ということで早速ローレルさんのお部屋に向かう。
栗東寮1号棟の2階であり、階段から近い良さそうなお部屋だ。
部屋番号の札の下のを見ると、ローレルさんの名前ともう一人、サクラの名前を冠した名前が書いてあった。
「こんにちは~ クロクモです。サクラローレルさんいますか?」
「今出ます~」
ノックをしながら声をかけると、すぐに扉開きローレルさんが現れた。
「ようこそクロクモさん」
「お言葉に甘えて遊びに来ました~」
そんな挨拶をしながら扉から部屋に入る。
一歩踏み入れると何かいい香りがした。
清々しいような、何とも表現しがたいがいい香りである。
何かお香でも焚いているのだろうか。
「何の香りですか?」
「桜のお香を焚いてるんです。嫌だったら消しますが」
「いえ、とてもいい香りだと思います」
女子力の違いを強く感じる。
ウチの部屋なんて、半分はほとんど物がなくてあるとしてもゲーム機。
半分はオグリキャップさんグッズで埋め尽くされている。
絶対いい香りなんてしない部屋である。
部屋の右側の椅子にはウマ娘が腰かけていた。おそらくローレルさんのルームメイトだろう。
「初めまして、クロクモといいます。中等部1年です。よろしくお願いします」
「初めまして。サクラサエズリよ。高等部2年になるわ。よろしくね」
サエズリさんは上品そうなお姉さんだ。
体格はボクどころかローレルさんよりも小柄そうでスレンダーな感じだが、こう、醸し出すお姉さんオーラがすごい。
上品な色気というか、とにかくボクとは全く違う何かだ。
単純な体の凸凹とかならボクのほうが勝ってると思うが、どっちが色っぽいかと聞かれたら100人中98人はサエズリさんを選ぶだろう。残りの1人はロリコンで、1人はおっぱいしか見ていないやつなので滅するべしである。
何が違うのか、思わずじっと見てしまう。
まず外見。
鹿毛の髪がキラキラ輝いている。
手入れが違う。エンジェルリング綺麗にできてるし。
一方ボクの髪なんてボサボサで跳ねてるし、真っ黒なだけで艶も何もない。手入れなんて禄にしてないから当然である。
尻尾も言わずもがなである。
次に肌。ボクも別にそんなに焼けたりしていないが、パッと見て違いが分かるぐらいの肌理の細やかさだ。
若さだけが取り柄のボクとはまるで違う、若さに手入れがされ切った肌は輝いているようにも見える。
後は所作も段違いだ。
座り方からして非常にキレイだ。
膝がそろっているし、脚もそろっている。
少し斜めに脚をすると長く見えるんだったか、そういうモデルさんがしそうな座り方である。
挨拶するときの笑顔も上品だ。大口開けてしまうボクとは生き物が違うのではなかろうか。
外見も内面も磨かれたご令嬢ウマ娘と、野原で男子とカマキリとかを取っていた野良ウマ娘とは、おそらくすべてが違った。
サエズリさんを見ながらそんな分析をしていると、ローレルさんがボクの手を取ってベッドの方に連れていく。
そのままベッドに座るローレルさんの隣にボクは座ることになる。
「取ったりしないから大丈夫よ」
サエズリさんがよくわからないことを言った。
ベッドに並んで座り、横にローレルさんがいる。
とても近い。
なんかすごいいい香りがする。
お香とは違う何かだ。
香水でもつけているのだろうか。それともシャンプーか何かの香りだろうか。
女の子の香り、といったものにドキドキしてしまう。
横顔もすごくきれいだ。
最初に会った時も美人だなと思ったが、こうやってよく見ると余計その思いを確信する。
桜が浮かぶ赤い瞳はキラキラしていてとてもきれいだ。
髪も桜色でサラサラである。絹のように輝いている。
肌もきれいですべすべそうだ。
思わずボクは手を伸ばし、頬に触れてしまった。
「ひゃっ!? え、えっと、どうしました?」
「あまりに美人だったので思わずさわっちゃった」
驚くローレルさんにそんなことを言ってしまった。でも本音だからしょうがない。
そのまま驚いた表情で、顔を赤くするローレルさん。
ローレルさんの肌はすべすべでとても触り心地が良かった。
「そう言えば、お願いがあるんだけど」
「ひゃいっ!」
「ボクに、髪とか尻尾とか、あとお肌とかのケア教えてくれない?」
「へ? あ、はい?」
髪の毛をなでても、サラサラで楽しい。
ローレルさんを楽しみながら、そんなお願いをする。
こんなサラサラの髪とか、すべすべの肌になってみたい。
あといい匂いしてみたい。
