冒険者専門弁護士   作:マスターBT

14 / 18
愛するが故に7

「被告、エレン・オートランドには詐欺及び、殺人未遂、並びに犯人隠避罪の疑いがかけられている。何か申し開きはあるか?」

 

 真実は数日前に開かれた裁判まで戻る。裁判長であるルドベキアは、勾留中ずっと黙秘を貫いていたエレンが関わったと見られる罪状を読み上げると正面に立つエレンを見た。それと同時に、今回の裁判官二名も手元の書類から視線を彼に向け合計六つとなった視線に一切怯む事なく、エレンは口を開いた。

 

「……俺のしてきた事を罪として形にするのなら間違いはない」

 

 自らの罪を認めると口にしたエレンに二名の裁判員は驚くが、事前にリカルドから話を聞いていたルドベキアはチラリと弁護士席に座るリカルドを見ると、それに応じる様にリカルドが手を挙げた。

 

「裁判長、発言の許可を」

 

「弁護人、発言を許可する」

 

 発言の許可を貰ったリカルドは立ち上がるとエレンの隣へと並ぶ。

 

「確かにエレン・オートランドが行った行動の数々はギルドが定めた法の下において有罪だと言えると私も考えております。特に、冒険者は信用・信頼が命であり詐欺や犯罪を起こした人物を隠すなどもっての外でしょう」

 

 エレンがしてきた事をはっきりと罪だと認めさせる為にリカルドはよく通る声で弁護する側とは思えない言葉の数々を綴っていく。だが、それを横で聞いていたエレンには一切、迷いや不信感といった表情は浮かんでおらずただ真っ直ぐに裁判官達を見つめていた。

 

「──ですが、これら全てがただ一人のか弱い女性を守る為に行っていたとすればどうでしょうか」

 

 そんなエレンの信頼に応える様にリカルドが笑みを浮かべながら続ける。

 

「既にエレン・オートランドの経歴はご存知でしょう。彼は元々、奴隷という立場にあり自らの主に逆らう権利など持っていません。なにせ、奴隷とは所有物であり、そこに人権は殆どありませんし逆らう為の反抗心を粉々にされている。……まぁ、だからと言ってそれだけで減刑しろなどと甘えた事は言いませんが」

 

 どれだけ同情たり得る経歴だろうと、罪を犯せばそれは犯罪者であり悪人だ。人が生み出した秩序の為にも真っ当に裁かれるものだとリカルドは考えている。だからこそ、あえてそれを発言し話を聞く裁判官の心象悪化を阻止する。

 

「そもそもとして、エレン・オートランドが冒険者になったのは当時の主人の命を受け、アイゼンベルク辺境伯の長姉、オーロラ・フォン・アイゼンベルクを殺害する為です。しかしながら、彼は三年間の間彼女を殺す事なく共に冒険をこなし社会貢献をし、人知れず狙われていた彼女をただ一人で守り続けていました。……事前に提出した書類をご確認ください」

 

 ルドベキアを含む裁判官達がリカルドに促され手元にある書類の一つに視線を落とす。彼らが読みながら聞く事を考慮し、今までより僅かにゆっくりとなった声でリカルドは続ける。

 

「私の伝手で手に入れた情報ですが彼は襲撃者を気絶させており、誰一人も殺しておりません。そして、情報主が襲撃犯を尋問したところ皆一様に一人の人間の名前を口にしたそうです」

 

 リカルドの伝手とはもちろん、ルーシュカの事である。ただまぁ、今のリカルドの言葉には少しばかり口にしていない情報が混ざっており全てを明らかにして説明するのなら『ルーシュカが裏での目撃情報を掻き集め、エレンに気絶させられた連中を短期間で捕まえて尋問した』となる。

 書類を読む彼らがその名前に辿り着いたであろうタイミングを見計らい、リカルドは口を開く。

 

「ジェームズ・リー・グレニスターと。なるほど確かに、アイゼンベルク辺境伯の政敵としてよく知られている彼なら動機は十分と言えるでしょう。

 さて、話が少々長くなりましたが私が弁護人として彼には恩赦が妥当だと考えています。勿論、全てを許し無罪放免にしろという訳ではありません。三年間の間、彼がギルド所属の冒険者として社会貢献をした事、何もしなければ我々が知覚する事すらなく命を落としていたであろうオーロラ・フォン・アイゼンベルクを守り通した事は事実であり彼を責めるのであればその事実に全く辿り着けなかったギルド側の落ち度も責められて当然でしょう」

 

 罪を功績で打ち消す。それがリカルドが己の立場を最大限利用して出来る彼なりの救い方だった。事実、痛い所を突かれたと裁判官達は顔を逸らしておりそこにはエレンに対する感謝の色も伺えた。

