冒険者専門弁護士   作:マスターBT

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愛するが故に3

「座りたまえ。私の私室だ、防音と不視の魔道具が常に稼働している盗み聞きをしたければ、かなりこの部屋に近づなければならないがそこまで寄れば私かお前が気がつくだろう」

 

 リカルドとアルトが案内された場所はルーシュカの私室即ち、この傭兵ギルドを束ねるギルドリーダーの部屋だ。そんな部屋が簡素な訳はなく、彼が冒険で集めてきたり部下でもある傭兵達から貢物として贈られた金銀財宝や、出現回数が少ないとされる貴重なモンスターの鱗などが点在しておりそれらが丁寧に、一つ一つ並べられており物の多さからくる乱雑さより、一つの部屋として見た時の完成度が優れているという絶妙なバランスで整えられていた。

 二人が座るとルーシュカは自らの後ろにあるポットから紅茶を注ぎ、二人の前に置くと何処からともなくお茶菓子を取り出し並べた。

 

「また品が増えたか?相変わらず人気者だな」

 

「なに。彼らにとって使い物にならないものを引き受けてるに過ぎないさ。無論、贈り物を渡すという彼らの気持ちはとても嬉しいがね」

 

「素直に受け取ってやれよ……まぁ、雑談はほどほどにしておこう。互いに暇な身ではない。俺が来たのはある冒険者が、婚約を予定していたが相手方が冷静になったからなのかは知らんが、乗り気ではなく破棄する様子を見せていてな。どうやら冒険者になる前は傭兵業をしていたらしい」

 

「あぁ、なるほど。経歴が知りたいのか。相手側の詳しい条件は言わんで結構、そいつの名前は?」

 

 リカルドが言わんとしている事を早期に理解したルーシュカの様子にアルトは驚きの表情を見せるが、リカルドは話が早いと笑みを浮かべてオーロラが記入していた書類に記載されていたエレンのフルネームを伝える。

 

「エレン・オートランド。それがこちら側の把握している名前だ」

 

「ふむ……」

 

 右手の中指に着けている指輪をルーシュカがなぞると、空中に魔力で編まれた文字列が浮かび上がった。

 

「わっ……古代文明の魔道具じゃないですか!しかも、現在になっても詳しい製法が明らかになっていない投射の指輪。まさか、現物をこんな間近で見られるなんて……!」

 

「機密書類を保存するのには便利でな、愛用させて貰っている」

 

 彼らが今いる地下ダンジョンや前回のソフィ・リズレイの事件の時に使用したダンジョンも含まれるのだが、この世界の至るところにはダンジョンと呼ばれる古代遺跡の数々が存在しておりその中には、今の時代の者達には模倣すらままならない古代の魔道具が眠っており、冒険者の誉れの一つとしてダンジョンを踏破しその宝物を持ち帰るというものがあるくらい貴重かつ人の好奇心を刺激する場所だ。

 ルーシュカが使用している投射の指輪は文字媒体で記録されたものを取り込み、任意の場所で取り込んだものを確認できるというものだ。驚くべきことに装備してる本人がしっかりと管理出来るのであれば、取り込める文字媒体に限りはなく嵩張る荷物が指輪一つで完結してしまう優れものだ。

 

「ギルド側に提出するときは結局、書類にしなきゃ認められないけどな」

 

「指輪の操作が独特で使用者にしか操作法が分からんからな」

 

 会話をしながらスッスッと指輪をなぞると、空中の文字列が移動していきそれをキラキラした瞳でアルトがしばらく眺めていると、ピタッと動きが止まる。ルーシュカは近くにあった紙を手に取り確認できた情報を書き写し、リカルドへと手渡す。

 

「『エレン・オートランド……モンスター専門の傭兵として活動。人殺しなどを行った痕跡はなし。また傭兵になる前の経歴は不透明だが、一時期彼と思われる人間が違法賭博場の奴隷剣闘士として確認されていた。現在、違法賭博場は警察組織により関係者の多くが検挙され消滅。なお、主犯格は逮捕に至らず』……過酷な人生を送ってる奴だな」

 

「正しく戦う術以外を知らん男らしい。だが、一つ疑問が浮かばないかねリカルド?」

 

「疑問ですか?過酷な人生というところ以外別に不思議なところはないと思いますけど……」

 

 ルーシュカの言葉に首を傾げるアルトだったが、その後頭部を軽くリカルドに叩かれる。

 

「冒険者に転職する理由がねぇんだよ。傭兵として何か問題を起こした訳でも、怪我をした訳でもない。元奴隷剣闘士で、文字書きすら怪しい人間がどう足掻いても、書類仕事が付き纏う冒険者になってどうするよ?苦労が増えるだけだ。傭兵職を続けていれば、そこのお優しい奴が代わりに書類を代行してくれるしな」

 

「……なるほど。確かに先生の言う通りですね、流石です。私じゃそこまで考えが至りませんでした」

 

