時は来た   作:アートレータ

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 約一年ぶりです。
 思いついたので、続編を投稿します。


個性『ワン・フォー・オール』

 

 ヒーロー仮免試験。

 それは、通常ヒーロー活動認可資格免許を持っていない一般人が公の場で個性を乱用することは禁止されているが、仮免許をとれば非常時のみヒーローと同じように公の場で個性を使うことが許される。

 プロヒーローを目指す者にとっては、夢を叶える為の大きな一歩目となる試験である。

 

 その仮免許を取るために雄英だけでなく、全国から集結したヒーロー候補たちが集まっている。

 第一次選考では、集った実力者ばかりの受験者1540名を一気に100名にまで絞り込み、残った100名だけが第二次選考へと駒を進めた。

 彼らは時に助け合い、時にしのぎを削りあいながらその力を伸ばしながら試験合格へ向けて歩み続けていた。

 そしてその仮免試験もいよいよ最終章へと差し掛かろうとしていた。

 

 試験の敵役として現れたプロヒーローとは、神野区の悪夢のときにも召集されていた超実力派のヒーローであるギャングオルカだった。

 正面から立ち向かっても、彼を倒すことは不可能に近く、彼が攻撃を仕掛けてくる中で人々の救出も同時並行で行う必要があった。

 

 しかしそんな中、逸早くギャングオルカへと近づく人影に気がついた。

 他のものは戦慄し動きを止めていたため、彼の奇行はより目立つものとなっていた。

 そんなその場を一身に集めている生徒とは……。

 

「心操くん‼︎」

 

 雄英高校の生徒であり、少し前に普通科からヒーロー科への編入を果たした生徒『心操人使』だった。

 彼の個性は『洗脳』というもので、意志を持ってした問いかけに返事をした者を操ることができ、簡単な動作を命令することができるという強力なものである。

 しかし種が割れて仕舞えば、無視する事で個性が無効化されてしまうため決して戦闘向きな個性ではなかった。

 

 故に彼を知る雄英の生徒たちは、彼を止めようと動き出す……はずだった。

 

『動くな!』

 

 心操が一言放っただけで動き出そうとした彼らは、否今この戦場にある人物全てがその動きを止めた。

 身体がまるで、金縛りに合っているかのように動かない。

 

「これはッ!心操くんの個性?いや、でも心操くんの個性は返答をしなきゃ掛からないはず。それに一度の問いかけで洗脳できるのは1人だったはず。意識もしっかりしているし個性ではない?」

 

 こんな状況でも緑谷のオタクは発揮していた。いつとならば誰も彼もがスルーするところだが、今回はその言葉はここにいる彼を知るみんなの共通の認識だった。

 そしてその疑問に応えるものもあるのが、いつもとは違っていた。

 

「その通りだよ、緑谷。これは俺の個性だ。個性『縛言』。声に出してその声が相手に届いた場合、その言葉を強制させる個性だ。」

 

「そんな……。それじゃあ!今までは嘘をついてッ‼︎」

 

「いいや違う。本当に俺の個性は『洗脳』だった。だが、あるお方に強化してもらったのさ!」

 

「強化?」

 

 そう、実際に雄英に入学した時も体育祭で披露した時も。

 心操の個性は『洗脳』であった。彼もそれを如何に人助けに使うかを悩みながらも、創意工夫で使って来た。

 しかしそんな彼に転機が訪れたのだ。

 

 個性の強化。そんなことが可能なのか。頭を悩ませる彼らの中でいち早く気が付いたのはプロヒーローだった。

 

「藍染惣右介か…!」

 

 その言葉でみんなが思い出した。

 彼が正体を現した日。何故彼があそこに現れたのかを。

 彼は確かに言っていた。そして彼らもテレビ越しに聞いていた。

 彼が正体を現したのは、個性『強化』を得るためだった、と。

 

「その通りさ!あのお方、藍染様のお力で俺は生まれ変わったのさ!」

 

「テメェ!藍染の部下かッ!この三下がァァァ!」

 

「お前如きが呼び捨てにしていい存在ではない!」

 

 次の瞬間、停まっていた彼らの身体が動き出した。

 個性『縛言』は強力な個性である。しかし弱点も存在していた。

 効果は1分であること。一度解けたら5分間再使用できないこと。そして、相手の両耳に届かなければ発動しないこと。

 無論教える必要などないため、心操が言う事はない。

 