 

「……恩赦か。一考の余地はあると認めるが、その様な特例を認可して法の秩序は狂わんかね?」

 

 法を守る側としてルドベキアが質問を投げかける。彼の杞憂は最もであり、一度でも生まれた特例は法の秩序を容易く崩壊させる事が可能だ。

 

「ご心配は最もです。ですので、条件をつけます。先ず、表向きには罰を受けたと公表……そうですね、この後の事も踏まえれば拘束刑と奉仕活動が妥当でしょうか。その上で、彼にはジェームズ・リー・グレニスターに関して全てを話して貰い彼の捕縛まで協力。その事実をもって、エレン・オートランドは自由となる。これでいかがでしょうか?」

 

 リカルドの言葉を聞き、ルドベキアは一度目を瞑り開くとその視線はエレンに向いていた。その視線から発せられる圧にエレンの背中を冷や汗が伝い、無意識に彼が唾を飲み込むと同時だった。

 

「エレン・オートランド、君は嘘偽りなく我々に協力出来るかね?」

 

 ギルドの長として発せられたその言葉にエレンは即答する。

 

「勿論です。彼女を守れるのならなんでもします」

 

「──分かった。他の裁判官達も異論はないな?……宜しい、では本裁判は全面的に弁護士、リカルド・ウィンターズの要望を受け入れる事で閉廷とする!この後、エレン・オートランドは本件に関して包み隠さず、全てを話す事。時間がないのだろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とまぁ、これが事の真実だ。グレニスター卿、エレン・オートランドが拘束されれば自ら出てくると思っていたさ。アンタが動かせる駒には限りがあるから狙うのならこの様な裏路地だろうしな。まぁ、なんだアンタは愛情ってやつを低く見過ぎたな」

 

 絶体絶命の状況に置かれたグレニスターの憤怒に染まった顔を見ながら冷ややかに煙草を吸うリカルドは、ここまでの経緯を話すとニヤリと笑いながらグレニスターを見る。

 

「愛情……愛情だと!?ふざけるな、そんな一銭の価値すらないものに……ええい、お前ら!!この場にいる全員、殺してしまえ!!そうすればまだ勝ちの目は……」

 

「残念だがその目すら無い。先程の号令に従った人間が少ない事に気付けないからこそ、落ちるとこまで落ちたのだろうな」

 

「なん……だと……」

 

 グレニスターの横に立っていた男が言葉を発すると同時に、懐からモノクルを取り出して着けると、周囲にいた多くの男達がボケっとしている数少ないもの達の首筋に刃元を当てて、動きを封じると混乱しているグレニスターの横で男は着ていた見窄らしい服を脱ぎ、その下のバーテンダーの様な服装が明らかになると、グレニスターが目を見開いた。

 

「……ルーシュカだと」

 

「今回の兵隊が簡単に掻き集められた事に疑問を覚えるべきでしたな」

 

 今この場に集った者の多くはルーシュカの部下であったのだ。数少ない本当に金で雇われた者達はあっさりと彼らに捕縛され、全員が困惑と諦めの表情を浮かべ抵抗する気を失っていた。その事実に驚きながら、自らの計画が頓挫した事を理解したグレニスターはキッとリカルドを睨みつけた。

 

「……全て、貴様の策略か」

 

「あぁ、最も全員が情報を提供してくれなきゃここまで上手くはいかなかっただろうな。何か一つでも遅ければ、アンタの勝ちだっただろうよ」

 

 犯罪を考え、人を動かし実行する以上必ず何処かに主犯格へと繋がる形跡が生まれる。そのバラバラだったピースを掻き集め、犯人が次に起こすであろう行動を逆算し手配する。言葉にすればそれだけの事だが、政治に関わる者としてそれがどれだけ難しいかを理解しているグレニスターは目の前の男に恐怖しながら、杖を軽く持ち上げ持ち手を捻るとエレン、そしてオーロラの方へご老体とは思えぬ速度で走り出した。

 

「……貴様らさえ、居なければ─!!」

 

 恐怖と絶望よりも復讐心が勝った男の凶刃が二人へと迫る。だが、彼らに焦りの表情はない。相手が自分を想ってくれている、その事実が分かったのだからいつも通りにやるだけだ。

 

「拘束せよ、魔力の鎖!」

 

 オーロラがそう唱えると同時に地面に現れた魔法陣から光の鎖がグレニスターを拘束した。

 

「アンタには一応世話になった面もあるが……オーロラに手を出したのは許さない」

 