「傭兵稼業に嫌気が差したのかもしれんが、私が記憶している限りその様な素振りを見せた記憶はないな」

 

「はぁ……なんだが、事が大きくなりそうな予感がするな」

 

 『主犯格は逮捕に至らず』の部分を睨みつけながらリカルドがそう溢すと、優雅に紅茶を飲むルーシュカがそうだなと相槌を打つ。少しの沈黙した空気が流れると、ふと思い出したようにルーシュカが言葉を発する。

 

「あぁそうだ、この件とは関係ないかもしれんが近頃、どうにも裏路地や人目に付かない場所が怪しい動きを見せている。何人かウチの連中を放ってはいるが、警察組織と違って大手を振るって動けん。まぁ、お前なら平気だとは思うがアルトくんは気をつけたほうが良い」

 

「私ですか?」

 

「あぁ。エルフは高値で売れるからな」

 

 悲しい事だがどれだけ法整備を整え、監視組織を組もうが犯罪者という輩は消えず先程の賭博場もそうだが人目が届かないところで、人身売買や麻薬と言った違法行為は今彼らがこうして話をしている間も静かに行われているのがこの世の真実だ。そして、その様な連中に見目麗しいエルフという人種は男や女問わず人気であり、エルフが森からほとんど出ない原因の一端を担っている。

 

「あー……なるほど。でも、多分大丈夫だと思います」

 

「ふむ?それは──」

 

「アルト。情報は手に入った、帰るぞ。ルーシュカ、世話になったな受け取ってくれ」

 

 大丈夫だと自信を持って言い切るその姿に疑問を覚えたルーシュカだったが、その言葉を打ち切り少し硬い声色を発し立ち上がるリカルドよって中断されてしまった。傭兵達と接する事が多く、リカルドと友人関係を構築しているルーシュカは即座に深入りを避ける判断を下し、机の上に置かれた少し色のある報酬を受け取り引き下がった。

 

「全く、忙しない男だな。少しぐらいはゆっくりしていけばいいものを」

 

「予想以上に面倒そうだからなとっとと対策を練りたいんだよ。つか、お前だって仕事あるだろうに呑気にしてて良いのか?」

 

「今は部下達に任せてあるさ。とは言え、任せすぎるのもよくない君のいう通り、此処は下がるとしよう」

 

「……相変わらず食えねぇ野郎だ」

 

 ルーシュカと話をしながら地下ダンジョンを抜け、元の酒場まで戻ってくるリカルド達。陽は少し傾き、夕暮れの光が窓から差し込んできていた。酒場の入り口でルーシュカと別れ、職場であるギルドの方へ戻る最中、エルフ特有の長い耳をピクピクっと動かしリカルドの裾を掴むアルト。

 

「どうした?」

 

「揉め事です。その、エレンって名前が聞こえました」

 

「なに?……案内してくれ」

 

 人混みを器用に避けながらアルト先導のもと、声が聞こえた場所へと向かう。徐々に周囲の人影は減っていき、街の作りに詳しい者ぐらいしか使わない様な入り組んだ路地裏を進む二人。やがて、聴覚が優れていないリカルドの耳にも声が聞こえてきた。

 

「しつこいな!その件は断った筈だ…!」

 

 苛立ちを感じさせるエレンの声に男と思われる人物の声が何かを返すがリカルドの耳には聞き取れない。

 

「アルト、なんて言ってるか聞こえるか?」

 

「えっと……『そんな権利が君にあると思うか?忠告だ、こちらが穏便に下手に出ている内に役目を』……気付かれました!」

 

 飛び出す様に二人が裏路地を抜けるとそこにはエレンしか居らず、彼は驚いた表情で二人を見ていた。

 

「誰かと思えば弁護士先生か……こんなとこで何してるんだ?」

 

「エレン・オーランド。先程まで会話していた相手は誰だ?」

 

「ッッ……なんの事ですか。俺は用事があるんで失礼します」

 

 嘘を吐くのはあまり得意ではないようで、リカルドの言葉にはっきりと表情を歪めた後にスッと背を向けて走り出してしまうエレン。アルトが咄嗟に追いかけようとするが、リカルドはそれを静止して首を振る。

 

「先生!」

 

「……向こうが助けを出さなければ俺達に出来る事はない。だから、今は戻って情報を集めるぞ。急がなきゃこの件、誰も彼もが不幸になって終わりを迎える気がする」

 

 警察組織ではない彼らではこれ以上は越権行為になるか、処罰の対象となるだろう。そして、真実へと辿り着く為の情報が足りなくなればエレンとオーロラの二人の助けになる事は出来ない。それに、もう時期夜が来る。犯罪者達にとって動きやすい路地裏で夜を迎える訳にもいかないのだ。聞きたい事問い詰めたい事は幾らでもあるが、一旦冷静に彼らはギルドに戻るのだった。




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