 彼らが『縛言』を警戒して、踏み込んでこないのは好都合なことだった。

 彼らとて馬鹿ではない。寧ろ精鋭であり金の卵である。

 個性を発動しないことに疑問を持ち始め、発動には何かの条件があるのでないかと考え始める。

 ならば条件が整う前にと、攻勢を仕掛ける。

 

「死ねや、オラッ‼︎」

 

「凍れ!」

 

「熱いの行くっすよ!」

 

「ぶっ倒れろッ!」

 

 爆豪が爆発の推進力で飛び出し、轟が氷を足元から伸ばしていき、夜嵐が突風を巻き起こし、真堂が地面を揺らし牽制を図る。

 

 しかし、連携などそこには微塵もなくそれぞれがそれぞれの最善のために動き出した。攻撃のための個性が攻撃をかき消して、心操に届く頃にはほとんど威力の相殺されたものしか届かなかった。

 

「ふぁ〜〜あ。涼しい風にちょうどいい揺れだ。眠くなっちまう。…お前ら、子守とか向いてるんじゃね?」

 

 元々は個性『洗脳』を生かすために磨いた話術ではあるが、今は彼らを煽るためだけにその話術が使われる。

 彼らは高い実力を兼ね備えている分、自分の力に誇りとプライドも持っている。それを馬鹿にされて黙っていられるほど、彼らは大人では無かった。

 

「なんだとゴラァ‼︎」

 

「俺の邪魔をするな。」

 

「今の発言には熱くならないっすよ‼︎」

 

「ッ!待つんだ‼︎」

 

 真堂は心操の狙いに気づいて、飛び出した彼らを止めようとするもその声は届かない。

 心操は個性が使えない今、戦闘手段は近接戦しか出来ない。

 挑発して攻撃が単調になってくれれば後の次。近付いてくれれば万々歳だった。

 果たしてその作戦は成功してしまった。

 

 急造とは言え、藍染によって鍛えられた心操の近接戦もなかなかどうしたものである。

 プロヒーローならまだしも、所詮金の卵でしか無い彼等には荷が重かった………はずだった。

 

 最初は確かに心操が押していた。

 しかし時間が経つにつれ、3人の動きが良くなっていき、無意識であろうが連携も様になっていった。

 そんな3人を同時に相手にしている心操は、予想以上の猛攻に体力を削られて3人とは対照的に徐々に動きが鈍り出していた。

 

 確かに彼らは所詮金の卵で、挑発にも簡単になってしまうような子供かも知れない。

 しかし前に出ている3人はその金の卵の中でも特更才能に溢れた、金の卵なのだ。

 

 そして遂に……。

 

「死ねやッ!」

 

「アンタは熱かったっすよ!」

 

「凍れ。」

 

 夜嵐の突風に体制を崩され、そこに爆豪のラバーブローが決まり、轟によって口元まで氷付けにされてしまう。

 尋問したいところだが、口が動いて再び『縛言』の餌食になるのはごめんであるため口まで凍らせた。

 

「いい戦いを見せてもらったよ。流石は金の卵たちと言ったところかな。」

 

「超音波アタック!」

 

 藍染が姿を現すのと同時に、ギャングオルカは攻撃を仕掛けた。

 ギャングオルカが心操を相手にしなかったのもこの為である。

 彼は藍染の部下であると言った。ならば、ここに藍染が姿を現す可能性も十分にある。そう考えたギャングオルカは、常に周囲に気を配っていた。

 

 残念ながら、索敵が叶うことはなかったが姿を現した直後に特攻を仕掛けることには成功した。

 しかし特効や不意打ちなどが通じるほど、藍染とギャングオルカの力の差は近くなかった。

 

「残念だが、今回僕に戦う気はないんだ。この子を回収しに来ただけだからね。」

 

 ギャングオルカの攻撃で立ち込めた土煙の中から、無傷の藍染が姿を現した。

 そのうえその右腕には、轟達によって凍り付けにされていた心操が抱きかかえられていることに驚愕する。

 その姿を視界に捉える、一時も目を離したつもりもない。これも鏡花水月によるものなのだろうか。

 

 図り切れない、得体のしれない力に尻込みするギャングオルカとは別に血気盛んな生徒たちが飛び出した。

 

