競バ新聞の読み方を教えてもらっていると、モニター内でパドックが始まった。
阪神第1レースのクラシッククラス未勝利戦のものだ。
新聞の後ろの方をめくると、出走者のデータが出てくる。
1番人気は6枠12番のミスターリードワンさん
今回が5走目で、前走は2着と惜しいところまで行っていたらしい。
タマモクロスさんも所属していた、小宮山トレーナー率いる名門チームペテルギウスに所属している。
これだけ見るとなかなか強そうである。
ただ、パドックを見ると全く落ち着きがない。
周りをきょろきょろ見ているし、体中力み過ぎていて緊張しすぎている感じがする。
「そう言えば、午前中のレースパドックから見るの初めてかもしれません」
「そうなんですか」
「ローレルちゃんはいつも見てるの?」
「いつもではありませんが、研究ということで時々見てますね」
ローレルちゃんのような名家だとそうかもしれないが、普通の家だと午前中のレースというのはあまり見ない。よほど応援している子が出ているとか、そういう場合だけだ
通常トゥインクルシリーズのレースは1開催日で、12レースまで行われる。
11レース目がメインレースで、今日だと桜花賞だ。
そして、5レース目までが午前中のレースなのだが、午前中のレースは基本メイクデビューか未勝利戦、せいぜい1勝クラスの一般競走レースしか行われない。
余り注目度の高いレースでもなく、うちでもテレビで見るのは大体午後から、それも普通は第10レースぐらいからしか見ていないことが多かった。
なので、第1レースはかなり新鮮である。
パドックの雰囲気はボクが普段見ているメインレースのそれとは全く異なる。
なんとなくわちゃわちゃしていて、進行が全くスムーズではない。
よく言えば初々しい、悪く言えば素人っぽい感じである。
「メインレースと違うというのはわかるけど、パドックから何がわかるの?」
「何を読み取るかは人それぞれですね…… ですが、観戦者として見るのと、そのうち参加者となる立場としてみるのでは結構違うと思います」
「たしかに」
ボクも来年にはジュニアクラスになり、再来年にはこの場に立つかもしれないのだ。
そうすると参考になるものもあるかもしれない。
例えばボクがレースに出るとしたら誰が見に来るだろうか。
両親は確実に来そうだ。昨日の入学祝パーティに来ていたみんなも結構な確率で来そうに思う。
成績が全く振るわなくても文句を言う人たちではないが、あまり情けない姿は見せたくない。端的に言えばかっこつけたい。
さっき見た、1番人気のミスターリードワンさんみたいな態度だと両親は心配しそうだ。
だが、なかなか参考になりそうな子はいなかった。
「むー、むー」
「どうしました?」
「親族に見られる自分をイメージしたら、こういうことしたくないなーっていうのはいくつか発見できたんだけど…… それ以上参考にできる人はいなくて」
「この時期の未勝利戦だと参考にするのは難しいかもしれないですね」
「そうなの?」
今日の未勝利戦は参考になりにくいようだ。
時期の問題なのだろうか、それとも未勝利戦の問題なのだろうか。
「名バといわれる人たちでも、全勝というのは難しいですから未勝利戦でも見るべきところはいっぱいあります。ですが、活躍する人が多い時期があるんです」
「ふむふむ」
「一つはジュニアの7月から9月ぐらいまでです。早くデビューして、ジュニア年末ごろにある重賞を目指す人たちですね」
「なるほど」
「次に、ジュニアの年末からクラシックの1月、2月ぐらいの時期です。こちらはクラシック路線を目指す人たちですね。ジュニアの中盤頃だと体ができてない人は多いですが、この辺りで本格化する人は多いですから」
「ふむ」
「最後にクラシックの夏季、やはり7月から9月ですね。本格化が遅い、夏上がりの人たちが出てきますし、それまで経験をためていますから、見てても参考になることが多いです」
「ほえー」
