冒険者専門弁護士   作:マスターBT

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愛するが故に6

「手荒な方法を取った事は詫びよう。だが、こちらもクビがかかってるんでね」

 

「……話す事はない」

 

「全く、少しは他人を頼る事を覚えたらどうだエレン・オートランド?」

 

 身元をのらりくらりと隠す被疑者を裁判が行われるまでの準備の間、一時的に拘束しておく留置所にてリカルドとエレンはガラス一枚を隔てて向かい合っていた。しかし、場所が場所なだけに穏やかな話し合いという雰囲気はなく不機嫌さを隠そうともしないエレン。それもそうだろう、何せここまでの手引きをしたのは他ならぬリカルドなのだから。

 

「納得が出来ねぇな。なんで、俺の弁護をお前が引き受ける?ここに放り込んだ張本人が」

 

 ギロリと睨まれるがリカルドはそれを涼しい顔で受け流しながら煙草に火を着ける。

 

「時間が無いからさ。お前がこうして拘束された事は既にお前のご主人あぁ、元を付けた方が正しいか?そいつの耳に入っている事だろう。大方、どんな依頼を受け今に至るまで実行されていないかは予想が出来ている。

 ……さて問題だエレン・オートランド、裏で隠れ潜まなければならない者がわざわざ表舞台に駒を出してまで成し遂げたかった事が駒を奪われ不可能になった。次にそいつが打つ手は何か分かるか?」

 

「……ッッ!?おい、早くここから出せ!!」

 

 リカルドの質問の答えに至ったエレンが立ち上がり勢いよく顔を近づける。当然、彼らの間にはガラスの壁がある為鈍い音を立てながら、彼の額がぶつかる。それでも気にした様子はなくこのままガラスを割らんと言わんばかりに圧力を掛け続ける。

 

「出たきゃ俺を弁護人として雇え。約束してやる、必ずお前らにとって不幸な結果にはさせないと」

 

 真剣な顔で告げるリカルドを見て、自分と彼女の運命を賭ける価値があると判断したエレンは頷く。

 

 この会話より二日後、開かれた裁判にてエレン・オートランドは結婚詐欺及び、内通罪の有罪判決が決まり一年の拘束刑と奉仕活動が命じられる事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういう事ですの!!!!!」

 

「ぐぉ……耳鳴りが……戦士職でもないのに雄叫びを覚えてるとはな」

 

 初めて顔を合わせた時と同じ様に勢いよく扉が開かれると怒り心頭ですと言わんばかりの怖い表情をしたオーロラが書類仕事をしていたリカルドに唾がかかるんじゃないかという距離に詰め寄り甲高く叫ぶ。目の前で耳鳴りに苦しんでいる男が、エレンの裁判弁護を引き受けたと聞いて安心していたのに蓋を開ければまともに会う事すら出来ない状況に文句を言いに来たのだ。

 

「はぐらかさないで下さいな!どうしてエレンが……」

 

「引き受けた依頼を完遂する為に調べていたら色々と暗い繋がりが見えたので、こうなった次第ですよ。その件は報告書にも書いて見せたはずです」

 

 ()()()()押しかけてきたオーロラへと事務的な返答をしながら書類を纏め上げていくリカルド。そこには一切、思い人が牢に囚われたオーロラを気遣う温度はなく淡々としていた。

 

「そうではなく……!どうして、エレンを守ってくれなかったんですか!?」

 

「……何を勘違いしているかは分かりませんが、私が引き受けた仕事は結婚詐欺に関してです。つまり、私にとって守らなければならない人は貴方であり、彼ではありません。結果的に事後報告となった事は謝りますが、時間が無かったものですから。なにせ、エレン・オートランドは国外への逃亡を企ててましたからね。時間をかければこの国の法で裁けなくなってましたよ」

 

 そういう答えを望んでいる訳ではないのを理解した上で説明していくリカルドだったが直後に、頬がパチンと叩かれる。それによって初めて顔を上げたリカルドは今にも泣きそうになっているオーロラと視線が合う。潤んだ視線と何処までも冷静な視線が交差し、やがて無駄と悟ったのかオーロラは背を向けて部屋を出て行った。

 

「……嫌われてしまいましたかね先生?」

 

「まぁ、仕方ないだろう。それより、アルト。これを先方に届けてくれ」

 

 書類をまとめ上げ紙袋にしまい、自らの名前を書くとアルトへソレを手渡す。

 