「ッ!止まれお前たち‼」

 

 ギャングオルカの声も虚しく、個性を発動して藍染に攻撃を加えていく彼ら。

 せめて彼らだけでも守らねばと、ヒーローとしてギャングオルカも動き出す。

 

 意外なことにその攻撃は藍染に届いていた。

 顔を歪めながら必死の抵抗を続ける藍染に、ヒーローたちも必死に攻撃を続ける。

 そしてついに、爆豪の爆発を纏った拳が藍染に腹部を貫いた。

 

「どうだオラァ‼」

 

 勝利の雄たけびを上げる爆豪と、それに同調して歓喜を露わにする周り。

 しかし一人だけ、顔を蒼白に染めている人物がいた。

 

「どうしたん?デク君。」

 

「……みんな、何してるんだよ。何してるんだよ‼」

 

 緑谷を心配そうに声を掛けた麗の声に反応せず、その場で怒鳴り声を上げた。

 いつも温厚で優しい緑谷からは想像もできない剣幕に、その場は一瞬のうちに静寂が訪れた。

 その静寂を壊したのは、あり得てはいけない人物の声であった。

 

「ヒーローが随分とひどいことをする。」

 

 藍染の声だ。

 声の発信源は、ギャングオルカの背後。

 その声に反応して振り向くよりも早く、藍染の手刀がギャングオルカの腹部を貫いた。

 

「グフッ!藍染……なぜ‼」

 

「うわぁぁ‼」

 

 込み上げてくる吐血を溢しながら、ギャングオルカは口を開いた。同時に生徒の悲鳴が耳に入る。

 そちらに視線を向けるとそこには、爆豪に腹部を貫かれた瀕死の重態である切島がいた。

 

 そう、彼らが藍染だと思い込んで攻撃していたのは鏡花水月によって偽装された切島だったのだ。

 顔を蒼白に染めた爆豪が、藍染に飛び掛かった。

 

「カッちゃんッ‼」

 

 緑谷の声が届くことはなく、藍染まで辿り着いた爆豪が腕を振り下ろす前に、まるで何かに弾かれたかのように吹き飛んでいく。

 そちらに視線を移した一瞬のうちに目前まで迫っていた藍染によって、轟と夜嵐も吹き飛ばされる。

 

 この場で最も戦闘力が高いであろう四人が、瞬く間に戦闘不能にされたことで生徒たちは先ほどとは打って変わって、恐怖のあまり騒ぎだす。

 その光景を何の感情も読み取れない眼で眺めていた藍染は、そのよく響く声で詠唱を読み上げる。

 

『千手の涯 届かざる闇の御手 映らざる天の射手

 光を落とす道 火種を煽る風

 集いて惑うな 我が指を見よ

 光弾・八身・九条・天経・疾宝・大輪・灰色の砲塔

 弓引く彼方 皎皎として消ゆ

 破道の九十一 千手皎天汰炮』

 

 完全詠唱で発動した鬼道により、無数の光線が対象へ降り注ぐ。

 しかしド派手な見た目とは裏腹に藍染に完璧に制御されたそれは、彼らの腕や足を貫き行動不能になっていくものの、命を失うものは現れないまま終わりを迎える。

 まるで道端のアリを踏み潰す作業の如く、なんの感慨もなく蹂躙する。

 

 やっと周辺の警備に当たっていたプロヒーローたちが、場内の異変を感じ取って駆け付けたのだ。

 そんなヒーローたちを藍染は嘲笑する。

 

「君たちヒーローはいつも遅いね。私は何度も教えたはずだよ。そんなことでは誰も救えないと。」

 

 まるで出来の悪い教え子に諭すように、言葉を綴る。

 ヒーローたちに囲まれているという焦りなど、微塵もない。

 藍染の様子に、藍染の言葉に彼らは顔を歪める。なぜならばそれは事実であるのだから。

 

 いつも自分たちがヴィランの現場に到着するまで、市民を守っていたのが藍染だった。

 今回も藍染にその気があれば、手遅れになっていたのは明瞭だった。

 そしてそれを自分たち()()()()にそれを説くのが、()()()()であるという事実が何よりも屈辱だった。

 

 しかし今悔やんでいる暇はない。幸い、手遅れにならずに済んでいる現状。

 挽回するためにも、今出来ることに全力を尽くす。

 