「逆に言うとその合間は…… なかなか未勝利から抜け出せない人ばかりですから、あまりレースは参考にはなりにくいことが多いです」
ローレルちゃんの分析は冷静なものに感じた。
何にしろ、よく見て今後の参考にしよう。
今日のレースは
第1Rから第4Rがクラシック未勝利戦
第5、6Rが、クラシック1勝クラス
第7Rが、シニア2勝特別
第8Rが、クラシックオープン特別
第9Rが、シニア3勝特別
第10Rが、シニアオープン特別
第11Rが、桜花賞で
第12Rが、シニア1勝クラス
というレースプログラムだ。
未勝利と1勝クラス、オープン特別クラスとG1クラスと、同年代のウマ娘のレースがいくつもあるのだから、比較して参考になるだろう。
ひとまず未勝利戦を目に焼き付けようとしていると……
「そう言えば、バ券は買いますか?」
「? あれは現地じゃないと関係ないのでは?」
バ券、勝ウマ投票券といわれるものだ。
ウイニングライブへの参加券であり、1着のウマ娘のバ券を持っている人から優先的に良い場所をもらえるシステムになっている。同じウマ娘の馬券を持っている人だと、枚数が多い人が優先されるため、すごい人になると何枚も買うんだとか。
レースによって1枚の値段も変わり、GⅠだと1万円ぐらいするからそんなの何枚も買うとかお金持ちの所業である。
確かに未勝利戦だとあまり高くないはずだが、現地にいないとライブを見に行くこともできないし、勝ってもしょうがないように思うが……
「バ券の人の結果によって、グッズと交換できるんですよ。だから場外でも買って遊べるんです」
「へぇ、そうなんだ。ならば試しに買ってみようか」
第1Rの新聞の記事と、パドックは見たし、当たるかどうかはわからないが予想はできるだろう。
「部屋に出たところに買える場所がありますから、まずはそこに行きましょう。また抱っこしていきますか?」
「結構です! 羞恥心で死んじゃう!!」
「じゃあお手を拝借」
手をつなぐのには拒否権がないようである。
ボクはローレルちゃんにエスコートされながら、バ券販売をしている場所へ移動するのであった。
バ券販売の場所では、景品が何か、も教えてもらえた。
1着を当てるとなんと、ぱかプチがもらえるのである。
クレーンゲームと違って好きなのが選べるので、なかなかお得な気がするが……
「1枚1000円か……」
GⅠだと1万円以上するのだから、それと比べればとても安いのだが、1000円は中学生になったボクのお小遣いではなかなか厳しい。
いや、今日のデート用に、食費としてそれなりにお小遣いをもらってきたので、払えない金額ではない。だがその分をどこかで削る必要がある。
ローレルちゃんにお礼をする必要があるのも考えれば、よけい余裕がない。
お礼は後日バイトをして稼いで回すか……? でもそれだと忘れそうなんだよなぁ……
食費を削って夜まで我慢する選択肢も普通にあるし、一人なら絶対そうしていたが、ローレルちゃんに見つかるとどう対応されるかがわからない。
私がおごりますよなんて言われて、何かしらの羞恥プレイをまた強要されるかもしれない。
「予想に自信がないならパスするのも手ですよ? 応援したい相手や、予想に自信があるときだけ買ったほうがいいらしいですし」
1枚買ったらしいローレルちゃんが戻ってきた。
予想の自信以上に、予算配分が決まらないボクは、今回はパスしてすごすごと戻ることにしたのだった。
フリードリンクだったので、飲み物をもって席に戻る。
ニンジンジュースがとてもおいしい。
さて、ボクのお小遣いの使い道を決めるにあたって、一つローレルちゃんと話しておかないといけないことがあった。
「そう言えば、お昼、どうする?」
昼食である。
ここにどれだけ予算を使うかで、どこに何を充てるかが決まるのだ。
「何か食べたいものとかあります?」
「うーん…… とくには? 何でもおいしいって聞いてるし」
いくつかよぎったものはあったがあえて却下した。
一つはタコ焼きである。個人的にタコ焼きは大好きなのだ。