「道は前回覚えているだろう?可能な限り、速く頼むぞ」

 

「分かりました。では行ってきます」

 

 入り口ではなく、リカルドの後ろにある窓から外に飛び出すアルト。向かうべき目的地は馬車で向かわなければならないほど離れている距離の筈だが、下に降りる訳でもなくギルドの屋上へと登り切り、アルトは走り出す構えを取る。

 

「風よ、我が身を運び給え」

 

 アルトがそう呟くと同時に足に魔法陣が浮かび上がり、魔力で編まれた風が吹き始める。十分に風が吹き始めたのを確認したアルトが走り出すと、アルトを持ち上げる様に風が吹き、まるで自由に空を駆ける如く移動し始めた。どんどん遠ざかっていくアルトを見送りながら、リカルドは煙草に火を着け、咥えながら部屋を出るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オーロラ・フォン・アイゼンベルクにとって、エレンという男は家名や、令嬢として身につけている仮面抜きにただ一人の個人と見て接してくれた人で大好きな人である。

 

「……エレン」

 

 街を一人で歩きながら彼女は冒険者になってからいつも側に居てくれた彼との思い出をずっと脳裏で繰り返していた。初めてギルドで声をかけられた時ははっきり言ってとても怖かった。自分と年の離れた厳つい男が能力とかそういうの抜きで声をかけてくれば、女性として怖いのも当然だろう。だが、そんな彼女の警戒心をエレンは溶かしてみせたのだ。

 

『お前が出来る事をしてくれれば構わない。それは俺が出来ない事だ』

 

 拙い探知魔法や支援魔法で後ろから援護するだけのオーロラに気に入られたいとかの損得を抜きに、ただ心の底から有難いという気持ちで感謝するエレン。そんな彼の負担を楽にしてあげようと、攻撃魔法も勉強した。

 

『手作り……そうか。助かる』

 

 花嫁修行の一環として身に付けていた料理でお弁当を作って持っていけば、理解出来ない顔で自分の手元にあるお弁当と渡した自分を交互に見るものだから面白くて笑ってしまえば恥ずかしそうにお礼を告げるエレン。

 

『オーロラ。君にプレゼントだ、その……こういうのはよく分からないから適当に選んだものだが直感で選んだものだが』

 

 ペアで活動する様になってから一年。色々と話してくれる様になったエレンからオーロラに向けて、簡素なネックレスが贈られた。冷遇されていたとはいえ、貴族の生まれであるオーロラから見れば明らかな安物であるのだが、初めて彼が自分に向けて贈ってくれたプレゼント、それを喜ばない女がいるのだろうか。感動のあまり、抱きつけばエレンはまるで少年の様に顔を赤らめて固まる。

 

「……その全てが偽りだったなんて信じられないのです」

 

 あてもなく歩いていればいつの間にか人通りの少ない場所まで来ていた彼女はすっかり暗くなった空を見上げながら呟く。冒険者になって三年間、一緒に過ごした愛しい人がずっと裏切っていたなんて到底信じられないからこそ、あの弁護士を頼ったのにエレンは手の届かない所に行ってしまった。

 

「エレン、あの日の言葉は本当に嘘だったのですか?」

 

 左手の薬指に嵌めている真っ赤な宝石の指輪を撫でる。

 

「まったく、たかが駒の分際でそこまで入れ込むとは……いやいや私の落ち度でしょうかね」

 

「ッッ誰!!」

 

 突如として聞こえてきた声にオーロラが振り返ると、暗がりの向こうから杖を突いた老人が薄気味の悪い笑顔を浮かべながら現れる。そのあまりの不気味さにオーロラは一歩後ずさるが、すぐにその顔に見覚えがある事に思い至り、驚きながら口を開いた。

 

「貴方は……ジェームズ・リー・グレニスター!?お父様の政敵がどうしてこんな所に……」

 

「おやおや、顔を覚えていたとは光栄ですなぁ。えぇ。えぇ、見事貴女のお父上に出し抜かれた惨めな貴族ですよ」

 

 自虐的な言葉を吐きながらも、その声にははっきりとアイゼンベルクに対する恨みが込められており歳のとったご老体とは思えない迫力が滲み出ていた。

 

「家を飛び出したまでは、計画通りだったというのに……エレンの奴め拾ってやった恩を忘れて女に現を抜かしおって」

 

「……え?それは、どういう……」

 

