追い詰められた。
というか、この野生児のキスなんてたとえファーストキスでもお詫びにならないだろう。
自分自身そんなに価値があると思っていない。
そもそもローレルちゃんだってキスしたことないって一昨日言ってたじゃないか。
そんなのボクがもらっていいはずがない。お嬢様であるローレルさんのファーストキスなんて、それこそこのSランク指定席の席代の何百倍も価値があるだろう。
多分からかわれているだけだ。時間を稼げばきっとごまかせるはずだ。
「クロちゃんが私にキス、してください♪」
なんて押してくるローレルちゃん。
ローレルちゃんとキスしたいという自分の性欲と下心を必死に封じ込めつつ
「れ、レース観戦が終わったらね!」
とごまかすのが精いっぱいであった。
真っ赤になっている自覚はあるが、どうにか仕切り直さないといけない。
レース観戦に来たのだから、ひとまずレースの情報がわかる何かが欲しいな、と思って机を漁ると、競バ新聞が出てきた。
阪神のメインレースの情報が一面に大々的に書いてある。
| 前走 | |||||||
| 1 | 1 | ・先差・ | |||||
| 2 | 逃先・・ | ||||||
| 2 | 3 | 逃先・・ | |||||
| 4 | ・先差・ | ||||||
| 3 | 5 | 逃先・・ | |||||
| 6 | ・・差追 | ||||||
| 4 | 7 | ・・差追 | |||||
| 8 | ・先差・ | ||||||
| 5 | 9 | ・先・・ | |||||
| 10 | 逃・・・ | ||||||
| 6 | 11 | ・先差・ | |||||
| 12 | 逃・・・ | ||||||
| 7 | 13 | ・先差・ | |||||
| 14 | ・先・・ | ||||||
| 15 | ・先差・ | ||||||
| 8 | 16 | 逃先・・ | |||||
| 17 | ・先・・ | ||||||
| 18 | ・・差・ | ||||||
表には出走表が書いてあり、2面には別途詳細な情報やインタビューなんかが載っている。
情報量は多い。多いが何をどう見ればいいかがまるで分らない。
「眉の間にしわが寄ってますけどどうしました?」
「競バ新聞って初めて見たんだけど、何をどう読めばいいかがさっぱりわからなくて」
情報一つ一つの意味は分かるが、それをどう楽しめばいいか、現状分からなかった。
「そうですね、まず、レースで応援するウマ娘を決めるための情報として使えます」
「ふむふむ」
「このレースに出ていなくても、別に好きなウマ娘がいれば、そのウマ娘との共通のところ、例えばチームが一緒とか、出身家が一緒とかだと、応援しやすいです。共通項があると似たようなウマ娘の可能性が高いですからね」
「なるほど……」
今回の桜花賞だと、ボクが特に知っている家などはないが、メジロ好きとか、シンボリ好きは確かに周囲にもいたし、それぞれの家で大なり小なりファンがいそうである。
チームなんてもっとファンがいそうだ。
シンボリルドルフのファンはチームリギルを大プッシュしていそうだし、メジロラモーヌのファンならばチームプロキオンだ。王子姫、奈瀬トレーナーのチームシリウスも人気が高そうである。
そうやってあまり知らない中からでも、自分の好きなウマ娘を探せるということである。
「ちなみに今日の桜花賞ですが、クロちゃんは誰を応援する予定ですか?」
「ニシノフラワーさんかな。今朝、お風呂場で少し見かけたんだよね。すごい集中してて、応援したくなっちゃった」
「なるほど」
「ただそうなるとニシノフラワーさんがどれくらい強いかも気になるんだよね。今回一番人気なのはわかるけど」
ニシノフラワーさん自身が出ていたレースはテレビで何度か見たことがある。
前目の先行から伸びる脚で抜け出すタイプのレースをするのはわかるし、すごい伸びるから強いのはわかるが、きっとこの競バ新聞からもいろいろ読み取れるのではなかろうか。
「例えば今までの実績だと、他のウマ娘と比較しやすいのがファン数ですね」
「へぇ」
「勝利数は、どんなレースに勝ったか負けたかがわかりませんから、比較がしづらいですが、ファン数は勝ったレースの大小もかなり影響しますから、比較がしやすいところです」
「じゃあ、圧倒的にファン数が多いニシノフラワーさんが、このレースでは実績が一番あるってこと?」
「そう考えて間違いないかと」
単なるファンクラブ会員数かと思いきや、そうやって比較する数字になるのは初めて知った。
「あとは身長と体重からは調子が読めたりします。ニシノフラワーさんだと、今回体重は-2.4kgです。かなり絞ってきていますが、いまでも体重が身長に比べて重めなのを考えると、好材料にみえますね」
「ふむふむ」
「逆に心配なのは3番人気のディスコホールさんでしょうか。体重がちょっとオーバー気味に見えますが、今回さらに増やしてきてますから…… 走りのキレが落ちてそうです」
そんなことまでわかるのか。ボクは感心してしまう。
「ちなみにニシノフラワーさん以外でだれが強そう?」
「個人的にはアドラーブルさんでしょうか。チューリップ賞でニシノフラワーさんに勝ってますから」
「なるほど」
「ディスコホールさんも実績的にはいい感じですが、先ほど言ったように体重が少し重すぎるように思います。長距離ならスタミナを補強したようにも見えますが、桜花賞は1600mですからね。減量失敗じゃないでしょうか」
そんな風にローレルちゃんから競バ新聞の読み方を教えてもらう。
肩を寄せ合いながら、話すのはとても楽しい時間であった。
ちなみにリアルでは、パークウインズ(非開催日の競馬場の場外販売時)のS指定席はペアで2000円とそんなに高くありません。
GⅠの時は1万円を超えます。
ウマ娘世界だと開催日の価格はもっと高いと思いますが、多分非開催日なら似たような価格だと思います。
桜花賞は誰に投票する?
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ディスコホール
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エリザベスローズ
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モンテカモン
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サンエイサンキュー
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コガネテスコ
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フリークフィールド
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ダイイチランナー
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サツマコムスメ
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ニシノフラワー
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ゴールデンソネット
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アドラーブル
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ウィーンコンサート
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ダンツセントー
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ラックムゲン
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アトムピット
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ジュピターガール
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ユートジェーン
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エルカーサリバー