東京競馬場のタコ焼きがおいしいかは知らないが、タコ焼きマイスターとして、ぜひ食べ比べをしてみたいと思っていた。
もう一つは焼きそばである。東京競馬場のフードコートの焼きそばは、安くて量が多くておいしいらしいと聞いていた。
なのでそれも食べてみたいと思っていた。
だが、今回あえて言わなかった。
単純に、青のりが気になったのだ。
意識しすぎな自覚があるのだが、万が一、億が一、このあと、チューするとかいうイベントが発生した際、青のりが歯についていたら死ぬ。自害する。
男女のボクでも最低限のこだわりはあるのだ。
今回歯ブラシまで持ってきていないので、青のり対応ができない。
そんなことを考えたので両方とも食べないことを決めたのだ。
東京競馬場は学園からも実家からも近いので、すぐまた来れるだろうし。
本当に意識し過ぎなのはわかっているが、食べるものも考えたい。
昼食は最低限にしても、寮に帰れば夕食は食べ放題だ。
だから控えても問題ないし、ローレルちゃんに合わせるようにしよう。
「ローレルちゃんはどこがいい?」
「そうですね、普段はレストランなので、売店が気になります」
「じゃあお昼近くなったらそのあたり回ろうか」
売店周りならそんなにお金はかからないだろう。
残りのお小遣いを計算して…… つかえそうなのは2000円ぐらいだろうか。
午後の特別レースになると1枚当たりのバ券代が上がるので、午前中で2枚購入することを決意するのだった。
結局その後ボクは第5レースまでに2枚、無難に1番人気のウマ娘のバ券を購入し、1着を1回、2着を1回当てることができた。
「ローレルちゃん、席予約してくれたお礼に、何かあげるね! どれがいい?」
どうしても席代は受け取ってくれなさそうなので、ローレルちゃんには代わりに何かを上げることにした。
1着と2着をそれぞれ1枚なので、かなり選択肢がある。
最初は遠慮していたローレルちゃんだったが、ボクが譲らないとみると、何にしようか選び始めた。
ちなみにローレルちゃんはこれまでの5レースで5枚買っているが、2着1枚、3着1枚、着外3枚である。普通はこんなものなのだろうか。
ボクのは単なるビギナーズラックだと思うが。
「じゃあ、これがいいです」
ローレルちゃんが選んだのは、蹄鉄を象ったペアのキーホルダーである。
蹄鉄は幸運を呼び、魔よけになる縁起ものなので、人気が高いモチーフだ。
色は金色と銀色。デザインもシンプルだがおしゃれで小さいので使い勝手もよさそうである。
交換は…… 2着バ券2枚か。
下位のバ券には流用できるので、ボクのバ券でも交換可能である。
早速交換しようとしたのだが、ローレルちゃんが自分の2着バ券を一枚差し出してきた。
「クロちゃんと、1個ずつお揃いで持ちたいので…… 私が1枚出します」
まさかのペアグッズであった。
恋人か何かのようだ。
こういう時どういう表情をすればいいかわからず、ボクはまた真っ赤になってしまった。
何度ボクを赤面させてればいいんだ、ローレルちゃんは。
だが、提案したローレルちゃんも真っ赤になっている。
二人で真っ赤になりながら、バ券販売所のお姉さんにキーホルダーをお願いした。
お姉さんから非常に生暖かい目で見られていた気がするが、きっと気のせいだと信じたい。
結局ボクのバ券は、ペアグッズキーホルダーと、1着のバ券はタマモクロスさんの勝負服ぱかプチに交換した。
ローレルちゃんは、残りのバ券は保管していた。
「はずれバ券も、枚数ためるといろいろ交換ができるんです」
着順だけでなく、枚数でもいろいろ交換が可能なようだ。
ローレルちゃんのお家は名家だし、所属している人も多いだろうから、お互いで融通したりし合ったりもするのかもしれない。
ボクはキーホルダーを財布に付けた。
ローレルさんはカバンにつけている。
お揃いである。
なんだか照れ臭くなってボクは笑ってしまった。
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