 グレニスターが発した言葉に喉が渇くのを感じながらもオーロラは聞かずにはいられず、それを見抜いた彼は醜悪に顔を歪めながら彼女が欲しているであろう答えを口する。

 

「元よりエレンは、私の命令で君を殺しにいった刺客よ!本来であれば、三年前に君を殺し傷心のアヤツをリリートゥが癒し操り人形に仕立て上げる筈だった……だが、エレンは私を裏切りリリートゥもいつまで経っても、アヤツの心を開かないときた!!全く、何もかも上手くいかぬものよなぁ……裏の連中の監視を掻い潜りながら兵を集め、行動できる様になるまでこれほど月日を費やすとは些か予想外でしたな!」

 

「そんな……」

 

 ペタンっと座り込んでしまったオーロラをニヤニヤと見ながら、グレニスターは杖で地面を勢いよく叩くとそれが合図だったのか暗闇に潜んでいた者達が次々と現れる。先程話していた兵隊というのが彼らなのだろう。人の壁がオーロラを取り囲む。

 

「だが、これで漸く娘を失い苦痛に歪むアヤツの顔を見れるというもの。ククッ、ハハハハハハハハ!!邪魔者はもういない!!やれぃぃ!!!」

 

 勝ち誇った顔で兵隊達に指示を出すグレニスターに従い、短剣や棍棒なので武装した連中がじわじわと距離を詰めていくが真実を知ってしまったオーロラは完全に動けない。兵隊の一人が武器をオーロラに向けて振り下ろそうとした瞬間、火柱が発生し凶刃は振り下ろそうとした人物ごと吹き飛ばされる。

 

「……死んでなるもんですか……エレンから真相を聞くまでは死んでなるものですか!!!かかってきなさい、凡愚共!!!!!」

 

 それでもエレンを信じると立ち上がった彼女の気迫にグレニスター諸共、敵が怯む。だがそれだけで積年の恨みが消えるわけもなく、グレニスターはしゃがれた醜い声で叫びながら指示を出す。

 

「殺せぇぇぇ!!あの忌々しい小娘を殺せぇぇぇ!!!!!」

 

 その声に背を押された様に走り出した敵に向けてオーロラが掌を向けると、人の壁を飛び越えながら一人の男がオーロラの前に現れる。その男は、呆れた様なそれでも何処か楽しげな声を発する。

 

「本当に脳筋だなお前は。だがまぁ、それがオーロラと言うべきか」

 

 殺さぬ様に峰打ちを意識しながら大きな大剣を振り回し大人数を吹き飛ばすと男はオーロラに背を向けたまま口を開く。

 

「……色々と悪かった」

 

 ぶっきらぼう言うその姿はとても見覚えがあるもので、声とその背中を見るだけでオーロラは安心感と幸福感に包まれていくのを感じ、久しぶりに会えたという喜びから涙を流しながらその男の名を呼ぶ。

 

「……エレン。エレン!!本当に……本当に色々と聞きたい事があるんですよ……」

 

「だろうな。でも、今はこれだけ覚えていて欲しい。俺は君を愛している」

 

 そう言いながらエレンは首からかけている真っ赤な宝石が嵌っている指輪を見せる。今もオーロラが身につけている指輪は、エレンがプロポーズと共に渡してくれた物。この騒動が始まってから、指に着けていないのを見て何度も泣きそうになったがちゃんと彼はオーロラを愛していた証としてこれ以上のものはない。

 

「何故……何故何故、お前がここに居るエレン!!!!!貴様は、ギルドに拘束されている筈だ!だからこそ、このタイミングを襲撃に選んだのだぞ!?」

 

 半狂乱になりながら疑問をぶつけるグレニスターに冷ややかな視線を向けるエレン。

 

「見事に引っかかってくれて感謝するよ。なぁ、弁護士先生?」

 

「なにぃ?」

 

 自分の後ろを見ながら言うエレンの視線を追いながら、後ろを振り向くグレニスター。そこには煙草の火が暗闇に浮かび上がっており、それに驚いているとカツンカツンっと足音を立てながらリカルドが現れた。

 

「こんばんわ、良い月ですね。グレニスター卿、いや」

 

 一度煙草を加え、煙を吐くリカルド。焦るグレニスターとは対照的に何処までも冷静な番人はグレニスターを見ながら、冷淡に微笑みながら口を開く。

 

「違法賭博場支配人とお呼びするべきでしょうか?」

 




登場の仕方がラスボスな件について。おかしいな、こいつ善人の側だよな??

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