「……ヴィラン藍染の捕縛を開始する。」

 

 一人のヒーローがそう口にしたことを合図に、一斉に動き出す。しかし…。

 

「私は今回の目的をすでに果たした。あとは帰らせてもらうよ。ほら、ちょうど時間だ。」

 

 空を見上げた藍染を覆うように、透明な渦が彼を包み込むように降り注ぐ。

 飛び掛かっていったヒーローはその渦に触れた瞬間、()()()()()ように回転しながら吹き飛ばされる。

 それを目撃した他のヒーローは、攻撃を中断せざるを得ず歩みを止める。

 

 そんな彼らの視線の先では、藍染を覆うものと同じような渦が足元から発生して徐々に宙に浮いていく。

 浮き上がる先に視線を向けるとそこには、顔を隠すようにローブを被った人物が二人浮いていた。

 片方が宙を撫でるように腕を振るうと、まるで空間が裂けたかのように口を開いた。

 笑みを浮かべた藍染はヒーローを見下ろしながら、ローブの人物たちを伴って裂けた空間へと姿を消していった。

 

 これだけの騒動にもかかわらず、重傷者を複数出しながらも死者は一人もいないという奇跡としか言いようのない事件。

 そしてその首謀者が藍染であるという事実も相まって、瞬く間に世間を騒がる話題となった。

 

 

 

 

 

「申し訳ありませんでした!藍染様!」

 

「気にすることはないよ、人使。」

 

「しかしッ!」

 

「藍染さまが良いって言ってるんだから、もういいじゃん!ね、藍染さま?」

 

 

 その二人を割り込む形で会話に加わるのは、ローブを着た人物の一人である。

 ローブを脱いだ先には端正な顔立ちに、艶のある目を引く水色の長髪を持つ少女ーー波動ねじれである。

 雄英高校のビッグ3の一角である彼女は、『波動』という強力な個性を有していた。

 それが藍染によって強化され、『渦』という個性に成った。

 

 効果は単純で渦を生み出す個性である。

 もともと本人の活力を波動という形で放出する個性であったのだが、この個性は活力に限らず風や振動、熱など、エネルギーを含むあらゆるものから渦を生み出すことが出来るようになった。その副産物で自分以外からも、渦を発生させられるようにもなった。

 さらに、なぜか波動が捩じれるせいでスピードが遅いという弱点があったが、『渦』にそんな弱点はない。

 元の個性の長所をそのままに、短所を克服したようなまさに強化された個性となったのだ。

 

 

「貴様ッ!藍染様に向かってなんだその態度は‼」

 

「も~相変わらず固いなぁ。変なの~。」

 

「やめるんだ人使。ねじれも煽るな。」

 

「…申し訳ありません。」「は~い。」

 

 間延びする返事を返すねじれに対して、キッと睨みつける心操だがさすがに今の今で再び荒げたりはせず、睨むだけにとどめる。

 この二人は一緒にいるといつもこうだと、苦笑いを浮かべながら眺めるもう一人のローブはプロヒーローーーキドウである。

 

 彼の個性も当然のように強化されている。

 『軌道』というあらゆるものの軌道を変えるという個性だった。それが強化された結果『道標』という個性に成った。

 軌道を変えることによって道を作る個性だったのだが、道を生み出す個性となったのだ。

 生み出した道は軌道から距離から方向まであらゆる変化を加えることが出来る。

 

 個性『ワープゲート』に似ているが実際は違う。

 ワープゲートほど殺傷性はないが、汎用性には優れているというべきか。

 途中でゲートを閉じてしまうなどはゲートを介さないこの個性では再現できないが、点と点の間に生み出した道は何があっても使用者以外消すことはできず、攻撃は永遠に相手を追い続ける。

 さらにその過程に方向の変化を加えることで右から迫っていた攻撃が直前で左から現れたり、迎撃を行おうとしたタイミングで距離に変化を与えることで緩急を生み出したりさえできてしまうのだ。

 

「それにしても藍染。何かいいことでもあったのか?」

 

「そんなにわかりやすいかい?」

 

 上機嫌さを隠そうともせずそう宣う藍染に三人は素直にうなずいた。

 

「緑谷君が成長しているようだったからね。彼の個性は私の天敵になりえる唯一の個性だ。」

 