やっぱり手入れをローレルさんに教えてもらおうようお願いしたのだが、快く引き受けてくれるようだ。やったね。
「あー、お邪魔虫はひとまず退散するわ。1時間ぐらい後に戻ってくるから、出かけるなら戸締りしてね」
「あ、すいません」
「ローレルちゃんと仲良くしてあげてね」
何かを察したように、サエズリさんは立ち上がり部屋を去っていく。
手を振るボクの後ろで、助けを求めるような眼をローレルさんはしていたらしいが、ボクは気づかなかった。
「それで、さっき荷解きしてたんだけど、ボクの荷物が少ないねっていう話にルームメイトのオグリローマンちゃんとなって」
「はぁ」
「ケア用品とか全然ないから、もっとケアとかした方がいいんじゃないかってなったんだけど」
「はい」
「全然そういうケアとかわからないから、知ってそうなローレルさんに教えてもらえないかなっておもって」
「私もそこまで詳しくはないですが……」
「でもすごい綺麗だし。入学式の正門前でも目立つぐらい輝いてたよ!!」
「そ、そうですかね」
経緯を話すと、ローレルさんはまた照れて赤くなってしまった。かわいい。
「ローレルさんってどんなケアしているの?」
「基本は、櫛でよく梳かして、オイル塗ってますね」
「へー」
ローレルさんは自分が使っている櫛を見せてくれた。木製の、俗にいうツゲ櫛だ。
そこそこ大きい櫛だ。桜の文様が彫られていて、おしゃれである。
使い込んでいるのだろう、年季も入っていてつやつやに輝いていた。
とてもかっこいい。
「尻尾用と、髪用と、耳用で別のブラシを使うのが普通ですが、私はこれが好きなので全部これで対応しています」
「へー、綺麗だね。ボクもこれにしようかな」
全部一つでいいというあたりが気に入り、また、とても和風でかっこ可愛いので、真似しようかと思ったが……
ローレルさんが顔を近づけてくる。
いきなりの接近で驚き硬直していると、左手でボクの髪を、右手でボクの尻尾を優しくなでた。
「うーん、あまりお勧めできないですね」
「そ、そうかな」
ドキマキしながらどうにか声を絞り出す。
「クロクモさん、髪も尻尾も毛が長いですし、質も太くてかたいので、こういう櫛では時間がかかりすぎてしまいますよ。最後に整えたりとか、ちょっとしたときに使うぐらいがちょうどいいかと」
「え、えっと、それなら切っちゃおうかなぁ」
ボクの髪は無茶苦茶長いし、尻尾も長いが、おしゃれではなく単に無精なだけである。
切ってないから伸びまくってるだけなので、愛着は全くない。
「ええ、もったいないですよ、そんな綺麗な黒髪なのに……」
「じゃあ頑張って手入れするよ」
だが、ローレルさんは髪を切ることに反対なようだ。
綺麗といわれてしまうとボクも切る気がなくなってしまう。
頑張って手入れしようと、心に決めた。
「ちなみにクロクモさん、普段どんなお手入れを?」
「適当に石鹼で洗って、適当にプラスチックのブラシで梳かしておわり?」
「なるほど……」
だからちょっと髪がごわごわしているし、量が多いから爆発しがちである。サラサラのローレルさんヘアとはまるで違う。
「ブラシはお気に入りなんですか?」
「全然。というか今回持ってくるの忘れちゃったし」
「じゃあ、ブラシとか、ヘアオイルとか、乳液とかも買った方がよさそうですね」
「なるほど。どこで買えるかな」
「購買に行けば一通りあると思いますよ。今から一緒に行きましょうか」
「じゃあお願い~」
一人で行くのはさすがに心細かったので、一緒に行ってくれるのは嬉しい。
「ふふ、デートだね」
「で、デート?」
二人でお出かけだから、デートだねって冗談を言ったらローレルさんが目に見えて動揺した。
「ちょ、わわわわ」
「わー!!」
隣合って座って、髪とか尻尾とか触られている態勢だったせいで、驚いたローレルさんにベッドに押し倒されてしまう。
正面にはローレルさん。
ローレルさんの両手はボクの顔の横にある。
壁ドン? ベッドドン? こういうシチュエーションを何て言うか、ボクの語彙には存在していなかった。
一瞬の静寂の後、ローレルさんは慌てて立ち上がった。
「そ、それじゃあ行きましょうか!!」
「そ、そうだね、行こうか!!」
少しだけ気まずい空気が流れながらも、ボクたちは学園内の購買へと向かうのであった。
ちなみに青毛は芦毛よりも希少です。約1%。
まっくろくろすけ。
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