 そこに駆け寄ったエレンが大剣を一閃。

 仕込み刀となっていた杖を両断し、グレニスターの首筋で大剣を止めると漸く彼は諦めた様でぐったりとしオーロラの鎖が消えると力なく地面に崩れ落ちた。そんなグレニスターを捕縛するリカルド、そんな彼にしか聞こえない声でグレニスターは呟いた。

 

「……まだ、私の計画は終わってないぞ」

 

 今更そんな事かとリカルドはため息を零し、グレニスターの手足を縛ると彼を見下しながら言った。

 

「だから言っただろう。愛情というやつを低く見過ぎだと」

 

 そう告げて離れようとしリカルドは立ち止まりもう一度、グレニスターを見る。彼の恨みがましい視線を受けながら話す。

 

「何か不服があれば訴えをどうぞ。それは全ての人間に与えられている権利です。もし、その時は俺の戦場で貴方を待っていますよグレニスター卿」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──時を同じくしてアイゼンベルク邸。そこには真っ白と形容するほどの顔になっているリリートゥと、静かに怒りを激らせているエイダン・フォン・アイゼンとその近くで待機しているアルトの姿があった。

 

「貴族というのは実に面倒だ。愛する娘の為に表立って動くわけにもいかん、まぁ男選びが悪いのもあるが。もう一つ、家の為と興味もない女を差し出される事も面倒だ。特にお前の様に寄生が目的の輩はな」

 

 リカルドがアルトに持たせた書類にはグレニスターとリリートゥの所謂、不倫関係が詳細に記されておりグレニスターの復讐の為に彼女が送り込まれた事が書かれていた。勿論、情報の出処はエレンと裏に詳しいルーシュカによるものだ。

 

「一度もお前を抱いてないというのに息子が出来たなどと言う時は、どうしたものかと思ったがあのご老体未だに生きた種を有しているとは」

 

 ()()()()()に嵌められた指輪を愛おしげに撫でながらエイダンはもはや、パクパクと口を動かすだけのリリートゥに一切視線を向けずに話していた。

 

「君の師匠は優秀だ。俺の左手薬指に指輪が無いのを目敏く見抜き、アレを止める為に翳した右手を見て俺の愛があの醜女に無い事を即座に理解した。彼の元で学べば、君も良い弁護士になれるだろう」

 

「──はい。先生は凄い人です」

 

 師匠が褒められて嬉しいアルトは微笑みながら返す。今この場に来て、あの理解できなかったやり取りをアルトは理解し、よりリカルドに対する尊敬を大きくする。と、ここまで言葉を発さなかったリリートゥが小さな声で言葉を発する。

 

「……娘に興味がなかったのでは……どうして今になって……」

 

 その言葉にエイダンは鼻で笑うと首からかけていたペンダントを開く。その中には、エイダンとオーロラによく似ているが、彼女より大人びた雰囲気の女性──前妻であるレイリーと小さいオーロラが一緒に写っており皆が笑顔を浮かべていた。

 

「辛い事、泣きたい事を他人に上手く言えない所は俺に似てしまったなレイリー。女の子だからと、俺に似てない事を喜んだがどうやら性格は随分と俺に似た様だ。……助けてと頼られれば即座にリリートゥ、お前なぞ斬り捨てるつもりだったが俺の立場を考えアイツは我慢してギルドに逃げる事で命を繋げる選択を取った。

 なら、それを信じてやるのが親というもの、俺は書き物が苦手だからなお前を追い出す算段を見つけるまでに時間がかかり、結局、娘が助けてと頼った弁護士の力を借りる事になったがこれで漸く親の務めを果たせるというものだ」

 

「い、今更、親の務めとか笑わせてくれるわね!?」

 

「どれだけ笑ってくれても構わんさ。だがな──」

 

 瞬間、エイダンから発せられる圧力が強まる。貴族として発露する事はなかった戦士としての一面が表に出た様だ。息をするのすらままならない殺気が充満していく中、エイダンは続けた。

 

「俺はアイツを愛している。それは揺るぎようのない事実であり、この愛がある限り俺は親であるという事だ。故に、オーロラを悲しませた貴様は許さん。とっとと、不義理の息子を連れてでていけぇい!!」

 

 この場に居れば首が斬られるんじゃないかという圧力に屈したリリートゥは、エリアールを連れてその身のままアイゼンベルク邸を飛び出していくのだった。こうして、政敵に負けたという恨みから全てを奪おうと画策したジェームズ・リー・グレニスターの企みは全て失敗に終わるのだった。




次回は本件の後日談的なものを。
色々と視点を変えて登場人物を増やしたりしたので疲れた……

感想など待ってます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。