「え~なんで彼なの?ねぇ、なんでなんで?彼強いの~?」

 

 真っ先に反応を示すねじれを尻目に、人使はあることを思い出した。

 みんなが鏡花水月の催眠にかかっている中、彼一人だけ催眠にかかることなくみんなの攻撃の対象を把握していた。

 完全催眠が効いていない?いやあり得ない。

 完全催眠から脱出した?もっとあり得ない。

 一度かかったら最後、決してその催眠から抜け出すことはできない絶対無敵の個性であるはずなのだ。

 

 

 

 

 

 同時刻、雄英高校校長室には三人の人物が向かい合って座っていた。

「本当かね!緑谷少年‼」

 

「……はい。でも僕は動くことが出来ませんでした。」

 

「いや、それは仕方のないことだ。とりあえず君が無事でよかった。」

 

「とりあえずゆっくり休むといいのさ。」

 

 緑谷出久、オールマイト、根津校長は仮免試験での出来事について話し合っていた。

 そうして分かったのは、完全無欠に見えた藍染の個性に対抗できるかもしれない可能性が見つかったことだった。

 

 ひとまず話を切り上げて、緑谷を一足先に退室させた彼らは改めて向かい合って座りなおす。

 

「…緑谷少年は惣右介の発動の瞬間を見ていない?」

 

「いやそれはないと思うよ。抜け目のない彼のことさ。完全に準備が整ったから行動に移したはずさ。」

 

「ではなぜ?」

 

「……おそらく、彼の個性に原因があるのさ。」

 

「ワン・フォー・オールに?」

 

「そうさ。」

 

 個性『ワン・フォー・オール』これはただ身体能力を強化する個性ではない。

 その本質はストックした力と個性を継承者に譲歩していくものである。超パワーはその力の部分が表面化しているに過ぎない。

 そしてこれまで誰も意識したことなどなかったが、そこには多少の前使用者の意思が込められる。

 

 対して鏡花水月。

 これは対象者の五感を奪い取るというもの。

 五感を奪われた対象者はその意思とは関係なく、その術中に放ってしまう。

 

 この対象者とは何を意味するのか。当然向き合った人物その人である。しかし当然一人一つの意思を持つこと前提の個性である。

 複数の積み重ねられた意思がカタチとなった個性である『ワン・フォー・オール』とは絶望的に相性が悪かった。

 

 徐々に個性を使いこなしつつある緑谷は、比例して強くなる個性に込められた前使用者たちの意思の力によって、鏡花水月の脱出を可能にしたのである。

 

 

 

 

 

「と、向こうも同じ結論にたどり着いたことだろう。」

 

「えぇ~!そんな個性があるの⁉おもしろ~い!」

 

「……それじゃあ、成長する前に早く消しておいたほうが良いのでは?」

 

「いや、彼にはまだ利用価値があるからね。」

 

「藍染、楽しそうだな。」

 

 脅威を蹂躙する時とは違い、本当に現状を楽しんでいるような笑みを浮かべる藍染に思わずといった感じで、そんな感想が口を突いて出る。

 

「そうかな?…いやそうだね。シナリオにトラブルは付き物さ。そしてそれらを乗り越えて目的を達成した時にこそ、本当の達成感は付いてくる。」

 

 これからより成長して、より強大な敵となるだろう人物の成長を楽しむという常人には理解できない考えであろうとも、藍染はその考えを変えようとは思わない。

 むしろ、障害なくなんでも達成できてしまう現状が変わるのではないかと、期待しているのだ。

 

「人使はまだしも、未だ正体がバレてないねじれとキドウは引き続き、頼むよ。」

 

「えぇ~私も藍染さまと出久くんで遊びたい~!」

 

「それならばむしろ学校に行ったほうが、彼にも会えるだろう?」

 

「あっ、そっか!ふふふ、楽しみだなぁ~。どんな個性もってるのかな?強いのかな?弱いのかな?」

 

「ワンフォーオールのことは口に出したらだめだよ。重大な機密情報なんだから。」

 

 少し心配そうに、困ったような笑みを浮かべる藍染に見送られながら、ねじれとキドウはその場を後にした。

 

 





 意思を複数持つものが鏡花水月を無効化できるということは……

 不定期ですが、思いついたらまた投稿します。
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